その会場はとても広く、多くの勲章を付けた男たちで盛り上がっていた。

無礼講、といわれても言葉通り無礼を働いて宴の後で無事に済む保証はない。
上層部のあり方を熟知している中堅どころは適度な礼節を守りつつ上を乗せ、下を諌めた。
一般兵から見たら偉くともこの中では下位に位置する者達は、始めこそ恐縮していたものの酒の力をかり、無軌道に場を乱していく。
上層部の大物たちは各の違いを見せ付けるように、周りの騒ぎなど一瞥する事無く杯を重ねている。

その中の一角、「特選兵士」という共通の部下を持つ男たちが固まっている場所があった。
男たちはポツリポツリと自分の部下のことを零し始め、それは次第にヒートアップしていった。

「この世に絶対なんて言葉はありませんよ。だが――高尾晃司には絶対があります」
「確かに奴は最強と言われているが、それは1年前のことだ。今は違う。
この1年間血の滲むような努力をしてきたんだ。今の晶に勝てる奴など存在しない、あいつが最強だ」
「はっ!吠えるな鬼龍院。貴様の小僧に隼人が負けるわけ無いだろう」
「なんだと!この陰険メガネ!!」
「自然に帰れ!デカゴリラがっ!!」
「直人は私が、あらゆる特殊教育を施した最高傑作だ!」
「フンッ徹は可愛げのない奴だ。おまけに生意気で傲慢で身勝手で、父親に対する敬意の払い方すら知らない。
だが…………奴は、奴は、自慢の跡取息子より優秀なんだぞ!!!」

勝負だっ!そう叫んだのは誰だったのか。
話は上座にいる軍の頂点にいる男まで届き、鷹揚に頷かれた瞬間、戦いの火蓋は切って落とされたのだ。




月と太陽 ――番外編――
Happy New Year~初夢は正夢となるか~





食堂にて。

「朔夜、嬉しそうだな」
「うん!志郎もコレ見た?」
上機嫌な朔夜が見せた用紙には志郎も見覚えがあった。
先日、特選兵士全員で集められたときに聞かされた内容のものだ。

『第一回!輝け☆特選女装コンテスト!!』

事件が会議室ではなく、宴会場で起きた結果の悲劇だった。
誰がどうやって決めたのか、酔っ払っていた為、誰も覚えていないらしい。
それでも準備は着々と進められ、ポスターやチラシ、特設会場が用意されてしまったのだ。
しかも優勝した少年兵の所属部署が本年度の予算を優先的に取り扱ってもらえるとの話も囁かれている。
その結果、「あの時は酔ってたからこの話は無かったことに」と誰も言い出せず、そのツケは彼らの部下が払うことになってしまった。

この女装大会は所属(陸軍・海軍・空軍・諜報部・科学省)から1名の参加選手を決める事になり、科学省を抜かす誰もが「自分が選ばれるのはごめんだ」と思っていた。
そのせいでここ数日、特別施設にはピリピリと肌を刺すような緊張が広がっていたが、それも無事決まり、参加者全員がいなくなってから、空気は一気に緩んだものになっていたのだ。

「女装大会のチラシだな。それのどこが嬉しいんだ?」
「ほら、ここの【参加賞品:大総統直々のお年玉・金一封 優勝賞品:優勝賞金&1つだけ希望が叶えられます】ってあるじゃない」
「そうだな」
「だからね、晃司が優勝したら1つお願いを聞いてもらおうと思って♪」
微笑む朔夜はうっかり花が飛んでいるのかと思うほど可憐だが、その台詞はジャイエニムズ満載である。
大物なのか解かっていないのか、そこには突っ込まずに志郎は首を傾げた。
「晃司は世界一だ。ぜったい優勝する。
朔夜は何か欲しいものがあったのか?オレがやれないものか?」
その年で貢ぐ気か志郎!と聞こえた内容に少し放れた席にいた俊彦は顔を青くした。
「ちょっと難しいかな」
「そうなのか……」
大好きな朔夜に自分が何もできないと知って心持ち沈んだ志郎を慰めるように朔夜が頭を撫でた。
「だってお休みは志郎の自由でもらえないでしょう?」
「お休み?」
「うん。ここ最近、晃司も秀明も志郎も忙しいじゃない。
晃司が優勝したら三人一緒に一週間くらい休暇を貰って旅行にいけたら良いなって」
「旅行……?」
「4人で遊びに行けたら楽しそうだと思わない?」
「いいな!でも旅行って何をするんだ?」
「普段いる場所とは違う場所に行って、美味しい物を食べて、温泉に入るんだよ」
かなり偏った知識である。
「ああ、こないだテレビでやっていたやつか」
「そうそう。綺麗な景色、美味しい食事、温泉露天風呂、そして…」

