桐山春広、196X年香川県生まれ、兵庫県育ち。
大東亜大学卒、桐山家当主にして、桐山財閥総帥。
あの桐山和雄の父である。
ダディ
桐山春広氏のプライベート、それは優雅にも一杯の高級紅茶から始まる。
『で、ありますから会長。下請会社を最低五社は切り捨てたほうが宜しいかと』
「だろうな。とりあえず織田食品から始めろ。
あんな未来のない成金企業とはおさらばだ」
携帯片手に部下に指示。
毎日多忙の彼は、滅多に帰宅もせず、そのほとんどを仕事に費やしていた。
しかし、珍しく休暇がとれたので、こうして我が家に帰ったというわけだ。それにしても………。
「和雄のやつ、何をぐずぐずしているんだ。たまの家族の団らんなのに」
朝食の時間は、とっくに過ぎているというのに、1人息子が今だ姿を現さないのだ。
その時。
「だ、旦那さまぁぁぁーーー!!!!」
「なんだ騒々しい」
執事の田口が血相を変えて走ってくる。
「わ、若様が!!和雄様がぁぁぁーーー!!!!!」
「な、なんだとぉぉぉーーー?!!!!!!」
「えーと、今日休みなのは、桐山くんと天瀬さんか……。
珍しいな天瀬さんが無断欠席なんて」
林田の言うとおりだった、欠席常連の桐山はともかく、美恵は真面目な生徒だったのだ。
光子「つまんなーい。美恵が欠席なんて」
三村「授業さぼって、お見舞いしてやるか」
瀬戸「やめなよシンジ。美恵ちゃん迷惑するよ」
貴子「全く、その通りよ」
三村「ひどいなぁ、貴子さん。オレ本気なんだぜ」
貴子「何が本気よ!彼女6人もいるくせに!!」
七原「おちつけよ、千草。三村は、そんな悪い奴じゃあ……」
杉村「よせ、七原。貴子が黒だといえば、白でも黒いんだ」
七原「……杉村が言うと、なんか、すごく説得力あるな」
沼井「に、してもボスどうしたんだ?オレ何も聞いてないのに」
笹川「風邪でもひいたのかな?」
黒長「まさか、ボスに限って……」
月岡「案外、デートだったりしてウフフ」
沼井「な、何言ってんだよ!!ボスがそんなことするわけねぇだろ!!」
川田「それにしても、心配だな。お嬢さん、どないしたんや……なんだ、あれわぁぁ!!!!」
クラス中が窓際に走り寄った。川田が指差した方向、そこは校門。
そこには、先頭に白バイ2台、それに続く先導車、そして一際目立つ超高級車、その両脇には当然のように護衛の白バイ。
そして、後方に護衛車が3台、最後にお決まりのように白バイ2台。
「「「「「「「「「「ど、どこのお偉いさんだよ!!!!!」」」」」」」」」」
見ると、校舎から校長と教頭が全速力で、走っている。
「「……き、桐山様ぁぁーー!!!」」
「「「「「「「「「「き、桐山さまだぁっ??!!!!!」」」」」」」」」」
その瞬間、クラス中も誰もが理解した。
あの超高級車に乗っている人物が誰なのかを。
執事らしい男がうやうやしく車のドアを開けると、超高級スーツに身をまとったダンディな紳士が降り立った。
そして………なぜか、B組の教室を睨みつけてやがるーーー!!!!!
その、瞬間、いやーな予感がクラス中に漂った……。
「ほ、ほ、本日はお日柄もよく、桐山様をお迎えできますことは、我が校にとって光栄の至り……」
グイッと校長のネクタイが掴み上げられた。
「……ひっ……!」
「くだらん挨拶など聞いている暇はない。さっさと案内しろ」
「し、失礼致しました!!す、すぐにご案内致しますぅぅ!!」
七原「お、おい……どうなってるんだよ?」
三村「あいつ、桐山の親父だろ?何の用だ?」
川田「それにしても、なんだ校長と教頭の腰の低さは?」
杉村「そうか転校生の川田は知らないんだな」
光子「桐山くんが入学した時、あの父親、新しい体育館を寄付したのよ」
貴子「おまけに、毎年、多額の寄付してるって話だし」
七原「第一、町内、いや中国四国地方一の権力者だろ?」
三村「さからったら、こんな学校、簡単に潰されるぜ」
クラス中が桐山父の噂でざわめくなか……廊下から、何やら騒がしい足音が
ドタドタドタドタッ………ガラララァァァ!!!!!
