「反則はありませーん」
全く……最低ね
こういう場合、狂うのは、いつも男
そして傷つくのは、いつも女
でもね……私は大人しく殺られるつもりはないわ
戦場と男と女
どこ?どこに、いるの?
プログラム開始から数時間
美恵は探し続けた
その時だ、木の影に学生服を見たのは
「―――!」
心臓が高鳴るのを抑えながら、身を乗り出した
彼かもしれない
ところが――
振り向いた、その男をみて
美恵は愕然とした
違う―!!
しかも、相手は
「……新井田」
自分や、親友の貴子に言い寄っていた最低男!!
反射的に向きをかえ走り出そうとした――が
遅かった
サッカー部・エースの看板はだてではない
飛び掛ってきた新井田に押し倒され、美恵は、あっけなくバランスを崩し地面に背中合わせになっていた
しかも、最悪なことに新井田が上に乗り、そのうえ肩を押さえ込んでいる
「逃げること無いだろ?」
「……ここまでしておいて言えるセリフ?」
「安心しろ、殺しゃしねーよ。そのかわり……」
次のセリフは予想できた
「オレの女になれよ」
大正解、当たってほしくなかったけどね
「……ふざけないで、おまえなんかに好きにされるような安い女じゃないわ。
私に触れていいのは世界中に一人しかいないわよ」
「なんだと!!三村か?七原か?まさか千草の男の杉村じゃないだろうな!!」
「おまえに答えてやる義理なんかないわ。最後の忠告よ。さっさとどいて」
「なにが忠告だ!!おまえこそ、自分の立場考えろ!!」
「わかったわ」
キレまくる新井田、だが次の瞬間、狂気に満ちた目に映ったのは拳銃
瞬時に驚愕の表情へと早代わり、が、もう遅い
銃は奴の顔面、数センチ先にあるのだ
「言ったはずよ。最後の忠告だって」
パンッ!!
急がなければ、また新井田みたいな男が現れるとも限らない
美恵に想いを寄せている男は他にも大勢いるのだ
しかし、表れたのは男ではなかった
「美恵」
「光子」
「すごいわ、新井田をやっちゃうなんて……でもね。私も持ってるのよ。銃……」
スッと右手を上げる光子
バーンッ!!バーンッ!!!
再び島中に走る銃声
しかし、その標的は美恵ではなかった
「……そんな…バカな……」
ゆっくりと地面に倒れる光子
その背中には二発の穴
「……あなたは死なないと思っていたわ」
まるでマントのように羽織った学ラン、特徴的なオールバック
銃を持った右手を下ろすとゆっくりと近づいて来た
数十センチの所まで来ると左手を美恵の後頭部に回すと強引に引き寄せた
「……んっ」
美恵の唇に、男のそれが重ねられる
いつも触れるだけの優しいものとはまるで違う強引なキス
数秒後、名残惜しそうに離す
「……ケガはないか?」
「ええ」
ずっと捜し求めていた男――桐山和雄
美恵が唯一愛した男、だが……
「和雄はこれに乗ったのね」
「そうだ……おまえは逃げないのか?オレはゲームに乗ることを選んだ」
「逃げないわ。必要ないもの」
「なぜだ?」
「あなたを愛しているからよ。だから、わかるの。あなたに私は殺せない」
桐山はこめかみに触れた
桐山が何か、そう何か自分でもわからない何かを感じた時、無意識やってしまうクセ
「この場所、離れた方がいいわね。あなた以外にゲームに乗った奴が来ないとも限らないもの」
「オレと一緒にいるつもりか?」
「そうよ。一番安全だもの」
「なぜだ?」
「あなたが守ってくれるもの。それに私もあなたを守るわ」
桐山が不可思議な顔をした
「私が生きている限り、あなた死ねないもの。
あなたが死ねば、私を守ってくれる者は一人もいなくなる。
だから、あなたは死ねないわ。ちがう?」
最初に告白してきたのは美恵の方だった
デートに誘ってきたのも、腕を組んできたのも……
でも、それから暫くして、最初に口付けをしてきたのは桐山の方だった
肩を組んできたのも、抱きしめてきたのも……
「女と付き合ってみるのも悪くないかもしれないな」
それが、交際をOKした理由
それなのに、いつの頃からだろう?桐山の方から、美恵を求めてきたのは
そして、美恵はそれを十分過ぎるほど理解していた
愛されている自信があった
例え一億人殺しても、自分は殺されない
「さあ行きましょう。狂気に走った奴等が多すぎるわ」
「おまえは怖くないのか?」
「どうして?怖くなんてないわ。守ってくれるんでしょう?」
その自信に満ちた顔は、何よりも美しかった
ああ、そうか
桐山は突然、理解した
なぜ、この女に惹かれるのか
なぜ、この女は殺せないのか
「わかった、守ってやる」
なぜ、この女には勝てる気がしないのか
「オレは何人も殺した。だから他の連中は容赦なく撃って来るだろう。かまわないのか?」
オレとは全く違う強さを持っている
オレには無い物を全て持っている
「かまわないわよ。あなたと一緒なら」
オレには闇しかない、いや闇とも云えない、ただの無だった
そのオレに誰からも与えられないものを与えてくれた
「どうしたの?」
「なんでもない」
美恵、おまえはオレの、たった一つの光なんだ
END