ぽた。

布巾が落ちた。

広春氏は赤い顔から一転、真っ青な顔で驚愕に目を見開いた。

それを見た桐山は父の顔を、理科の実験に使うリトマス試験紙のようだと思った。





☆責任問題☆
~思いでは血の味!?  真実は闇の中に 後編~





酸性からアルカリ性へと変色した広春氏は、震える指でその人物を指した。
「なんでお前がここにいるんだ!!!!」
「お母さん!?」
「はーい♪」
相手より先に美恵の口からでた真実に、更に衝撃を受ける広春氏。
すでにおわかりだろう、そこにいたのは美恵の母……と、三村・杉村・沼井・貴子・光子・月岡だった。

「みんなも、どうしてここに!?」
誰よりも早く、美恵の前にやってきた光子は美恵を抱きしめた。
「あーんもう! 素直に入れてくれないと思ったからコッソリ侵入したんだけど、凄く怖かったわ!!」
美恵の胸に顔をうずめる光子に、男共の悔しげな声が漏れた。
「くっそ~! 相馬の奴、何て羨ましいことをっ!!」
「三村、貴様がやったら殺す」
「でも本当に怖かったわよ。なんで庭に虎なんか放し飼いにしてるのよ! 弘樹たちもいなかったし!!!!」
「す、すまない、貴子」
「あれは父の愛猫だ。 飼育許可もちゃんと取っている」
美恵ちゃんのママがいてくれなかったら、アタシたち食べられちゃうところだったわよ~」
「正規のルートから来ない人間に対する、番犬の様なものだからな。侵入者は襲うよう躾られているんだ」
「ボスゥ~、あの黒服たち何で銃なんか持ってるんだよ! 本当に撃ってきたんだぜ!?」
「安心しろ充。背後事情を知る為にも、相手への見せしめもなるからな、1度は捕らえる。腕や脚を撃たれるくらいだ」
桐山の言葉に黒服と対峙していた3人は青くなった。
恐るべし、桐山邸。





貴子が襲われそうになった瞬間、聞こえた天瀬ママの声に、ホワイトタイガーが瞬く間に駆け出した。
声の主に向かって全速力だ。
美恵「なっ……おば様!?」
「危ないわ、美恵ちゃんのママ!!」
「逃げてッ!!!!!!」
ホワイトタイガーは目前、そして――

美恵ぐるるるる…………ごろごろごろ。

天瀬ママに擦り寄った。
甘えているようだ。
「ふふ、久しぶりね、シロちゃん。大きくなって♪」
天瀬ママが美しい毛並みを撫でると、ホワイトタイガーは、ごろんとひっくり返り、自ら服従のポーズを取った。
「「「(…………猛獣使い…………)」」」

こうして、3人は天瀬ママに助けられ、貴子が杉村たちのことを話すと、男3人組も回収してくれたのだ。





「なっ……なんということだ! よりによって貴様の娘だと!?」
広春氏は、美恵が気に入らないのか理解した。
何故気付かなかったのか!? この女にソックリじゃないか!?
「お母さんはどうしてここへ?」
「うん? アルバイトよ」
「アルバイト?」
「専業主婦って時間が多いでしょ。お母さん結婚するまで働いてたから、趣味と実益をかねたプログラム作りよ♪」
「ひょっとして、この家のセキュリティシステムも……?」
「あれは2年前に作ったのよ。
そろそろバージョンアップさせた方がいいと思って、新しいプログラムを持ってきたのだけど」
そこで久しぶりにシロちゃん(ホワイトタイガー)に会いに行き、光子達をみつけたらしい。
それを聞いた三村はショックを受けた。
叔父さん……敵は好きな女の子のお母さんだったよ。

「父の知り合いですか?」
「こ、恋人だったとか……?」
「まさか」
躊躇いがちの質問はバッサリ瞬殺された。
「祖父の代からの、お付き合いなのよ。桐山さんとは」
天瀬ママの簡単な説明を執事が補足する。
天瀬の奥様のお爺様と、旦那様の祖父にあたる大旦那様は、学生時代からの親友でいらっしゃいました。
以来、大旦那様のご子息の先代様、孫の旦那様の代まで、家族ぐるみのお付き合いをしておられました。」
「そうなの? お母さん」
「そうよ、ここには何度もお邪魔したわ。小さい時は第二の我が家みたいに過ごしていたの。
面白いのよ、ここ色々あって。そうそう、初めて榊さんと会ったのも地下だったわね」
「お懐かしゅうございますなぁ」

なぜ地下?

