『ああ、”太陽”みたいだ』
そう言って彼は笑った。
その笑顔は眩しくて、太陽のようだと、思った。
けして表には出さなかったけれど………………
月と太陽――Prologue――
「おい、聞いたか!!」
食堂で攻介と直人が次の訓練について話していると、トレイ片手に急ぎ足で俊彦が寄ってきた。
「何をだ?」
「この間のプログラム、晃司が参加しただろ」
「ああ、ぶっちぎりの1位で5000点出したってやつだろ」
「最高新記録だ」
感心した様子の攻介と仏頂面の直人。
今年から軍の少年たちが一般人と殺しあう『新プログラム』に改変された。
反政府人達への見せしめと、軍国主義人達へのアピールも込めているのだろう。
特選兵士と呼ばれる全国から集められた選りすぐりの少年兵士である俊彦たち12人の少年達は、時々それに参加することがある。
今回のプログラムは、参加予定だった晶に急遽、陸軍特殊部隊としての任務が発生した。
そのため、予定外の欠席者に困ったところ、たまたま任務を終えて戻ってきた晃司に白羽の矢が立ったのだ。
晃司の参加で、他の参加者内で揉め事(晃司の参加を知り、勇二達他の特選兵士が参加を希望した等)が起こったりもした。
だが他の参加者に変更はなく、晃司の圧倒的勝利に終わった。
普通の少年兵士と、特選兵士最強と言われる晃司では比べるのも馬鹿馬鹿しい。
軍内恒例の賭博は「誰が優勝するか」ではなく「晃司が何点取るか」に変更となったくらいだ。
特選兵士の中でもプログラム参加の得点表が張り出されており、晃司は前回1位だった3700点の晶を軽く飛び越えトップとなった。
「5000点なんて何人殺ればいいんだ?」
「参加人間1人1人が高い得点だったらしいぜ」
「格闘技の有段者や前回プログラムの優勝者が数人混ざっていたそうだ」
「うわー、それってキツくないか?」
「せっかく生き残ったってのにな。運がないぜ」
「前回優勝者は政府が面倒を見る決まりだからな。邪魔になったんだろう」
新プログラムに改正してから、前回プログラム優勝者がプログラムに組み込まれている事が少なくない。
多くが病院で世話になる身だ。
精神を病む者が多く、復学する者もいるがまともに生活する人間は少ない。
政府はプログラム優勝者の生活を保障している。
だが優勝者が政府にとってなんら利益をもたらす訳でもなく、ただ日々を消費していくだけだ。
大方、無駄な経費削減として選別されているのかもしれない。
陰惨な人の生死を語りながらも、少年たちの食事の手は止まらない。
彼等も選ばれた特選兵士達だ。
人の生死など見慣れたものだし、『食える時に食う』という軍人の鉄則を破るはずもない。
「ふーん。報われねぇなぁ」
「まあな。それより俊彦、あれだけ騒いでて話はそれだけなのか?」
「………っ!! そっそうだそうだ!」
「………飛ばすな」
和やかな(内容は殺伐としているが)話し合いについ食事を優先してしまった。
1番重要な事を流していたのを思い出した俊彦は、飲んでいた牛乳に咽せながらも興奮した様子で口を開く。
向かいに座っていた攻介と直人は飛んだ唾と牛乳をそれぞれトレイでガードしている。
「あ、ワリィ」
「んで、なんだよ俊彦。お前の持ってきたビッグニュースは?」
「その優勝した晃司だけどさ、商品を希望したらしいぜ」
「なに!?」
「晃司が!?」
思わず席を立った2人に視線が集まる。
「……珍しい事だと思うけど別にそれって普通じゃねぇの? らしくないと思うけど」
「晃司が何かを求めるというのは想像しにくいがな」
落ち着きを取り戻した2人に俊彦がさらなる爆弾を落とす。
「その希望商品がプログラム参加者でもか」
「「は・・・・・・・・?」」
頭が真っ白になる。
あの晃司が?
機械より機械らしい晃司が?
死を命じられたり、手足を捨てるべきだと思えば躊躇いもなく実行する特選兵士最強の男が?
科学省ご自慢の人間兵器X5様が?
殺すべき人間を欲しがるなんて!!!
