あれから一月が経った。
友人達の尽力や、桐山ファミリーの護衛もあってか、が中傷されることはほとんどなかった。
桐山の婚約者ということになっているので、桐山が恐ろしくて誰も何も言えないのかもしれないが……。
噂も収まり、は平穏な日々が過ごせるようになっていた。

それが嵐の前の静けさとも知らずに。

そして嵐は確実に迫ってきているのだった。




☆責任問題☆
〜語られるのは真実か、拳か。結婚は計画的に〜




授業が終わり次の授業までの10分間。
それぞれが友人と楽しく談笑し騒がしい中、嵐の始まりは桐山の何気ない一言により告げられた。

。今度の日曜、ご両親に挨拶をしに行くから、家に居るように伝えておいてくれないか?」



―――――――――――――ん。



先程までの騒がしさが嘘のように、静寂が教室を満たした。
「……はい?」
「オレの父にを紹介する前に、先にのご両親に結婚の許可を貰っておきたい」
クラスが唖然とする中、桐山の言葉にはあの大事件を瞬時に思い出した。

ファーストキス喪失並びにプロポース事件。(視点)


あの時はかなり混乱したし、動揺もあったが、あれから一月だ。
桐山はあれ以来何も言って来なかったので、あの場を治めるための方便だったのかと思っていたのだが……。
憲法を改正させるのに、思いの他手間取った。遅くなってすまない」


思いっきり本気だったんですね。


メチャクチャ話し進めちゃってるよこの人。



「えっ、憲法を改正させたって……」
「ちょっと待ちなさいよ桐山くんっ!」
「なっ、桐山! おまえまさか……!!!」
「やったのか!?」
「ほ、本当に出来る物なのか!?!?!?」
動揺するより先に詰め寄る光子・七原・三村・杉村。
「この間話しただろう? オレたちの婚姻を認可させるために憲法を改正すればいいと」
「…まさか、本当に…認められたのか…?」
「ああ。明日には、憲法改正がテレビや新聞で報道されると思うぞ」
クラス中が騒然となった。
次の授業どころではない。

「……マジか?…しかしそんな無茶な話が通るなんて……」
「特例措置だ。意外となんとかなるものだな」


なんとかなっちゃうんだ・・・・・・



「援助金というのは便利な物だな」




それって裏金!?




一体幾ら使ったのか、クラスメイトたちは金額を訊きたかったが、怖いので止めた。
きっと自分たちでは想像も出来ない額が動いたに違いない。

「畜生! 結局世の中金なんだな!!」
「この国には清廉潔白な政治家はいないのか!? この国はもうお終いなのか!!?」
「こんなことならパパたち(大物政治家・代議士など)にもっと圧力かけとくんだったわ!!!」
「この国の政府ががここまで腐敗しているなんて……!」
4人は世の中の不条理を怨んだ。

「そう言う訳だから、これで法的問題は無くなった。
結婚の話を進めることが出来るようになったんだ」
「……はあ」
淡々と話を進める桐山に、驚きすぎたは生返事を返す事しか出来なかった。

とてもじゃ無いが今更、冗談だと思ってましたなんて言えない。
ましてや、うっかりOKしましたなんて……。
桐山は自分の為に憲法まで変えてくれたのだ。
なにより、自分とて桐山のことを憎からず思っている。

そこまでしてくれた桐山に自分も応えなければっとは覚悟を決めた。
「では、今度の日曜日、の家に挨拶に行く。かまわないかな?」
「……うん」




約束の時間はPM:1時。
只今の時刻、PM:12時45分。

ぴーんぽーん♪

「はいっ!」
は母親より素早く玄関に走ると扉を開けた。

「き、桐山くん……いらっしゃい」
桐山は、上等なスーツをピシッと着て、髪もいつものオールバックでは無く、前に降ろしていた。
(カッコイイ……)
初めて見た桐山の正装に一瞬立ち尽くしただったが、慌てて居間に通した。

「よぉ、桐山」
「……何故いるんだ?」
「勿論、が心配だったからよ!」
「いきなり結婚しますなんてご両親に言ってが責められたら可哀想だもの」
「本当に来たんだな、桐山……」
「なんて奴だ……」
居間にいくまえに通るダイニングルームで、三村・貴子・光子・杉村・七原がお茶をしていた。
5人は「2人がどうなるか心配で……」と言ってを騙し、この馬鹿げた結婚話を壊す為、家に上がっていたのだ!
「髪まで降ろしちゃって、本気ね! 頑張って桐山くん!!」
「ボス! しっかり!」
桐山を応援する為と好奇心から、沼井と月岡が応援に来ていた。

