夏だ!海だ!!太陽だ!!!
夏の海は危険がいっぱい
本日快晴。城岩中学校3年B組は林海学校の為、海に来ていた。
「イヤッホーーー!!!」
おおはしゃぎの生徒諸君ども。そう、年齢の割には大人びいている彼等も所詮は中学生。
こういう行事は我を忘れる。特に、男子生徒はすっかり子供に還っていた。
……と、いうより、その本能の一部は醜い大人の男へと進化していた。お目当ては女生徒たちの水着姿だ。
「クックック……相馬の色っぽいこと。特に、あの胸」
「千草もスマートで均整取れた身体してるよな」
「バッカじゃないの!!」
「ホント、男っていやらしいわね」
そんな男子たちから見向きもされない、色気とは無縁の女生徒たち(典子、有香、佳織など)は、内心むかついていた。
しかし、男子生徒たちの真の目的は光子でも貴子でもない。
三村「おい、美恵は、まだかよ
」
瀬戸「シンジ、態度が露骨過ぎるよ」
七原「オレ、美恵さんは健全なワンピースだと思うな」
杉村「同感だ。色は白かブルー系かな?」
川田「オレは意表をついてビキニだと思うぞ」
沼井「ビ、ビキニか。いいかもしれないな」
笹岡「なんだ充、おまえ期待してんのかよ」
月岡「もうっ、男ってスケベね」
「おまたせ」
本日の目玉。天瀬美恵登場。やや大胆なカットのデザインのワンピース。
照れているのか少々紅くなっている。
「か、かわいいーーーVv!!!!!」x男子生徒ども
「美恵、遅かったじゃない」
「うん、ごめんね貴子」
「ちょっと大胆だけど素敵な水着ね」
「うんパリコレの最新作なの」
「すごいじゃない。どうやって、そんなブランド手に入れたの?」
「桐山くんがプレゼントしてくれたの」
「なっっ!!!!!!!!!!」x男子生徒ども
桐山……そう言えば、姿が見えない。
欠席の常連である、あの男のことだ。今日もサボったに違いない。
単純に、そう考えていた男子たちだったが、よくよく考えれば、こんな危険な場所に、
美恵1人をおいて、あの男が現れないはずがない!!!
その場にいた全男子生徒は、睨みつけるように辺りを見回した。桐山の姿は見えない。
どうやら杞憂らしいな。全員ホッとした。
「美恵、背中向けよ。オイルぬってやるよ」
プレイボーイ三村、人生を賭けた本領発揮だ。眩しいくらいの笑顔。
「三村くん、気持ちだけ受け取るから」
「遠慮するなよ」
オイルをたっぷり左手につける三村。その時っっ!!!!!
「うわぁぁーーー!!!!!」
激しい激痛が三村を襲った。
「フフ、こんなこともあろうかと硫酸を少々混ぜておいて正解だったわ」
光子恐るべし!!!!!って、いうか、それ犯罪では……?。
「じゃあオレがぬってやるよ。オレなら相手として悪くないだろ?」
にやつきながら新井田登場。その両手は、すでにサンオイルまみれだ。
「遠慮しとくわ」
「天瀬、おまえ初めてなんだろ?安心しろよ優しくしてやるから。さあ、仰向けになれよ」
……なんで仰向けなんだよ。って、いうか、そのモミモミした手付き、すっげー厭らしいぞ。
迫る新井田。その時だった!!いきなり新井田の髪の毛が鷲掴みにされたかと思うと、グイッと引き上げられたのだ!!!
