岩城中学校に黒い高級車が2台止まった。
登校中の生徒たちが見守る中、1台目の車から続々と少年少女が降りてきた。
いわずと知れた3-Bメンツである。(七原を除く)
最後に2台目の車から、桐山に手を差し伸べられ頬を紅潮させながら一人の少女が降り立った。
その光景を目撃した生徒たちは同じことを考えていた。
((((((((((…………同伴出勤…………))))))))))
2人はもう手と手を取り合い、僕らの手の届かない(3-Bは意外といる)場所へ行ってしまったんだ、と。
生暖かい目で見送られながら、その視線に気付く事無く美恵は桐山や友人達と共に校舎へと入っていった。
もしこのことに気付いていたら美恵は真っ赤になって否定しただろう。
まだそんな関係ではない
と。
そう、まだ 。
☆責任問題☆
~残酷な真実! 旅行は命懸け!! 前編~
朝、目が覚めたら桐山の腕の中だった。
「☆×▲*△Ⅹ¢※★∞◇ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
叫びは言葉にならなかった。
ベットの上、桐山の腕の中、それも…………
(なに!? なんで!? どうして……!!!!!?)
桐山は裸だった。(上半身だけだが)
焦って反射的に離れようとする美恵の身体を、無意識だがしっかりと抱きしめる桐山。
密着する身体に上がっていく体温。
腕の中であわあわと動く美恵に桐山も目を覚ました。
「おはよう、美恵」
「かっ、かずッッ……」
腕が解かれ起き上がる美恵に桐山もならう。
その時になって美恵は漸く、自分が桐山と同じパジャマを着ていることに気付いた。
上だけ。
「え゛っ!?」
「「美恵ーーーー!!!!!!!!!!!!!!」」
ばーーんッッと乱暴な音と共に、扉が開かれた!
左に光子、右に三村、中央に遅れてやってきた貴子・杉村・月岡・沼井。
間。
「きゃっ……」
「なっ……!!!」
「あ、天瀬ッッ」
「いやん、朝から熱々ね☆」
「あたしの美恵が……!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「オレの美恵が………!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ベットの上、上半身裸の桐山と大き目の(恐らく今着ていない桐山の)パジャマを着ている美恵。
誤解するなと言ったほうが無理だった。
「あ、あのみんな「桐山ぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
誤解、という前に三村の声が部屋に響いた。
桐山に向かって鎌を投げようとしていた光子より素早く動くと両肩をがしりと掴み叫んだ。
「おまえ何考えてやがるぅぅぅーーー!!!!!
昨日親父さんにお許しもらったばっかだろう!!!!!
そりゃあ今まで我慢してきたおまえの気持ちもわかる、わかるぞッッ!!!!!
でもなぁ!! だからって、いきなりxxxしていいもんじゃないんだよッ!!!!!!!
くそぉぉぉ!!! アレか!? アレなのか!!!??
昨日の健気な美恵にほだされて気を緩めたオレがバカだったのか!!!????
もう美恵をxxxしてxxxまでして、さらにxxxxxまでしたのか!? そうなのか!?
xxxまでいったのかぁぁーーー!!!!!!!!!!!
どうなんだ答えろよ桐山ァァァーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
三村の言葉に真っ赤になって固まった美恵を気遣いながら、桐山は「寝ていただけだ」と答えた。
桐山に詰め寄っていた三村は、視線を美恵に向けようとしたが、視界に美恵が映る前に拳に遮られた。
吹っ飛ばした三村に見向きもせず、桐山は美恵の周りの乱れていた毛布をかけ直した。
「なんだ……」
「そっか、そうだよな! ボスだもんな!」
「あらまだだったのね」(ちょっと不満気)
「驚かせないでよもう」
「本当よ。でもアタシは美恵を信じてたわ」(鎌を仕舞う)
お邪魔組5人は一瞬心の中で生まれた不埒な想像を闇の中に葬り去り、全ての罪を三村に被せた。
ナイスコンビネーション☆
「いや違うだろ!!」
壁際まで吹っ飛ばされ呻いていた三村が堪らず叫んだ。
「他の奴はともかく、相馬!
お前はオレと同じ側の人間だろ!!!!!!!!!!!!