「みんな〜♪ 新しいお茶菓子出来たわよーv」
とよく似た、より成熟した美しさを重ね備えた女性がお盆を持って現れた。
白のエプロンドレス付きで。
「お、お母さん…」
「あら、こちらが桐山くん? まぁカッコイイ人ね!」
「初めまして、桐山和雄です。さんにはいつもお世話になっております」
「あらあら、ご丁寧に」
しっかりと挨拶をして頭を下げる桐山に、「こちらこそ、がお世話になってます」と天瀬ママが頭を下げた。
「あの、お母さん……」
「はいはい。じゃあ桐山くんとは先に居間のほうに行ってね、お父さん待ってるから。
お母さんはお茶を持っていくわ」
「うっ…うん」
「みなさんはこちらでゆっくりしていってね♪」
焼きたてのスコーンと、紅茶とコーヒーのおかわり分をテーブルに置いてにっこり微笑むママに見惚れる一同。

(((((((さすが/さん)の母親…………)))))))

三村は思わず口説きたくなったが、ぐっと堪えていた。
杉村・七原・沼井が頬を赤くした。
未来のの姿に思えたのだろう。白のエプロンドレスが拍車を掛ける。
もちろん夫は自分の想像で。

「はい、勿論ですv」
「おば様、このお菓子とっても美味しいです」
「ホントちゃんのママって料理上手ねぇ」
光子が天使のような笑顔を浮かべる。
貴子や月岡が嬉しそうにお菓子を摘んでいる。
ママには女(+オカマ)3人組も好意を持っているようだ。

「そう言ってもらえて嬉しいわ。みんなゆっくりしていってね」

お茶を入れにママが出ていくと全員の目がギラリと光った。





…………居間に入室してから、沈黙が続いている。
気まずい。
普段は穏和な父親も落ち着かないのか、ソワソワしている。
「ええと…こちら、桐山和雄さん。」
「初めまして、桐山和雄です。さんにはいつもお世話になっております」
緊張しながらも、なんとかそれだけ口にしたが、父親と桐山が挨拶を交わすとまた沈黙が生まれた。

どうしようも無く、気まずい。

「はいお茶でーす」
明るい母親の登場に場の空気が少し和む。

「桐山君、それで今日は何の御用かしら?」
ママはにこやかな笑顔のまま鋭く本題を突いた。
はと言うと、危うくお茶を吹き出す所だった。

ついにこの時が来てしまった。

「今日はご両親に是非お聞きして頂きたい話がありまして、お訪ね致しました」
「お話? あら、何の話でしょう?」
あああ。とうとう話が本題に近づいて来ている。
の心臓が口から飛び出そうなくらい、激しく脈打っていた。
(ちょっとどきなさいよ!)<光子
(みえないわ!)<貴子
(わっ、馬鹿! 押すなよ!!)<沼井
(三村く〜んv)<月岡
(うぉっ、よるな!!)<三村
(ちょっ…ヤバイって……)<七原
(フスマが……!)<杉村

「単刀直入に申し上げます。天瀬さんを…」

ベキッ!!ミシミシミシ…………バサッッ!!!

その時、桐山の言葉を遮るように、襖が唐突に凄い音をたてて倒れた。
緊張で張り詰めていたは飛び上がる程驚いて、反射的にそちらの方を振り返った。
視線の先、が見たものは、倒れ込む7人だった。
1番下は七原で、哀れにも潰れてしまっている。

「みんな!?」
「だ、大丈夫かい!?」
「みんな、怪我はない?」
両親はすぐに立ち上がって倒れ込んだ7人に手を貸している。
戦線離脱となった七原は、隣の部屋で寝かされる事になった。

桐山はタイミングを邪魔されたことに眉をよせたが、表情を変える事はしなかった。
しかし、桐山の不機嫌を敏感に感じ取った沼井は青くなっていた。

「……話を中断して悪かったね。それで、何だったかな?」
席についたパパはそう話を切り出した。
その言葉で、の体に再度緊張が走る。
そうだ。今日は結婚の話をする為に、桐山はウチに来たのだ。
危うく7人の乱入で忘れるところだった。
「実は、僕達の結婚を許して頂きたいのです」

早ッッッッッ!!!!! 単刀直入過ぎ!! 超直球!!!

