愛って何だろう?
恋って何だろう?
そんなもの中学生に答えが出せるわけがない
ただ一緒にいたいだけ――


恋人達の風景


城岩中学三年B組。ただいま青春まっさかり。
おいおい、世間じゃ中学三年生なんて受験だろ?
恋愛ゴッコなんてやってる暇があるのか?
世間の大人たちはきっとそういうだろう。
でも、いいじゃない。自分の人生なんだし。
自分の自由を謳歌するのを決めるのも自分。
そして後悔するのも自分。
でも……後悔しない人生を歩みたい。


このクラスは恋愛話にネタがつきない。
いつもイチャイチャしている山本和彦と小川さくら。
七原をめぐって恋愛話に花を咲かせる女生徒の群れ。
新井田がまた貴子にちょっかいだして撃沈したとか。
三村の取り巻きが増えたとか。
本当に大人顔負け。まさに一昔前のトレンディドラマである。
カップルも何組かいる。
前述の山本・さくら以外では倉元洋二と矢作好美。
杉村と貴子もクラスの大半の連中に付き合っていると思われている。









倉元と好美は本当に愛し合っているのだろうか?
とりあえず好美は本気だ。だが好美は知らなかった、倉元と出会った日何があったのかを。
倉元は、あの日女にふられていた。
年上の女で腰まである金髪に近いストレートヘア
耳に四つもピアスをつけ、付け眉毛に厚い化粧。
当然服も露出度が高く。高いヒールを履いていた。
倉元の近所に高校生の知り合いがいて、「男なら誰でもいいって奴だから」と紹介してくれた。
で、ベッドインだ。
倉元は初めてだった。
緊張してぎこちなかったが自分的には満足……が!


「下手くそ!!」


最悪だった――。
男としてのプライドなんて欠片も残らない。
その日、一人寂しく映画館でぼーと映画を見ていたときだ。
好美と目が合った。
好美のことは知っている。金で父親みたいに年がはなれているおっさんにもやらせてるって女だ。
そんな女なのにちょっと優しくしてやったらコロッとなびいた。
あの女には『最低、テクなし』といわれた行為も喜んで相手してくれる。
いいリハビリ相手が見つかった……と、倉元は思った。
まあ、オレなんかを好きなんていってくれるのは嬉しいけど。
でも、こういう女だからいいよな?本気でなくても。
まあ……気持ちは少しは嬉しい。多少は。


しかし倉元は自分がとんでもない過ちをしたことに気付いた。
しばらくして自分もそろそろ彼女がほしいな、と思っていた頃だった。
メールが届いた。
「好美からじゃないか。えーと……」
携帯画面にはこう表示されていた。
『洋ちゃん。あたし、洋ちゃんにふさわしい女になるからね』
ひく……っ。顔が引き攣った。
自分は単純にセックスフレンドと思っていた。
いい友達でいような、と思っていたのに。
(セックスフレンドにいいも悪いもないけれど)
愕然としながら倉元は思った。
(やっぱりオレたち……付き合ってたのか?)
ヤバイ……本気になる前にきっぱり断って……と、思い倉元は気付いた。
好美は相馬グループのメンバー……もし下手なことをしたら……。


「あんた……あたしの奴隷を弄ぶなんていい度胸してるじゃないの」
「ひ、ひぃぃl-!!許してください、相馬さん!!!!!!」
「許すも許さないもないわ。昔から言うじゃない。地獄の沙汰もなんとやらってね……。
取り合えず30万でいいわ。今すぐ用意しなさいよ」
「そ、そんな大金!!」
「嫌だっていうの?じゃあ、しょうがないわね。あたしのためなら何でもするっていう男達にあんたを引き渡して……」
「そ、それだけはっ!!それだけは勘弁してくださいぃぃーー!!!」



と、なるに決まっている。
仕方がない……卒業するまでの辛抱だ。
倉元はそう思った。









真の愛情は存在しないのか?
今時の中学生はみんなああなのだろうか?
と、二人の付き合いを知ったなら大人はそう思うだろう。
でも中学生が大人のマネして恋愛ゴッコのにめり込もうものなら、下手したら大人より凄い。
例えば山本和彦と小川さくら。
とても仲がいい。いつも一緒だ。
この二人を見ていると恋人も悪くない、そう思わせる。
今時珍しいくらいの清純カップル……と、思いきや。


「ねえ聞いた?小川さんの娘さん。びっくりしたわよね」
それは、さくらの近所の暇をもてあましている主婦の集団だった。
集まると大抵くだらない世間話に花を咲かせるのが常。
「ええ、あんな大人しそうな顔して、ひとは見かけによらないわよね」
「私も見たわ。あの様子だと一度や二度じゃないわよね」
「小川さんもご主人があんなことになって奥さん仕事でほとんど家にいないでしょ?
やっぱり片親はダメよね。奥さんもお気の毒に、自分の留守を狙って娘が男を家に連れ込……」
「あ、あの……」
その声におばさん連中は気まずそうに振り向いた。
「……あの……うちの娘が何か?」
小川家の憐れな未亡人が立っているではないか。
おばさん連中は「すみません、用がありますから」と蜘蛛の子散らすように去ってゆく。


その夜、母は思い切って切り出した。
「さくら」
「何?」
「あのね……ちょっと噂聞いたんだけど」
「噂って?」
「……その、お母さんいつも家にいないでしょ?
女の子が一人きりなのは危険だし……その……」
言えない……『あなた、まさかお母さんに言えない様なことしてないわよね』と。
「その……お母さん、今の仕事やめて、もっと家にいられる仕事探そうかな……って」
「大丈夫よ。心配しないで」
「……そう?」
「うん、あ、宿題あるから」
二階に駆け上がる娘の背中を見て思った。
自分は娘を信じているのだろうか?
ただ、『うちの娘に限って人様に悪し様に言われるようなことをするわけない』なんて神話を信じたいだけなのだろうか?


「もしもし和くん」
『さくら、今何してる?』
「和くんのこと考えていたの」
『オレも同じこと考えていた。今度の日曜、家にいってもいいかな?』
「ええ。お母さん仕事でいないし。久しぶりに……」
慎ましそうな山本とさくらでさえ親に言えない様な交際をしているのだ。
では、このクラスには健全な純愛を貫いている人間はいないのか?
いや、それは違う……一人いた。
完全なプラトニックの両想いを貫いている女が。









「きゃぁぁぁーー!!!順矢ぁぁーー!!!!!」
「ありがとう!!今日も僕の銀河マグナム聞いてくれるかい?」
「もちろんよ!!!」
「愛してるよ。アイラビューーッッ!!!」
「私も愛してるわぁぁーー!!じゅんやぁぁーーー!!!!!」
南佳織……今日も愛しい恋人に会いにコンサート会場。
そこは二人のデートの場。
いつも順矢は『愛している』と叫んでくれる。
いつも佳織は『私も愛してる』と応えている。
そう……愛は常に精神的な高さが全てをものがったっているのだから……。
この愛が消える日は決して来ない。
どんな時でも私は順矢を愛している。
どんな時でも……。


容赦なく。ジュンヤ。殺される!撃つ。
ジュンヤ!ニューアルバム!撃つ!



佳織の愛は例え狂っても消えなかった――。
最後の最後まで清らかな愛だった――。


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