オレと同じようなことを思ったはずだ!!!!!!」
「ひどい三村君……あたし、美恵を信じていたもの」
「光子……」
美恵に抱きつき、美恵から見えない角度で光子は三村を鼻で笑った。(三村心に500のダメージ)
「みんなどうして……」
「みんな昨日は桐山君の家に泊まったのよ」
「そうなの?」
「ええ。美恵のママが『今日は泊まっていきなさい』って言ってくれたからお言葉に甘えてv」
ここは桐山邸である。
もっとも、あの桐山氏は天瀬ママに反対できるとも思えないが。
「榊さんが手配してくれて、みんなの家から制服一式と鞄を運んでくれたのよ」
「はい、美恵ちゃんの制服と鞄。今日はみんなで登校しましょv」
ウインクする月岡になんだか楽しくなって美恵は笑った。
「じゃあ下で待ってるから早くきてね二人とも☆ ほら、光子ちゃんもいくの!」
美恵に抱きつき、桐山を睨んでいた光子は月岡に連れられていった。
扉が閉まってから「あいつ絶対ムッツリだわ!」と桐山に対し新たに闘志を燃やしたのだった。
「あの、和雄。私どうしてここに……?」
「美恵が眠ってしまったからベットに運んだんだ」
「えっと、その……どうして和雄と一緒なの?」
「それからオレも眠くなってきて、一緒に寝たんだ」
「え!?」
「オレたちは夫婦なんだし、問題ないだろう」
「そっそれはそうなんだけど…………」
「いけなかったのかな?」
「いや、あの………………………………………………悪くわないんだけど、なんで、上だけ裸なの?」
「上は美恵が着ているだろう」
真っ赤になっていた美恵はこの言葉に更に赤くなった。
(やっやっぱりコレがそうなの!!!!!)
「オレのだから少し大きいが、かまわないかと思ったんだ」
「……うん、ありがとう」
「いや、礼を言うほどのことじゃない。着せたら思ったより大きかったから下は穿かせなかった」
ぴし。
「オレは隣で着替えるから、美恵はここで着替えるといい。あっちにバスルームがある」
そう言って桐山は寝室から出て行った。
よろよろとベットから降りて、立ち上がると桐山のパジャマが腿の半分くらいを隠した。
「………………………………………………」
着替えを手に取るとバスルームへ足を向けた。
身体は無意識に必要な行動を行っていたが、美恵の頭は一つの事がぐるぐる回っていた。
(見られた……見られた……見られた……見られた……………………!!!!!!)
その日の桐山家の朝食はとても賑やかな時間だった。
しかし美恵は何を話したかも、何を食べたかも全く憶えていなかった。
夫婦になったのだから、と自分に言い聞かせても羞恥心が消えてくれるわけではない。
「美恵、新婚旅行のことなんだが」
「えっ…………」
「取り敢えず、世界一周でいいかな?」
「ええ!?」
「一カ所でゆっくりすごすならいくつか別荘があるし、好きな国で過ごしてもいい」
「えええ!!?」
「どこがいい?」
昼休み、朝のショックから立ち直っていない美恵を第二波が襲った。
「もう少し考えさせて……」
「わかった」
(新婚旅行……それって初…って、何考えてるのよ私は!!!)
