月と太陽(閑話)


買い物SS(隼人編)

それは志郎の誕生日より数日前の出来事。

大手デパートに来ている二人。
「ごめんね、隼人。折角の休暇だったのに無理につき合わせちゃって」
※朔夜の外出には許可(主に秀明)と同伴者(雅信以外)が必要なのだ!
「別に構わない。特に予定があったわけじゃないからな」

~雑貨屋~

「それで何を買いにきたんだ?」
「志郎の誕生日プレゼント!」
「志郎の……気持ちはわからなくはないが、だったら武器か何かを贈ったほうがいいんじゃないか?
「そっちはちゃんと企んでるから大丈夫!!」
「(企んでる…?)それだけじゃいけないのか?」
「中学で誕生日にプレゼント貰ったんだよ。志郎達にも何かこーいう可愛いものっていうか、面白いものをあげたいんだよね!」
「そうか……(世間一般からは程遠い奴らだからな。こういう普通の物をプレゼントされるのも悪くないだろう)」
「……!Σ(゜ロ゜;)」
「どうした?」
「隼人!あれッ!!!!!!」

怪しげな人形(?)だ。二頭身。丸い耳。短い手足。
つぶらな瞳。わずかに微笑んでいる口元。

「なんだこれは?」
「ビーズクッションだって。すごい手触りだよ!」
手を掴んで思いっきり引っ張る朔夜。
歪んだ微笑みを浮かべ伸びる人形(?)。

「(不気味だ……/汗)買うのか?」
「んー、どう思う?さわり心地は良いと思うんだけど」

触ってみると柔らかかった。(妙な感触だ)

「これにするのか?」
「そうしようかな」
「クッションといっても枕にも使える大きさだし、いいんじゃないか?」
「……枕?」
「ああ」
「じゃあやめる」
「……理由を聞いても?」
「この大きさから言って抱き枕だもん。志郎がこれ使って寝るようになったらオレが寂しい
「!!( ̄□ ̄;)(そんな理由で!?)」

「んー、この感触は好きなんだけどなー」
人形をぎゅーっと抱きしめる朔夜。
「………………買ってやろうか?」
「? 隼人から志郎に?」
「違う。お前にだ」
「えっ!? 俺誕生日じゃないよ!?」
「構わない。どれがいいんだ?」
「本当にいいの?」
「ああ」
「じゃあこれ!」

突き出されたのはライムグリーンの人形(?)

「わかった」
「ありがとう隼人!大切にするね!!(≧▽≦)」
「そうしてくれ(苦笑)」

レジに並ぶ隼人。付いていく朔夜。

「……!Σ(゜ロ゜;)」
「こんどはどうしたんだ?」

動かない朔夜。
視線の先を辿る隼人。
黒いマグカップが鎮座していた。取っ手の部分が猫になっていてこちらをじーっと見つめている。

目が合った。

「……………………隼人」
「……………………ああ」
「……………………アレだね」
「……………………アレだな」

目が離せなくなった二人はそのままマグカップを購入。
プレゼント用にラッピングしてもらい、人形(?)はそのまま朔夜が抱きしめている。

「本当にありがとう!(><)」
「たいしたことじゃない。志郎へのプレゼントも見つかってよかったな」
「うん!!!!!!」

~帰還後~

「ただいまー♪」
「お帰り朔夜!」
抱きつく志郎。
「ただいま志郎v」
「お帰り。どこに行ってたんだ?」
「ただいま、秀明。隼人とデート!!("▽"*)」
「!?」

「「「「「「「「なにぃ!?」」」」」」」」
「凄く楽しかったよ♪」

疑惑の眼差しに曝される隼人。

「……朔夜、お前の『デート』の定義は何だ?」
「仲の良い人と二人で遊びに行くこと♪」
「……………そうか」
「うん!またデートしようね(笑顔)」
「…………………………………………………………ああ」

こうして志郎の誕生日プレゼントを買いに行ったことは秘密に出来たが『隼人デート疑惑』が持ち上がったのだった。





選択SS(科学省編)
談話室。部屋には朔夜・晃司・秀明・志郎・俊彦・攻介がいます。
朔夜がソファーの端に座っていてビーズクッションを抱きしめたまま船を漕いでます。今にも落ちそうです。

