愛
「和雄…」
「なんだ?」
「私達、ずっと一緒だよね…?」
「あぁ…」
「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」
「や…やぁよ…」
私は夢中で走り出していた。
とっても恐かったから。
みんなを疑ってるわけではなかったのに、恐かったから。
そして…
最愛のあの人に会うため…
この悪夢の修学旅行の数日前、私達は躰を重ねた。
そして後始末を終えたあと、私達はベッドの中で誓い合った。
「和雄…」
「なんだ、?」
「私達、ずっと一緒だよね?」
「あぁ…」
「何があっても、ずっと一緒だよね?」
「あぁ…」
「ありがと、和雄…」
だから、私達は何があっても一緒なの、絶対に…。
『はーい。これで残り四人になりましたー』
坂持の放送なんて、どうでもよかった。
一刻も早く、私の最愛のあの人に、会いたかった。
あの人が、ゲームにのったことは、だいぶ前から知っていた。
もし、死んじゃっても…あの人になら、殺されてもよかった。そして…
「和雄!!」
私の最愛の人ーー桐山和雄が、銃を構えて立っていた。
桐山は、の声に一瞬気を取られてしまった。
今、死闘を繰り広げている仲、が現れたのは、大きな誤算だった。
でも、仕方がなかった。
このゲームの中で、一番会いたくて、一番守りたかった、その人が目の前に現れたんだから。
「和雄!!!」
は気付いていなかった。
木の茂みに隠れて、丁度桐山の目の前に立っているーー川田達は見えなかった。
パーン
乾いた音が聞こえた。
その音を聞いた瞬間、は走り出した。
「和雄〜!!!」
その声を聞いて、川田達が驚いたようにこっちを振り返った。
「?!」
「…サン?!」
「…」
桐山が崩れ落ちた。
どこを撃たれたかは遠くからだったので分からなかったが、
桐山が狙われたことは間違いなかった。
「かず…お…???」
「…」
桐山はまだ生きていた。殆ど、虫の息だったが。
でも、まだ生きていた。
「何…で?」
「???」
「何で…そんな!!!」
「聞いてくれるかな?」
苦しいはずなのに、桐山はいつものように淡々と云った。
だが、いつもの冷たい瞳が、ほんの少しだけ優しさの色を帯びているように思えた。
「俺は、コインでこのゲームにのることを決めた」
「え?」
「だから、全員殺すつもりだった…」
変かもしれないが、私は不思議と何とも思わなかった。
和雄は、そんな人だったから。
「それで、お前も殺すつもりだった」
「???!」
これには、正直ショックだった。
私は他の人とあまり変わらない、と云われているようで。
「でも、殺す事なんて、できなかった」
「…え?」
意味が分からなかった。
何を云ってるのか、全く理解できなかった。
「何故か分からないが、いつもお前のことばかり考えていた。
坂持の放送でお前の名前が呼ばれないと、心からホッとした。
一秒でも早く、お前の姿を確認したかった、お前の傍にいたいと思った。
お前を守りたいと思った、お前が死ぬことなんか考えられなかった…。
この気持ちを、何という?」
の目から涙がボロボロとこぼれた。
『この気持ちを、何という?』
「……ともかく、お前だけは守ることができて、よかった」
もう、頭がおかしくなりそうだった。
和雄は、私と同じことを考えていてくれた。
私のために、命を捨ててくれた。
嬉しかった。
哀しかった。
悔しかった。
「もうすぐ死ぬというのに、悪い気がしない…
お前を守りきれて、とっても心が晴れやかだ。
これが、嬉しいという感情なのだろうか?」
私は声がでなかった。
もうすぐ愛しの和雄が死ぬというのに、嬉しかった。
自覚はしていないが、和雄は私を愛してくれていることが分かって、
とっても嬉しかった。
「ゴホッ!!!」
「和雄!!!」
桐山が血を吐いた。
確実に死が迫っている。
だんだんと躰の熱が下がりはじめた桐山を、は強く抱き締めた。
「お前のおかげで、こういう感情を知ることができた。ありがとう…」
は桐山を抱き締めた。
桐山は、もうピクリともしなくなった。
死んでいた。もう、死んでいた。
動脈に手をあてた、脈をうってなかった。
心臓に手をあてた、鼓動がなかった。
口に手を近づけた、息をしていなかった。
桐山のーー桐山の顔は綺麗なままなのにーーもう死んでいた。
「………」
は声がでなかった。
つい何日か前まで普通に話していた人が、目の前で…??!
「………」
ただ、ガタガタと震えていた。
大切なーー何にも変えられないくらい大切な人がーー。
「…サン?」
七原が、話しかける。
ふいに、が口を開いた。
「ーーして」
「え?」
「どうして殺したのよ!!!」
の顔には、大事なものを失ってしまった哀しみと、それを殺した怒りと…
いろんなもので歪んで見えた。
「私の…一番大切だった人を!!!」
涙がボロボロとこぼれていた。
血の気が引いて真っ青になりかけていた。
こんなは見たことがないくらいに、怒り、悲しんでいた。
「か、和雄、を…」
は顔を抑えてわんわん泣きはじめた。
もう、何がなんだか分からなかった。
典子の気持ちは分かる。
私だって、典子の立場だったらそうしていたかもしれない。
でも…和雄は死んだのだ。
典子のせいで、死んだのだ。
だからといって、典子を憎もうとも思わなかった。
「ゴメン…」
典子が謝る。
心では許していたけどーーやはり、表面上では許すことはできなかった。
「うっ…」
急に吐き気がきた。
私は手を口に押さえて、しゃがみこんだ。
「?! どうしたの、??!」
そして意識が遠のき、私は地面へと崩れ落ちた…
今私は、和雄の墓参りに来ている。
あの後どうなったかというと、川田のおかげで脱出することができ、
秋也と典子は国外逃亡した。
私は別の戸籍を作り、今に至る。
そして、あの吐き気だが…
どうやら、妊娠していたらしい。
そういえば、脱出してすぐ、私は七原君に告白された。
『ずっと好きだった、一緒に来てほしい』、と(典子の視線が痛かった)。
でも、私はやめておいた。
あの時、和雄が言ってくれた言葉を信じて…この子と一緒に生きていく。
そう、決めておいたから。
私のために命を捧げてくれた、和雄へのせめてもの報いと思ったから。
私、和雄が生きていけなかった分、いっぱい生きるよ。
和雄、愛してるから。
和雄、世界で一番愛してるから。
和雄、私、あなたの分も生きていくから。
和雄、この子と一緒に、生きていくから。
和雄、だから、そっちでも、幸せに暮らしてね。
和雄、私達を温かく見守っててね。
和雄、世界で一番愛してるよ。
〜完〜
桜桃さま、ありがとうございます。
私の一方的な妄想満載の設定(プログラム前に2人は結ばれていて、桐山が死んだ後
妊娠判明(汗)という)を快く引き受けてくださり、こんな素敵な夢小説を頂きました。
桜桃さまには、よく私の小説の感想もくださり本当にお世話になっています。
どうかこれからもよろしくお願いします。