オレの名前は新井田和志。
顔良し、スタイル良し。
おまけに勉強もスポーツも結構できる。
オレみたいないい男、そうはいないだろうぉ?
そんなオレもついに中学生。
中学生になったらまずやりたいことがある。
何をだって?決まってんだろ彼女だよ彼女を作るんだよ。
なにしろイケメンなオレの彼女だからな。
絶対に学校で№1の美女をゲットしてやるぜ。
そのくらいでないとオレの容姿につりあわないしな。
早く来い来い入学式♪


新井田の悲劇


おお、いるいる。新井田は目を輝かせた。
おもったより可愛い子が一杯いるじゃないか。
ど・れ・に・し・よ・う・か・な?
小柄で可愛い女の子が歩いていた。後で知ったが金井泉だった。
「まあ悪くないがオレの彼女になれるほどじゃねえな」
背が高くてほりが深い顔立ちの女が、小柄な少女を連れて歩いてる。
後で知ったが日下友美子だった(一緒にいたのは北野雪子だ)
「まあまあだが、まだまだだな」
大人しそうな美人が歩いていた。後で知ったが小川さくらだった。
「顔はいいがスタイルがなぁ。やっぱ女は胸がないと。
それに色気がないんだよ色気が。残念だがボツだな」
と、その時だった!!
二十メートル先に、美人でスタイルもよくて色気もある女がいたのだ!!


「……ひゃ、ひゃ、百点満点んんーーっっ!!
あれこそ、オレの恋人にふさわしい女だぁぁーー!!
神はオレを見捨てなかった。あれに決めたぁぁーー!!!!!」



よーし、第一印象が肝心だぜ!!
新井田は髪の毛をセットすると、まるでパリコレの男性モデルのようにカッコつけて歩いていった。
さあ、感動の出会いだぜ。気合入れていくぞ!!


が!!


「光子ぉー、隣町のスケバン。あいつが生意気なんだよ」
なんだかツンツンした頭の女が、その美女に話しかけてきた。
「ああ、あいつ?大丈夫よ、手をうっておいたから」
「て、手をうったって?」
「ふふ。交通事故が最近多発しているらしいわよ」
「……み、光子……あ、あんた、まさか……」


新井田は、その少女の前を素通りしていった。
そして50メートルほど歩き、廊下の角を曲がった途端思った。
「……あ、あぶねぇー。危うく、とんでもない女に手を出すところだった」
と、胸を撫で下ろしていた。
「……しかし、もったいなかったのよなぁ。多分、あの女が№1だぜ。
あれと同レベルの美人なんて滅多にいな……」
と、言いかけた新井田の目の前を一人の少女が通り過ぎていった。
「いたぁぁぁーーー!!!!!」
腰まである長髪。切れ長の目に貴族的な顔立ち。
あ、あれこそ!!あれこそ、神がオレの為に用意した女だ!!!!!
新井田にとっては運命の出会いだった。
そして幸いにも、その少女とは同じクラスだった。
新井田はまたしても神に感謝した。
これは運命だ。まさしく運命なのだ、と。
その少女の名前は、千草貴子といった。









――次の日――

「ふふ、いい天気だぜ。さーて、と。どんなテクニックを使って千草をおとしてやろうかな」
新井田はご機嫌で登校した。
そして廊下を歩いていると、向こう側から貴子が歩いてきた。
この瞬間を新井田は忘れない。
なんと、すれ違った瞬間。貴子が自分の方をみてニコッと微笑んだのだ。
新井田は思った。いや!確信した。
(……千草貴子。さては、オレに惚れたな?)
こうして新井田の中学生生活は最高のスタートを切った。
どうでもいいことだが、新井田のすぐ後ろで隣のクラスの杉村弘樹が歩いていた。


「あーあ、中庭の掃除かぁ……やってられないぜ」
新井田はぶつぶつ言いながら掃除をしていた。
その時、ハッと気付き見上げるとベランダから貴子が手を振っていた。
(……千草。なんて可愛いやつ。そんなにオレのことを)
新井田は心の底からピンク色の気分にひたった。
どうでもいいことだが、新井田の三メートル背後で杉村が手を振っていた。


「……えーと、今日もオレのステディ・千草は綺麗だったぜ。
早く交際申し込んで、あいつを喜ばせてやろう。
でも、どうせならグッといかしたことをしてやりたい。
そうだ、明日は隣のクラスとサッカーの試合があるんだ。
そこでオレは千草の為にゴールを決め、そのまま告白しよう。
ちくしょう。なんで、オレってこんなにいい男なのかなぁ?」
新井田はニヤつきながら日記にシャーペンを滑らせた。
ああ、明日が楽しみだぜ。









「ふふふ。ついに、この時がきたぜ。見てろよ千草、おまえの為にオレはかぁぁつっっ!!!!!」
やってやる。やってなるぜ、千草!!
おまえは最高に幸せな女になるんだ。
このハンサムボーイ和志様の恋人になるんだぜ?
かっこよくゴールを決めたオレは、勝利の瞬間、まっすぐおまえの元に駆け寄る。
そして公衆の面前で言うんだ。
『待たせたな。これからは、おまえはオレの大事な女だ』……ってな。
ああ、今から嬉し涙で濡れるおまえが目に浮ぶぜ!!
待っててくれ千草。オレたちの輝かしい未来の為にオレはやるぜ!!
ピー……キックオフだ!!


