現実と言う名の悪夢の最後に
ひとは何を見るのだろうか?
LAST
―桐山編―
『娘には似ていないな、父親似か……化け物め』
桐山はハッと顔を上げた。
超人的な体力と能力を持つ桐山といえど、この二日間の強行軍はきつい。
ほんのひととき夢をみたようだ・・・。
『せめて中身が娘に似ていることを祈ろう』
見上げると月が頭上にあった。
あの日も、こんな風に月が出ていた。
『娘に似た子ならまともな人間に育つだろう』
「俺はゲームに乗った」
『父親に性格まで似ていれば、おまえは人間の形をしただけのおぞましい怪物だ』
「俺は誰に似たのかな」
桐山は考えるのをやめた
そして再び歩き出した
殺戮と言う名の運命を具現化するために――。
―貴子&杉村編―
「貴子、まってよ?」
「遅い、あたし、もう行くから」
「だって貴子早過ぎるよ……俺、もう走れない」
「もう、しょうがないな。いつかあたしに追いついてね」
「うん、必ず追いつく」
幼い日、俺は約束した。
なのに――
「貴子、待ってくれ貴子!」
貴子の背中が遠のいていった。
「貴子、俺だ、弘樹だ!!」
駄目だ。貴子が暗闇の中に消えていく――。
「貴子!!!!!」
『必ずあたしをつかまえてね』
『うん、俺早くなるよ』
――俺、約束したのに。
「……貴子」
次に会ったときはもう手遅れだった。
俺の腕の中で貴子は冷たくなっていった。
ごめんな。俺、約束したのに
必ず、おまえに追いつけるようになるって……。
「あんたいい男になったよ」
「おまえこそ世界一いい女だ」
そして貴子は逝った――。
寂しくないよ貴子
俺ももうすぐ後を追う
今度こそ、おまえに追いついてみせるから
―三村編―
思った――すまない豊
思った――ざまあないや叔父さん
思った――郁美、おまえは
「お父さん、お母さん、どうしたの?」
両親の様子が変だ。
昨日、郁美にとってたった一人の兄・信史が修学旅行に行った直後から
いつもは顔合わせてもろくに会話もせずに距離をおいてるのに。
それなのに、ずっとリビングで向かい合って座っている。
仲直りしたわけではなさそう。
2人ともただただ項垂れている。
「ねえ、お父さん、お母さん」
まるで、あたしの声が聞えないみたい。
本当に変。2人とも暗すぎるよ
「今頃、お兄ちゃん、ホテルで枕投げやってるのかな」
「……さい」
「何、お父さん?」
「おまえは部屋に戻ってなさい!」
変なの、怒鳴らなくてもいいのに。
本当に変、一体何があったんだろう?
『郁美』
――え?
何、今の空耳?
『おまえは幸せな恋をして幸せな結婚をしろ』
お兄ちゃん?
『兄ちゃんはもうできそうもない。兄ちゃんは――』
声が途絶えた。
「……何だったんだろう?」
無意識に壁に視線を投げた。
そこに写っていたのは、兄と2人でとった写真。
『サヨナラ イクミ ゲンキデナ』
―月岡編―
あーあ、アタシったら本当にアンラッキー
桐山君を見くびりすぎてたわ
まさかアタシの存在に気付いてたなんて
策士策に溺れるなんて馬鹿ねって思ってたけど
自分がそうなるとは思わなかったわよ
きっと世の中の人はアタシに同情してるわよね
だって美しいアタシがはかなく散ったのよ
美人薄命よ、美人薄命!!
でもね、アタシ不幸じゃないわ
だって……うふふ、もうすぐ彼がくるんだもん!!
桐山君、大手柄よ!!
待ってるわよ三村君、花束たくさん用意してるわね
―光子編―
アタシ ウバウガワニ マワロウトシタダケヨ
誰もあたしから奪っていった。
誰もあたしに与えてくれなかった。
誰も誰も誰も!!
だったら――。
今度は奪われる前に、こっちが奪ってやるわ
「相馬さんは悪い子じゃないよ」
馬鹿ね、滝口君って
「もし悪いひとでも、それは理由があると思うんだ」
甘すぎるわよ、あなたって
「だから相馬さんのせいじゃない」
本当に世間知らずね。でも――。
最後に与えてくれてありがとう。
だから、お礼に、あなたを楽に死なせてあげるわ――。
―川田編―
「川田、死ぬなよ。川田!!」
七原……おまえ、結局最後まで成長してくれなかったな。
「俺、おまえの意思継ぐよ。俺が政府潰してやる!!」
やめとけ。死ぬぞ。
「……なんで、おまえみたいないい奴が」
悪いな七原、俺はいい奴なんかじゃない
『夢?』
『ああ、よく夢を見る。その中では俺は普通の中学生だった。
慶子がいて親父がいてクラスメイトたちがいた。
ある日、その全てが真っ赤になって……やがて暗闇に消えた。
怖くて怖くて、必死に目を覚ます。
それでも消えない……やっと正気に戻れば、もう夜明けだ』
『完全にトラウマによる幻覚だな』
『もとに戻る方法は?』
『……トラウマは恐怖の元となるものを自力で乗り越えるのが一番だ』
『……俺にもう一度プログラムに参加しろっていうのかよ』
『無理だろう。だから、時間をかけて治療するしかない』
――そんなのはごめんだ。
――この苦痛とこの先何年も何十年も
――下手したら一生付き合うなんて
――だったらいっそプログラムに行った方がマシだ
「川田、俺……俺……」
七原、最後までおまえに隠していたことがある
「……すまんな七原」
「川田?」
俺は知っていた……だから、ここに転校したんだ
「川田、何いって……」
俺は全て知っていた。
俺は聖人なんかじゃない。
自分の恐怖を克服するためにおまえたちを利用したんだ。
だが――これでやっと悪夢は見なくてすみそうだ
~END~
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