真っ赤になった美恵は慌てて首を振った。(振りすぎてクラクラした)
(私ったら何を考えてるのかしら、いくらなんでもそんなことないわよね)
まだ中学生、自分達には早すぎるだろうと、
進み過ぎた友人達の事はあえて気にせずそう思った。
そして普通に旅行を楽しむつもりでいこうと、なんとか気持ちを切り替える事に成功した。
母親や友人たちに意見を聞いて、美恵が選んだのは海外ではなく国内だった。
「北海道?」
「うん。海外はちょっと怖いし、外国語なんて話せないから」
この準鎖国政策を取っている国では海外旅行は制限されている。
勿論、英語の授業もない。
桐山財閥ほどの大企業なら海外事業も発達し、桐山も何度か行ったことがあるのだろう。
だが庶民の美恵は一度も海外へ行ったことはなく、不安も大きかった。
「オレが通訳するし、問題ない」
「ありがとう。でも私、北海道って一度行ってみたかったの」
「そうか。美恵が行ってみたいならそれもいいだろう」
「ありがとう、和雄!」
ただちに手配するという桐山を美恵は慌てて止め、母が「二人でゆっくり考えなさい」と言っていたことを話した。
すると桐山はただちに様々な旅行会社の北海道パンフレットを取り寄せ、二人で何日もそのことを話し合った。
二人で考えたり話し合ったりする時間は楽しく、美恵は僅かに感じていた不安も消え純粋に旅行が楽しみになっていった。
桐山もただ旅行会社に手配させるよりも、こうして美恵と二人で話し合うことに満足していた。
何より、どこか落ち着かない様子の美恵が嬉しそうにしていることが嬉しかった。
旅行先の現地でどう過ごすかを決めるのに意外と時間がかかった。
二人の新婚旅行は夏休みに入る前の七月中旬に予定された。
詳しい日取りを決め、全ての準備を終えた頃、二人を待っていたのは台風の影響で延期されていた3年の修学旅行だった。
5月22日から予定されていた岩城中学3年生の修学旅行は台風により中止となっていた。
自然現象は誰のせいでもないが、中学最後の旅行をこのまま取りやめてしまうのはと学校側でかなり話し合いが続いていた。
予算(一部の予算しか返金されなかった)や時間(3年生は受験シーズン)の問題があり中々決まらなかったのだ。
しかし生徒達の強い要望や、公立だが資産家の子息が多くいること等で、修学旅行は日程を変更し行われる事になった。
美恵も中止になった修学旅行に行けることになり、かなり嬉しかった。
なのによりによって、その日が桐山と決めた新婚旅行と重なってしまうなんて!!
これには流石に参った。3-Bのクラスメイト全員と旅行に行く機会なんてもう二度とないだろう。
しかし、二人で全ての予定を考え、手配したばかりの旅行を中止や変更にするのは辛かった。
特に桐山が新婚旅行の日程を変える気が無いと言い切ったからだ。
自分だけでなく、桐山も新婚旅行を楽しみにしてくれていたのだと嬉しくなって振り切れない。
悩む美恵にお邪魔組み(特に三村と光子)は、ここぞとばかり中学最後の思い出を美恵と作りたいと切々と語った。
仲の良い友人達の訴えに美恵の心はかなり揺れた。
しかし桐山が「なら修学旅行を中止させる」
と強硬手段に出ようとしたので、新婚旅行に行く事に決めた。
これ以上もめると本当に修学旅行が中止になりかねないと気付いたからだ。
毎年、多額の寄付をしている桐山財閥の一人息子たっての希望だ。叶わないはずがない。
最後まで諦めない光子の姿があったのだが、これ以上は美恵が気に病むと素早く状況を把握して渋々諦めた。
ただし美恵と天瀬ママへのお土産と、今度一緒に旅行に行く約束を取り付けていった。
「でもあんなに和雄が旅行を楽しみにしてくれてるなんて思わなかった」
その日も美恵は桐山邸に寄った。
籍は入れてあるし、立派な夫婦なのだが一緒に住むのは式を挙げてからという事になっていた。
なのでまだ美恵は実家から学校に通っている。
少しずつ桐山邸に慣れていけるように、学校の帰りに寄るのが美恵の日課だ。
急に桐山邸に住むより心に余裕を持ってからのほうがいいだろうという天瀬ママの配慮。
娘の早すぎる結婚に寂しがった父の懇願により決まった方法だった。
「こういうものはちゃんと段階を踏む物なのだろう?」
確かに桐山は段階を踏んでいる。
プロポーズして、親に挨拶をし、籍を入れた(桐山父は事後承諾だったが)。