先ほど邪魔をされたせいか、素早く桐山は用件を切り出した。
桐山の言葉に、両親は全くの無反応で、室内には長い間沈黙が流れた。
父親はお茶を飲み干すと、母親に声を掛けた。
「……母さん。はいくつになったかな?」
「14歳よ」
「桐山君。君は?」
「14です」
また長い沈黙。

……何だ、この雰囲気は。

「結婚……も桐山君も14で、結婚の申し込みに…………。
………………………………結婚!!?」
父親は机に身を乗り出して、そう叫んだ。
予想もしない言葉だったのか、気付くまでかなり間があった。
「……いや、取り乱して済まない。余りに驚いたもので……」
そう言って額の汗を拭っている父親に対して、母親は新しいハンカチを差し出した。
ママは案外落ち着いているようだった。
父親を気遣うように向けられていた視線がに移され、思わず下を向く。
居た堪れないし、恥ずかしくてとても目を合わせられない。
「まぁ、この間テレビで憲法が改正されて、出来るようにはなったけど……」

お母さん、貴女の目の前にいる男が憲法を改正した張本人です。

「しかしだね、幾ら憲法改正で未成年同士の結婚が認められたと言っても、まだ二人とも早いだろう?」
まともな意見だ。

(いいぞ! お義父さん!!)
(まったく、もっともだ!)
(頑張って、のパパ! そのまま反対するのよ!!)

「こう言ったら何だが、君ももまだ子供だ。余りに急じゃないか。
が君を選んだのなら、付き合うのは反対しない。だが結婚はもっとお互いを良く知ってから……」
「仰る通り、僕達は子供です。それは重々承知して居ります。けれど、僕が事を急ぐには理由が有るのです」
「理由?いったい何だね?」
会話の流れに、はなんだか嫌な予感がした。
まさか…………。
「……ご両親にはお詫びの仕様も無いのですが、僕は、さんを『キズモノ』にしてしまいました」


言ったああああああああああああああああああああ!!!!!



「何だと!?ウチのに一体何を…!」
、犯っちゃったの?」



ピシイ!!!



母のあからさまな発言にと父親は固まった。
「か、母さん! な、な、何を言うんだ!!!!」
硬直を無理矢理解いた父親は真っ赤になってどもる。
まったくだ。
「あら、普通『キズモノ』って言ったらそうでしょう?」
「そっそうかもしれないがもっとオブラートに……!」
「いやねぇ、どんなに言葉を飾ったところで意味は一緒でしょ?
それで、結婚を急ぐなんて……できちゃったの?

お母さん! 直球スギですッッ!!!!!

「まぁまぁ、娘と恋バナする前にY談して旅行より先にハネムーンのこと考えることになるなんて思っても見なかったわ」
式はお腹が目立つ前がいいわよね、新婚旅行は国内と国外どっちがいいかしら?とはやくも検討しだすママ。
気が早いよお母さん……。
「二人とも落ち着いて下さい」
シンクロしているように真っ赤になってあわあわすると父親に冷静な桐山が、そう口を挟んだ。
桐山は2人を見て、「は父親似だな」と思った。
「そうね。もっとしっかりしなさい、2人とも」

誰のせいですかお母様?

父親が、突然机をドンと叩いて立ち上がったので、は吃驚して父親の顔を見上げた。
「ひ、人の娘に何てコトを!! 許さないぞ!!!!!」
父は桐山に飛びかかろうとした!
「お父さん、落ち着いて」

ゴンッ!!!

ママがお盆を持ったまま腕を水平に動かした。
お盆はパパの脛にクリーンヒットし、悶絶している。


「「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」」


全員の視線がパパに向けられた。

「ふう、仕方のないお父さんね。まずは話し合いでしょ? 殺るのはその後でも構わないんですから
サラリと物騒なことを告げると、ちゃぶ台の上にあった台拭きを片膝をついて震えている父親に手渡した。
それで冷やせということらしい。
席を離れる気も、父親を戦線離脱させる気もないようだ。
「それじゃあ2人とも、ちゃんと話してくれるかしら?」

にこやかに微笑む母を、は初めて怖いと思った。





「そう、そういうことだったの……」
あの後、は顔を赤くしながら、2ヶ月前に起こった「ファーストキス喪失並びにプロポース事件」を語った。

ママは「キスだけか」と少し残念そうではあった。
「そうね、それは結婚してもおかしくない理由ね」
「何言ってるんですか!?」
「ただの事故です!」
「おば様! は被害者なんですよ!!」
食って掛かる3人にも動じる事はなく、ママはのんびりと言葉を続けた。
「だってファーストキスや初恋の人って忘れられないものですもの」
「そうよねぇ、一生ものだもの」
昔を思い出したのか、遠くを見つめ恥らうママ。同意する月岡。

「……奥さんのファーストキスと初恋の人って?」
「……思い出すわね、ジェイコブ」




ジェイコブ!!??




