「三村くぅ〜ん!!」
「寄るな月岡!! 俺はおまえとは踊らない!!」

「七原くん、私と踊って!! ねえ、この意味わかる?」
「い、委員長・・・・」

「早く誘ってきなさいよ、弘樹!!(本当はあんたと踊りたいけどね)」
「い、いや・・・・俺は、その・・・・・」

城岩中は、大賑わいだった。


ダンス・ラブ・ハピネス♪





城岩中では、卒業式にダンスパーティーをやることになっている。
卒業する三年生にとっては、これが最後のビックイベントだ。
卒業式が終わったあと、体育館にて、立食&ダンスパーティー。
絶対にかかせないイベントだ。
それに、卒業式もそうなのだが、どちらかといえば、こっちの方が大切だった。
なぜなら、男女ペアのダンスパーティーなのだ。
卒業式の前に、これで告白を決める生徒もいる。
そんなわけで、卒業式―――もとい、ダンスパーティーが明日となった今日。 もちろん3−Bの連中も、あわただしいのだった。



「なあなあ。俺の気持ち、わかってんだろ?」
「・・・・・は?」
ずうずうしく寄ってくる新井田。
は眉をしかめる。
「だからぁ、俺と踊ろうぜって言ってんだよ」
「悪いけど・・・・・・」
「キミみたいな下品な奴僕は消えた方がいい。
 さんは、この俺と踊るんだから・・・・・・・」
高貴な香りがただよっている(と本人は思っている)男。
もちろん、織田でしかなかった。
まるでそんな織田と新井田の行動が引き金となったかのように、
3−Bの男たちはに駆け寄ってくる。
「織田や新井田なんかと踊るなら、この俺とぜひ!!」
「たのむ、俺と踊ってくれ!! じゃないと、月岡と踊る羽目になるんだ!!」
「あ、あの・・・・。俺と踊ってくれないか?」
モテる男の代表(またの名を三銃士)は、なんとかに詰め寄る。
三村にいたっては、今までに無いというほど本気だった。
「なによ三村くぅ〜ん。
 今さら照れる必要なんて無いわよぉ♪」
「う、うるさい月岡!!
 たのむ。下心なんて全然無いから!!」
教室中の全員が『嘘だ』と思ったのは、言うまでもない。
「お、俺と踊ってくれるなら、生演奏するよ!!」
「俺も、新しく憶えた技を披露しよう!!」


「うるさーい!! 私はあなたたちとは踊らなーい!!!」


あまりにも周りがうるさくて、ついにの怒りが爆発した。
一同は水を打ったかのように静まり返る。
「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」
それだけ言って、は教室から出て行った。




がなぜ、みんなの誘いを断ったのか。
それは、にはすでに、思い人がいるからだった。
思い人の名―――それは、桐山和雄。
不良のボスだろうと、近寄りがたい存在だろうと関係無い。
「桐山くんは、誰と踊るんだろ?」
考えてみるが、なんだか相手が思いつかない。
するとその時。
廊下の向こうから、桐山ファミリーが歩いてきた(ヅキは教室)。
は、すれ違うふりをして、こっそりと彼らの話を聞いていた。

「ねえねえボス!! 明日は卒業パーティーっスね!!」
「おい充。そんなにはしゃぐなよ」
しかし充の耳に、笹川の言葉は入っていなかった。
ボスである桐山の周りを、子犬のように走る充。
「ボスは踊る人いないんスか?」
「・・・・・・まあな」
「だったら、俺と踊りません!? 野郎相手が嫌なら、女装でもしますよ!!」
充のその発言に、後ろにいた笹川と黒長は、ガックリと肩を落とした。
((こいつはもうダメだ。まさに末期・・・・・))
二人の心の中は、いまだかつてない共鳴をしていた。
「ね、ね、ボス? ダメっスか!?」
目を輝かせる充。
そんな充を、桐山は少しも見ないで言った。
「俺はその日、家の用事がある。
 だから、卒業式は出られるが、その後の卒業パーティーには出られない」
「えぇ〜っ!!?」
桐山の言葉に、なぜか安心してしまう笹川と黒長。
そして、今にも泣き出しそうな充。



「・・・・・・・・・・」
今にも泣き出しそうなのは、充だけではなかった。
「桐山くん・・・・・出ないんだ・・・・・」
一気に気分が急降下した
好きな人のいないパーティーなど、おもしろくもなんともない。
たとえダンスを一緒に踊れなかったとしても。
それでも、同じ場所にいるのといないのでは、大きな違いなのだ。
「はあ・・・・・・」
は、充の気持ちが痛いほどよくわかった。







「それじゃあ、六時にね〜!!」
卒業式が終わって。
校門の前で、貴子にそう言われた
しかしは、休むことに決めていた。
「告白・・・・するべきだったかな・・・・」
卒業したという悲しみなど、そっちのけだった。
その時。

・・・・・」

桐山の声だった。
は勢いよく振り返る。
「今日の卒業パーティー、出るのか?」
「あ・・・・う、うん。桐山くんは?」
あれは聞き間違いだったんだ。
そう思いたい
しかし桐山は・・・・・
「俺は出られない。家の用事があるんだ」
二度目のショックを感じた
とくに今は、倍にショックだ。
肩を落とすに、桐山は首を傾げる。
「どうした?」
「ん・・・・なんか、ちょっとブルーで。
 桐山くんが卒業パーティー来ないと、さみしいから・・・・」
「・・・・・・・・」
トボトボと校門から出て行く
そんなを、桐山はずっと見続けていた。