そのスピードは以上に速く色々すっ飛ばしている気がするが。
今回の新婚旅行も「そういうものらしい」という酷くアバウトな情報から早めに行っておいたほうが良いと判断したらしい。
「これ以上遅くなるとハネムーンにならなくなるからな」
ハネムーンは新婚後の約一ヶ月を指すらしい。
成る程、籍を入れた日から考えて予定している新婚旅行の日程より後にすれば一ヶ月を過ぎてしまう。
ハネムーン=新婚旅行というイメージしかなかった美恵は意外な知識を持っている桐山に驚いた。
「美恵」
顔をあげると桐山の手がそっと美恵の頬に当てられる。
近づいてくる端正な顔に頬を染めながら美恵は目を閉じた。
重なる唇に顔が熱くなる。
いつもより長い口付けに恐る恐る目を開こうとすると
。
「んっ……」
桐山がより深く口付けてきた。
桐山の舌がゆっくりと美恵の唇をなぞり、舌の先端が優しく美恵に解放を促した。
思わず動揺した美恵だが、宥めるように背中を撫でる桐山の手に躊躇いつつも唇を開いた。
頬の手を後ろへ回し、少しだけ抱きしめる力を強くすると、桐山の舌は美恵を怯えさせないよう慎重に入ってきた。
恥ずかしさに目を閉じて必死に堪えていた美恵は、いつのまにか桐山の服を掴んでいた。
「ん……ふぁ………」
歯列をなぞられ、奥で震えていた己の舌に桐山のそれが絡められ強く吸い上げられた。
鼻にかかった甘い声が漏れ、それが自分の声だと気付き恥ずかしかった。
混ざり合った唾液が口内に溢れ、濡れた水音が立つ。
初めての深い口付けに軽い酸欠を起こし、身体から力が抜けるのにそう長くはかからなかった。
「は、ぁ……」
解放された唇は名残を惜しむように銀糸を繋ぎ、軽い口付けがそれを拭った。
「美恵…………」
弛緩してぐったりと桐山に身を預けいた美恵の耳元で低く囁きが聞こえる。
身体が熱い。
何故か桐山の側にいてはならない気がして、美恵は無理矢理身体に力を込めて立ち上がった。
「じゃ、じゃあもう帰るね!」
また明日!と言い置いて逃げるように美恵は部屋を出た。
美恵が部屋を出て行った後、桐山は伸ばしていた手をじっと見つめその指先で自分の唇をなぞった。
何故か先程の口付けが思い出され、心臓がどくんっと跳ねた。
車で送迎されている間、何度も先程の事が頭を巡った。
初めての深い口付けに動悸が治まらない。
自分の唇に触れてみる。
キスと、そしてあの声 。
思い出した瞬間、また身体の熱が上がった気がした。
何かが変わってしまう予感。
言葉では表せない気持ちを抱えるように、美恵は自分を抱きしめた。
「みんな、楽しんできてね」
「お土産かって来るわ」
「美恵ちゃんも楽しんでいらっしゃいよv」
「帰ってきたら今度は一緒に旅行に行くわよ!女だけで!!」
修学旅行当日、3年生の出発は午後8時、集合時間午後7時という夜行出発だ。
なので、お昼に北海道へ行く二人の見送りに桐山邸には数人の男女が揃っていた。
親友の光子・貴子・ヅキを始め、幸枝や泉、典子といったクラスでも仲の良い女子も見送りに来てくれた。
ちょっと恥ずかしかったが嬉しかった。
美恵が女子(+ヅキ)と女の友情を交わしている頃、少し離れたところでは……。
「ボ、ボスッ! ついに、この時が来たんですねッ!!!」
「ボスッ!! 頑張ってくださいっ!!!!!」
「男になりにいくんッスねボスッ!!!!!」
右から手下たちのエールを。
「くっ、ついにこの日が来てしまった……!」
「何時の間にこんな展開に……オレの知らないうちにナニがあったんだ!?」
「くそぉぉぉ!!! 桐山ァァァーーー!!!!!!!!!!!!!!」
左からクラスメイトの怨嗟の声を
聞き流している桐山がいた。
友人たちに見送られ、ヘリで桐山邸から広島に向かっていた。
「そういえば和雄、北海道まで何に乗っていくの?」
現地での行動を話し合うことはしたが、交通機関は桐山が手配を済ませたと言っていただけで知らなかったのだ。
「船だ」
ヘリで広島港に着いた二人を待っていたのは豪華客船だった。
「………………………………」
「美恵、どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないの。素敵な船ね、でもあんまり人がいないなって…」
「ああ、貸しきったからな」
貸切!?