「朔夜が寝そうだな」
「ソレより落ちそうだぜ」

俊彦は朔夜の近い位置にいた科学省組に声をかけました。
「おい、朔夜が落ちそうだぞ。なんとかしてやれよ」

Q:誰に向けて発言しますか?
1:志郎 2:秀明 3:晃司

A:志郎の場合
俊彦達同様、気になっていた志郎はすぐに朔夜の側まで来ると軽く揺すりました。
「朔夜、朔夜」
「志郎……?」
「そのまま寝たら危ない」
うとうとしている朔夜を誘導して志郎は朔夜をソファーに寝かすことに成功しました。
ビーズクッションを抱き枕にして眠る朔夜を数秒ほど見ていると、志郎も眠くなってきました。
「朔夜、朔夜」
「んっ…なに……?」
「オレも寝る」
志郎の言葉に眠そうな朔夜はとろけるような笑みを浮かべるとビーズクッションを置いて志郎を抱きしめました。

「おい、いいのかアレ……(汗)」
「まぁ、落ちることはないだろ(汗)」

二人はそのまま眠ってしまいました。

A:秀明の場合
秀明は読んでいた本を閉じ、朔夜の側へ行きました。
そして朔夜の隣りに腰掛けると、片手で朔夜の腰を抱き寄せ本の続きを読み始めました。

「ひ、秀明……!」
「なんて奴だ………(汗)」

「ん~……秀明?」
「構わない、寝ていろ」
「うん…………」
そのまま秀明に身を預けるとそのまま朔夜は眠ってしまいました。
秀明は朔夜がバランスを崩すことがないよう、片手で支えたまま読書を続けています。

「「(バカップル……………!!!!)」」

A:晃司の場合
晃司は立ち上がると朔夜に近付いていきました。
近付いていきました。

近付いていきました。

近付いていきました。

近付いていきました。

近付いていきました。

そして…………。

とん。
ずべちゃっ。

「「(突き倒したーーー!!??)」」

コレには俊彦・攻介を始め志郎・秀明も驚きました。

「痛っ~~~!」
「朔夜、大丈夫か!?」
「身体は打たなかったようだが……」
「目が覚めたか」
「………なぁ~にをするかなぁ~、君は(怒)」
「俊彦と攻介がお前がソファーから落ちそうだと」
「「(オレ達のせい!?Σ(゜ロ゜;))」」
「気にしていたから落としたんだ
「「(なんでソッチを選択!?∑(゜Д゜;))」」
「……なにか俺に言うことがあると思わない?」
「…(考え中)…ああ」
「「「「「………………」」」」」




「『顔面落ち』を見たのは初めてだ」




「誰が『初めてコント見た感想』みたいなことを聞いたかーーーー!!(怒)」
「「落ち着け朔夜!!!!!」」
「朔夜!?秀明!(オロオロ)」
「(溜息)そのうち治まるだろう、放っておけ」

Q:貴方は誰を朔夜に向かわせますか?
A:1、志郎とお昼寝♪ 2、秀明とラブラブv 3、晃司とガチンコ!?





少年SS(情操教育編)

好みのタイプに付いて珍しく話している時だった。
特に興味も無さそうに聞いていた志郎が呟いた。
「朔夜みたいだな」



あたりは凍りついた。



「いや、それは違うだろ!」
「こういう<女>がいいなって話をしてたんだぞ」
「聞いてると朔夜みたいだぞ」
「可愛くて綺麗だとか?」
「朔夜もそうだろう」

攻介沈黙。

「料理が出来て家庭的とか」
「朔夜もそうだろう」

俊彦沈黙。

「仕事について余計な口を挟まない奴がいい」
「疲れてる時に癒してくれるといいな」
「気配りや気遣いが出来る人だとありがたい」
「朔夜もそうだろう」
「「「………………」」」

次々と上げていっても、何を言っても朔夜に当てはまっていた。
しかし、このまま認めてはいけない!何故なら男としてヤバイ気がするから……!
何とも言えない空気が辺りを包んだ。