「お母様。私どうやら熱があるようなので、ぜひ今夜の卒業パーティーを・・・・・」
「休む気ですか? 休む気なのですか? さん」
二人揃って素敵な笑顔を浮かべる。
「ですからお母様。今夜の・・・・・」
「ダメ。絶対ダメ。第一、熱が無いでしょ?」
「くっ・・・・・・お母さんは、娘の恋心をわかってないのよ!!」
「・・・あーもう、わかったわよ。勝手にしなさい」
かなり本気な目をするを見て、母は仕方なく諦めた。
は、自分の部屋にこもった。

「うぅ・・・・桐山くん・・・・・・・・」
枕を抱きながら、涙を流す
こんなに後悔するならば、告白すればよかった。
は心底そう思った。


ピーンポーン・・・・・


ドアの開く音。
の母がなにやら驚いている声。
しかしにとっては、そんなことどうでもよかった。
どうでも・・・・・・・・・

ッ!!!!」
「わああっ!? な、なによ!!?」
「ふぇ、フェラーリが、財閥の息子さんが、お金持ちが!!!」
「お、落ち着いてくれるとありがたいんだけど・・・・・・・」
の母は一度大きく深呼吸する。
そして――――――

「桐山財閥の息子さんが、フェラーリに乗って、あんたを迎えに来たのよ!!!」

母の言葉が終わらぬうちに、が玄関にいたのは言うまでもない。









「き、桐山くん!!!?」
ドアを開けたその先に立っていたのは桐山。
黒スーツを着て、しかも、髪の毛を下ろしている。
そんな桐山の後ろには、長い長いフェラーリ(高級車)が。

「ど、どうして・・・・・・」
「迎えに来たんだ」
「・・・・・・・え?」

桐山は、少し間をおいて話し始めた。

が今日、俺が行かないとさみしいと言ってくれた。
 その時俺は、どうしても卒業パーティーに出たいと思った。
 家のことも、むしろ、卒業パーティーのことも、どうでもよかった。
 ただ俺は、と踊りたい・・・・・・・理解してくれるかな?」

は、顔が赤くなっていくのを感じた。
ふと、夜桜が舞っていることに気がついた。
桜は、二人を包み込む。

「行こう、・・・・」
手を差し伸べる桐山。
もちろんは、小さく頷いて、桐山のその手を取った。











「あ、〜!!」
会場に着いたたちに、貴子が駆け寄ってきた。
その隣には、杉村がいた。
「そっか。の相手は、桐山だったのか」
少し驚いたように、隣に立つ桐山を見る杉村。
「ねえ、見てよあれ」
「え?」
おもしろそうに貴子は言う。
は、貴子の指差す方を見た。
そこには・・・・・・・・


内海と踊る七原。
金井と踊る充。
光子と踊る滝口。
そして何より驚いたのが・・・・・・
なんと、月岡と踊る三村。
いったい、二人に何が起こったのだろうか?
まあ、それはともかく。


「じゃあ、私たちも踊ってくるから」
そう言って、貴子は杉村をつれていく。
あんなに機嫌が良い貴子は久しぶりだった。
おそらく、杉村から誘ったのだろう。
「・・・・俺たちも、踊ろう・・・・」
「うん・・・・・」
手を繋ぎ、みんなの中に入っていく二人。
それは、とても楽しい卒業パーティーとなった。


「桐山くん・・・・・ありがとう・・・・・・・」


踊りながらがそう言ったのを聞いて、みんなが見ているにも関わらず、
桐山がにキスをしたのは、また別のお話。







―――おまけ―――
それは、桐山とが到着する少し前のことだ。

「あの、委員長・・・・・」
「七原くん?」
「よ、よかったら、俺と踊りません・・・か・・?」
内海が七原に抱きついたのは、言うまでも無い。



「おい金井。は、話があるんだけどよ・・・・・」
「あ、見つけた沼井くん!!」
「へ?」
「ほらほら、踊りに行こうよ!!」
二人がこの日カップルになったのは、言うまでも無い。



「あの・・・・・あの、相馬さん・・・・・」
「はい?」
「お、俺と踊ってくれませんか?」
「・・・・・・!!」
「俺じつは、ずっと相馬さんが気になってて・・・・・・」
生まれて初めて愛情を与えてくれた滝口を、
何も言わずに光子が抱きしめたのは、言うまでも無い。



「貴子・・・・その・・・・・・・」
「何よぉ? を誘えなくて、まだ落ち込んでるの?」
「ち、違うんだ。俺は、その・・・・・・
 貴子を誘いたいんだ・・・・・・・・・・」
生まれて初めてと言っていいぐらい、貴子が赤面したのは、言うまでも無い。



「おい、月岡・・・・」
「あら三村くん♪ どうしたのぉ?」
「・・・・なんつーか、踊ってやるよ。一緒に」
「・・・・・・・へ?」
「最後ぐらい、踊ってやるって言ってんだよ。オーケイ?」
「み、三村くぅ〜ん!!!」
「うわっ!! 抱きつくな、月岡!!」
特別プレゼントだ、月岡。
小さな声でそう言ったのは、言うまでも無い。


卒業パーティーが、どれほど盛り上がったか。
もちろん、言うまでも無い。





『HIDE and SEEK』の夜闇さまにリクして書いて頂いた作品です。
アメリカのプロムみたいに素敵な卒業パーティ夢がみたくてリクさせていただいたんです。
期待通り素敵な作品を書いていただきました。
しかも桐山とヒロインのみならず、最後のおまけの脇役たちが、すごくいい味だしてると思うんです。
月岡は人生最大のハッピーですね(笑)
夜闇さま、素敵な作品、本当にありがとうございました。