読んで字の如く豪華な客船にも関わらず、客員は二人だけ!?
この船は二人のハネムーンの為だけに運航しているの!?
そう考えると庶民の美恵は、申し訳ない気持ちになった。
(これからは、こういう生活に慣れなきゃいけないんだ…………)
同時に、これからの自分の未来の生活がちょっと不安になった美恵だった。
船内で一泊するという話だったので、気を取り直して船内を回って見ることにした。
豪華客船での船旅は素晴らしかった。
船内には設置されているプールやスポーツジム、サウナにマッサージルームまであった。
映画館、ゲームコーナー、カジノなどがあり、カラオケルームになんと茶室まである。
各階ごとに趣向を凝らしたラウンジやバーやサロンにと飽きる事は無かった。
船内を満喫した美恵が一番はしゃいだのは、甲板から見る夕焼けだった。
茜色に染まっていく空と海、そして夜の色へと変貌していく光景はとても美しかった。
二人だけという事に緊張していた美恵も、逆に二人だけだからと周りを気にせず桐山と過ごせるようになっていた。
メインラウンジにあるダンスフロアで踊ったのは流石に少し恥ずかしかったが……。
美恵は展望浴室に入り、夜空を眺めながらの入浴を楽しむと、マッサージルームでマッサージをしてもらった。
一日中船内を探検し、遊び疲れたのか、そのままうとうとと眠ってしまった。 誰かが優しく髪を撫でている。
その心地よさと、いったい誰が?という気持ちから美恵はゆっくりと目を開いた。
「 っ!!!!!!!」
驚くほど近くに桐山の顔があって、美恵の眠気は一気に吹っ飛んだ。
「か、和雄っ!!」
「おはよう、美恵」
慌てて起き上がると、合わせて桐山も起き上がった。
部屋は暗く何も見えなかったが、しばらくすると目が慣れてきて、窓からのぞく月明かりで部屋を見渡した。
どうやら桐山に「部屋はここだ」と最初に案内された、モダンで統一されている部屋の寝室のようだ。
当然、ロイヤルスイートである。
「えっと、私、どうしてここに……?」
「マッサージルームで眠ってしまったと連絡が入ったから、オレが連れてきたんだ」
「そうだったの、ごめんなさい。重かったでしょう?」
「いや、羽のように軽かった」
真顔で言われて恥ずかしくなった。
よく見ると自分はバスローブ一枚だ。(マッサージ中に眠ったせいかブラは着けていない)
そしてよくよく見ると桐山も同じくバスローブ一枚だ。(風呂上りに美恵の事を伝えられ、そのままの姿で今もいたのだ)
漸く現状を把握できるようになった美恵は、瞬時に固まった。
バスローブ姿の自分、同じくバスローブ姿の桐山、二人揃ってベットの上。
(起きずに眠っていれば良かった!!!!!)
そうすれば、後で恥ずかしくなっただろうが、こんなに気まずい思いはしなかっただろう。
「えええええ、えっと、なんで和雄もここに?」
「? ここはオレたちの部屋だろう?」
そういえば桐山は「部屋はここだ」と言ったが、美恵の、とも自分の、とも言ってはいなかった。
赤くなったり青くなったりしている美恵を桐山が抱きしめた。
びくっと美恵の身体が震える。
「このまま美恵が起きなければ明日でもいいと思っていたんだが」
首筋に顔を埋められ、かかる吐息に小さく声が漏れた。
「美恵」
いつもは少し冷たい感じの、りんと響く声が、熱を帯び艶めいている気がする。
「抱いても構わないかな?」
耳元で囁かれ、頭が真っ白になった。
「こっ、これから?」
「ああ」
身体を硬くした美恵を緊張しているのかと思い、桐山は安心させるように言った。
「大丈夫だ、準備は出来ている」
準備が出来ていないのは美恵の心のほうなのだが、桐山は言い切った。
「学習はしてある。オレも初めてだから上手くできないかもしれないが、なるべく優しくする」
そう、桐山和雄はこの日の為にきちんと学習していた。
「榊」
「何でございましょう、坊っちゃま」
「オレは美恵と結婚した」
「そうでございますな。おめでとうございます」
「オレはどうするべきなのかな?」