「あのー……」
「なんで地下なんですか?」
「あ! 天瀬のお袋さんを探して地下であったのか?」
沼井の言葉に、納得する一同。
しかし、 「事実は小説より奇なり」という言葉があるように、現実はそんなに優しくなかった。
「いいえ、私が地下で栽培されていた芥子の花を摘んでるとき、後ろを振り返ったら 榊さんがスコップで素振りをしていたの

ブッ

気持ちを落ち着かせようと、お茶を飲んでいた広春氏は盛大に噴出した。

「なっ……! 芥子を地下栽培だと!? 知らんぞ私は!!!!!!」

驚くのはソコか、親父。
ちなみに芥子とは香辛料を作る植物だが、一部麻薬が作れるものもある危険な植物だ。

「もうビックリしたわ。 気配を消して後ろに立っているんですもの」
「いやぁ、あの時はわたくしも気が動転しておりまして。
芥子の花で花冠を編んでおられた奥様を見て、 取り合えず仕留めておこうかと……
「そうだったの? 私も家に帰ってから『危険な植物辞典』であの花が芥子だって知ったときは驚いたもの」
「そうでしたか。そういえば先程、なかなかの物が……」
物騒な思い出話にもかかわらず、 2人は仲が良さそうに何やらメール交換をしている。

「貴様ら! のん気にメール交換などするな!!!!  何故、私が知らん我が家の秘密を貴様が知ってるんだ!!!?」
「他にも色々あったわよ。落とし穴とか、隠し扉とか、地下迷宮とか、秘密金庫とか」
ヒステリックに叫ぶ広春氏を見向きもせず、天瀬ママは送られてきた画像に機嫌を良くした。

落とし穴……隠し扉……地下迷宮……秘密金庫!?

「どこのダンジョンだよ……」
「すげぇ、さすがボスの家だ……」
「……まるでからくり屋敷だな」
「秘密金庫ですって!?」
「きゃああああああああああ!! 素敵ね! きっとお宝いっぱいよぉぉ!!!!」
「……ほんとになんでもありね」
「和雄、知ってる?」
「ああ、だが……」
「ちょっと待て! 秘密金庫だと!? 私は知らんぞ!!!!?」


えっ?


「まぁ……貴方、あれをまだ見付けてなかったの?」
ピシ。
「本当に…相変わらず、周りを見ることをしないのね。そんなだから婚期を逃すのよ」
ピシピシ。
「昔から要領が悪いのは変わってないのね。頭でっかちなんだから」
ピシピシピシ。
「そんなだから振られるのよ」
ガラガラガッシャ――――――――――――ン!

「お前が言うなぁぁぁぁぁぁぁ! 私を振った張本人だろうが!!!!!!!」
「「「「「「「えええええぇぇぇーーーーー!!!!!!!」」」」」」」

精神を崩壊させ、思わず叫んだ広春氏だったが、子供達の絶叫にはっと我に返った。
「くっ……この私に恥をかかせおって!」
「いやねぇ、貴方が自分で墓穴掘ったんでしょう?」
「ええいっ黙れ! この疫病神が!!!」
「まぁ、酷い。昔はあんなに遊んであげたのに……」
「遊んであげただ!? 貴様が私遊んでいただけではないか!!!!」
「そうとも言うわ☆」
「この悪魔がぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
ぎゃあぎゃあと言い合い…というか一方的に広春氏が言い募っているだけなのだが。

大人2人をおいて、子供達は執事の方へ移動した。
「あの、執事さん」
「なんでございましょう?」
「あの2人ってなんなんだ?」
「その……ボスの親父と天瀬のお袋さん、どういう関係なんだ」
「旦那様と天瀬の奥様は代々……」
「長い話はいらないわ!」
「先祖はどうだっていいのよ!!」
美恵ちゃんのママと桐山君くんのパパとの関係だけ、簡潔に言ってちょうだい」
美恵は言い合っている親が気になるのか、はらはらしながらそちらを見ている。
不安そうな美恵を支えるように、桐山が傍についている。


