「ふっふっふっ……ついにこの日が来た!」
楽しそうな朔夜が目にしているのはカレンダー。

「この日のための準備もバッチリ! 楽しみだな~♪」
ウキウキとした朔夜の様子を俊彦が目撃していたなら、また何か企んでいるのかと不安になった事だろう。





月と太陽――番外編――
~Trick or treat! イタズラ開始!!~





「晶~! 薫~!」
振り向いた2人はぎょっとした。
「朔夜! なんて格好してるんだい!?」
「志郎まで何を馬鹿なことをやってるんだ」
そこには吸血鬼の格好をした朔夜と、猫の耳や尻尾、手足を付けた格好をした志郎がいた。
「仮装だよ、似合う?」
珍しく染めずに白いままの髪、細身で色の白い朔夜に黒でコーディネートされたその姿は異様に似合っていた。
いつもと違って前髪を上げているせいで、剥き出しにされた美貌が蠱惑的に弧を描く。
その姿は、美しい容姿で相手を魅了する吸血鬼そのものだ。
幻想の世界へ引き込まれた晶と薫だったが、次の台詞にその幻想は霧散した。
「志郎の猫もいーでしょ!? 耳と尻尾が凄く可愛いんだv 肉球手足も最高vvv」
無くても志郎は可愛いけどね!っと志郎を抱きしめながら弾ける様な笑顔を浮かべる朔夜。
妖艶的な吸血鬼は瞬殺され、そこにはいつもの朔夜しかいなかった。

「全く、それでなにがしたいんだ?」
内心の動揺を押し隠し、あくまで毅然とした態度の晶。
薫は、朔夜は美貌の無駄遣いをしていると勿体無く思った。
「勿論! 今日やる事はただひとつ!!」
朔夜は必殺の笑顔を浮かべ宣言した。


「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「「はぁ?」」


朔夜の『核兵器並の破壊力を持つ笑顔』に気を取られた2人は不覚にも対応できなかった。
否、身体は習性となっている動きをしてくれていたのだが、何が起ったのか把握できなかったのだ。
そのため、一瞬の判断を鈍らせた2人に事は済まされた。


ぴこぱん♪
キュキュッ!


「「なっ!!!?」」


「悪戯成功!!!!」
高々と掲げられた朔夜と志郎の右手。
片方が手にしているのは「ピコピコハンマー」。
もう片方の手には「水性マジックペン(黒)」。
「やったな、朔夜」
「うん! じゃあ次に行こうか!」
「わかった」

茫然自失している2人を置いて、吸血鬼とその使い魔の黒猫は次の獲物を探しに行ってしまった。

頭に手をやる晶と顔を手で覆う薫。
2人に何が起こったのか・・・・・。
朔夜は叫ぶと晶に突進してきた。
咄嗟の事で驚いたが、身体は晶の対応より早く防御・撃退の構えを取っていた!
だがしかし!! 朔夜は瞬時に晶の背後に回りこんだ!!!
誰かを追いかける時や逃げる時に披露される朔夜の脚力は、密かに施設内最速と言われているのだ!!!!!
回り込んだ朔夜は、右手を容赦無く振り下ろした!!!!!!!!!!
「ピコピコハンマー」の可愛らしい衝撃音が晶の頭に響いた。

薫の場合も似たような物で、攻撃と見せかけた志郎のフェイントに咄嗟の事で見事引っかかった。
そして志郎の右手が流れるように動き、持っていた「水性マジックペン(黒)」は薫の顔に2本の線を入れた。
見事なナマズ髭が薫の顔に描かれている。


(未来の総統陛下をピコピコハンマーなんてふざけた物で殴りやがって…これはオレに対する宣戦布告だな?) 
(志郎めっ! 僕のっ……究極の美と言われた僕の顔になんてことを…っ!!!!)

「ふっ、格の違いを教えてやる……!!!!」
「許さないよ……!!!!!!!」

冷静を装いながら、腸が煮えくり返りそうな怒りを宿し、2人は全力で吸血鬼と黒猫を追撃し始めた。


2人が探している間にも、吸血鬼と使い魔たちによる被害は増えていった。





「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「朔夜……?―――――――――――――――――――ッッゥ!!!!!?」
「うっわあ!! よせ! 志郎!!!!」





「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「ぶっ!!……おまえらーーーー!!!!!!」





「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「……誘っているのか?」
「違います」





「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「冷てッ…! なにしてんだおまえら!?」
「悪戯~♪」
「おい! こら待て……!!」