「……あたしの前で美恵に手を出すなんて、いい度胸じゃないの」
「ひっ!!ち、千草、た、助け……!!」
「助けるわけ無いでしょう!!行くわよ弘樹!!」
杉村を伴い、新井田の髪を掴んだまま、半ば引きずるようにして岩陰に。
その数秒後だった。ドゲッ!!バキッ!!グワシャッ!!ヒデブッッ!!!という謎の擬音と「ギャーーー!!!」という悲鳴がこだましたのは………。
さらに数分後、晴れ晴れとした表情の貴子と、なぜか血まみれの杉村が……。
「……杉村、その血は?」
「……あ、ああ、これは、その」
「スイカの汁よ。スイカ割りしてたのよ。ねえ弘樹」
「そう!そうなんだ」
……なんで、思いついたように相槌うってんだ杉村?って、いうか誰も信じねーよ。
「三村と新井田は撃沈か……」
やっぱり不純な気持ちで攻めるとろくなことないな、オレは正攻法でいこう。
「美恵さん、一緒に泳ごうよ」
「な…七原くん…それ……」
「どうしたんだよ?」
「……そ、その海パン……」
どうしたんだ?七原は焦った。七原が履いているのは、どこにでもある平凡な海パンだ、それなのに美恵は真っ赤になって、うつむいてしまったのだ。それを遠くから見ていたは七原ガールズ。
「思ったとおりの展開ね。昨日、こっそり細工しておいて正解だったわ」
「七原くんが、いくら、いい男でも、お尻にハート型穴を空けた海パン履いてる男と付き合う女はいないわよ」
「典子のアイデアのおかげでね」
「計画通り、美恵は七原くんに幻滅したはず」
「……これで、七原くんは永遠にあたしたちのもの。クックック……」
……気づけよ七原……。ちなみに上から、幸枝、友美子、雪子、恵、典子。
「……これで、邪魔者は全て消えたな」
この時を待っていたかのように川田登場。
「お嬢さん。隣座ってもいいか?」
「うん、いいよ」
「……それにしてもいいもんだな。青い海、白い雲」
「うん、本当にきれい」
「でもなぁ……天瀬に比べたら、対したことないぞ」
「えっ?」
「前から、言おう言おう思ってたんだけどな……今いう事にした、聞いてくれ。オレは、ずっと前から天瀬に惚れ……」
……カチャ。何か金属音のようなものが、背後で。
しかも、後頭部に突きつけられている、筒みたいなものは……ひとすじの汗が川田の頬を伝わった。
「川田、今すぐ消えろ」
こ、この低くないのに威圧感のある、りんとした冷たい声はぁぁ!!
「桐山くんっ!!」
美恵が嬉しそうに呼んだ。ちなみに川田は真っ青だ。
「お、OKわかった。だから、そんな物騒なものはしまってくれ」
……振り向かなくてもわかる。突きつけられていたもの、それは……イングラムM10サブマシンガン。
「桐山くん、どうして遅刻したの?心配したのよ」
「済まなかった」
そう、言って美恵を抱きしめる桐山。
「……き、桐山くん……あの、みんな見てるよ……」
「オレは気にしてない」
三村「何なんだよ、あいつは……」
瀬戸「おちつきなよシンジ」
光子「なんか、むかつくわね」
貴子「冗談じゃないわ」
杉村「冷静になれ貴子、オレだって悔しいんだ」
七原「金にものいわせるなんて反則だ」
川田「しょうがないだろ。所詮、世の中、金だ」
城岩中学校の生徒たちでごった返す浜辺。まるで熱海の海水浴場だ。
その浜辺には、あまりにも不似合いな豪華客船が波間に浮かんでいる。
それもタイタニックそっくりな……。
それは、林海学校が海に決った時だった。
美恵が「海って、いったら『タイタニック』よね。私、あの映画10回もみたのよ。すごく素敵だった。あんな恋が出来たらいいな」と言ったのを桐山は聞き逃さなかったのだ。
そして……金を持っている奴は、時として常人には理解し難い行動を起す。桐山は、その典型だった。
こともあろうにタイタニックそっくりな船を造ってしまったのだから。一体いくらかかったのか?怖いので誰も聞かなかった。
そして羨望の眼差しで見詰めるB組生徒を完全無視して、美恵だけが招待され乗船している。そう桐山と二人っきり。
「……危険だ」
「危険って……何がだよ三村」
「桐山の奴、このままムードにまかせて美恵を……」
「何考えてるんだよ三村!今は林海学校の最中だぞ。いくら桐山でも、そこまでは」
「……七原、相変わらず甘いな。美恵はタイタニックに憧れてたんだぞ。あの映画の中で主人公の二人は……」
「……ふ、二人は…?」
「船の倉庫に置いてあった車の中で」
「ど……ど、どうなったんだよ!!」
「……これ以上いえるか!!この際だ、七原。オレと手を組もうぜ」
「「「「その話乗った(わ)!!」」」」
なぜか光子、貴子、杉村、川田登場。……盗み聞きしてたのか?