「「「「「嘘だろう!?」」」」」
否定の叫びは攻介と直人だけではなく、他の声も混じっていた。
どうやら2人が立ち上がった後、興味を持ち聞き耳を立てていたらしい。
「おい! どういうことだ!?」
「何で晃司が!?」
「あの晃司がそんな面白い……いや、馬鹿な事をしたのかい!?」
攻介と直人より遠い所にいたくせに、一瞬で俊彦の元に詰め寄る勇二・徹・薫。
2人を押しのけ噛みつかんばかりの勢いだ。
晶や雅信は近づいては来なかったものの、鋭い視線を俊彦に向けている。
総勢7人の特選兵士の鋭い視線にさらされ、俊彦の背に冷たい汗が流れる。
1対1ならともかく、1対7はきつすぎる。
「どうなんだよ!」
「さっさと言いなよ」
「詳しく聞かせて貰いたいね」
キツイ目を向けていた攻介と直人だが、
3人の剣幕に腰が引けている俊彦が哀れになってきたのか、同情した視線を送る。
「いや、俺も詳しくは知らないんだよ。
ただ晃司が優勝商品にプログラム参加者を選んだってんで、科学省が大慌てで志郎を連れに来たんだよ!!」
叫ぶように説明すると、殺気すら込められた視線が消えた。
「それだけ? 他に情報無いの?」
「役に立たないね、せめて選ばれた参加者がどんな女だったかくらい聞いてないのかい」
「男だ」
あからさまに見下す視線をぶつける徹と薫に、俊彦が文句を言う前に凛とした声が響いた。
全員が声のした方を向いた。
食堂の入り口付近に氷室隼人がいた。
「……どういう事だ?」
「あいつホモだったの」
「薫……もっとオブラートに包めよ」
「ゲイだった?」
「包んでねぇ!」
漫才のような遣り取りの最中も全員の視線は隼人に釘付けだ。
隼人は気にしてないのか、いつものペースでトレイを手に、それでも騒ぎの中心である俊彦達の元に来た。
ここにきて晶と雅信が席を立ち、食器を置き去りにしたまま近寄ってきた。
席に着いた隼人に、他のメンバーもそれぞれ腰を落ち着かせる。
「……で、どういう事なんだ」
俊彦以上の爆弾発言をしておきながら、
それ以上説明することなく食事を始める隼人に苛ついた晶の声が掛けられる。
「話は後だ」と短く告げると、周りを囲んでいる少年達から一斉に殺気が飛んだ。
「……うまいか?」
「美味い」
隼人は涼しい顔で食事を続けていたが、隣りに座っていた俊彦はイイ迷惑だ。
それでも自分の助け船めいた台詞を言ったもらった身としては、隼人が食事を終えるのを待つしかなかった。
「そろそろ話してくれない?」
食事をすませコーヒーブレイクに入った隼人に、目の据わった薫が笑顔を向ける。
一息ついた隼人はゆっくりと口を開いた。
「優勝商品は旭丘中3年A組28番。無神要、15歳、男。
旧プログラム67回目の星蘭中優勝者だ」
「旧プログラム優勝者?」
「そんな奴をなんだって晃司が欲しがるんだ?」
「ちなみに今回の彼のプログラム点数は980点だ」
「高っ!」
「そんなに凄い奴なのかよそいつ」
「そいつを殺さずに晃司は5000点取ったてのかよ」
「よくそこまで調べたな隼人」
素直に賞賛を送る俊彦に隼人は苦笑する。
「さっき同じ任務だった秀明が急に呼び戻されたからな。気になって調べてみたんだ。
だが、わかった事はそれだけだ」
テーブルに優勝商品に関する資料を置くと、我先にと皆が手を伸ばす。
「他にわかったのは今回晃司が5000点取ったのは、総本部からの命令に影響されたからじゃないかってことだ」
「はぁ?」
「どーゆう命令だよソレ……」
「優勝商品にプログラム参加者を望むなら、彼の得点は誰も手に入れることが出来ない。
そのことで他の少年兵士達と不公平にならないよう、彼の得点など意味がないくらい圧倒的勝利を要求されたそうだ」
「不公平って……」
「晃司が参加している事自体、普通の兵士からみれば不公平なんじゃ……」
「選ばれたエリートの強さを見せつけて勝って欲しかったんじゃないのかい」
「そんなことを言われなくても、あいつなら最高得点を出して優勝しただろうけどな」
「星蘭中……」
眉を顰める薫・勇二・直人。
「お前達何か知ってるのか」
3人の様子に目聡く気付いた晶の言葉に、今度は3人に視線が集中する。
「ちょっとね」
「聞いた気がする」
考え込み俯く3人の中、思い出した直人が顔を上げる。
「…………ああ、軍事推薦者だ」
直人の言葉にハッと残り2人も顔を上げる。
「そうかあいつだ……」
「一時期ちょっと有名だったんだよね、彼」