「なんですかそのアグレッシブな名前の人は!?」
「というかどこの人ですか!?」
「あら、渋くていいじゃない」
「何人なのかしら?」
ママはうっとりと懐かしむように語った。

「ジェイコブはインド人とイギリス人の間に生まれた父親トルコ人とメキシコ人の間に生まれた母親の間に生まれた子供が、
アメリカに留学してスペイン人とイタリア人の間に生まれた父親中国人とアメリカ人の間に生まれた母親との間に生まれた子供と、
結婚してこの国で生まれ育った人だったの」


長ッッ!!!!!!(しかも結局ナニ人なの!?)


「彫りの深い顔立ちで、癖のある金髪に切れ長の蒼い目をした褐色の肌のモデル体型でベジタリアンなそれはいい男だったわ……」
「ひょっとして宗教問題のせいで肉が食えないのか……?」
「……すごい人ですね」

もはやそれしかいえない。

「私としては是非ものにしたかったんだけど、年の差や彼の家庭問題があって結ばれる事はなかったわ」
悲しげなママの不穏な呟きに、なんだか気まずい空気。
「家庭問題って……?」
「彼、妻子持ちだったし」

そりゃあ無理だよ。(一同納得)

「若さ故の暴走から、その人がファーストキスの相手だったんだけど……」

襲ったの!?

「母さんあの時「貴方が初恋なのv」って言ってたじゃないか!? 嘘だったのか!!!??」
パパの発言に衝撃が走る。
修羅場か!?と思われたその時……。

「お父さんには7度目の初恋の人なのv」
ラッキーセブンね☆

強ッッ!!

にっこりと笑うママに誰も逆らえなかった。



「冗談はこれくらいにして、話をすすめましょう」
本当に冗談だったのか、ママの過去が大いに気になった一同だったが、笑顔のママに反対などできるハズもない。
「結婚はいますぐじゃないと、だめなのかしら?」
「世間体と言うものも有るし……。職場でも何を言われるか。
だってご近所で、いい笑い者にされるんじゃないか」
父親が発した『世間体』の言葉に、は正直、少し腹が立った。
それでは、自分の結婚に反対するのも、世間の目を気にしてるからだけのようではないか。
自分を心配しているのもわかるが、納得いかない。

しかし、また爆弾を投げたのはママだった。
「嫌だわアナタ。職場の立場なんて気にしても今更じゃありませんか。」
「か、母さん!!」

はい?

「ご近所もそうですよ。世間が何をしてくれる訳でもないんですから」

お、お母さん……。

「お父さんの職場の立場って……?」
「ん? 万年ヒラ社員だから、気にしてもこれ以上は下がらないから安心しなさい」
「ええっ、のお父さんヒラなの!?」
ヒラにしては裕福な家よね」
ヒラだったのか」
「意外に甲斐性無しなんだなヒラだなんて」
「あらダメよ、別にヒラだっていいじゃない。男の価値は仕事だけじゃないんだから」
まわりにヒラ発言を連発され、パパはヘコんだ。
「お父さん……」
本人に悪気は無かったが、娘の哀れむような視線はより父親の心を抉った。
、お父さんは万年ヒラ社員だけど、責めないであげて。
そりゃあ、安月給で甲斐性無しでもたった1人のあなたのお父さんなのよ」

しかし、トドメを刺したのは矢張り母だった。

「お人好しで、妙に頑固でちょっと抜けている人だけど、あなたのお父さんよ」
死者に鞭打つ言動ではあったが、この性格はしっかり娘にも受け継がれている。

(((((ソックリ……))))))

「矢張り君達の結婚を許す訳には行かない!!」
立ち上がった父親はそう絶叫すると、人差し指を桐山に向かって突きつけた。
度重なる言葉攻めに、灰になろうとしていたパパだったが、ママの「式は卒業してからねv」という言葉に復活した。
桐山は無表情で、突きつけられた指を見た後、続いて父親の顔を見上げた。
そして、無言で立ち上がると、背広を脱ぎ美恵に手渡した。
襟もとに手をやり、ネクタイを外す。
不穏な空気を感じ取ったのだろう、ファイティングポーズを取るパパ。
(それを見て月岡が「なってないわね」と呟いた)
すっと流れるように父親に近づく桐山を見て誰もが思った。




奴は殺る気だ!!