「ふう、だめだな君たちは。いいかい志郎、相手が朔夜じゃ抱けないし子供も作れないだろ?」
そうだ!それがあったんだ!!
気が緩んだのもつかの間。

「つまり、抱いて子供を作る為だけに女を必要としているんだな

「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」

根本はそうなのだから否定は出来ない。
しかし……何か自分達が凄く酷い男になってしまったような気がする。

「みんなこんなところにいたんだ」
「朔夜」
駆け寄って抱きつく志郎。
「何話してたの?」
「いや、なんでもない。それよりどうしたんだ?」
「お茶にしようと思って探してたんだよ。今日はこの後訓練無いでしょ」
バスケットに用意されたお菓子。
「今お茶入れるから、ちょっと待っててね」
穏やかな空気を振りまいてお茶の支度を始める朔夜に、何とも言えない気持ちになる少年たちだった。

朔夜の後姿を見送りながら「抱けないのか…」という雅信の呟きを全員が聞こえなかったことにした。





季節SS(四月馬鹿編)
晃司・隼人の部屋にて
背中合わせにベットに座る晃司と朔夜。

「晃司なんて嫌いだ」←足ぶらぶら
「そうか」←雑誌購読中
「大嫌いだ」
「そうか」
「……どうしたんだ朔夜?」

(ついに晃司に愛想をが尽きたのか?しかし今までそんなそぶりは全くなかったが…朔夜は読めないからな)

「ううん、特に意味は無いんだ」
「?」
「もー顔も見たくないくらい嫌いだ!!」
「そうか」
ページをめくる晃司に、まったく動揺はない。
振り向いて背中に圧し掛かる朔夜。
「晃司ー」
「重い」
「つまんない」
小さく溜息をついて雑誌から視線を上げた。

絡み合う視線。

「…オレもお前が大嫌いだ」
「よしっ」
満足気な昨夜に雑誌を置いて寝るぞっと晃司が言った。
何事も無かったような二人に隼人は気付いた。
(エイプリルフールか……)
「おやすみ、隼人」
「おやすみ」
「……ああ、おやすみ」


四月一日だけの言の葉遊び。






対決SS(VS九条中将編)

特選兵士が生活する特別施設前。
一人の男が玄関前で躊躇いがちに足をすすめている。
「くそう…なんで私がこんなことを……!」

海軍戦隊司令官・中将九条時貞は普段の海軍を前にしての毅然とした態度が嘘のように怯えた様子で施設に近づいていく。

できればこんなところには死んでも近づきたくない。
ここには忌々しい自分の息子が生息しているのだ。
他人に言われれば否定するが、血の繋がりを絶つ事はどんな権力を持ってしても出来ない。
目的は息子に会うことではないのが唯一の救いだが、彼が快く自分に付いて来る可能性が皆無であることを九条は理解していた。

しかし、自分にとって絶対な祖父、さらに祖父すらも敬意と畏怖を持って逆らう事など出来ない伯母からの要請なのだ。
部下などに行かせれば門前払いは確実だ。(←経験済み)
だからって自分に行かせることはないじゃないか、と自分の不幸を呪った。


進むも地獄。進まぬも地獄


九条としては「彼はいなかった」ということにして回れ右でもして今すぐ引き返したいが、バレたら後が怖い。

(本人としては)決死の覚悟で一歩を踏み出そうとしたその時    

「こんなところで何をしておられるんです?お父さん」





悪魔降臨





「と、徹……!何故ここに!?」
「嫌だなあ、ここは特別施設ですよ。特選兵士のオレがいて当然でしょう?
貴方がいることがおかしいんですよ

にっこりとかつての愛人と同じ顔で愛らしく微笑んで見せるが、目が全く笑っていない。
寧ろ獲物を前にした肉食獣のようだ。

「だ、だがな……」

後ろから気配を消して近づく事はないだろッ!!!!!!