何が?などと優れた執事は聞かず、すぐに2本のビデオを渡した。
「先ずこちらで学習してみては如何でしょう?」
桐山は渡されたビデオを見た。”初めてのH/初級編”とあった。
「初心者同士は辛いものですし、実践と経験がモノを言いますが……」
「なら試しに誰かとやっておいたほうがいいのかな?」
「坊っちゃまはお嬢様がそうなされたらどうします?」
考える前に口が動いた。
「相手の男を殺す」
「大変結構です。そのように坊っちゃまが望まぬように、お嬢様も坊っちゃまがお試しになることは望まぬでしょう」
「そうか、ところで榊」
「何でございましょう」
「上級編は無いのか?」
ビデオは初級編・中級編の2本。
「坊っちゃま……忘れてはなりません。美恵お嬢様も初心者なのですから、順を追って事を進めなくては」
「……そうか。じゃあ帰ったら貸してくれ」
「かしこまりました」
なんて会話が美恵が新婚旅行先を決める前に交わされていたのだが、勿論美恵が知るはずも無かった。
「美恵は…オレに抱かれるのは嫌なのかな?」
「!! ち、違うの」
「無理をしなくていい」
「和雄が嫌なんじゃないの! 和雄じゃないと嫌だしッ!!」
ああ、何を言ってるんだ自分。
なにか凄いことを口走った気がする。
「そうか。なら大丈夫だ」
そういうと桐山は、自分の発言に固まってしまった美恵を押し倒した。
(ええええええええええええええええええええええっ!!!!!??????)
「美恵」
その声に、あの時と同じ未知の感覚が走り、弾かれたように美恵が顔を上げた。
自分を見下ろす見慣れた桐山の顔。
無表情なのに、目だけが違った。
こんな目をした人を、自分は知らない 。
どこか感情を持て余しているように見える桐山を、美恵は初めて見た。
「美恵が欲しい、抱いても構わないかな?」
その言葉と眼差しに、胸が詰まった。
切ないような泣きたいような気持ちのまま、言葉にならなくて美恵は頷いた。
ハネムーン。新婚旅行や新婚後の約一か月間の事を言うが、英語のスペルは「HoneyMoon」という。
「HoneyMoon」 意味は「蜜月」。
その言葉通り、月に見守られた蜜のように甘い夜は優しいキスから始まりを告げた。
「んっ……」
「美恵、気が付いたのか」
「和雄………?」
「身体のほうは大丈夫か?」
「うん……」
「良かった……」
「和雄?」
「途中で抑えが効かなくったんだ。こんな事は初めてだ、だから 」
困惑する美恵を確かめるようにそっと抱きしめた。
「だから美恵を壊してしまうかと思った」
「和雄…………」
この時になって、美恵は桐山も自分と同じように不安や緊張を抱えていたことに気が付いた。
自分の存在を確かめるように抱いている桐山がたまらなく愛しくなった美恵は、自分から口付けた。
「美恵?」
美恵からの初めてのキスに驚いたのか、わずかに眼を見開いた。
労わるように頬を撫でる手に自らの手を重ね、桐山からまたキスが返る。
軽く触れあわせるように何度も互いにキスを繰り返していくうちに、熱が戻ってくる。
次第に高まっていく熱に身を離そうとした美恵だが桐山の腕が許さない。
ちゅっと音をたてて強く吸われ思わず甘い声が零れた。
「美恵……」
「かっ和雄待って! まだ私…ぁっ」
桐山が施す愛撫に、一度交わった美恵の身体は戸惑う心よりも早く順応していった。
不安や緊張を越えた2度目の行為は、ただひたすら甘い時間を美恵に与えた。
初めての夜、心身共に限界に来た美恵は2度目の行為が終わると気を失うように眠りについた。
桐山は美恵を抱きしめながら髪を梳いていた。
穏やかな時間を過ごしていた桐山に遠慮するように、けれど止まることなく携帯の振動音が鳴った。
丁度その頃 。
台風の影響により、7月という暑い季節に修学旅行に行くことになった岩城中3年B組は 。
「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」
プログラムに選ばれていた。
続く