「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


「……君たち、オレに喧嘩売ってるのかい?」
「いっ悪戯ですッ!」





晶と薫は朔夜と志郎を捜しながら、被害者を見付けていった。

薫と同じようにラクガキされた攻介、耳を押さえ真っ赤になって固まる直人。

顔面に丸い跡を着けてキレている勇二。

危険な笑顔で同じく朔夜を捜している雅信。

ビショ濡れの俊彦。かなり慌てている。

同じくビショ濡れの姿で冷たい目をした徹。
(薫が「水も滴るいい男だね」と鼻で笑ったら、「そっちこそ素敵なヒゲだ」と返されていた)





「本当にやるのか? 朔夜」
「勿論だよ! 志郎、最後のターゲットだ。敵は手強い上、こっちより人数が多い。
分散した所を狙いたいんだけど、時間がない。一か八か、玉砕覚悟で行こう!」
「わかった」
こっそり様子を窺っている相手は隼人・晃司・秀明の3人組だ。
一人ずつならまだしも、3人いるのは流石にツライ。
しかし、もう時間はないのだ!!!!!!!!!


「とりっく おあ とぅりーとっ!!!!!!!!」


ピコピコハンマー片手に突進していく朔夜。
水風船を投げつけ、同じく水性マジックペン(黒)を片手に突っ込んでいく志郎。

「朔夜?」





結果、惨敗。





水風船は避けられ、朔夜は晃司に、志郎は秀明に捕まっている。
「むー。やっぱりダメか~」
「晃司や秀明だからな」
反省も無く、不満顔の朔夜に呆れる一同。
「なにをしている」
「ハロウィン」
「朔夜……ハロウィンがどういうものかわかっているのか?」
キョトンとした表情の朔夜。
「仮装して『とりっく おあ とぅりーと』って叫んで悪戯する日」
「違う」
「え?」
「ハロウィンとは万聖節の前夜祭だ。古代ケルトが起源で、古代ケルト暦では10月31日が1年の終わりの日とされていたからな。
新年と冬を迎える祭りで、夜には死者の霊が家に帰るといわれる。つまり秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭なんだ」
秀明の説明に朔夜も志郎も不思議顔だ。
「……万聖節ってなに?」
「万聖節とはキリスト教で毎年11月1日にあらゆる聖人を記念する祝日のことだ」
「じゃあ悪戯は……?」
「ハロウィンの宗教的意味が失われ、子供の休日となったものだ。
一般的に、カボチャをくり抜き、目鼻口をつけた提灯を飾り、夜には怪物などに仮装した子供たちが”Trick or treat ”と近所を回り菓子を貰ったりするものになっている。これは中世のなごりで祭用の食料を貰って歩いた農民の様子を真似たもので、ちなみに仮装するのは悪霊から身を守るための偽装工作だと言われている。」
「朔夜、『Trick or treat』は『イタズラかお菓子か』という問い掛けで、お菓子を渡さない相手にイタズラをするものなんだ」
「ええ!? アレって『悪戯するよっ!』ていう掛け声なんじゃないの!?」
突然の襲撃理由は明らかになったが、これも親友が教えたウソ知識だろうかと隼人は溜息をついた。

「じゃあ俺がやっちゃたことは……」
「覚悟は出来ているだろうな朔夜?」
地の底から響くような低い声が耳朶を打ち、血の気が引いた。
青くなった朔夜が振り返ると、すでに全員が集合していた。










「ごめんなさい……」
「朔夜」
「志郎は悪くないんだ。俺が間違ったハロウィンを教えちゃったから、だから怒るのは俺だけにしてくれない? 志郎は許してあげて欲しい。」
本当に間違えた事に気付き、珍しく神妙な態度で謝る朔夜に多少怒りがおさまる。
「……なんで急にこんなこと始めたんだよ?」
「前はみんな任務でいなかったし、今年はみんないるから、楽しくパーティとかして遊びたかったんだ」
「パーティ?」
「うん。あ、これも間違ってるのかな? だったら片付けないと」
慌てて食堂に駆けて行く朔夜の後を全員が付いて行った。





食堂には立派なハロウィンの飾り付けがなされていた。
明かりが消され、真っ暗な食堂に紙で作られた(おそらく和紙だろう)ジャック・オ・ランタンが祭の提灯の様に天井からいくつも飾られている。
大きな本物は入口に1つだけ、口を開き、入場者を歓迎している。
食堂のあちこちに白い幽霊が浮かんでいる。(こちらは風船のようだ)

