まるでクラスメイトが変わるように友達も変わって言った。
中学生の頃のアルバム。
七原や三村と映した写真が何枚かある。
でも別の高校に進みいつしか同窓会でしか会わなくなっていた。
友達っていうのは、別れと出会いの繰り返しなんだな。
オレのアルバムはその歴史の鏡。
出会っては別れの繰り返し。
そんな中、オレの人生で一つだけ変わらなかったことがある。
それは……写真の中で、いつも隣におまえがいたこと。
幼稚園の頃も。
小学生の頃も。
中学生の頃も。
高校生の頃も。
大学生の頃も。
そして社会に出てからも。
それだけは変わらなかった。
今ならわかる。
七原も三村もオレにとっては思春期の1ページに過ぎなかった。
でも、おまえはオレの人生の一部だったんだな
~幼馴染~
「ひーろーくん、あーそーぼ」
「うん」
「近くの空き地に行こう」
「うん」
差し出された手。いつも、その手を握っていた。
幼稚園時代のオレの思い出。
「いい!!?今度弘樹を苛めたら承知しないからね!!」
「ち、畜生ーー!!」
小学生の頃のオレ。
情けないよな。イジメに合って女に守ってもらうなんて。
でも、この時思ったんだ。
オレはこのままじゃいけない。
おまえのように強い人間になるんだ……ってな。
「オレ拳法ならうよ。オレ強い男になる」
そう思わせてくれたのはおまえだった。
「なあ、おまえ陸上部の先輩が好きなのか?」
「まあね」
なんだよ。少しはオレのこと好きだと思っていたのに。
まあ、オレも気になる女の子いるし、お互い様なのか?
「上手くいきそうなのか?」
「全然、先輩彼女いるもの」
失恋?それにしちゃあ明るいな。
「バカだなぁ。オレに言わせれば、おまえも彼女もはしかみたいなもんなんだぜ。
まあ、あれだな。その先輩って奴が卒業したら一ヶ月もしないうちに思い出になっているよ。
でも、それが中学生にありがちな青春の一ページって奴なんだ。
オレみたいに肉体関係だけの恋愛しかしらないような人間には羨ましいくらいだよ」
そう言ってくれた奴がいた。
正解だったよ。
先輩が卒業しても、あいつは全然なんとも思っていない。
もう心の中で『思い出』ってやつに代わったんだな。
オレも似たようなものだった。
その頃、好きだった女の子に惚れた相手がいるのに傷ついたりした記憶はない。
きっと誰もが経験する思春期の思い出だったんだろう。
「それにしてもわかんないな」
「何が?」
「おまえ、学校の中でも成績トップクラスだっただろ?
桐山や元渕が狙うような高校だっていけたのに。
どうして地元の高校選んだんだ?」
「あんたが行くから。そう言ったら信じる?」
オレは言葉に詰まった。あんなに驚いたのは生まれて初めてかもしれない。
「冗談よ冗談。バカね、本気にする奴がいる?」
そう言って流された後もオレは冗談で済ませられなかったんだ。
「でも、あんたとまた三年間一緒っていうの。悪くないかもね」
なぜなら、そう言って笑ったおまえの顔がすごく綺麗だったから。
おかしいな。子供の頃から見てたのに。
おまえが美人だってことはオレが一番知っていたはずなのに。
おまえが、いい女だってこと、もしかしたら初めて気付いたのかもしれない。
「ほら弘樹見て、合格よ!」
「おまえの番号もあるじゃないか」
ああ、そういえばあの時も一緒だったな。
おまえがオレのレベルに落として高校選んだ。
その時、オレは決めたんだ。
今度はオレがおまえのレベルまで上がってやろう……って。
だから三年間猛勉強した。
おまえ、頭いいだろ?
そのおまえの志望校、何度諦めかけたことか。
教師に「一つランク下げれば気楽だぞ」何度もそういわれたんだ。
でも、オレは行きたかった。
おまえと同じ大学に行きたかったんだ。
「杉村、杉村!!」
「久しぶりだな杉村!!」
「七原、三村!!本当に久しぶりだな」
何年ぶりだ?