新井田は頑張った。スケベパワー全開の新井田は結構強かったのだ。
そして一点を入れた。自分的にはワールドカップで優勝したような気分。
しかし後半10分。その気分がぶち壊された。
なんと相手のクラスの杉村弘樹という男が一点入れてしまったのだ!!
そして試合はなんとロスタイム突入。
貴子の前で、あくまでも余裕なくらいカッコイイ男を演じようと思っていた新井田の計画は杉村弘樹という謎の人物に壊されかけたのだ。
(くそ!!このままじゃあ、オレの計画が!!)
新井田はがむしゃらにボールを奪うとゴール目掛けて猛ダッシュした。
その新井田の前に、またしても謎の人物・杉村弘樹が立ちはだかったのだ。


「また、てめえか!!うざいんだよ、どけ!!!」
新井田は強引に抜こうとした。しかし、以外にも杉村は運動能力が高く、なかなか抜かせない。
「杉村ぁ!!てめえ、どれだけオレの邪魔したら気が済むんだ!!
どけ!!どけっていってんだろぉ?!!」
「何言ってるんだ。これは試合だぞ」
くそ、この野郎!!こんな無様な姿が千草に見せられねえ!!
新井田は思わず、貴子を見た。
「バカっ!!そんな男相手に何手間取っているのよっ!!
そんな奴さっさと片付けてゴールしなさいよっ!!!」
貴子が叫んでいる。必死になって応援していたのだ。
「聞いたか杉村!!オレには勝利の女神がついてるんだぜ!!」
「はぁ?」
「かわいそうな杉村くん、だがなそれが現実って奴なんだ、ぬかせてもらうぜ!!」
新井田は一気に抜こうとした。
「くっ、させるかぁ!!」
しかし、杉村が足を出してきた。と、なんと二人の足が絡み合った。
「え?」
「うわぁ!」
きりもみ状態になりながら二人はその場に倒れこんだ。



「……い、痛え」
「……つぅ」
二人は怪我をしてしまった。
新井田は鼻血。杉村は額に血が滲んでいる。
「おい杉村ぁぁ!!てめえ、何しやがるんだっっ!!!」
「すまん新井田」
「謝って済む事じゃねえだろうっ!!」
くそぉ!!こんな姿、愛しの千草に見られるなんて。
新井田は振り返った。
「大丈夫なのっ!!?」
なんと、貴子が応援席から運動場に飛び込んで必死になって走ってくるではないか。
「……ち、千草……オレの為に」
そんなにオレの事を!!感動したぜ、千草ぁぁぁーーー!!!!!


「千草っ!!オレは大丈夫だ、だから安心し……」
と、新井田が言いかけたときだった。
グシャ!!そんな音がして視界が真っ暗になった。
何かが自分の顔を踏みつけていったのだ。
――何?今何が起きたの?
「弘樹、大丈夫!!?」
そんな声が背後から聞こえた。
驚いて振り向くと貴子がタオルで杉村の額を抑えていた。
「あんたって本当にバカね。心配かけさせないでよ」
「すまない貴子」


「え?」


――何?今、なんて言ったの?
新井田の疑問に答えは出なかった。
ただ、目の前で貴子が心配そうに杉村の額の血を拭っている。
「大丈夫?」
「ああ大丈夫だ」
「黴菌が入ったらいけないから保健室に行って手当てするわよ」
「いいよ、こんな傷」
「ばかね。甘く見ると痛い目にあうわよ。それに足首だってひねったんでしょ?
ほら、肩かしてあげるから。歩ける?」
「ああ、悪いな貴子」


「ええっっ!!?」


呆然とする新井田の前で貴子は杉村を抱きかかえて素通りしてしまった。
そして、新井田の視界から消えてしまった。
その後、二人がこんな会話をしていたことを新井田は知らない。
「そうだ、おまえ。さっき慌てて駆け寄ったとき、新井田を踏んづけてたぞ」
「そうだった?気付かなかったわ」
「あいつ、いやにオレにつっかかってきたんだ。
よくわからないけど、いやに燃えてたんだよ」
「どうせ、スケベなことでも考えてたんでしょ。どう見ても軽薄そうな男だもの。
どうでもいいけど、あたしはああいう男は大嫌いよ」









……ポツーン……

あれから数時間後。カラスもカアカア下校の時間。
されど新井田は放心状態で運動場の真ん中に座っていた。
呆然としていた。
呆然としながらも考えていた。
そういえば貴子が自分に笑顔を向けるとき、いつも背後に杉村がいたような気がした。
そして出た結論。


「オレはあいつらに遊ばれたのかッッ!!!!!?」


ちっくしょぉぉぉーーー!!!!!
ゆるせねぇ!!男の純情、踏みにじりやがって!!!
いつかきっと襲ってやるからなぁ!!覚悟しろ千草ぁぁ!!
そして杉村、夜道には気をつけろよっ!!!!!



後に新井田が復讐をはたそうとして返り討ちにあったのは言うまでも無い。
メデタシ、メデタシ


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