「みて、桐山くん。夕陽が綺麗よ」
美恵は有頂天になっていた。タイタニック(もどき)から見る夕陽。それは、まさに映画で見た光景そのもの。
「美恵」
船の先端に立っていた美恵を、後ろから、そっと抱きしめる桐山
「……き、桐山くん?」
そのまま手を握り、両腕を肩の高さまで持ってきた。
「こういうシーンがあった。美恵が好きだと言ったから、オレも見たんだ」
そうだ。確かにあった。映画史上に残る最高のラブシーン。
とたんに美恵の心臓は破裂しそうなくらい鼓動が加速し出した。
なぜなら、映画では、この後……見詰め合った恋人たちは、そっと顔を近づけ……。
「美恵」
桐山の顔が近づいてくる。映画の通りだ。気絶しそうになりながらも美恵は『待って』と言えなかった。
吸い込まれるように、そっと目を閉じた。
「「「「「「ちょっと、待ったーーー!!!!!」」」」」」
「み、光子。貴子も。それに三村くん、七原くん、杉村くん、川田くんまで!!」
美恵は、とたんに意識を失いかねないくらいの衝撃を受けた。
なぜなら……全て見られていたのだ。二人の熱いラブシーン(未遂)を。
ショックで、フラフラ気味の美恵とは正反対に平然としている桐山。
いや!その瞳の奥には邪魔されたことへの凄まじい怒りが!!
もっとも、無表情なので、誰も気付いていないが。
「どうやって乗船した?」
「フフ、簡単だったわよ。桐山くんの執事さんって、ホント誘惑に弱いのね」
見るとロープで縛られた執事が転がっていた。
「和雄様、申し訳ありませんっ!!この女、私好みで……つい」
「田口、今日限り首だ」
「そ、そんなぁ!!!」
中学生の色気に負けた執事・田口雅之。幸か不幸か、光子は田口のモロ好みだったのだ。
「すぐに船から降りろ。そうすれば赦してやる。断れば……全員殺す」
「「「「「「……だ、誰が降りるか!!!!!」」」」」」
桐山の迫力に気押されしながらも徹底抗戦の構えを見せる6人。
そう、なんと言っても相手は1人、6人が力を合わせれば……その時だった、突風が走ったのは。
そして、先ほどのショックで目眩をおこしていた美恵が……そのまま、海に……!!!!!
「「「美恵っ!!!!!」」」
「「天瀬っ!!!!!」」
「そ、そんなっ!!美恵さんっ!!……は、早く助けないと!!」
6人は大慌てだ。救命ボートだ!!浮き輪だ!!!と。その時だ。
「さがってろっ!!!!!!」
「「「「「「え?」」」」」」
6人を押しどかせたと思うやいなや一気に海に飛び込んだ。
「「「「「「なっっ!!!」」」」」」
……苦しい……どうして私……海に?……息が出来ない……
薄れゆく意識の中、暗い海の中……誰かが近づいてくる、あれは
………桐山くん?
「……ん…」
美恵は、そっと目を開けた。まだ意識がはっきりしてない。ぼんやりと視覚が戻ってきた。
最初に瞳に映ったのは桐山だった。ただ、やけに近くにあるな……と、ぼんやり思った。
唇が何かに塞がれているような感じ……私、どうして……!!!!!
突然、理解した。海に落ちたこと、溺れた事、そして、そしてっ!!!!!
自分のおかれている立場を理解した途端、目を見開いた!!!!!
つ、つまり、自分の唇が……桐山のそれに塞がれていることを!!!!!
そっと、唇を離す桐山
「美恵、大丈夫か?」
「……わ、私……あ、あの……」
少し離れた場所で三村、川田、杉村、七原が、その場に座り込んで泣いていた。
「クソ、桐山……、オレは結局、おまえに負けたのか……」
「……オレは天瀬を守ってやれなかったよ」
「オレ、天瀬のこと、ずっと、とても好きだった……」
「……なんなんだ、あいつは……何なんだ…」
「いい加減にしなさいよ弘樹」
「しょうがないじゃない。人工呼吸は助けた奴の特権なんだから」
そう、仕方ない。それが青春なのだ。
「美恵どうした?顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「……な、何でもない。……あの桐山くん」
「なんだ?」
「……助けてくれてありがとう」
結局、林海学校は
美恵の水難事故のせいで散々だった。
タイタニックどころか、教師や警察に叱られまくり、自分のドジを改めて思い知ったのだから。でも……。
でも……なぜか、ちょっぴり嬉しかった。
タイタニックには及ばないけど、これもちょっとした……ロマン?なのかしら?
メデタシメデタシ