変わってないな、おまえたち。
そう言いたいところだけど……実際変わったな、大人になった。
他のクラスメイトも……。
ああ、この時、琴弾にも再会したんだ。
もっとも挨拶しただけで会話もなかった。
ただ心の中で思った。
『そういえばオレ昔琴弾のこと好きだったんだよな』
そう懐かしく思った。再会してなかったら忘れていたような昔のことに思えた。
あの頃みたいに心がときめくことは全くなかった。
琴弾が嬉しそうに南に『あのね。師範代と上手くいきそうなのよ』と話しているのを聞いて思った。
『よかったな琴弾。上手くやれよ』
今ならわかる。七原も、三村も、琴弾も、オレの心の中では過去形になっていた。
そう……青春の思い出に変わっていたんだ。
じゃあ……現在進行形は?
中学時代、いやそのずっと前から変わっていないのは……。
「千草ぁ!!会いたかったぜ、畜生思ったとおり、いい女になったな!!」
すでに出来上がっている新井田の声が響きわかった。
クラス中の男達が一斉に一点に視線を集中させた。
そこにいた。オレのたった一つの『現在進行形』が――。
オレのたった一人の幼馴染、千草貴子が。
だが、オレは途惑っていた。
同窓会だから、オシャレしてくるのは当たり前だけど……。
オレの知っている貴子は洒落たスカートよりスポーツウェアの方が似合ってて。
そのスラリとした脚線美だって走る為にあるようなもので。
派手な格好はしてたけど、それは自己主張の為で色気とは無縁のイメージ。
それが綺麗なドレス着て、髪の毛も大人っぽくアップして……。
おまえ……口紅までしているのか?
「おい杉村、何ボーとしているんだよ」
三村がニヤニヤしながら肩に腕をおいて言って来た。
「おまえの幼馴染だろ?今さら何ボーとなることなんてあるんだ?」
ああ、そうだ。オレは一番長く貴子と一緒にいた。
いつも貴子のそばにいて、貴子のことは誰よりも知っている。
それなのに……。
貴子が女だってことを初めて知ったような気がした――。
「弘樹、どうしたの?」
「貴子……おまえカッコイイ女だと思ったけど」
「なによ」
「おまえ……世界一いい女だったんだな」
「何言ってるのよ」
三村がオレの隣で「へぇ、堅物の杉村くんも言う時は言うんだな」と笑っていた。
でも、三村の笑い声なんて聞こえなかった。
貴子が少し俯きながら言った言葉。
「……バカね。今頃気付いたの?」
その声しか聞こえなかった――。
――それから二年がたった。オレは今病院の廊下にいる。
「……参ったな」
とにかくオレは廊下を行ったり来たり……だ。
何をするわけでもない。ただ、ジッとしていられなかった。
そして、その時は来た。
「オギャーオギャー!!」
「……あ」
その時、オレは何を考えていたのだろうか?
今思い出してもわからない。
ただ……ジッと扉が開くのを待った。
看護婦が扉を開ける。同時にオレは部屋の中に飛び込んでいた。
「貴子ッ!!!!!」
「弘樹」
「顔……顔を見せてくれっ」
「焦らないでよ。ほら」
貴子が抱きかかえている小さな命。
「……小さいな」
「当たり前でしょ」
「抱かせてくれ」
貴子が「そっとよ」と心配そうに渡してくれた。
すごく柔らかくて小さくて……油断したら腕から落ちてしまいそうだな。
「男の子よ」
「……男か。嬉しいよ。オレは世界一幸せ者だ」
「あら、女の子が欲しいって言ってたのはどこの誰よ?」
「そうだったか?もう100ダースの女の子だって取り替えないぞ。
もうどんなことがあっても絶対に一生お婿にはやらないからな」
「バカね」
「バカでもいいんだよ。……可愛いな、おまえにそっくりだ。
きっと、ものすごいハンサムになるぞ」
「そうね。ねえ名前どうする?」
「名前か……女の子だったら弘子にしようと思ったんだが」
「……弘子か。本当に弘樹って単純なんだから」
「男だったら名前は……――」
出会っては別れの繰り返し。
それが人生。でも一つだけ変わらなかったことがある。
それは……いつも隣におまえがいたこと。
そして、今日から新しい人生が始まる。
オレとおまえと
そしてオレ達の子供
新しい人生が――。
~END~
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