いつもと変わらないその微笑、仕草、その他全て。
全てが刃のような傷薬。
甘い夢
「ねぇ、桐山君。チョコ食べる?」
差し出された白い指の先には、小さいチョコレートがつままれていた。
日差しが窓から照り込む。
眩しいとは思えない。
あまりにが光り輝いている気がするから。
「はい。食べていいよ。私は結構食べたからさ。」
ゆっくりと、の指からそのカケラをもらう。
口に運ぶと、甘い香りと共にあっという間に溶けた。
「甘い・・・・・・・・」
「そりゃそうだよ、チョコなんだから。」
おかしそうにが笑う。
微かに、ホンの少しだけ困ったような顔をして。
「今日、何の日か知ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・知らない。」
「バレンタインデーって言ってね、女の子が好きな男の子にチョコをあげるの。」
勿論チョコだけじゃないのよ?
クッキーやケーキみたいなお菓子でもいいし、ハンカチみたいにお菓子じゃなくってもいいんだって。
「本当は幸枝達の分なんだけど、少しだけだったら桐山君にあげるよ。」
手作りじゃないけど、このチョコ、私好きなんだぁ。
「・・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・・」
不器用に、慣れていない感謝の言葉を並べた。
はさっきよりも笑顔でそれを受け取った。
「そういえばね、三村君ってば私と話すたびに冗談ばっかり言うんだよ?」
さっきも、『俺はもうすぐ死ぬ〜』とか言ってたの。
ちょっと笑えない冗談だったけど、『そんな元気な人が何言ってるの!』ってね、
元気に笑い飛ばしておいたわ。
でも切羽詰った表情で、何か演技とかも上手くって、
最初は本当にそうなのかと思っちゃった。
でもそんなわけないじゃないって。
だってさっきまで普通に授業を受けて、お昼休みにバスケットやってたのに、
急にそんな風になるわけないじゃない。
だから『嘘が丸見えだよ。』ってね。
そしたら三村君、残念そうな表情で『諦めるよ』って言ってたよ。
『今度はもっと面白い冗談を聞かせてね。』って励ましてあげたの。
そしたらまた三村君はいつもと同じような笑顔になったの。
「三村君って、桐山君とは違う意味で何を考えてるか、よくわからないなぁって思う。」
ねぇ、桐山君もそう思わない?
「・・・・・・・・・・・・・・わからない。」
そっか。
「桐山君、今何時くらいかな?」
「・・・・・・・・・・・もう、すぐに日が暮れる。」
「そっかぁ・・・・・・・じゃぁそろそろ幸枝達も部活が終わるかな。」
「多分・・・・・・・・」
「それじゃぁ私はそろそろ帰る準備しなくっちゃ。」
今日は知里の家に行って、みんなでご飯食べる約束になってるの。
「桐山君、今日は沼井君達と一緒じゃないの?」
「あぁ・・・・・・・・・・・・」
「幸枝たち、早く来ないかなぁ・・・・・・・・・・・・」
その言葉に、桐山は表情を濁らせた。
「。」
桐山が、凛とした、だけれど重たい声色で言った。
「目を覚ませ、。」
「・・・・・・・・・・・・何言ってるの、桐山君。」
「目を、覚ますんだ。」
「桐山君でも、冗談を言ったりするんだ。」
俺の目に、不思議そうな顔をしたが写った。
何が起こっているのか、本当に理解していない、そういう目をしていた。
「目を・・・・・・・・・・覚ましてくれ・・・・・・・・・・・・・」
「桐山君?」
「内海達は・・・・・・・・もう死んだ・・・・・・・・三村も、このクラスの殆どの人間が・・・・・・・・・・・・・・」
もう、死んだんだ。
「はは、何言ってるの桐山君。そんな事、冗談でも私怒るよ?」
「。」
しかりつける様な、なだめる様な、不思議な声。
「幸枝達は今部活に行ってるの!三村君だって練習だし、クラスのみんなはちゃんと明日に会えるの!」
が断固として桐山の言葉を拒んだ。
「死んだなんて冗談・・・・・・・・・・・・・・ゴホッ!」
が咳をする。
両腕での体を支える。
「大体、幸枝たちがどうして死んじゃったりするのよ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・本当に、わからないのか?。」
「何に?」
「自分の体の下にあるのが、内海達だという事に。」
「え・・・・・・・・・・・?」
ここは、灯台の中。
島にある、白い寂しい灯台の中。
「ゴホ!幸枝達がこんなところに・・・・・・・・・・・ケホ!ゴホ!」
ボタボタとの口から血がこぼれる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いるわけな・・・・・・・・・ゲホ!ゲホ!」
の命があっという間に短くなる。
「ゴホ!だって・・・・・・・・・・・・・桐山君、は側にいてくれてるじゃないっゲホ!」
何かを見つけたように目を見開いて、天井の一点を凝視して、は言葉を詰まらせた。
痛いぐらいに動揺と困惑と、そして結論が伝わってくる。
夢が、覚めた瞬間だった。
「私っ・・・・・・・・・幸枝達に・・・・・・・・ゲホ!一体何をしたの・・・・・・・・・・・?!」
は泣きそうな声でそう叫ぶと、ゆっくりと、深い眠りに落ちた。
思わず唇を塞ぐ。
血の味しかしないはずなのに、何故か甘い。
チョコレートとは違う、悲しい甘さ。
破天荒な空模様の中国犬さまがバレンタイン無料配布していた作品です。
シリアスな作品が結構好きな私には、とてもグッときました。
特に、桐山が『目を覚ませ』と言ったくだりです。
ヒロインは死んでしまいましたが桐山が最後に側にいてくれたことが救いですよね。
私も桐山に側にいて欲しいです。
ちなみに三村もヒロインが殺したという設定だそうです。
ヒロインが三村や幸枝達を殺してしまった事を忘れて(?)待っている姿がせつないです。
中国犬さま、こんな素晴らしい作品をありがとうございました。
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