一気に開かれる扉、そして、もちろん
「「「「「「「「「「げっ!!桐山の親父!!!!!」」」」」」」」」」
「こらっ!!桐山様に向かって、なんて口を!!」
校長は焦っているが、生徒だって焦っている。
父兄参観日や保護者会にも一度も姿を現したことの無い、この男が、今さら何の用があるというのだ?
「こいつらか……和雄のクラスメイトは」
教室を見渡した。
「和雄は来ていないようだな」
どうやら、桐山の無断欠席と関係あるようだ。
広春は高級ソファを用意させると、ふかぶかと座った。
「あの、一体何があったんですか?」
委員長の幸枝が勇気を出してクラス中の声を代弁した。
「何か、あったか?だと……胸に手を当てて考えてみろ」
シーン……なんなんだ、この親父は?
いきなり登場したと思ったら意味不明なことを……さすがに、あの桐山の父親だけあると誰もが納得した。
「和雄は、この私が全力をもって英才教育をしてきた、桐山家の跡取息子だ」
突然、広春は語り始めた。
「あらゆる学問はもちろん、帝王学から護身術までだ。あれは私の最高傑作だ。
あそこまで育てるのに、私がどれだけ心を砕いてきたか」
B組全員が静かに聞いた。
「私の教育は完璧だ。一点の曇りも無い。
つまりだ……家庭に問題が無いと言う事は、学校に問題があるということだ!!!」
「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」
「貴様等のせいだろう!!!和雄が家出をしたのは!!!!!」
「「「「「「「「「「い、家出ぇぇぇーーーー!!!!!?」」」」」」」」」」
ちょ、ちょっと待ってくれよ!!家出?桐山が?
しかも、なんでオレたちのせいなんだよ!!!!!
クラス中が、心の中で、そう叫んだ。
「ま、待ってください。お父さん!!」
林田だ。突然、教室に乗り込んできて、かわいい生徒に因縁をつけられ、黙っているわけにはいかない。
「この子たちのせいだなんて、おちついて話をして下さい」
そう、それは正論だ。しかし……この親父に正論など全く通用しなかった。
「貴様……桐山家当主の私に逆らうのか?田口!!制裁だ!!!」
「はいっ、旦那様」
ズキューンッ!!ズキューンッ!!!
「キャーーー!!林田先生が!!」
まるで輪唱するように叫ぶ生徒たち
「よく見ておけ、これはダメな大人だ。二の舞にならないように言葉には気をつけろ」
「さて、本題に入るか……とにかくだ。和雄は私が丹精こめて育てただけあって、完璧だ。
当然、妬みや逆恨みは日常茶飯事だろう。
嫉妬のターゲットが服着てあるいているようなものだ」
一息ついて、さらに言葉を続けた。
「だが、和雄は物静かで大人しい性格だからな」
三村(も、物静か……桐山が?)
七原(お、大人しい性格……?)
川田(……単に、さわらぬ神に祟りなし状態だろう)
杉村(確かに表面は上品だが……何か違うよな)
光子(ちょっかいだした奴は100倍返しの過激な奴よ)
月岡(はっきり言って、休火山よりタチ悪いわよ)
沼井(親なのに、ボスのこと全然理解してねぇ)
貴子(親バカというより、ほとんどバカね)
クラス中が突っ込みいれたかったが、先ほどの林田のように病院送りはごめんだ。
「ここまで言えば分かるだろう?」
何のことだ?クラス中が、そう思った。
「和雄を妬むあまり……クラス中で、うちの息子を苛めたんだろ?」
………シーン………
七原(……今なんて、言ったんだ……?)