「何の話だ」
「去年生徒の80%を殺したプログラム優勝者だよ。
彼は精神も正常なままだったし、手腕を買われて軍事推薦を受けていたはずだ」
「一般人にしては優秀な奴だな」
「ほとんど全員じゃないか……」
「軍事推薦を受けるほどの殺し方だったのか?」
「ある意味凄い殺し方だな」
「どんな風に殺したんだ」
今まで一言も喋らなかった雅信が興味深げな顔をしていた。
「実際、奴が自分で殺したのは1人だけだ」
直人が苦い顔で告げる。
食堂の空気が一瞬止まる。
「なんだそれは」
「でも80%殺したんだろ?」
「……扇動か」
「そう、彼はとても巧くやったよ。
バラバラだった生徒を集め、結託させ、わざわざ3つのグループにわけて争わせたんだ」
楽しげに話す薫に俊彦や攻介が顔を顰める。
騙しや裏切りと言った行為は、たとえ戦略的に必要だとわかっていても気に入らない。
「そう簡単にうまくいくものか?」
隼人のもっともな意見に、薫は鷹揚に頷いてみせる。
「勿論簡単な事じゃない。
至急武器一つで関係が左右されるし、もともとの体力や力関係、上下関係だってある。精神的な問題も発生するしね」
「奴の戦略は完璧だった。弱い人間には強い武器を、強い人間には精神的動揺を、戦わない人間には狂気による暴走を。」
「天候、地形、人の心、奴は全てを最大限に利用した。
そのくせ自分はけしてグループの上に立たない。
まるで下っ端のように振る舞って、戦場を操っていたらしい」
「プログラム終了後、彼の凄さを担当教官がアピールしてね。最初は笑って誰も信じなかったらしいけど」
「旧プログロムの爆弾付き首輪に付いている盗聴器からの盗聴記録。
そして発信器から表示された行動記録で、奴の凄まじさは証明され軍法会議ものになった。」
「よくその場で処分されなかったな、そいつ」
「危険人物はその要因があるってだけで、さっさと処分されるもんだろ?」
攻介の言葉に俊彦も頷く。
プログラム終了後、優勝者が政府に恨みを持ちその危険思想のために裏で処分された、なんてザラな話だ。
「それより僕はどうやって軍事推薦を蹴ったのかが気になるね。
彼は今回のプログラムに参加している。
つまりあれだけ軍の人間に目をつけられながら、殺される事もなく普通に学校生活を送っていたことになる。
どうやってそんなことができる?」
軍事推薦といっても選ぶ権利など無く、寧ろ軍事徴兵――昔の赤紙に近い。
断れば待っているのは『死』しかない。それが普通だ。
「直人達が忘れてたって事は、一時は騒がれたものの結局何もなかったってことだろ?
そんなことあるのか?」
「随分ときな臭い奴だな。晃司の商品は」
晶が含みを持たせて笑う。
「案外、そいつのせいでプログラムに選ばれたんじゃないか。このクラス」
「それで本人が生きてるなら、恐ろしい悪運だな」
「一体晃司とどんな繋がりがあるんだ?」
「科学省が慌てて秀明や志郎を呼び戻したって事は、そっち関係じゃないって事だろ」
「ならお手上げだ。もともと情報が少ない科学省達ですら把握できてないものをこちらで考えても仕方がない」
隼人が文字通り手を挙げて締めくくった。
「これ以上は本人の御登場を待つしかないな」
「何時帰ってくると思う」
「さあ? 科学省でも予測不能の出来事みたいだったしな。向こうでも揉めてるんじゃないか」
「当分戻って来ないかもな」
「よっしゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!(ガッツポーズ)」
「俊彦……」
「苦労してるんだな、お前」
この話はこれでお開きとなった。
噂の優勝商品と彼等が出会うのは三ヶ月後。
続く
こちらも、けむけむさまより頂きました。何と私のオリキャラ特選兵士とけむけむさまのオリキャラとののオリジナルストーリーです。
けむけむさまのオリキャラも登場しますが、これがまたハジけた明るい性格の素敵なキャラだったりします。
ちょっとBL的な雰囲気にもドキドキして読ませてもらってるんです。
シリアスなストーリーですが逆も満載という素敵なストーリーになっています。
かなりの長編なので、まずプロローグをアップさせていただきました。
私のオリキャラも丁寧に書いていただき本当に嬉しいです。
そういえば、私のオリキャラのプレゼントで小説頂いたのはこれが初めてです。
けむけむさま、ありがとうございます。続き楽しみにしてます。