そしてなにより、テーブルに並べられたお菓子の数々。

「すげー……」
「これ全部、おまえ1人でやったのか?」
「ううん。志郎にも手伝ってもらったよ」
「ほとんど朔夜が用意したんだ」

指みたいに見えるショートブレッドクッキーはご丁寧に関節やシワまであり、爪まで付いている。
丸みを帯びた長方形のビスケットには「R.I.P」の文字。墓石を模しているらしい。
サンドウィッチはくるくる巻きで、ジャムなどが塗られ、ている。恐らく骨だろう。
……微妙にクモに見える物もなにかのお菓子だろう、きっと。


「……この不気味なお菓子はなんだい?」
「ハロウィン仕様だよ」

朔夜が食堂の厨房から次々と料理をもってくる。
何種類かのキッシュからはそれぞれいい匂いがする。
大盛のジャンバラヤとパエリアは色鮮やかに食欲を誘い、シーザーズ・サラダからはガーリックの香りがした。
そして、出来立てのバーベキュー・リブが運ばれて来た時、もはや誰も文句を言えなかった。

……どうやら、本当に楽しみにしていたらしい。

これだけのことを、今日1日で用意できるわけがない。

この日の為に、せっせと朔夜が準備していたのだ。みんなとパーティを楽しみたいが為に。

……しかも今怒ると、この料理全てが捨てられてしまいそうな気がする。
食欲旺盛な育ち盛りの少年たちに、目の前のご馳走を無視することは出来なかった。

準備を終えた朔夜は、大人しく刑を待つ囚人のように静かにしている。



「……今日だけだ」
晶の声にしゅんと項垂れていた朔夜が顔を上げる。
「今日のところは勘弁してやる。オレも正確なハロウィンがどんなものか、知らないしな」
「ほんと!?」
「次は無いぞ」
「うん!!!!」
ぱっと輝いた朔夜の表情に、今まで顔をしかめていた他の少年たちも溜息まじりに許す事になった。
あの晶が許したのだ。ここで許さないほど、狭量を見せることもない。
なにより、目の前の料理は魅力的だし、殆どの少年がハロウィンパーティなど経験したことがないのだ。
正直、興味はある。
勇二はまだ不満そうだったが、これを捨てさせる気かっと食堂のご馳走を見せ付けられ、渋々引き下がった。

「それじゃあ冷める前に食っちまおうぜ!」
「うん! でもその前に、みんなは着替えてね」

はい……?

「ハロウィンパーティやってくれるんでしょう? だったら着替えてもらわないと♪」
朔夜が示す先に幾つもの衣装が用意されている。
「……オレたちにも仮装しろと?」
「勿論! じゃないとハロウィンパーティにならないじゃない」
衣装はバラバラだから早い者勝ちだよ~っという朔夜に戸惑う少年たち。
そんな中、晃司と秀明、隼人が特に気にした風もなく、衣装を取りに行く。
「おい、隼人……」
「正気か!?」
「別に着替えるくらい構わない。オレもこういった催しは初めてだしな。主催者の意向に従うさ」
隼人はさっさと衣装を選び、どれを選んでいいのかわからずにいる晃司と秀明に適当に選んでやっていた。
着替えてくる、と食堂を後にする隼人に続く晃司と秀明。
隼人に負けまいと、妙な対抗意識を出した晶も、さっさと衣装を選ぶと部屋に戻っていった。
少年たちも戸惑いながら衣装を取っていく。
嫌がっていた勇二も最後に残った衣装を乱暴に掴むと食堂を出て行った。

「ふふふ~♪」
「朔夜、嬉しそうだ」
「うん、嬉しいよ」
「そうか。朔夜が嬉しいならオレも嬉しい」
淡々と告げる志郎に抱きつき、そのまま椅子に座る。
「前にね、親友やクラスメイト達でハロウィンパーティをやったんだ。……それが凄く楽しかったから、みんなともやってみたくなったんだ」
ちょっと強引だったけど、と苦笑する朔夜に志郎は甘えるように頬を寄せた。
「朔夜」
「うん?」
「Trick or treat」
朔夜の発音より遥かに上等な響きのそれに、朔夜は極上の微笑を浮かべると知ったばかりの知識でアメを渡した。





全員が仮装を終了させ、食堂に戻る頃、パーティは始まった。

「HAPPY  HALLOWEEN!!」のかけがえと共に。





ダイキリのカクテルと(お酒が飲めない人用の)ジュースで乾杯したあと、其々がご馳走を味わい、パーティを楽しんでいた。
「本来ハロウィンは11月1日に行われる天上諸聖人と……」
「ストップ!! もういいから!」
長くなりそうなミイラ男=秀明の説明を悪魔=俊彦が慌てて遮った。
食事中に長い説明など聞きたくない。
面倒見が良い悪魔は、疲れた顔でフローズン・ダイキリを口に運んだ。
顔全体を綺麗に包帯で巻きすぎた為、食事が出来ないミイラ男を助けるのはこの後すぐ。