「簡潔にですか。そうですな……お2人は ジャイアンとスネ夫な関係ですな



シ――――ン。



「ジャイアンと……」
「スネ夫……?」
子供達全員が2人へ視線を向ける。

「落とし穴に落ちた貴方を助けてあげたし、シロちゃんに襲われた時だって助けてあげたのに」
「あの穴を掘ったのは貴様だろう!? シロだってそうだ!
あれは私が買って貰ったペットだったのに、 いつの間にか手懐けおって……!」
「だって、貴方、見せびらかす為に買ったんでしょう?  いきなり私に向かって放つんですもの、ビックリしたわ」
「迷わず殴り倒した女が何を言うか!!!」
「弱肉強食の世界を生きる動物ですもの。ちゃんと躾けてあげないといけないでしょ? 誰が上なのか
「そうやって貴様は私のものをことごとく取り上げていったんだろうが!!!」
「ええ、だって私の物は私の物だけど、貴方の物は手に入れてしまえば私の物ですもの

ビバ、ジャイアニズム。

いじめっ子といじめられっ子か……………………。

思わず、生暖かい目で桐山の父親を見つめてしまう子供たち。
子供たちの中に『天瀬ママ最強伝説』が生まれようとしていた。

「くそっ! なんで和雄が貴様の娘なんかと結婚を……あの政治家連中め! 憲法改正などくだらん事をしよって!!!!!」

いや、それアンタの息子がやったんだよ。

ちなみに『憲法改正』が行われた日、新聞で見た広春氏は、「何を馬鹿なことをやっとるんだ」と嘲笑したのだ。
同じテーブルで食事を取っていた息子が密かにガッツポーズを取ったことも知らず。

「そもそも! いつの間に結婚したんだ!? アレは親の同意が必要なはずだ!!!」
馬鹿にしていた『憲法改正』だが、広春氏は経営人として、何が経済に影響を与えるかわからないので、 ちゃんとチェックしている。
未成年者用の「婚姻届け」は、親の「同意書」とセットで役所に持って行かなければならないはずだ。

「えっ?」
「同意書って確か……」
「おば様がサインしてたアレよね」
「桐山って書いてあるの見たぜ、オレ」
「ああ、オレもだ」
「桐山くんのパパの名前、ちゃんとあったわよ」
先週の騒ぎの中、子供たちは天瀬ママがサインした書類を覗き込んだ覚えがある。
そこには確かに「桐山広春」の文字を見た。 捺印もバッチリだ。

「馬鹿な! 私がそんなもんにサインをするはず無かろう!!!!!」
「じゃあ、和雄……あの書類」
全員の視線が桐山に注がれるが、本人はいたって冷静に告げた。



「偽造だが?」



シ――――ン。



誰もが固まり、声が出ない中、 「あら、やっぱり」とのん気な天瀬ママの声が響いた。

そう! 天瀬ママは気付いていた!!
なぜ黙っていたのか!? 
勿論、そのほうが面白そうだと思ったからだ!!!!!

「か、和雄……! 何故そんなことを!!!??」
「父さんもよくするだろう? オレも真似してみたんだが、いけなかったのかな?」


いいわけあるか。


「まぁ、お父さんを見習ったの。ステキな教育をしていらっしゃるのね」
赤くなったり青くなったりする広春氏に笑顔で天瀬ママが追い討ちをかけている。

「恐ろしい奴だな、桐山」
「凄すぎだぜボス」
「さすがわ桐山くんね☆」
「犯罪親子……」
「自覚無いわね、あのぶんだと」
「オヤジって結構、要領悪いのよね」

ちなみに、偽造といっても同意書に書いてあるサインではない。 あのサインは広春氏が書いた本物のサインだ。
桐山は父親がサインした別の書類を同意書に偽造したのだ !!!!!

「和雄がこんな事をするなんて……はっ! まさかあの憲法改正もお前か!?」
((((((気付くの遅ッ!!!))))))

子供たちのツッコミはもっともだったが、これには訳があった。

「馬鹿な政治家連中にいくら払ったんだ!? 金はどうした!?  お前の口座はたいして動いていないはずだ!!!」
広春氏はお金持ちのお坊ちゃんらしい高額の小遣いを息子に与えているが、口座の残高はチェックしている。
よく出来た息子だが、金があれば大抵の物は手に入るし、そうなると堕落するかもしれない。
なので、もし息子が大金を使ったら、「何にいくら遣ったか」を報告させるようにしているのだ。
憲法を改正させるにあたって、かなりの額を政治家たちに支払っているはずだ。
口座からではないとすれば、その金は…………?

「お義母さんが言っていた、秘密金庫からです」
既に「お義母さん」呼び!?