「「殺人事件が起きる」」
「ちょっと待ったー!!!!!!」

俊彦のちょっと待ったコールだ!
「どうしたの俊彦?」
「なんだ」
ついに耐え切れなくなり俊彦の厳しいツッコミが入った。
「何で殺人事件が起こるんだよ!?ていうか何期待してるんだお前等!!!!!」
「えー、だってねぇ?」
「テレビではいつも旅行先で起こってるぞ」
「それはドラマだ!つ・く・り・も・の!!本当に起こるわけ無いだろう、全く……」
ふと俊彦の脳裏にある思考が過ぎさった。

この4人がいて本当に何も起こらないだろうか?

好奇心旺盛で色々な事に興味を持つ志郎が死体を発見してしまうかもしれない。



博学多識な秀明がその場を見れば死因、不審点、なんかは直ぐに判明するだろう。



無意識に人を惹き付ける朔夜が当たり障り無く周りの人と話せば情報が収集されるだろう。



全ての謎が解明されて犯人が暴れれば晃司が一撃粉砕してしまう!?


涙あり、笑いあり、ミステリーあり、美食あり、入浴シーンだってありそうな盛りだくさん二時間ドラマ。火サスもビックリだ。


そんなことが。


この4人がいたら本当に何か起こるかもしれない。





「俊彦、顔が青いよ?」
「何か悪いものでも食べたのか?」
「ちょっと、めまいが……」
「大丈夫?休んだほうがいいんじゃない?」
「…………そうする」
全く悪気を感じさせない二人に告げ、フラフラと自室へと戻っていった。頭の中では火曜サスペンス劇場の音楽が響いている。
彼の1番の不幸は「ちくしょう、いてもいなくてもオレの心労は変わらないのかよ!」と内心で絶叫しても口に出さない所だろう。もっとも口に出したところで現状は変わらないのだが(ストレスを吐き出すタイミングすら逃している気がしなくも無い)善良な彼は言葉を飲み込み心労を増やし続けるのだ。ああ、悪循環。

気をつけよう、その優しさが命取り。





ある海軍本部での1コマ

「……どういうことかな?父さん」
説明してくれますよね?笑顔で脅す(認めたくないが自分の)息子は今日はいつも以上に怖かった。
いつもなら「父さんと呼ぶな!」と怒鳴るところだか、徹の様子に恐ろしくて言い返せない。
自分が失言でもしない限り向けられる事の無い殺気が部屋に充満している。
それでもどうにか威厳を取り戻そうと九条時貞中将は胸を張って応えた。
声は震えていたが。
「も、もう決まった事だっ……」
腰も引けていた。
これが武術大会だとか、模擬戦闘試合だというなら徹も構わなかった。
喜んで出場し勝利を収めるところだ。
しかしこれは女装大会。
勝とうが負けようが恥をかくだけだ。
噂によると当初は全員参加だったらしいが、内容が内容のため(明らかに女装に向いてない部下を持った上司から不公平だ!という声が上がったのだ)、其々の所属先から1名となったらしい。
「海軍所属の特選兵士はお前を含めて三人だが、今回はお前が適任だろうと……ひぃっ!」
より鋭さの増した目付きと殺気に思わず情けない声を上げる九条時貞中将閣下。
隼人・俊彦・徹。成る程、確かにこの中では徹が一番適任だろう。
なんたって九条閣下が思わず惚れて一年契約を結んじゃうくらいの美女・麗華に瓜二つの顔なのだ。
母親の祟りかと思うほど(女を寄せ付ける)ウザく面倒な顔だと思っていたが……。
こんなものに巻き込まれるなんて!!
極寒地獄で凍死寸前の父親だが、息子の内心は灼熱地獄である。
「隼人は」
「は?」
「氷室隼人はどうなんですか?」
自分ほどではなくてもあの彫りの深い端正な顔は女装できなくも無いだろう。
姉はよく似た感じの美人だったとも聞いている。
何より陸軍は晶が出るのだ。晶と隼人の上司はいがみ合っている。
対抗意識を燃やし出場させるかもしれないと踏んだのだ。
「まぁ、彼も悪くないが女らしさにかけるからな」
「オレには女らしさがあると?」
「い、いやっ決して!そんなつもりでは!!!!」
壊れた首振り人形の様な動作を繰り返しながらも「向こうから連絡があってお前を推してきたんだ」と責任転嫁を始める。
なんでもこの女装大会の上位順に本年度の予算が組み込まれる事が決まったので、確実に勝つために徹を推薦したという。
それでいいのか、軍予算。
(プライドより海軍全体を優先?ありえないことではないかもしれないが……)
しかもその理由だと徹としても最後の生贄、俊彦を推して父親に無理やり選手交代はさせにくい。
「と、とにかく、これは決定事項だ!参加して優勝しろ!!!!!」
いまいち腑に落ちなかったが、父親を脅してもこの大会が主催されることは変わらず、徹の参加は決まったのだった。


