Shall We Dance?Ⅱ



文化祭の後夜祭のダンスパーティ。
そこで壮絶な争奪戦を繰り広げるのは、何も男子だけではなかった。
そう、女子の間にも、壮絶な争奪戦が繰り広げていたのだった――。

――3B男子達が壮絶な争奪戦を繰り広げている丁度その頃。

「つ、疲れた~」

今教室の机に突っ伏している男子生徒、名前を夕月彩生という。
現在彼は、お疲れであった――。

夕月先輩。ダンスのパートナー組んでください』
夕月君。パートナーになってぇ~!!!!』
『ちょっと、あたしの夕月君よ!!!!』
『ぎゃー!!!!ちょっと夕月君に触らないでよ!!!』

などと、つい先ほど、自分をダンスを組みたがっている女の子たちの申し出を断ったり、
時には逃げたりなどしていたので、彩生はすごく疲れていた。

(ある程度覚悟してたけど、きつよ、ありゃ)

彩生はバスケ部員で、バスケ部では三村信史と人気を二分するほどモテるのだ。
彩生自身もそのことは、ある程度理解しており、今日という日を覚悟していたのだが、さすがに疲れた。



彩生が机に突っ伏していると、何か背中に柔らかい感触が伝わってきた。

「???」

彩生は、気になって後ろを振り返ると――

「光子サン?」

相馬光子が彩生の背中から抱きついていた。

「ねぇ、夕月君。今日ダンスパーティ、あたしと組まない?」

光子は、それはそれは、まさに天使のような愛らしい笑みを浮かべて言った。
しかも、その愛らしさの中に妖艶な美しさが見え隠れし、大抵の男ならイチコロであろう。

実を言うとこの相馬光子、夕月彩生のことが好きなのだ。
どういうきっかけで好きになったかは不明だが、彩生に好意を持つようになって以来、
今までのような悪さをあまりしなくなっっていた。
光子曰く、「生まれて初めて、与えてくれた人」らしい――。

彩生は、とりあえず上体を起こし、光子を見た。
そして、何かを言おうとした。
が――

「ちょっと待ってくれない?」

(くっ。着たわね、貴子)

光子と彩生の間に、千草貴子が割って入ってきた。

「あら?貴子じゃない。何か用?」

光子は、満面の笑顔で言った。
しかし、何故だろう顔は笑っているのに、どこからかどす黒いオーラを感じる……。

「彩生。あたしとパートナー組まない?」

貴子は、光子を無視して言った。

実を言うと、光子だけでなく、貴子も彩生に好意を持っているのだ。

ちなみに彩生は、貴子の幼馴染の杉村弘樹が通う拳法道場の息子で、弘樹とは親友同士。
貴子とも割りと親しい間柄であった。

「ねぇ、貴子。最初に誘ったのはあたしなの。だから、あたしの方に権利があると思うんだけど?」

光子は、満面の笑顔を崩さずに言った。
しかし、光子を包むどす黒いオーラは、ますます深まった気がする……。

「それは、彩生が決めることでしょ?」

貴子は、平然とそう言い切った。
さすが鉄の女・千草貴子。
他の女とは度胸が違う!!!

いつの間にか、あたりは氷点下の温度へと変わっていた――。



しばらく、二人の間に沈黙が流れたが、不意に光子が口を開いた。

「あたし、レズッ気があるのかしら?あなたみたいな女、すごく好きよ。…だから…非常に残念だわ」

光子は、どこからともなくカマを取り出した。

「わかったわ。ただし、油断するじゃないわよ?あたしの全存在を賭けて、あんたを否定してあげる」

貴子も、どこからともなくアイスピックを取り出し、構えた。

世界一カマの似合う女・相馬光子VS誇り高き鉄の女・千草貴子

最強美女二人の戦いのゴングは、今鳴り響いた――。



ちなみに、3Bの教室まで来て、彩生にパートナーの申し出をしようとした女生徒が多数いたが、
光子と貴子が彩生に思いを寄せていると知って、大人しく引き下がったとか――。