そう叫ぶ事が出来ればどんなに気持ちいいか……。

言った所で倍にして返されるだけなのだが。

「それで、中将閣下ともあろうお方がこんなところで何をぐずぐずしてるんですか?」

コソドロみたいですよ。

笑顔で毒を吐く息子に九条は血の気が引いた。
笑顔だが刺々しい空気と笑っていない目が気分を害していることをダイレクトに伝えてくる。

徹は徹で内心舌打ちしていた。
用もなければ会いたいなどと思わない顔がそこにあるのだ。
青くなった父親の様子から、何をしに来たのかわかり徹は機嫌を悪くした。

父と会ったことは「気分よく出かけようとしたら、玄関前に生ゴミが錯乱していた」くらい不愉快だった。

「で、何の用でここにいるんですか?」
「……!!あ、いや、その…………」
(ウザイからとっとと言えよグズ、こっちはもうわかってんだよ)
「む、無神要君は…………」
予想通りの答えに目を細めるとビクッと父親が震えたので鼻で笑った。

(やっぱりな、あのババアの仕業か)

一度だけ遭った祖父の姉に当たる妖怪じみた老女を思い出す。
……思い出すだけで殺意が沸いた。
滲み出た殺意に気付いたのか、父親はさり気なく息子から距離を取ろうとしている。

不快な出遭いだった、朔夜共々もう二度と遭う事はないだろうと思っていたのだが。
思っていたより諦めが悪いらしい。

「君に用みたいだよ、朔夜」
タイミングよく玄関口から出てきた朔夜に声をかけた。
一瞬、不思議そうな顔をした朔夜は青くなっている九条に察したのか、悠然と歩み寄った。
それに対し、父親が数歩後退りしたのを徹は見逃さなかった。

「こんにちわ、俺に何か用ですか?」

…………あたりさわりない挨拶なはずなのに、妙にプレッシャーを感じるのは何故なのか。

「ああ、冴子伯母様から君に茶会の「すみません、俺たちこれから出かけるんです

最後まで言わせてすら貰えなかった。

「それにここにいる間は家とは無関係なので付き合いは遠慮して頂けませんか。迷惑ですから

言葉は丁寧だが容赦はなかった。

「じゃ、行こうか朔夜」
「うん、待たせてごめんね」

固まった九条を無視して二人は歩き出した。

「ま、待ちなさい!!!!!!」

決死の覚悟で声をかけ手を伸ばした。

                 



「「なんですか」」

振り返った二人は欠片も笑っていなかった。





「……………………………………………気をつけていってきなさい(滝汗)」

もはやそれ以上、なにも言えなかった。



「……意外としつこいな、懲りてないんだ」
「あの執念深さが九条家発展の秘訣かもね。でも困るからちゃんと言っておくよ
そうして

朔夜VS九条中将
徹との(一方的な)前哨戦のあとW攻撃をくらい敗戦逃亡。朔夜と徹、完勝。





対決SS(VS鬼龍院大佐編)

すでに恒例となっている「飲み会」のお誘いメールが鬼龍院からきた。
一応、鬼龍院という大人と一緒なので、外出は許可されている。(秀明に)

「朔坊ー!飲みに行くぞーーーー!!!!!」
「はーい!」
いそいそと支度をする朔夜。

「じゃあ言ってくるね」
「ああ、オヤジは程ほどにさせておいてくれ」
「んー…………努力はするよ」
「どうした?」
「晶、あれ……」
朔夜の指す方を見ると、晶はうんざりとした顔で溜息をついた。

施設を出ると、鬼龍院はジープの上から何故か知らない人と睨みあってました。

「ふん、こんなところで油売ってるとは随分なんだな陸軍は羨ましい事だ」
「へん、そっちは忙しさの余りお遣いの振りして逃げ込んで来たのか?お疲れ様だな」


カーン。(無常に響く戦いの鐘)


「この下種野郎が!貴様に相応しい地獄へ落ちろ!!」
「返り討ちにしてやるぜテメエが落ちろ!!」
「やめろオヤジ!!これから飲みに行くんだろっ!」
「大佐も止めろ!こんなところでケンカなんて沽券にかかわるぞっ!!!」
晶と隼人が止めなかったら、特別施設前で醜い大人の「ガキの喧嘩」が行われていた事だろう。

