『キタノでーす。かなり残り少なくってきましたね。
でも、まだまだゲームは終わってませーーん。
最後まで力一杯頑張るように』

後、何人残ってるんだろう?

『えー、失格者を発表します。
女子2番内海幸枝さん、女子9番榊祐子さん……』

私……やっぱり優勝なんてできない……

『……女子19番松井知里さん』

……私、どうなるんだろう?



~隠れんぼ~



『そして男子は、ただ一人七原秋也くんです』


七原くんが?……それじゃあ、今残っているのは……


『聞こえてるか?桐山、川田、杉村、天瀬。
先生、おまえたちのこと誇りに思う。それじゃあ最後まで力の限り戦えよ』




美恵は、暗いウサギ小屋の中で震えていた。
なぜ、彼女が、こんな所にいるかというと理由は簡単。
隠れていたのだ。
ウサギ小屋は校舎の裏にあり、ただでさえ普段人がこない。
しかし美恵は違った。
元々、動物好きだった彼女は進んでウサギの世話をしていた。


(……桐山くんも川田くんも、きっと優勝狙ってるよね)


動物好きということもあるが、気の弱い美恵にとってウサギは安らげる存在だった。
ウサギは寂しいと死んでしまうなんて言われるくらい、か弱い生き物だ。
そんなウサギたちだが、世話をしてやっている自分の足音が聞こえるだけで金網に擦り寄ってくる。
その愛らしい瞳で精一杯自分をアピールしている。
なんだか自分を見ているようで、ほかっては置けなかった。


このゲームが始まった時、すぐに、この小屋に隠れることを思いついたのも、美恵だけだった。
このウサギ小屋は見た目より中が広くて、人一人くらいなら十分入れるスペースがあったのだ。
いつもウサギたちの世話をしている美恵だからこそ気付いたのだ。


(でも……きっと、次に見つかるのは私だ。私……勝つ自信なんてない)


まして今生き残っている桐山と川田は、あらゆる人材が揃っているB組においても1.2を争う奴等なのだ。
到底、美恵に勝ち目はない。


(……杉村くん……は?)


ふいに脳裏に杉村弘樹の顔が浮かんだ。



















「おはよう、天瀬」
「おはよう、杉村くん」
引っ込み思案の美恵にとって異性というものは少々怖い存在だった。
まして杉村は強面で拳法なんてやってる。
それこそ、大袈裟なことを言えば、美恵にとっては桐山ファミリーくらい怖い存在だった。
最初に話し掛けられたときなんか思わずビクッと身体が強張ったものだ。
でも今は……。




「偉いな、天瀬は」
「えっ?どうして?」
「こんな早い時間に出てきて教室に花飾ったり、掃除したりしてるんだから」
「だって私日直だよ」
杉村は少し笑った。
(あ、杉村くん笑うと優しそうな表情するんだ)
「誰もしないよ。現に、もう一人の日直は姿も見せないじゃないか」
そうだった。本日の日直は美恵と旗上だが、旗上はと言うと自宅のベッドの中でイビキをかいている。
おそらく今日は遅刻だろう。




「でも杉村くんは、どうしてこんなに早いの?」
「え?」
杉村の表情に焦りの色が映ったが、美恵は気付かなかった。
杉村は拳法道場に通っているせいか、部活にも所属しておらず、こんな時間に登校する理由がない。
そういえば、先月美恵が日直している時もそうだった。
そして、やはり日直の仕事をさぼった大木の代わりに手伝ってくれたのだ。
それからだった。美恵が杉村と普通に会話できるようになったのは。




「どうして?杉村くん部活動やってないから朝練もないでしょ?」
「……それは、その……まあ、いいじゃないか。それより早く仕事しないと」



















(杉村くんはどうだろう?)

そう言えば、気が弱くて、いつも他の男子生徒にちょっかいだされていた美恵をかばってくれたのは杉村だった。
重たい物を運んでいる時、さりげなく「持つよ」と助けてくれたのも。


(でも杉村くんだって、ゲームで負けたくないよね)


私…なんて嫌な女なんだろう
自分が失格したくないばかりにこんな事考えるなんて……
あんなに優しい杉村くんまで疑うなんて……


美恵が、ウサギを抱き締めながら、そう思った時だ。




天瀬」
ビクッ!!全身金縛りに合った様に美恵は固まった。
天瀬……やっぱり、ここだったんだな」
「杉村くん…どうして?」
「ずっと探していたんだ。頼むから逃げないでくれ」
杉村は知っていたのだ。
美恵が、よくウサギたちの面倒を見ていたことを。
そしてゲーム開始以来、ずっと美恵を探していて、もしやと思ってここにきたのだ。




天瀬、オレは失格してもいいと思ってるんだ」
「杉村くん?」
「きっと桐山と川田も話せばわかってくれると思う。
オレは、このゲームが始まってから、ずっと2人の人間を探してたんだ」
一人は言わなくても誰かわかった。
「貴子?」
「ああ、でもオレが見つける前に失格になってたよ」
そうだ。貴子の名前は、かなり前に放送された。
「だから貴子を守れなかった分まで、天瀬だけは守りたかったんだ」
「……杉村くん」
「生き残ってくれ 天瀬、おまえが幸せならそれでいい。もう十分なんだ」




美恵の頬に涙が伝わった




私、何て嫌な女だったの
私、自分の事しか考えてなかった
それなのに……
杉村くんは……杉村くんは……




「……ダメだよ」
天瀬?」
「杉村くんを犠牲になんて出来ない」
「でも天瀬」
「杉村くんだけじゃない。桐山くんも……川田くんも……」




ガタアァァァァ!!!!!