三村(……い、いじめられた?……桐山が?)
川田(……ど、どういう考え方をすれば、そういう発想がでるんだ?)
杉村(……そんな、度胸のある奴、世界中探してもいるものか……)
光子(……もし、いたら、こっちがお目にかかりたいくらいよ……)
月岡(……バカバカしくて話にならないわ……)
沼井(……親なのに、ボスのこと一番理解してねぇ)
貴子(……馬鹿親も、ここまでくると犯罪よ……)
「不良グループが和雄につきまとっているという情報もあるしな。
暴力で、和雄から金でも巻き上げてるんだろ?」
七原(……つきまとってる?……まあ、当たらずとも遠からずだけど……)
三村(……つきまとってるも何も、あんたの息子が頭だよ……)
川田(……うちの子に限っても、ここまでくると異常やな……)
杉村(……その情報……調査した奴って、誰だよ……)
光子(……よっぽど、間抜けな探偵雇ったのね……)
月岡(……冗談じゃないわ。ペコペコしてるのは、アタシたちの方よ……)
沼井(……そ、そんな……オレたちは、そんなつもりじゃ……)
貴子(……馬鹿親も、ここまでくると反論すら不可能ね……)
「………おかげで今夜のパーティーは台無しだ。
どう損害賠償してくれるつもりなんだ?」
「「「「「「「「パーティー?」」」」」」」」
「桐山家の将来と威信をかけた、お見合いパーティーだッ!!!!!」
「「「「「「「「お、お見合い!!!!!???」」」」」」」」
「主役の和雄が不在では中止にするしかないだろう!!!!!
パーティーにかかった経費5億がパーだ!!!!
それだけじゃあないィィッ!!!!!!!!
この日の為に、あらゆる人脈を駆使して、招待したお見合い相手は、一山いくらの、このクラスの女どもとはわけが違う、超名門の令嬢たちだったんだぞ!!!!!
どれだけ私が恥をかいたと思っているんだ!!!!!」
『一山いくら』発言に21人の女子たちは激怒した。
もちろん、林田の二の舞を避けるためにはグッとこらえるしかなかったが。
その時だ。
「あれっ?桐山さんって、確か天瀬さんと付き合ってなかった?
」
滝口だった。
………シーン………
七原「美恵さんと?!そ、そう言えば、仲良かったけど……そんなっ!!!」
三村「う、嘘だろ!!?オレの美恵が!!」
川田「……やっぱりデキてたのか、あの二人……ショックやな……」
杉村「…え?そんな、オレは二人が付き合ってるなんて聞いてないぞ!!」
貴子「あたしは気付いてたわよ。あんたたちだけよ、知らなかったの」
沼井「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!オレだって初耳だぞ!!」
月岡「ほんと、鈍い男ね。アタシは、知ってたわよ」
光子「でも、これで、はっきりしたわね。つまり……」
クラス中がゴクっと唾を飲み込んだ……。
光子「駆落ちしたのよ」
「な、なんだとぉぉーーーー!!!!!」
思わず、ソファから立ち上がる桐山広春。
「ねえ、和雄。私、赤ちゃんができたの。責任とってよね」
「待ってくれ。本当にオレの子かどうか……」
「私は絶対に別れないわよ!!もしも、逃げたりしたら、世間に公表して桐山家に泥を塗ってやるから!!!」
「……わかったよ」
*注意:上記は全て桐山広春の妄想である。
「おのれぇぇ!!平民の小娘の分際でぇぇぇぇぇ!!!!!
桐山家の財産が目的だなぁぁぁっ!!!!!!!!」
その時だ。ガララララァァ……扉が開いた。
「か、和雄!!!!!」
「……父さん、どうしてここにいるんだ?」
「えっ、お父さん?和雄の?」
桐山の隣には愛らしい少女が。しかし桐山広春には、こう見えた。
「貴様かぁぁぁ!!!!!!!!