ある海軍本部の1コマ

「隼人、大会の海軍参加者は佐伯徹に決まりだ」
「そうか」
「武術大会や模擬戦闘ならともかく、女装大会だからな。無理に参加することもないだろう」
数分前まで「陸軍は鬼龍院ところの晶がでるんだ!隼人を出して奴をあざ笑ってやる!!」といきまいていた事を別室の扉越しに聞いていた隼人は知っていたが口には出さなかった。
「しかし珍しいこともあるもんだな。あの中将閣下が公然の秘密とはいえ佐伯徹を自分から推薦するとは」
「……今年度の予算がかかっているからじゃないか」
「そうかもしれん」
少し話して隼人は柳沢の部屋を後にした。

氷室隼人、特技:声帯模写





ある陸軍宿舎での1コマ。

「どういうことだ親父」
「あー……ワリィ、決定事項だ。諦めろ」
「これが諦めていられるか!」
晶の怒りの余波をくらい、打ち付けられた拳がデスクをゴミ屑に変形させる。
「しょうがねぇだろうが。特選兵士の陸軍所属はお前と和田しかいないんだ。
今年度の予算がかかってる以上、ウケ狙いってわけで和田を出場させるよりお前のほうがいいだろうと会議で決まったんだ」
「こんなくだらない大会自体を止めにすればいいだろう!オレたち特選兵士は戦うために選ばれた軍人だ!それがなんで女装しなけりゃならないんだ!!?
それに!軍のこれからの運営に関わる予算をこんな下らない企画で決定するなんでどうかしてるだろ!!!!」
鬼気迫る様子の晶に鬼龍院は目をそらした。
まさか自分たちが酔っ払って盛り上がった結果、女装大会を行うことになったとは言いにくい。
「あー……もう大総統も許可した一大イベントになってるからな、中止は無理だろう。
ステージも作られてるらしいし、チラシも配られてるしな」
ここ最近はテロも少なくてみんな暇してたんだろう。
特選兵士を暇つぶしに使うな。
上司でなければ発案者も企画者も生かしてはおかないものを・・・・!
確かに和田よりはましだろう。

晶は勇二を改めて役に立たない男だと思った。

上を目指しどんな苦痛も屈辱にも耐える気でいたが、こんな酔狂にまで耐えなければいけないのか!?
怒りに震える晶に鬼龍院は追い討ちをかけた。
「覚悟を決めろ晶!お前の道は2つに1つ!!」

恥をかいても優勝して出世するか、負けて恥をかくかだ!!

どっちにしろ恥をかくのである。
「それにな、今回の参加者を見ただろう。女装とはいえあいつらと競い合うんだ。負けていいのか?」
さり気なく参加する事前提で話を進める鬼龍院。

自分と同じ野心を持つ徹が、
この上なく気に入らない男娼男の薫が、
自分が超えてやると思い続けた晃司が、
参加しているのにもし自分が負ければ………………否、負けられない!!!!