「ジャック・オ・ランタンってさ、なんでカボチャの提灯にジャックなんてついてるんだ?」
ハーブキッシュを頬張りながら、天井に飾られているジャック・オ・ランタンを指す、ゴースト=攻介。
「んーとね、はけちんぼうで、飲んだくれたどーしようもないジャックって男の人が昔いたらしいよ。
ジャックが死んだとき、神様はジャックを天国へ入れてくれなかったんだ。
困ったジャックは、真っ赤な残り火を、くりぬいたカブに入れたランタンで道を照らして、地上へ帰ったんだ。
それ以来、ハロウィンの魔物を追い払うために、ジャックのランタンを作るようになったんだって」
「…………カブで?」
「カブで」
ああ、だからカボチャ提灯の中に、数個しおれたカブが引っかかっているのか…………。
「……カボチャは?」
「ランタンを作るようになってから、カボチャのほうがランタンに向いているってわかったんだ。
それ以来、ジャック・オー・ランタンはカボチャをくりぬいて作られるようになったらしいよ」
カブよりは中身を剔りやすそうだが……カブか。
「僕が聞いた話と随分違うね」
ストロベリー・ダイキリ片手に魔女=薫が口を挟んだ。
「どんなの?」
「昔、ジャック少年はイタズラが過ぎて死んでも天国にも地獄にも見放されてしまいました。
以来彼は霊界をカボチャで作った提灯を灯してさまよっているのです」
「……少年? それとも悪戯好きの少年ジャックが成長してどーしようもない男になったのかな?」
「しかしイタズラや飲んだくれただけで成仏させてくれないなんて、神様って意外とケチだな」
「さあね、どっちにしろジャックはどうしようもない男だったってことだよ」
なるほど、と2人は納得した。
きっと薫の様にどうしようもない奴だったのだろう、と攻介がこっそり思ったのは秘密だ。


「さっきから顔が赤いよ、直人。妙に朔夜を気にしているようだけど、どんなイタズラをされたんだい?」
「ぶっ!?」
天使=徹の言葉に、パエリアでむせるジェイソン=直人。
徹は直人が噴出しても困らないよう、さりげなく距離を空けている。
顔を赤くしながら朔夜をチラチラと視界に入れている直人に気付き、からかったのだ。
その顔はまさしく、天使の様な悪魔の笑顔だったとか。
何もない!と否定するが、赤い顔で耳を押さえていれば、バラしているようなものだ。
「まさか君、キスでもされたんじゃないだろうね?」
「違う! 噛まれたんだ!」
自らバラしてしまい、ますます赤くなる直人。
耳を押さえている反対側にお面のように掛けられているジェイソンの仮面が虚しく天井を見つめていた。


「正直、お前が賛同するとは思わなかった」
ライム・ダイキリを飲みながら、ドルイド僧=隼人がバーベキュー・リブに手をつけている魔王=晶に声をかけた。
「…………別に……この料理を無駄にすることもないと思っただけだ。食欲欠乏児のクセに、料理はうまいからな、あいつ」
スペアリブはブタだけだと思っていたが、このビーフもイケる。
長い爪が邪魔だったが、食べられないほどではない。
「そうか。たまにはこんな日があってもいいだろ」
「たまにならな」
どこか楽しげな隼人に釘を刺しておく。たまに朔夜と共謀する、この男の真意はいまいちわからない。
明日からはまた訓練だ。あの足の速さは尋常ではない。
「晶」
「なんだ」
脚力強化のメニューを考えていた晶は一瞬、反応が遅れた。
「Trick or treat?」
「は?」
楽しげに笑っている隼人。もちろん、お菓子など持っていない。
「…………」
青くなる魔王。ドルイド僧は杖を片手に楽しそうに魔王の答えを待っている。
……ヤケ食いする魔王がいたとかいないとか。