ここで2人の女性が同時に動いた。

――ママは慌ててパパに駆け寄った。
「アナタッ!」
「止めるな母さん! 男にはやらなきゃならない時があるんだ。娘が欲しいなら僕を……う゛っ!!!」


パパはママの鳩尾の一撃で畳に沈んだ。


「喧嘩弱いんだから。アナタを倒したらと結婚なんて大変でしょ、
いったい何人と結婚させる気ですか、と畳に沈んでいる夫に説教するママ。

「倒せばと結婚!」と思い殺気だった少年たちも、ママの動きを捉えることが出来ず、恐ろしくて動けないでいた。



――は慌てて桐山に飛びついてそれを阻止した。
生まれてこの方、喧嘩なんかしたこともない父が、 ヤクザも逃げ出す不良グループのボスである桐山に勝てるわけがない!!
?」
「やめて桐山くん、お願いよ……」
「しかし、オレたちの結婚を認めてもらうには、倒さなければ…」

やはり殺る気だったのか桐山。

見詰め合う二人、そして…………
「…いつまで引っ付いているのよ!」
怒りを滲ませた光子の声色に、自分の状況に気付きは頬を染めた。
は桐山に抱きついていて、桐山の方もちゃっかり腰に腕を回している、とんでも無い状態だった。
「…こ、これは…その……」
……」
桐山は更に強く腰を抱いた。
「き、桐山くん!?」
離れようとするが、それよりも強い力で抱きしめられ密着状態になったはのぼせそうなくらい真っ赤だ。
放して欲しいと涙目上目遣い(身長差の問題)で見上げるが、



逆効果だった。



桐山の空いている手がの頬に添えられる。
近づく顔。
…」
「…やっ…ダメッ……」
唇から零れた吐息が触れ心臓が壊れそうだ。

このままでは――――――

「はいそこまで」

パコーン!

母親が手にしていたお盆で桐山の後頭部を叩いた。(「ボス!」と充が悲鳴を上げた)
自分の夫への一撃といい、桐山財閥の御曹司にお盆でツッコミを入れるママに誰もが畏怖の眼差しを送った。
のお母さん……素敵v」(光子)
「カッコイイ……」(貴子)
一部例外がいたようだ。

「桐山くん、ちょっと最後まで見たかったけど、それ以上は2人っきりの時にしてあげてちょうだい。
は恥ずかしがりやさんだから」

そういう問題ですか、お母様?

当の桐山は叩かれた事など全く気にも留めない様子で、しかしママの言葉に頷くと体をすっと放し居住まいを正した。
「…ところで、結婚の件は許して頂けるのでしょうか?」
「この状況でまだそれを言うかね君は・・・」
「やるわね……」
あくまで無表情の桐山と、畳にはいつくばったまま先程のラブシーンをバッチリ目撃し怒りに震えるパパ。
ママは何事にも動じない桐山に感心している。
「承諾して頂けないと?」
「悪いが、この話は無かった事にしてくれ。はとても良い子だ。大切な私達の一人娘なんだ。
あの子が生まれて親戚に挨拶に行ったとき母親似であることを誰もが嘆いた。
だが3才になったあの子を親戚に見せに行ったとき、”父親似でよかった!”と涙ながらに祝福された子だ
そう簡単に余所へ嫁がせたくはないと譲らない父親にはなんだか父が大きく見えた。

……親戚の反応が妙に気になるのだが。





桐山は一度瞼を伏せると、上着の内側に手を入れ、メモ帳のような物を取り出して1枚破り机の上に置いた。
「それは?」
「小切手です」

金で解決!?

誰もが驚いた。もショックを受けた。
これならまだ父と殴り合いをしてくれたほうがマシだ。<酷いなオイ
「娘は売り物じゃない!!!!」
お邪魔3人組(七原はリタイヤ中)はパパの様子にこの話は破談だと小さくガッツポーズを作った。
激昂する父親に対し、母親はいたって冷静に小切手を見つめている。

「桐山くんて……あの、桐山財閥の子息さんなの?」
「はい」
両親は互いに顔を見合わせた。交錯する視線は何か色々な物を含んでいるように見える。

誰も言葉を発する事が出来ないまま、静寂が室内を支配した。

よし。認めましょう」
「「「そんな!!!」」」
「本当!?」
「か、母さん……」
お邪魔3人組の衝撃も流され、喜ぶとは裏腹に父は複雑そうな顔をしている。

よしって何ですか奥さん……?