(いろんな意味で)負けられなくなった晶の猛特訓が始まった。





ある諜報部での1コマ。

「諜報部所属では立花薫もいるからな。あの顔だ、奴のほうが適任だろうということに決まった」
「そうか」
「私としてはお前を参加させて優勝を狙いたかったのだがな」
「………………………」
ぽつりと呟かれた言葉に直人は表情こそ変えなかったが蒼褪めた。
「まったく!お前はこの私が徹底的に特殊教育を施したのだ。負けるはずが無いというのに……」
そんな教育は受けていない。
心から直人は思った。


ある諜報部での1コマ。

「どういうことだい?」
「なんのことかしら」
薫によって壁を背に動きを封じられた女は悠然と微笑んだ。
並みの男ならその場で襲いたくなるほど魅惑的な肢体を軍服に包んだ女は誘うような眼差しで薫を見つめた。
艶やかだがどこか楽しげに煌く瞳は幼い子供のようでもありアンバランスな魅力を醸し出している。
いつもの薫なら答えるように艶然と笑い返し、そのまま彼女の部屋に直行するところだが今日は別だ。
「馬鹿げた大会のことだよ。君が裏で糸を引いているんじゃないのかい?」
「嫌だわ薫、私にそんな権限があると思って?」
勿論思わない。
彼女の階級で軍全体を動かすことは不可能だ。
「でも権限を持っている奴を動かすことくらい出来るだろ?」
「ずいぶんと疑り深いのね。残念だけど違うわ。知っているでしょう?コトの始まりは貴方達の上司なんだから」
「酒の席の戯言だよ。誰だって本気にしないさ、でも……たとえば諜報部から全ての軍にその情報が流れたりすれば信じるだろうね」
噂の対象は特選兵士、大総統公認、本年度予算にも影響、そんな話が広がれば今更無かったことには出来ない。
「新年会の翌日には全軍に知れ渡っていたね、その噂」
「そうなの?後片付けで忙しかったし、知らなかったわ」
「へぇ、それなのに企画運営委員長をやってるわけ?」
「あら、よく知ってたわね」
自白は予想以上にあっさりとこぼれた。
極秘事項だったのにと漏らす女の腕を掴んでいた腕に力を込める。
「セクハラ親爺ども相手に大変だったのよ、酔った振りして酒瓶投げつけるのにも飽きてたし。
貴方達の上司の言い合い、面白そうだったから大総統の許可とってちゃっちゃと進めちゃったの♪」
「……女装は君の案かい?」
「薫だって新年早々疲れることなんてしたくなかったでしょ?」
「今すでに精神的に疲れてるんだけど?」
「ヤダ、そんなに睨まないでよ。いいじゃない、貴方の顔や身体に傷がつくわけじゃないし」
「僕の名誉に傷がついたよ」
「勝てば官軍よ。大総統もちゃんとよいしょしたから優勝賞品も豪華でしょ?」
怒りに波立つ薫の感情をなだめるように女の手が薫の頬を撫でる。
確かに、女装するだけにしては優勝賞品は豪華だ。(しかし、精神的苦痛を考えればもう少し上乗せしたい)
「相手は佐伯徹に周藤晶に高尾晃司に海老名攻介。自信が無いのかしら?」
「まさか!この僕が美しさで負けるはずがない!」
「そうね、それに貴方ほど女性の魅力をわかってる男はいないわ」
女の言葉に合意するように微笑み薫は女に口付けた。
「仕方が無い、君に免じておとなしく参加してあげるよ。でも高くつくよ」
少しずつ下がっていく薫の唇に女がのどを鳴らす。
「これから忙しくなるし……後で分割する?」
「まさか。一括払いだ」
服から見えるか見えないか、微妙な所に歯を立てると身を離し歩き出した。
先ほどの険悪さも妖艶さも感じさせない2人は誰に見咎められることなく、同じ部屋へ入っていった。