「隼人の知り合いの人?」
「ああ。オレの上司の柳沢大佐だ。大佐、彼が話していた『朔夜』だ」
「君が高尾晃司の……」
「はい。初めまして、無神要です。でもここでは朔夜で通ってるんで、よければそちらで呼んでください」
礼儀正しい朔夜に感心した柳沢だが、「誰かさんに爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」と嫌味ったらしく言うのは忘れなかった。
(それを聞いた鬼龍院が暴れようとして晶に抑えられていた)

その礼儀正しい少年はちゃぶ台をひっくり返すことを礼儀作法だと思っているのだが。

鬼龍院は朔夜を引っ掴むと眼鏡を取って顔をさらした。
朔夜の美貌に柳沢が絶句していると得意気に自慢しだした。
「オレのメル友の朔坊だ。まあ友達いねぇお前にはメル友ってもわからないかもな、ジジイだし」

アンタの同期だ。

「なっ彼が噂の…!」
「ははーん!いいだろ?美人だろ?お前にはやらんぞ!!」←得意気
「オヤジ、朔夜はアンタのじゃないだろ」
「くぅぅぅぅぅぅぅ!」
「大佐、落ち着け」
「鬼龍院のこの単細胞が!!!」
「っんだとこのクソ野郎!」
「この下品下劣野蛮低脳愚直馬鹿が!!」
「言うじゃねぇか!この陰険陰湿根暗粘着質の豚野郎が!!」

第二ラウンド突入か、と思われたその時。

「鬼ーさん喧嘩するの?今日飲みに行くのやめる?」
「ん?そうだな、こんなヤツにかまうことなんかねぇや。行くぞ朔坊、乗れ」
「うん」
「ちょっと待て!」
「なんだ、そこにいると邪魔だ。轢いちまうぞ」←半分本気
「ふざけるなこの…!いや、そうじゃない。朔夜君、君はまだ未成年だろう。
その歳でこんなザル男と飲むもんじゃない」
柳沢の台詞は正しいのだが、相手が朔夜なので説得力がなかった。

「「……………………………」」←隼人&晶
「……………………オレがザルならこいつはウワバミだ。こいつオレより飲むぜ」
「なに!?」
「(うわー、こんなこと初めて言われたよ)」←感心している
朔夜の論点はやはりズレていた。

「マジか?」
「マジだ」
「しかし信じられん、こんな子供が……士官学校時代、教官を酔い潰して罪をなすり付けたお前より強いのか?」
「オレ様の青春メモリアルを勝手に暴露すんな。轢くぞ」←8割本気
「えーっと…………じゃあ柳沢さんも飲みに行きますか?」

朔夜の予想外の誘いに驚く柳沢。

「見てもらえば解かる事ですし、参加者が増えるのは大歓迎です。楽しいし」
「参加者?」
「オレと朔坊で飲み比べやってんだよ」
「……勝敗は?」
「…………………………」
「オヤジの連戦連敗だ」
「なに!?」
「ちなみに、敗者が全額払う事になっている。大佐、逃げるなら今だぞ」
晶の台詞に挑発を感じた柳沢は「奴には負けん!」と参加を希望。

3人はジープに乗って行ってしまった。

それから3時間後、隼人と晶にメールが届いた。
メールは『WIN!回収よろしく』としか書いていなかった。
メールを見て溜息を吐いた晶は、まだよくわかっていない隼人を連れて勝敗を決した戦場に向かった。

そこは確かに戦場だった。戦いが終わった戦場だ。

倒れた椅子、破壊された窓、あちこちに錯乱している酒の空き瓶。



真ん中で倒れているオヤジ2人。



カウンターでは朔夜がマスターと談笑している。
二人とも慣れているのか惨状も気にせず楽しそうだ。

「あ、晶、隼人」
「いらっしゃい」
「……何があったんだ?」
「最初は普通に飲んでたんだけど、二人とも飲んでる最中に気分が高揚してきたみたい」
「暴れだしたのか」
「うん。ガチンコファイト!って感じで、怪獣大決戦みたいだった♪」
「いやぁ、大技の連続で凄かったですよ」
「そうだね!ジャーマンプレスが決まったときには終わりだと思ったもん。腕拉ぎ十字固まで出るし」
「ええ、あそこでシャイニングウィザードがくるとは思いませんでした。原爆固めは芸術的なブリッジでしたよ」
スカイツイスター・プレスなんて初めて見たよ!」
「ええ、あの時の鬼龍院大佐の顔は輝いてました」
語る二人はは本当に楽しかったらしい、目が輝やいている。