瞬間2人は振り向いた
ウサギの固形飼料を入れているポリバケツ……その蓋が持ち上がっていた。
「話は聞かせてもらった」
「「……………」」
そして次の瞬間には2人の目の前にバケツの蓋を頭に載せて哀愁漂う背中を見せている川田、推定年齢15歳(下半身は今だバケツに入っている)が立っていた。




「久しぶりに、いい話聞かせてもらったで」
「か、川田くん……」
「おまえ、ずっと、そこにいたのか?」
「つまらん事は詮索すんな。杉村、オレはおまえの話に乗った」
「いいのか川田?」
「ああ、そのお嬢さんの為に必死になっとる、おまえ見て嫌とは言えんだろ?
オレにも人情というものはある」
「ありがとう川田」
「後は桐山だなぁ……あいつが大人しく負けてくれるとは思えん。
とにかく探して説得を……」




ガラアァァァァッ!!!




「杉村、川田、天瀬見つけたぞ!!!3人まとめて失格だぁぁ!!!!!」
開け放たれた窓から満面の笑みを浮かべたキタノが勝ち誇ったように言い放った。
「決まりだな。ルール通り、おまえら3人は罰ゲームだ。
そうなると今年のバトル・ルワイアルの優勝は桐山に決定か。
どこに隠れているのやら」




……タンッ




と、微かに音を立てただけで、綺麗に地面に着地していた。

……桐山が。




「「「………………」」」
「ウサギ小屋の屋根にいたのか桐山。盲点だったなぁ、まあいい帰っていいぞ」
キタノは「すぐにかかれよ」と言い残して去っていった。




「……桐山」
「何だ川田」
「……おまえ、いつからいたんだ?」
「ゲーム開始直後からだ。10分くらいして、おまえが来た。
その後、すぐに天瀬が来た。それだけだ」



















「あーあ、オレの二連覇だと思ったんだけどなぁ」
納得出来ないというように渋々窓ガラスを磨く川田




問題児ばかりのB組に学校の偉いひとたちは頭を抱えていました。
そこで担任キタノは名誉挽回の為に考えました。
校内大掃除!!
そこで年に一度、B組生徒たちだけで戦って(掃除して)もらいます。
ただし一人だけ免除されます。
それは隠れんぼで最後まで生き残った生徒なのです。

こうしてB組生徒とキタノによる隠れんぼ(通称バトル・ロワイアル)は桐山の優勝で幕を閉じ、ルール通り桐山以外の生徒達は罰ゲーム(大掃除)をする羽目になったのだ。

「お父さん、お母さんには遅くなるって連絡してあるから心おきなく働けよ」



















「……よいしょ、と。重たいな」
溢れるくらいに一杯のゴミ箱を持ち上げる美恵。
焼却炉の扉の位置がこれほど高く感じられたことはない。
「……あっ」
グラッ……あまりの重みにゴミ箱ごと美恵の身体が後ろに傾いた。


……倒れる!!


ギュッと目を瞑る。きっと次に目を開けた瞬間、目の前には日が沈みかけた空が広がるだろう。
しかし、美恵は倒れていなかった。
地面と密着するはずだった背中にぬくもりを感じる。




「大丈夫か美恵?」
「杉村くん」
抱き支えられていた。
杉村はゴミ箱を軽々と持ち上げると、その中身を焼却炉に捨てた。
「ありがとう杉村くん」
抱きかかえられたこともあって、真っ赤になりながらゴミ箱を手に取ろうとすると
「オレが持つよ」




「あの杉村くん、ありがとう」
「さっきの事か?別にお礼なんていいよ」
「そうじゃなくて……あの時のこと」
「……ああ、あれか。でも、結局は天瀬を助けてやれなかった。だからお礼なんて……。
オレは結局何もしてやれなかったんだから」
「そんな事ない!!」
杉村の瞳が僅かに拡大した。いつも大人しすぎるくらいの美恵。
その美恵が大声あげるなんて驚きだ。
「私、嬉しかった。それにね、今は失格して良かったって思ってる」
「なぜだ?」
「……それは……」




「……杉村くんと仲良くなれたから……!」




「え?」




真っ赤になりながら走り去っていった美恵。
杉村は、しばらく呆然と、その場に立ち尽くし考えた。
「……それって、もしかして……」
走り出していた。




「……天瀬!待ってくれ、天瀬!!」




それは、単なる気まぐれ?
それとも、言葉のあや?


――それとも?




~完~