ある科学省での1コマ。

「晃司、参加して優勝しろ」
「了解した」


ある科学省での1コマ。

「晃司の身体データ、見せてほしいんだけど」
「朔夜さんが可愛らしく小首をかしげて上目遣いに"お願いv"とおねだりしてくれるなら喜んでv
「………………………」
にこにこ。
「じゃあ、いい」
素早く踵を返したが部屋を出るより男の腕が早く朔夜を捕まえた。
「衣装も大事ですけど、アレがあるとインパクトも違いますよね~」
「………………………」
「ふふふ、アレは僕か開発したものですから、サイズ調整もお手の物ですよ~」
自分の狙いをバッチリ読んでいるらしい。
「どうしますー?」
笑顔で迫るこの男を殴ってやりたいと朔夜は心から思った。





ある空軍での1コマ。

「………………………………………」
「こ、攻介?」
「いい天気だよな」
「あ、ああ!ホンといい天気だよな~」
「こんな日に飛んだら気持ちいいよな」
「そんなに風も強くないしな」
「…………自由になりたい」
「へっ?」
「自由に……」
「ま、待てよ!攻介!!どこ行く気だよ!?」
「放せ!!オレは飛ぶんだーーー!!!!!」
「落ち着けよ!整備中だぞ!途中で壊れたらどうすんだよ!!」
「それでもいい!!なんでオレが女装なんかー!!!!!!」
「うわああああ!誰か来い!攻介が切れた!!!」
「うわぁ!よせ!やめろ!!!」
「はぁーなぁーせぇぇぇぇぇぇー!」
「諦めろ!空軍はお前しかいないんだ!!」
「誰も勝てなんていわねぇよ!!!」
「そうそう!期待もしてないし!!」
「相手が悪すぎるもんな!!!!!」
「他は美系ぞろいなんだからよ!!」
「ちょっとの辛抱だって!!!!!」

「だったらわざわざ参加させんなー!!!!!」
「「「「「「「それは無理!!!」」」」」」」

参加対象:各所属部より特選兵士1名。
その項目をこれほど恨めしいと思ったことは無い。
自分の心と正反対な澄んだ青空に攻介の叫び声が響いた。





こうして、(強制的に)選ばれた少年たちは舞台に立つ。
天使の顔した悪魔な冷血美少年!佐伯徹!!
騙した女は数知れず、魔性の美貌だ!立花薫!!
モデルばりの高身長でトップを狙え!周藤晶!!
言葉はいらない問答無用の最強男!高尾晃司!!
くるか大穴!逃げることは許されなかった唯一の空軍在籍者、海老名攻介!!

果たして!優勝は誰の手に!?


























飛び起きてあたりを見回すと見慣れた自分の部屋だった。

「夢か………………………」

安堵の息をついたが、もう一度寝ようとは思わなかった。


食堂にて。

休日だというのに、科学省組みを除く全員が集まっていた。
「珍しいよな、休日なのにみんな同じ時間に起きて食堂にいるなんて」
休日は好きな時間に起きて行動するため、これほどの人数が食堂にそろうなどまずないのだが。
「凄く変な夢見たんだよ。オレたち特選兵士が女装させられる夢なんだぜ。それも軍全体で大盛り上げの女装大会!」
正夢だったら笑えないな、とふざけると食堂の空気が凍りついた。
「おまえもか」
「えっ……?」
「オレ達も見たんだ」
どうやら全員見たらしい。
内容は微妙に違うが、各自、自分が女装する羽目になったという。
「まさか、秀明たちも……」
「ま、まだ決まったわけじゃないだろ」
「でも全員が見るなんて」

もしかしたら正夢?

「夢はただの夢に決まってんだろ!!!!!!」
「そ、そうだよな!夢だよ……な?」

なんとなくみんなの視線は食堂の入り口に向けられた。
早く秀明と志郎と朔夜が来ればいい。(晃司は任務中で今日帰還するのだ)
違う夢を見たと言ってほしい。ていうか普通そうだろう、そういうもんだろう。頼む、そうであってくれ。

しばらくして志郎と秀明が食堂に入ってきた。
「おはよう」
「おはよう……朔夜は?」
「出掛けた」
「そっか。なあ志郎、何か夢を見なかったか?」
「夢?見たぞ」
何気なさを装いながら、全員の神経がこの会話に集中していた。
「どっどんな……………………?」
「オレたちが女装する夢だった。朔夜も秀明もそんな夢を見たっていってたぞ」

食堂は一気に騒がしくなった。

「全員一致だと!?」
「まさか本当に……?」
「冗談じゃない!」
「やってられるかそんなこと!!!!!」
「落ち着け!正夢と決まったわけじゃないだろう」
「でも全員見てるんだぜ!?」
「もしかしたら任務に言っていた晃司も見ているかもしれないな」

「正夢なら叶わないんじゃないのか?」

へっ?

