「秋也、約束して」
「約束?」
「どんなことがあっても私から離れないでね」
「うん、約束するよ。オレは美恵から離れない」




STAY WITH ME




『本年度のプログラム対象クラスは城岩中学3年B組、場所は……』
淡々と告げる特別報道番組のニュースキャスター


ウソ……ウソでしょう?秋也……!!


いつもと変わらない朝
修学旅行、秋也のクラスが来てないのはおかしいって思ったけど
こんな事になるなんて思ってもいなかった。


『尚、プログラム担当官、専守防衛軍兵士数人および優勝者の川田章吾君は遺体で発見』
無機質なニュースキャスターの声も美恵には届かない。
『警察は事情を知っていると思われる七原秋也君と中川典子さんを重要参考人として行方を追っています』
その時になって、ようやく美恵はハッとして顔を上げた。




生きてる?
秋也、あなた生きてるの?




数日たった。
相変わらず状況は変わらない。


秋也の育った慈恵館では、秋也の親友・国信の葬儀の最中ですら警察がうろついていた。
もう一人の生存者・中川典子の家も同じくマークされている。
それは七原秋也と恋人の美恵も例外ではない。
「いい加減にして下さい!!うちの娘は何の関係もないんですよ!!」
「しかしね。お宅のお嬢さんが七原と特別な関係だったのは事実でしょう?奴がお嬢さんに接触する可能性がある以上、見逃すわけにはいきませんなぁ」
警察の執拗な聴取、学校や近所の冷たい視線。
そんなことはどうでもよかった。




秋也…あなた今どこにいるの?生きているのなら、どうして会いに来てくれないの?
私のことなんてどうでもいいの?




三日後、何気にテレビをつけていた美恵の目に『速報』の字幕が飛び込んだ。
同時に、あの無機質なニュースキャスターが。
おなじみとなった特別報道番組だ。


『警察は逃亡中の七原容疑者と中川容疑者を追い詰め、銃撃戦の末、中川容疑者を射殺。七原容疑者は以前逃亡中です』
美恵は食い入るようにテレビを見た。
二人が発見されたのは、城岩町から電車で1時間ほどの小さな港町だった。
そこで二人で海外に逃げようとしたのだろうか?
だとしたら逃げ切った秋也はおそらく日本脱出に成功したということになる。




……秋也……
美恵は嬉しいのか悲しいのかわからない涙をそっとぬぐった。
もう会えないだろうけど、少なくても秋也は死なずにむ。




二週間後、警察も七原は海外へ逃亡したものとあきらめたのか早々と捜査本部を縮小し、美恵の生活も以前と同じものに戻った。









美恵は公園の土手にいた。
夕日が綺麗で、よく二人で見ていた。その風景を今は一人で見ている。
その時だった。
携帯の着メロがなった。一瞬、心臓が凍りつきそうになった。
なぜなら、その着メロの相手は世界で一人しかいないのだから。


「秋也!」
「……美恵」
「秋也どこにいるの?逃げたんじゃなかったの?」
『……オレ、典子さんを守ってやれなかった』
電話の向こうで押し殺した声が聞こえた。
『ノブと約束したんだ。守ってやるって…』
美恵はもう一人の逃亡者・中川典子を思い出した。
ほんの数ヶ月前、秋也が嬉しそうに『ノブに好きなこが出来たんだ』と嬉しそうに明かされたことを。


『川田が……』
プログラム優勝者だ。
もっとも美恵は、転校生ということもあって川田の顔もろくに知らなかったが
『川田がアメリカにいく方法を教えてくれたんだ。でも……』
秋也の声がさらに悲しげにトーンを落とした。
美恵に、もう一度会いたかった』
美恵は反射的に振り向いた。
土手の、さらに上、山の斜面の木々の陰。
「秋也!!」
走った。抱きしめていた。秋也もまた痛いほどの抱擁で応えた。




「逢いたかった」
「オレも……最後に美恵に逢えてよかった」
「秋也、私も連れて行って!!」
「そんなことできるわけないだろう!!典子さんの二の舞になったらどうするんだ?!」
「かまわない。秋也とはなればなれになるより、ずっとマシよ」
「……美恵」
秋也は美恵の顔を見詰めた。
その瞳はすでに覚悟を決めた強い輝きを放っていた。
もう、どんなに説得したところで無駄だろう。




「本当にいいのか?」
「うん」
秋也は美恵の手をとった。




生きていける。この先どんなに辛いことがあっても二人でなら。




「秋也走ろう」
「ああ」









どこまででもいい









せいいっぱいでいいから…









走れっ!!!



















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