「……で、ビリケツはどっちだ」
水を差すように晶が声を投げた。
真っ赤な顔で酔い潰れている二人。所々に痣があるがそれだけではどちらが負けたかわからない。
「同時だったよ。格闘もだけど、飲んだ量も」
「チッ、じゃあ折半だな」
晶は舌打ちし、鬼龍院を肩に背負うと「請求書を後で送ってくれ」と告げて出て行った。

慣れた動作に、隼人は晶の背中に哀愁を感じた。

「オレはこれから大佐を送るとして、朔夜はどうするんだ?」
朔夜一人に夜道を帰らせることは危ないのでできない。
「私が送っていきますから」
穏やかに告げるマスターと朔夜の様子からして普段からそうなのだろう。
隼人は「よろしく頼む」と軽く頭を下げると、柳沢を肩に担いで「こっちも請求書を送ってくれ」と告げて出て行った。

「さてと、では片付けますか」
「はい。手伝います」
「奥で休んでいてもよろしいですよ?」
「二人でやったほうが早く終わります。それに…」
「それに?」
止めませんでしたから
タイマン勝負はそういうものですよ。拳の語り合いを止めるのは野暮と言うものです」
「はい」
「では先に空き瓶を集めてもらってよろしいですか、私は先に今日の分を算出しますから」
「はーい」

後日、鬼龍院と柳沢に『朔夜+自分の飲酒代+店の修繕費(半額)』の請求書が送られるのは言うまでもないだろう。

朔夜VS鬼龍院
柳沢参戦、鬼龍院とガチンコファイトの後、両者ノックダウン!戦闘不能により朔夜、優勝。





おまけ(その後の鬼龍院)
「く~あたたた……」
頭と腰を抑える鬼龍院。
「自業自得だ」
「うるせぇぞ晶!っ~~!」
「頭に響くならわざわざ叫ぶなよ。それより請求書がきてるぜ」
「ん~~? はぁ? なんだこの修繕費は!?」
「(憶えてないのか……)」
「柳沢の野郎だな無駄な金使わせやがって……!」
「そう思うなら飲み比べは止めとけよオヤジ」
「馬鹿野郎!これにはオレのプライドが……!うぇ~~~~~」
晶は素早くバケツを渡すと、溜息一つで部屋から出て行った。





おまけ(その後の柳沢)
「くっ、鬼龍院め……」
「飲みすぎだ」
薬と水を渡す隼人。
頭を抑えながら、薬と水を飲む柳沢。
顔にうっすらと昨日の痣を残しているが、それでもどこか満足そうだ。
「くく……しかし、収穫はあったぞ隼人!っ~~!」
「叫ばないほうがいい。頭に響く」
「うっ……これを見ろ」

柳沢が掲げたのは携帯。
アドレスに朔夜の番号とアドレスが入っている。

「………………………………………………(汗)」
「ふふふ、これで私もメル友ゲットだ。呼び名も“やなっさん”とフレンドリーだぞ」
「………………………………………………良かったな、大佐」

気にしていたのか。

こうして朔夜のメル友が一人増えた。





NEXT!


ショートコント総集編第二弾を頂きました(笑)
ミニギャグを見れて幸せです。そして今回も親父パワー炸裂でしたね(笑)
佐伯の親父は……まあ、どんな目にあってもいいでしょう。あいつは。
そして鬼龍院と柳沢はまたしても低レベルな争いを
ここまでくれば見た目大人で中身は子供ですね。晶と隼人の苦労も続くことでしょう。
とりあえずメル友ゲットおめでとう(笑)
隼人もさっさとこんな親父とは縁を切ったほうがいいかもしれません。
次回作も頑張ってくださいね。楽しみにしてます。