「朔夜が『元旦に見た夢は正夢になるんだって』と嬉しそうに話していたが、秀明が『その夢を誰かに話してしまうと叶わなくなるそうだ』って言ってたぞ」
秀明を見ると「一般的にそういわれているものらしい」と証明してくれた。

「なんだ……」
「そうか」
「よかった~」
安心した空気が流れる中、志郎が爆弾を落とした。

「そしたら朔夜が『夢なんて見るもんじゃない、叶えるものだからって何かの歌で言ってたし、夢を叶えてくるよ!』っと言って出て行ったんだ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだと!?


「秀明、朔夜はどこへ行ったんだ」
「鬼龍院大佐と柳沢大佐に誘われて「新年会」で舞うことになったと……」

新年会!?

夢の内容を思い出す。始まりは新年会で酔った親父達の暴走ではなかったか?

「宴会だって言ってたから酒も持っていたぞ」
「そういえばラベルに『一撃必殺』とか『ミナゴロシ』とか書いてあったな」

ひどく物騒な銘柄だ。


「舞か……くくっ」
「ちくしょう!あんなものが正夢になってたまるか!!」
「まてよ!新年会って階級が少佐までしか参加できない奴だぜ、どうやって入るんだよ!?」
「気にするな、九条中将閣下に入れてもらうさ」
「大佐も使えるだろう。だが問題は朔夜だな」
「奴の目的によって難易度が変わるぞ」
「オレたちを女装させることじゃないのか!?」
「あんな正夢は嫌だ~~~!!!!!!!!」
「夢の中では優勝賞品を狙っていただろう!そっちかもしれないぜ!?」

特選兵士始まって以来の大騒ぎだ。(テロリストが攻めてきても、恐怖の大魔王が降ってきてもここまで慌てる事はないだろう)
恐るべし朔夜。
わかってなさそうな秀明と志郎も(朔夜対策の為に)道連れにし、少年達は新年早々全速力で駆け抜ける!



























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
任務から帰還した晃司を迎えたのは無人の特別施設だった。





その後、彼らはどうなったのか・・・。





噂では女装コンテストを防ぐ代わりに、会場で一発芸を披露したらしいとか、無理矢理酔わせた科学省長官から科学省組の休暇をもぎとったとか。
しかし、関係者は皆したたか~に酔っていたため覚えておらず、当事者の少年達は全員口を閉ざしたという。

ただ一人、朔夜はとても上機嫌だったそうな。

めでたしめでたし。



けむけむさまから頂いている月と太陽の番外編。今回は女装ネタでしたね(笑)
二作頂いて、私がいいと思った方を選択して欲しいということなのですが悩んだ末、こちらの作品にしました。
随所にギャグが散りばめられ、笑わせてもらいましたよ。
ツッコミどころも満載でしたが、まず一つ目……隼人、絶対に裏で何かしたでしょ?
そして勇二。出場しないのはラッキーのはずなんですが、なぜか哀れ(笑)
役に立たない男って、晶、そんなはっきりと言っては(笑)
晶も負けず嫌いとはいえ、鬼龍院に上手く丸め込まれてましたし。
そして菊地春臣、あんたいつからそんなキャラに?
改めて、こいつが死なない限り直人は苦労が続くと思いましたよ。
薫の腐の彼女が裏で糸引いてたんですね(汗)別れろよ薫(笑)
晃司は……もう何も言いません。任務なら何でもやる奴ですから。
攻介にいたっては、改めて哀れになりました。まともな男の子ですからね、あの子は
夢オチかと思いきや……別の悲劇が待っていたというラスト。
最後まで笑わせていただきました。けむけむさま、本当にありがとうございます。
次回作も頑張ってくださいね。楽しみにしてます。
PS・私も露天風呂=殺人事件を連想してしまう人間です(笑)