「桐山くん! その秘密金庫って何が入ってたの!?」
お宝と目を輝かせる月岡に簡潔に答えた。
金塊だ」

黄金色のアレですか。

「榊が、発見者が自由に使っていい隠し財産だと言っていたから、それをもとに資金を増やしたんだ。
そのせいで時間をかけてしまったが、秘密裏に憲法改正をするには他に方法がなかったからな」
もし桐山は自分のポケットマネーを使っていれば、一月もかからず憲法改正はできただろう。
しかし、父親にバレて妨害されるか、美恵と引き離されるかもしれない。
確実性を優先し、桐山は細心の注意を払い、資金を増やし、憲法改正を行わせたのだ。
美恵と結婚する為に。

「どうしても美恵と結婚したいと思ったんだ」
「桐山くん……」
「和雄だ、美恵」
思わず、今までのように呼んでしまった美恵だが、その胸は大きく高鳴っていた。
例の事件から、成り行きや済し崩しの入籍で、美恵と桐山は夫婦になった。
桐山のことは好きだが、あまりの展開の速さに美恵は不安を感じていた。

これでいいのだろうか、と。

桐山は憲法改正、親への挨拶、入籍と急ではあるが、きちんと手順を踏んでいる。
それでも、うまく言えない不安は美恵の中でずっと燻っていた。
その理由がやっとわかった。


夫婦になった美恵と桐山だが、どちらもまだ相手に「好き」だと伝えていないからだ。


結婚を受け入れたし、その事は伝えたが、1番肝心な事を言っていなかったのだ。

桐山はとても優しく自分に接してくれるし、キスも何度かした。

今更、と思われるかもしれないが、勢いに流され「言っていない・言われていない」という事実が美恵を不安にさせていたのだ。

ひっとしたら桐山はただ「責任」を取らなくてはと思っているだけではないのかと。

だが桐山は言ってくれた。

美恵と結婚したいと思ったのだと――――。


「おっ……お義父さん!」
突然の美恵の発言に、驚いた全員が美恵を見る。

「き、貴様にお義父さんなどと呼ばれる――――ッウ!」
娘の為に、天瀬ママは広春氏の脚を容赦なく踏みつけた。

「かっ、和雄さんとの結婚を認めてください!!!!」
全員の視線に消えてしまいたいほど恥ずかしかったが、勇気をだして言った。

「この売――――ぐぅッ!!」
娘の為に、天瀬ママは広春氏の脹脛を容赦なく蹴り上げた。

「わ、私……」
顔を赤くし、泣きそうになりながらも必死に言葉を綴る美恵。

((((美恵……!))))
美恵ちゃん、頑張って!!)
((天瀬……))
天瀬ママも、月岡も、沼井も、貴子も、邪魔をする為に来た三村、杉村、光子でさえも、美恵を応援していた。





「私、和雄さんの事が好きなんです!」
桐山は僅かに眼を見開いた。





「だから……和雄さんとの結婚を認めてください!  お願いします!!」

頭を下げる美恵を、桐山はただ見つめる事しか出来なかった。
不思議な何かが、桐山の中から溢れていた。
美恵の傍にいて何度か感じた事があったが、桐山にはソレがなんなのかわからなかった。
ソレが身体を満たし、胸を締め付けている。
ソレが与える甘いような、苦しいような感覚に、 口を開いても言葉に出来ず、声を出す事すら出来なかった。

(これはなんだ――――?)



息子の造反や、憎たらしい幼馴染の出現があり、追い詰められてはいたものの、 広春氏はまだ当初の目的を捨てる気はなかった。
「フン! いくら和雄を想っていようと、桐山家になんの利益もない奴を和雄の嫁になど認めん!」
冷たい広春氏の言葉に、美恵は零れそうな涙を必死で堪えた。
美恵」
そっと近づいた天瀬ママは、優しく頭を撫でた。
「よく頑張ったわね」
暖かな笑顔は、子供を見守る母親のものだった。