財産目当てで厭らしい手練手管を使って、うちの息子をたぶらかした挙句、偽りの妊娠で結婚を強要している薄汚い売春婦はぁぁぁ!!!!!!!!」
………初対面で、なんで、そこまで言われるんだと思う前に、美恵はショックで言葉を失った。無理もない。
そんな美恵に代わって、激怒したのは、他ならぬ………
「………取り消せ、今吐いた暴言を。美恵に謝罪しろ
」
普通の人間なら、この只ならぬオーラに気押されし、即土下座だが、バカ親父も一歩も後には引かない。
「それが親に向かって言う言葉かぁぁッ!!!!!
いつから、そんな女に魂を売り渡したんだ!!!!!」
「なんだと!!!」
「和雄やめて!!お父さんとケンカなんてしないで。私気にしてないから」
「……美恵。美恵は平気なのか?あんな酷いことを言われて」
「だって、どこの親だって自分の子供を心配するのは当然だもの……」
いーや、この親父は、世間一般の親とは明らかに違う!!
と、そこにいる誰もが、そう思った。
「第一、なぜ、ここにいるんだ?」
「おまえが家出などするから、こうして文句を言いに来てやったんだ!!!」
そう、全く持って、迷惑な話だ……。
「おまえが学校生活が原因で失踪するから」
だから、違うだろ!!!!!クラス中が、そう思った。
「オレは、見合いが嫌なだけだったんだ」
桐山は、優しい視線を美恵に送った。
「オレは美恵以外の女と結婚したくない」
「……和雄……」
見詰め合う二人。その姿に、三村も七原も、いや美恵に恋心を頂いていた者全てが、美恵をあきらめた。
七原「あ、あの、お父さん。お願いだから二人の仲認めてやってください」
川田「七原の言う通りや。生木を裂くなんて、むごいことしないでくれ」
杉村「オレからもお願いします。息子さんの幸せを考えて下さい」
光子「そうよ。家柄なんかどうでもいいじゃない」
貴子「大事なのは本人たちの気持ちでしょ?」
沼井「頼むから、ボスの望みをかなえてやってくれよ」
月岡「もし反対したって、桐山くんは美恵ちゃんを選ぶわよ」
三村「月岡の言うとおりだ。野暮なことは、それくらいにして認めてやれよ」
美恵を守るように肩を抱く桐山。クラスメイトたちの言葉。
広春は、しばらく考え込んだ………。そして……。
「………私は誤解をしていたようだな。和雄、いいクラスメイトを持ったな」
「美恵を認めてくれるのか?」
「仕方ないだろう。私は、おまえが思っているほど、話のわからない人間じゃないぞ」
よかった、このバカ親父も人の子の親だったんだ。クラス中が安堵した。
「だから、今夜のお見合いパーティーには出席しろよ」
………シーン………
七原「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!」
川田「お見合いは白紙だろうが!!」
杉村「話が違うぞ!!」
光子「一体、何考えてるのよ!!」
貴子「二人の仲認めるって言ったじゃない!!」
沼井「それじゃあサギじゃねぇか!!」
月岡「信じられないわ!!」
三村「ふざけるな、どういう事だよ!!」
「うるさい、うだうだ騒ぐな!!!!
桐山家当主の言葉に二言は無い!!!
この女のことは認めてやる。その証拠に……」
「高級マンションを与えてやる。手当ては、月100万だ。
子供ができたら認知もしてやる。文句は無いだろう」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
「そうすれば、いつでも一緒にいられるだろ?
これで、一件落着だな。めでたし、めでたし」
川田「……こ、この親父、なんにもわかってない……」
三村「……うちのバカ親父がまともに見えてきたぜ……」
七原「……どういう神経してるんだ?」
光子「……ついて行けないわね」
杉村「……桐山が非行に走るのも無理ないな」
月岡「……まったく同感よ」
沼井「……ボスが、ああいう性格になったの、なんとなく納得……」
貴子「……つける薬がないわね」
この後、桐山は本当に家をでてしまった。
余談だが、バカ親父が再度、学校に乗り込んできたことはいうまでもない。
メデタシメデタシ