あたしの名前は千草彩子。
お父さんとお母さんとお姉ちゃんの三人家族。
お父さんはとってもハンサム。
お母さんはとっても優しい。
そしてお姉ちゃんは、すごくカッコイイ自慢のお姉ちゃんです。
これがあたしの家族達。
あ、それに家族同然のひとがもう一人。
それはお隣の弘樹おにいちゃんです。
あたしのこと本当の妹みたいに可愛がってくれるひと。
一見無愛想だけど本当はすごく優しいの。
お姉ちゃんと結婚してくれたら本当のお兄ちゃんになるのになぁ。
でも二人にそういう色気じみた話はまるでなし。
幼馴染って、その先には進まないのかな?




スィート・チョコレート




「お姉ちゃん、何してるの?」
お姉ちゃんがお菓子作ってる。
お姉ちゃんは何でも出来るからお菓子作りくらい簡単だけど、普段はそんなこと全然しない。
あたしわかってるよ。今日はバレンタインデーだもんね。
弘樹おにいちゃんにあげるんでしょ。
毎年のことだもん。
「ねえ、お姉ちゃん」
「何よ」
「お姉ちゃん、本当は弘樹おにちゃんのこと好きなんでしょ?」
「何言ってるのよ。あいつは単なる幼馴染」
「だって毎年手作りチョコ上げてるじゃない」
「バカね。あたしがやらなかったら、あいつ誰からももらえないのよ。
幼馴染としてのお情けよ。お、な、さ、け。わかった?」
「本当におにちゃんのこと好きじゃないの?」
「あんたしつこいわね。あたしが好きなのは部活の先輩よ」
「じゃあ、その先輩にチョコあげるの?」
「あげるわけないでしょ。先輩には彼女がいるの。
あたしなんかお呼びじゃないのよ。
あ……と、いけないいけないバニラエッセンス……と。
ほら、あたしは忙しいの。向こうに行ってなさい」




……お姉ちゃん、弘樹おにちゃんのこと好きじゃないのかな?
あたし、子供の頃からずっと見てきたけどお似合いだと思うよ。
でも、すごく不思議なの。
お姉ちゃん、部活の先輩が好きって言ってる割には、いつもおにちゃんの事しか言わない。




『弘樹の奴、三村に騙されて日直代わりにやってたのよ。
まったく、あいつのお人好しにはあきれてものも言えないわ』

でもお姉ちゃん。おにいちゃんに付き合って日直の仕事手伝ってきたんでしょ。
どうして?

『弘樹ったら自分も拳法で夜遅いのに、わざわざ学校まで迎えに来なくてもいいのよ。
何回言ったらわかるのかしら』

でもお姉ちゃん……怒ってるけど嬉しそうだよ。
なんでかな?

『弘樹って本当にセンスないんだから。
こんな年齢になって、こんな子供っぽい誕生日プレゼント喜ぶと思っているのかしら?』

でもお姉ちゃん、その時プレゼントされたぬいぐるみ。今でも大事にしてるじゃない。
あたし、よくわかんないな。



















「全く弘樹も、もう中学生なんだから、たまにはあたし以外の女の子からチョコくらいもらうくらいの甲斐性が欲しいわよね」
「お姉ちゃん、おにいちゃんが他の女のひとにチョコもらったら嬉しいの?」
「もちろんよ。幼馴染として心底心配してるんだから。
あいつ、見てくれも中身も悪くないけど。はっきり言って押し弱いし……。
こんなことじゃ将来結婚も出来ないわ。
幼馴染として心配なの。バレンタインデーくらい安心させてほしいものだわ」
「……あ、あれ」
「どうしたの?」
あたしは思わず指差した。その方向をお姉ちゃんも視線を向ける。




「あ、あの……杉村くん……これ」
「……これって」
「あの……チョコなの。一生懸命作ったから……だから食べてね」
知らない女のひとだった。
おにいちゃん、お姉ちゃん以外のひとからもチョコ貰えたんだ。




「お姉ちゃん良かったね。お姉ちゃん心配してたけど、ちゃんと貰ってるよ」
「…………」
「お姉ちゃん?」
「……何よ」
「……え?何が」
「何よっ!!弘樹の奴、ちょっとチョコ貰ったくらいでデレデレしてっ!!」
「え?だってお姉ちゃん……さっき言ったことは?」
「あたしはあいつの態度が気に入らないのよ!!
第一、あの子、隣のクラスで弘樹とは一度も会話もしたことないような相手なのよっ!!
チョコくれるなら誰でもいいってわけ!?
あんな軽い男だとは知らなかったわ。もう知らないわよっ!!」




お姉ちゃん……怒って行っちゃった。
あれ?でもお姉ちゃん、おにいちゃんがチョコ貰った嬉しいって言ってたのに。
自分以外の女から貰えないのは心配だって言ってたのに。
なんで怒ってるの?




「あ、彩子」
「おにいちゃん」
「アレ……貴子は?」
「おにいちゃんがチョコもらうの見て怒って行っちゃったよ」
「何ぃ!!」
おにいちゃん、慌てて走っていった。
遠くから見てもわかるよ。
怒っておにいちゃんをみようともしないお姉ちゃん。
必死になって謝っているおにいちゃん。
あ、おにいちゃんがホッとしてる。許して貰えたんだ。
あ、お姉ちゃん。手作りのチョコ渡してる。
二人とも笑ってる。
ねえ、これでも二人ってただの幼馴染なの?
うーん……なんか、すごく変。




「ウフフ……そうね。不思議ね。
でも、これが微妙な関係って奴なのよ。
つ・ま・り……友達以上恋人未満って奴ね」
「え?」




「彩子、どうしたの?」
ボケッとしているあたしを心配して二人とも駆け寄ってきた。
「……なんでもない。ただ」




「……知らないひとが横切っていっただけ。
……リーゼントのごつそうな男のひとが……」


END


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