あたしの名前は千草彩子、22歳。
大学卒業を目前にした女子大生。
あたしは今海の上にいます。沖木島に行くために。
あたしのお姉ちゃんは、あの島で死にました。
お姉ちゃんが死んだ場所に花束を手向けたい。
お姉ちゃんが大好きだった、この白百合の花を――。


Meet again



「ここが沖木島か……」
この島でお姉ちゃんと弘樹おにいちゃん死んだんだ―。
もう何年になるだろう。
生きていれば二人はもう24歳。
「ああ、お嬢さん」
船頭さんが曇った表情でタバコを吸いながら言った。
「日が沈まないうちに戻ってきたほうがいいよ」
その言葉……なんとなく引っかかるような言い方だったけど、あたしは取り合えず「はい、では帰りもよろしくお願いします」とだけ言って歩き出した。

「大丈夫かな、あの娘。何しろ、この島は、あの事件以来怪奇現象続発で住民が全員逃げ出したいわくつきの島だからな」



















「お姉ちゃんが死んだ場所どこだろう?」
あたしは地図を見ながら一人で歩いていた。
取り合えず展望台から、この島を一望してみよう。そう思った。


ぱららら―。


「―え?」
何だろう、今の音……あ、女の子?
展望台に女の子が二人いるのが見えた。遠くからでもわかる、倒れていく様子が。
「大変」
貧血でも起こしたのかしら?とにかく、あたしは走っていた。
「え?」
崖に誰かいる。男の子と女の子……飛び降りてる!!
あたしは急いで崖に走った。でも……「いない」死体もない。
錯覚だったのかしら……?
しかも展望台にも、女の子たちは姿も痕跡すらも無かった。
そう言えば、卒業論文で何日も徹夜してるし。きっと疲れているんだ……。
あたしは次に分校に行って見た。



















え―?

窓から男の子と女子がこっちを見てる。
女の子の方……額に何か刺さってる。
それに校庭に体の大きい男の子と、女の子が倒れているじゃない。
あたしは思わず目を閉じた。そして、もう一度見たら―。
何も無い……やっぱり疲れてるんだ。
あたしは、また歩き出した。


『洋ちゃん、どうして!』
『うるせぇ!』



え―?
誰も居ないのに……やだ、幻聴まで聞こえてきた。
あたしは、また歩き出した。
「灯台……気分転換に高い所に上って美味しい空気吸ってみようかしら」
だいぶ、陽が落ちてきたし、急がないとね。
あたしは灯台の中に入った。そしてドアノブに手をかけた。


え―?
何?この血なまぐさい臭い……。
ギィー……そんな音を立てながらひとりでに開くドア―。


「キャァァァー!!!!!」


死体!!それも一人や二人じゃない!!
あたしは逃げ出していた。
この島、普通じゃない!!!!!
あたしは走っていた。
もう、すっかり暗くなって足元もよく見えなかったけど、それ以上に怖かった。


ぱららら―。


え?また、あの音―。
「……ひ」
暗闇の海岸……男の子……全身に穴の開いた……。
ゆっくりと波打ち際に倒れている。
「きゃぁぁーー!!!」
それだけじゃない咽を切り裂かれた死体がいくつも転がっている。
「いやぁぁーー!!!!!」


あたしは逃げた、ただ逃げた!!


『ねえ、アタシの頭と身体……離れちゃったの』


これは夢よ!


『鳥が……鳥が身体を……』
『なんでバットがオレを襲うんだよぉ



悪い夢よ!!


『なんでナタがオレの顔にぃ……』
『腕が……僕の腕がなくなってるぅっ!』



全部、全部、夢なのよっっ!!!



















「……はぁ、はぁ」
どのくらい走っただろう?
「ここ、どこ?」
あれ?地面がぬかるんでる‥雨なんて降ってないのに‥。
「っっ!!!!!!!!!!」
誰かが足首掴んでるっっ!!!!!
「……い、いや」
セーラー服着たショートへアの女の子があたしの足を掴んでいた。

『……寂しいの』

「……い、いや……離して」
背筋が凍りつきそうになった。
今度は後ろから腕を捕まれている。
あたしはゆっくり後ろを振り向いた。
綺麗な女の子がいた。でも、でも……。

『あなたも、こっちにいらっしゃいよ』

どうして顔の半分が崩れたストロベリーパイみたいになってるの?!
「いやぁぁぁ!!離してっっ!!!!!」


助けて助けて、誰か助けてっっ!!!!!


『やめるんだ二人とも!!』


え?この声―。


『早く行け。ここは、おまえのいる世界じゃない』


この声……この声は―。


『早く行けっ!!』



















「……なんだったんだろう今の」
突然の金縛りが解け、夢中で走ってきたけど、あの声は。
すごく懐かしい声だった。あれは―。
「あれ?」
「……う、うぅ……酷過ぎるよぉ」
学生服の男の子がうずくまって泣いていた。
「どうしたの?」
「オレ……オレ好きな女がいるんだ……それなのに、その女オレのこと嫌いなんだよ」
「そう。でも泣かなくても……」
「だって、その女。オレをバカ呼ばわりするし蹴りまくるし挙句の果てに……」
少年が立ち上がりクルッと振り向いた。


『こんな酷い殺し方したんだぜ』


少年は両目が潰され、そこから血が滴り落ちていた―。
「きゃぁぁぁーー!!!!!!!!」
あたしはすぐに逃げようとした。
でも、つまずいて転んで……あ、近づいてくる!!
身体が、身体が動かないっ!!
怖い、怖い、誰か助けてっ!!


『オレと一緒にいようぜ。なあいいだろ?』
「……あ、こ、来ないで……」
少年があたしの足首を掴んだ。
『仲良くしよう。オレ悪くないと思うぜ』


「いやぁ!離してっっ!!!」


引きずられる。闇、闇に飲み込まれるっ!!
もうダメだ。あたしはギュッと目を瞑った。


『あんた、まだ懲りてないのね』


この声……は。


『ひっ、ゆ、許し‥』
『許すわけ無いでしょうっ!!』
『ぎゃぁぁぁー-!!!!!』



何が起きたのかわからない。
ただ、あたしは助かった。そう感じた。
そして、ゆっくりと目を開けた。


眩しい―。


光が辺り一面を覆っている。
目を開けていられないくらいに―。
その光の中に……女のひとがいた。
背が高くて髪が長くてセーラー服を着た女のひと。
眩しすぎて顔は見えなかったけど……。
その隣には、やっぱり学生服を着た背の高い男の人がいた。
やっぱり眩しくて顔はわからなかったけど。
だけど……。
二人とも笑っている。
根拠はないけど、そう確信できた。


バカね。さあ、さっさと元の世界に帰りなさい―


「あ、あなたは……」


お父さんとお母さんのこと頼んだわよ―


「ま、待って……」


あえて嬉しかったわ。さよなら彩子―。


「お、お姉ちゃ―」



















「彩子、彩子っ!!」
次にあたしが目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
「……お父さん……お母さん」
「良かった。あの島に行った人間が怪死したり発狂したりって怪奇現象が続出しているらしいの。
慌てて後を追いかけていったら、あなた森の中で気を失って倒れているんですもの」
夢……ううん、あれは夢なんかじゃなかった。
「お父さん、お母さん。あたし会えたんだよ」
「会えたって……誰に」


あの二人だった―。


「二人が助けてくれたの」


よかった、あっちの世界でも一緒だったんだね。


「あたしのこと守ってくれたんだよ
お姉ちゃんと
弘樹おにいちゃんが―」


END


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