「利益ならあるわよ。多分うちの子が1番」
美恵を今だ戸惑っている桐山に押し付け、天瀬ママは振り返ると広春氏を挑発するような目で見た。
ごこか誘うような危険な眼差しに、 広春氏の背中を冷たいものが走った。
「どういうことだ?」
「これよ」
取り出した封筒には何かのコピー。
「こっこれは……!」
「なんだこれ?」
「株券………?」
「桐山コンチェルン本社の株券よ」
「幻の2%株! 貴様が持っていたのか!?」
「正式には美恵の物よ。私は美恵が成人するまで預かってるだけ。
桐山くんと美恵が結婚すればこれはそちらの物になるわ」
その株は桐山家にとってかなり重要なものだったので、 広春氏は考え込んだ。
その株より利益を与えてくれる物はあるが、 桐山コンチェルンにおいてその株ほど他の人間の手に渡ると危険なものはなかったのだ。
「いい加減、認めなさい。じゃないと」
「なんだ?」
「勝手に売っちゃうわよ」
貴方のライバルとかライバルとかライバルに。
娘の物だと言っておきながら、勝手な発言をする天瀬ママだが、これは広春氏には効いた。

桐山広春は知っている。


この女はヤルと言ったらヤル。


「ぐっ……仕方がない。認めてやる!!」

広春氏の宣言に喜びと呪いの声が唱和した。

「ちくしょう! 美恵……!!!!!」
天瀬は本当に桐山のことが好きなんだな……」
「弘樹! しっかりしなさい!!!」
「私の美恵が…桐山くんの魔の手にーーーー!!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! おめでとう桐山くん!  やっぱり最後は愛が勝つのねぇぇぇ!!!!!!」
「よかったなぁボス! 天瀬も……幸せになれよっ!!!」

美恵……」
「和雄…!」
そっと桐山の細い指先が労わるように美恵の頬を撫でた。
何を言えばいいのかわからない桐山だったが、その言葉は自然と口から出た。

「ありがとう」

桐山の言葉に、堪えていた涙が、零れた――――。





































その後、桐山低で宴会が行わた。(天瀬ママ主催)

美恵と桐山は天瀬ママの計らいで、桐山の部屋にいた。

いつもなら恥ずかしがって離れようとする美恵も、緊張のあまり疲れてしまって桐山に身を寄せていた。

「恥ずかしかった~」
「 すまない、無理をさせてしまったのかな」
「無理というか……無理なのかな。でも、言わなきゃいけないと思ったの」
先程の自分の発言を思い出し、さらに恥ずかしくなって俯く美恵。
美恵?」
「一生分の勇気、使い果たした気分……」

僅かに見える項まで赤く染める美恵を桐山は優しく抱きしめた。
びくりと反応する美恵に「このまま聞いてくれるかな?」と耳元で囁いた。
躊躇いがちに頷かれたので、桐山はゆっくりと美恵の背中を撫でながら言葉を探す。

美恵といると不思議なんだ」
桐山は今まで体験した事を語った。
気が付くと美恵を見ていたこと。
美恵を見ていると心が落ち着くこと。
美恵が他の男と話していると心が落ち着かなくなること。
相手の男に苛立ちを感じること。
美恵の事を考えていると胸が痛くなったり、苦しくなること。
それが何故なのかわからないこと。

美恵がオレの事を好きだと言ってくれた時、今までで1番それを強く感じたんだ。
何かが胸を締め付けるようで、苦しくて熱くて、息も出来なかった。教えて欲しい。美恵――――」
どこか縋るように切ない声色に美恵は顔を上げた。
桐山が自分を見ている。
いつもの無表情ではなく、どこか苦しげな熱を含んだ眼差しが、一途に美恵だけを見つめていた。

「これが『好き』というものなのかな?」

桐山の言葉に美恵は赤くなった顔で、だがはっきりと頷いた。

「そうか……」
ほっとした様子の桐山に美恵は自分も桐山と同じだと伝えた。

「私も、和雄の事を考えていると胸が痛くなったり、苦しくなるの。だから……一緒だね」
「一緒だな」
柔らかな空気が2人を包み込んでいた。

美恵」

「なに?」

「好きだ」

同時に降ってきた唇のせいで返事は出来なかったが、目を閉じる事で応えた。





























翌朝――あのまま眠ってしまった美恵は、ベットで桐山に抱きしめられた状態で目覚め、穏やかでない朝を迎える。





END


けむけむさま、いつも面白い作品ありがとうございます。
今回はヒロインママVS桐山父の一騎打ちですたね。もっとも一方的な戦いでしたが(笑)
ヒロインの父はごく普通の男なのに、どうして結婚したんでしょう?はて?
今回の見所は何と言っても桐山のためにヒロインが勇気を振り絞るシーンでしたね。
こんなに愛し合っているんですから二人はもう大丈夫でしょう。最大の難関父もあっさり突破しましたしね。
それにしてもシロちゃんって……(滝汗)

けむけむさま、今回も楽しませてくださりありがとうございました。