「それでは、こちらの書類にサインをお願いします」
持っている封筒には『同意書』の3文字が。
桐山の保護者欄は既に記入されている。
ママはそれを見た後、チラリと桐山に視線をやったが、なにも言わず記入していく。
「はい出来たわv」
、本当にいいのか?」
「うん……。」
「なら
長い沈黙を破って、父親がの名前を呼んだ。はそちらの方に首を向ける。
目が合った父親の瞳は、今まで見たことが無い程に真剣で、は思わず息を呑む。
「幸せになるんだぞ」
「お父さん……!」
感動の話を繰り広げる父娘を無視し、
「早いほうがいいわね。明日2人は学校があるし、朝1番に役所へ出しておくわね♪」
「宜しくお願いします」
早くも役所へ届ける算段を決める母息子。

七原が気が付いた時にはもうすっかり話は纏まって、桐山と他の皆も揃っての家で夕食をご馳走になった。
男たちは泣きながらご馳走を頬張った。
、幸せにな……」
「チクショーオレは認めねー!!!!」
「オレが寝ている間に何があったんだー!!? そこに正義はあるのかー!?」
、ボスを頼む!!」
「ご馳走様でしたv ちゃんまた明日♪」
こうして男たち(+オカマ)は帰っていった。
「お邪魔しました! また遊びに来てもいいですか?(のママ最高☆ でもの結婚は認めないわ!)」
「あ、私も!!」
すっかりママのファンになった光子と貴子も名残惜しみながら帰っていった。

は桐山を見送るために玄関先に立った。
後ろで母親が桐山に何か言っているようだったが、興奮してその会話すら耳に入らない。
歩いて帰るという桐山に、の母がに桐山を送らせた。
「帰りは危ないから車で送って下さいねv」と言って……。


呼ばれて顔を上げる。
いつも通りの、無表情な桐山の姿が視界に入った。
の母親に、『をお願いします』と言われた・・・」
その言葉で、興奮していたの頭がすうっと冷静さを取り戻して行く。
落ち着いたら急に体の力が抜けて、少し泣きたくなった。
「それから、『今度はロマンチックな場所でキスのやり直しをしあげてねv』と言われた……
「……ッッ!!!!」

お母さんっ!!

「オレにはロマンチックというものがよくわからないんだが……」
桐山の綺麗な指先が美恵の唇をなぞる。
寒さではないものが身体を震わせた。
「事故や偶然じゃなく、ちゃんとに触れてみたい。かまわないか?」
感情を表さない、けれど真摯な瞳がを見つめる。
の心臓が壊れそうなくらい激しく音を立てている。
嫌だなんて言えない。
嫌じゃない。
うまく返事が出来そうに無かったので、はそっと目を閉じた。




「私達、ホントに結婚するんだね…」
「どうしたんだ? 突然」
「ん…ちょっと早いなって思ってたんだけど……それもイイかなって」
桐山は表情ひとつ変えず、『そうか』と言った。
でも繋いだ手に少し、力を込めてくれた。
何を考えているのか、全然わからない人だけれど。
もっともっとこの人を知りたいと思った。

今日は、桐山はやはり只者じゃないと思い知った1日だった。

同時に母も只者じゃなかったと知った1日だった。

桐山の家に着くと、すぐ桐山は車を手配させ、それに乗って帰るように伝えた。
車に乗ると、ドアが閉められたがフロントガラスが音を立てて開いた。

そこから、桐山が覗き込むように顔を寄せていたので近づく。
「来週の日曜はオレの父に会って欲しい」
と言われは小さく頷き、おやすみなさいと言った。
「…………」
離れない桐山に、まだ何かあるのだろうかと思っていたに、軽く唇が触れ――
「おやすみ……
耳元で囁くと桐山は車から離れた。
フロントガラスが閉められ、車が動き出した。

「………………」

家に着き運転手にドアを開けられ「着きましたよ」と声を掛けられるまで、
は真っ赤になったまま動けないでいた。















右の頬を抑えながら。





END


けむけむさまから頂きました桐山とのラブコメ夢(笑)第二弾です。
桐山の常識はずれの愛もすごいですが、ヒロインの母も負けていません。
成り行きで結婚する羽目になってしまったヒロインですが相手が桐山なら全然問題ないでしょう。
むしろ嬉しいです。何と言っても桐山ですから。
けむけむさま、次回も楽しみに待ってます。