「デザートでーす!」
あらかた食べ終わった少年たちに1つずつパンプキンプディングを配っていく。
甘いものが平気な者にのみ、程良い色合いのカラメルソースにミントの葉が飾られている。
フランケンシュタイン=勇二のパンプキンプディングはカラメルソース無しだ。
「カボチャ……おい、もしかして、アレか?」
全員の視線が食堂入り口にある巨大なカボチャのジャック・オ・ランタンに向けられる。
「……あれは、食えないんじゃないのかよ」
「ちゃんと食用だよ。食べれる巨大野菜を買ったんだ♪」
ほら、と見せる商品パンフは巨大野菜がプリントされ、自分の顔より大きなキャベツを抱えたジジイが写っている。
”良い環境で育てれば、野菜は大きく美味しく育つのです”というキャッチフレーズ付だ。
ぶちぶち文句を言いながらパンプキンプディングを食べきった勇二に、あきれたフランケンのマスクがズリ落ちた。


「Trick or treat」
「はい」
「Trick or treat」
「はい」
「Trick or treat」
「はい」
「Trick or treat」
「はい」
「Trick or treat……まだ持ってるのか」
「うん。まだまだあるから、遠慮しなくていいよ♪ はい」
狼男=雅信がイタズラをしようと、せっせと朔夜に「Trick or treat」を告げるが、その度にお菓子を与えられ、唸っている。
ある程度予想していた朔夜は、準備をしていて良かったと、ほっとしながら53個目のお菓子を渡した。










こうして、楽しい(?)ハロウィンパーティは無事終了した。
楽しんだ人間も、楽しまれた人間も、それなりにハロウィンパーティを満喫し、ご馳走を食べきって部屋に戻っていった。
食堂を軽く片付けた朔夜は、晃司と隼人の部屋へ行った。
「あれ? まだ着替えてなかったの?」
「ああ」
着替えを取りに寝室に行くと、神父の衣装を着たままの晃司がベットに座っていた。
何かのゲームのキャラなのか、白の礼服に十字架が煌いている。
……そういえば、晶の魔王もどこかのビジュアル系バンドのような衣装だったと思い出す。
「朔夜」
「なに?」
「楽しかったか?」
「うん、とても。晃司は?」
「わからない」
晃司の答えにも朔夜は笑ってそうっと応えただけだった。
「またみんなで騒ぎたいな。クリスマス、新年……これは任務かな」
工作・暗殺・戦争・護衛とバラエティに富んだ任務がある中、全員が参加できるパーティはまれだろう。
そんな事を考えながら着替えていると、腕を掴まれベットに押し倒された。
「はい?」
「Trick or treat」
流暢な言葉に苦笑するとお菓子を取り出そうとして……なかった。
先程、マントと一緒に机に置いてきたのだ。
「あー、ちょっと放して欲しいんだけど」
「無いのか?」
「ええと……さっき置いてきたから、あっち」
「そうか、じゃあTrickだな」
「ええ!?」
困った朔夜だったが、すぐに眉を顰めた。
「――いッ!!」
首筋に感じた痛み。ついでにぷつっと切れた音まで聞こえる。
「い、痛い! ちょっと待て! いまの無茶苦茶痛かったんですけど!!!!」
「オレにやろうとしてただろう?」
顔を上げた晃司の形の良い唇から、紅い雫が伝っている。
「軽くはむ程度のつもりだったさ! 血が出るまで噛むなよ! 痛いだろう!!!」
「そうか」
「ぎゃああ! 舐めるな!! い、痛い!!!! 今、皮引っ張ったろ!? 痛い痛い痛い!!!!!!!」
「静かにしろ」
「だったら止めろや」
痛みの余りキレたのか、ドスのきいた声が朔夜の口から出てきた。

「何してるんだおまえら……」
風呂から出てきた隼人は寝室の光景に溜息をついた。

神父がベットで吸血鬼を襲っている。

(……普通、逆じゃないのか?)
ズレたことを考えながら、血塗れの朔夜のために救急箱を取りに行った。
部屋に戻ってきた隼人の、呆れた声が聞こえるまでこの騒ぎは続いた。





翌日、朔夜の首筋の痕に一騒動あったのは言うまでもないだろう。


HAPPY  HALLOWEEN・・・・・・・・・・?


けむけむさま、いつも面白い作品ありがとうございます。
今回は、ハロウィンの番外編頂きました。
私はハロウィンはお菓子もらえる祭りとは知ってましたが(おい)悪戯できるというのは知らなかったです。
皆が仮装しているのも想像すると楽しいですが、雅信だけはシャレになりません(汗)
あいつはちょっと……いや、かなりヤバイですから(汗)
それにしても晃司よ……おまえもどこか間違ってるぞ(汗)
何しろ世間知らずですからね(などという一言ではすみませんね)
特選兵士はこういう楽しみは全く知らないので、こういう世間的なことをもっと知ってほしいです。

けむけむさま、次回も楽しみにしてます。頑張ってください。