二人の美女に思いを寄せられ、なんとも羨ましいが、当の彩生は、二人間にあるただならぬ空気に驚いていた。
そんな彩生の肩を叩く一人の男がいた。

「何か用か?」

彩生の肩を叩いた男――新井田和志は、次の瞬間とんでもないこと言った。

「羨ましいなー、相馬と千草に迫られて。で、どっちを選ぶんだ?俺なら、両方選んで3Pプ…グハッ」

言い終わらないうちに和志は、彩生に強力な裏拳をくらい倒れた。
その鼻は潰れ、歯も何本か折れていた。

「新井田!!」
「あんたは、引っ込んでなさい!!」

そう言われ、和志は、光子には額にカマを、貴子には口内にアイスピックをグサッと刺され、止めを刺された。

哀れ、新井田和志――いや、それとも自業自得か?
まあとにかく、合掌――。



光子はカマを貴子はアイスピックを、それぞれ和志から引き抜き、戦いを再会した――。

ここで、二人のパラメータを紹介しよう。
パラメータは、★で表示されており、★の数が多い方とその能力値が高いということだ。
ちなみに、★の数は最高五つだ。

相馬光子のパラメーター

体力 ★★★
運動能力 ★★★
知能 ★★★★
美貌 ★★★★★
色香 ★★★★★

千草貴子のパラメーター

体力 ★★★★★
運動能力 ★★★★★
知能 ★★★★★
美貌 ★★★★★
色香 ★★★

う~ん、パラメータ上、この戦いは、貴子の方が有利ですね~。
女同士の戦いですから、光子の色仕掛けは通用しないでしょう。



二人は、互いに武器を構えながら、互いの動きを警戒していた――。

しかし二人の思いは同じだった――。

((絶対勝つ!!!!))

が、しかし、二人が動こうとしたまさにそのとき――

「ストープッ!!!!!」
「「えっ?」」

なんと二人の間に夕月彩生が乱入してきた。

彩生は、貴子の方を向き、じっと見詰めた。

「ごめん、貴子サン。俺、光子サンが好きなんだ。だから、貴子サンの誘いは受けられない」

彩生は、貴子に向かって、深く頭を下げて言った。

「馬鹿。あんたが悪いんじゃないんだから、別に頭下げる必要ないのよ……じゃあね」

そう言うと、貴子は、潔くその場を去って行った――。



彩生は、しばらく申し訳なさそうに貴子がいた場所を見ていた――。

しかし、すぐに光子の方を向いた。

「というわけだから、パートナーよろしく」

彩生は、光子に少しぎこちない笑みを浮かべて言った。

「こっちこそよろしく」

光子は、彩生に思いっきり抱きついた。
彩生も光子を抱きしめ返した。



―― 一方ここは屋上。

「はぁ」

貴子は、屋上のフェンスに寄りかかりながら溜息をついていた。

(我ながら、かっこつけすぎたわね)

彩生の前を去って行ったとき、あれは元々の潔い性格もあるだろうが、少し強がりも入っていた――。

「貴子」

不意に名前を呼ばれ、屋上の入り口の方を見た。

「弘樹、どうしてここに?」

そこには幼馴染の杉村弘樹がいた。

「…ちょっとな」

それだけ言うと、弘樹は、貴子の隣まで歩いてきた。

「あ~、その……」
「振られたわよ」

弘樹の言いたいことを察し、貴子は弘樹の言葉を遮るように言った。

「そうか…」

少し間を置くと、弘樹は続けた。

「その、恋愛は、好みや相性らしいからな」
「そうね。あたしは、彩生の好みじゃなかったみたい」

貴子は、その顔に苦笑のようなものを浮かべた。

「い、いや。俺がいいたいのは、そのこじゃなくて…その…とにかく、
お前が振られたのは、お前に落ち度があったわけじゃなくて…その…なんというか…」

貴子は、必死に言葉を探そうとしている弘樹を見て、笑みを浮かべた。
今度のは、さっきのような苦笑ではなかった――。

どうやら、弘樹なりに自分を励まそうとしてるらしい。

(まったく。口下手なくせに無理をして)

でも、実際励まされたのかもしれない。
その証拠に、さっきまでのブルーな気持ちが少し消えた気がする。

「弘樹」

突然名前を呼ばれ、弘樹を貴子を少し驚いたように見た。

「あんた、パートナーになってくれる子いないでしょ?仕方ないから、あたしがなってあげるわ」

そう言った後、貴子は、「ありがとう」と、小さく聞こえるか聞こえないかの声で言った。

「ほら、行くわよ、弘樹」

そう言って、貴子は、弘樹の腕を掴み引っ張って行った。

どうやら元気になったらしい貴子を見て、弘樹は、優しい笑みを浮かべた。



彩生と光子は、付き合うようになり、はれて恋人同士となったが、この二人がどうなったかはご想像におまかせします。




『夢鏡』の昼顔さまがフリー配布していた夢を頂きました。
男主人公の夢小説、当サイト初登場です。
男主人公が光子を選んでくれたのも嬉しいですけど……。
ウフフフ(不気味だ(汗))杉貴派の私には、すごく嬉しいラストでした。
ああ、やっぱり杉村には貴子ですよね。お似合いです。
昼顔さま、素敵な夢小説ありがとうございました。