六月に結婚した女の子は幸せになれるの
だって、六月は結婚の女神の月なんだもの
六月の花嫁
心配された雨も上がり、本日快晴
教会の前でＢ組生徒たちは米を握りしめる
ライスシャワーだ。恩師に対する、ほんのお礼
そう、今日は担任教師・林田の結婚式なのだ
そして男子たちとは別の意味で燃えている女子たち
なぜって？それは決っている
教会挙式と言えばクライマックスは花嫁のブーケだ
花嫁が投げたブーケを受け取った者は次に花嫁になれる
男子たちから見れば、くだらない迷信だが
女子にとっては、本日最高のイベントなのだ
「洋ちゃんの為に、あたし頑張る！！」
遊びで付き合っている倉元には迷惑な話だ
「七原くん、あなたの為に頑張るわ。ねえ、この意味わかる？」
「……う、うん」
「「「「ちょっと、待ったァ！！！」」」」
七原ガールズの意気込みに
（オレ、こんなにモテて、いいのかな？）
「千草、オレの為に頑張ってくれよな」
「なんですって？！このバカ男！殺してやるわ！！！」
「お、おちつけ貴子！！おちつくんだ！！！」
この、めでたい日に、危うく殺されかけた男
殺しかけた女、そして命がけで止めた男
はっきり言って、恩師の存在などブーケのおまけに過ぎなかった
そんな中、けなげに、張り切っている少女が１人
天瀬美恵だ
それを少し遠くから眺めている男がいた
それは数日前の事だった
「ねえ、和雄。林田先生、教会で結婚式なんだって」
「そうらしいな」
「ブーケ、取れるといいな」
「ブーケ？」
「うん、花嫁さんが投げたブーケを取るとね。次に花嫁になれるの」
桐山は不思議に思った
オレも、美恵も中学生だ
憲法が改正されない限り、後３年は結婚できない
つまり、３年間は誰も結婚できないのか？
第一、ブーケ１つで結婚できるのなら、なぜ結婚相談所が存在するんだ？
桐山は、女の夢とやらに、はてしなく疎かった
「ああ、アタシも頑張ってゲットするわ。そして三村君と……」
「彰」
「あら、なあに？桐山くん」
「女は、そんなにブーケが欲しいのか？」
「やだ、当たり前じゃない。女の子の夢なのよ」
「美恵も欲しがっていた」
「もう、桐山くんって、本当に鈍感なんだから」
「そうなのかな？」
「そうよ。美恵ちゃんだって女の子だもの。欲しいわよ」
「そうか、わかった」
本当にわかっているのかしら？ヅキは心の中で呟いた
教会の扉が開いた
「先生おめでとう！！」
「幸せになれよな！！」
張り切ってライスシャワーを演出する男子とは裏腹に
「ブーケ、ブーケ！！」
と騒ぐ女子たち
「きゃあ、投げたわよ！！」
愛らしいブーケが宙を舞う
クルクルと回転しながら
瞳を輝かせて、懸命に手を伸ばす女子たち
ブーケが最高点に達した、その時だった
一番遠くから見ていたはずの桐山が
ほんの少し助走をつけただけで、数メートル飛んでいた
「えっ？！！！！」ｘ２１（＋オカマ１名）
空中でブーケをキャッチして、綺麗に着地を決める
呆然と見詰める男子たち、呆気に取られる女子たち……
「美恵」
クラスメイトたちを無視して、美恵の元に歩み寄る桐山
「……あ、あの和雄……」
「どうした、欲しかったんだろう？」
差し出されたブーケ……どうしよう？
「ちょっと、桐山くん！！男が取ってどうするのよ！！」
やっと我に還ったヅキの言葉に、女子たちは心の中で頷いた
本来なら、文句の１つも言ってやりたいところだが
何しろ相手は桐山和雄、そんな命知らずは１人もいない
「美恵が欲しがっていた、だから取った。いけなかったかな？」
「当たり前じゃない！！もうっ、あなたってホントにメチャクチャね！！」
せっかく三村君の為に、はりきっていたのに。という月岡
三村は心の中で桐山に感謝した
「あのね、和雄。それは最初に受け取らないと意味がないのよ」
世間知らずな桐山に美恵は優しく説明した
「最初に受け取った者にだけ効力があるの」
「そうか、オレは余計な事をしたんだな。すまない美恵」
「いいのよ。私、もうブーケなんて、どうでもいいの」
美恵は嬉しそうに微笑んだ
「和雄ありがとう」
なぜ、お礼を言われるのか桐山には理解できなかった
しかし、美恵は本当に嬉しそうだ
だから、余計なことは考えないようにした
その代わりに、全く別のことを考えた
「美恵、ひとつ聞きたいんだが」
「何、和雄？」
「それなら最初にブーケを取ったオレはどうなるのかな？」
「えっ？」
そう、女が取れば、次に花嫁になれる
では、男が取れば？
「そ、それは……」
美恵は答えに困った
「……女が花嫁になれるなら」
「キャッ！」
美恵は目を見開いた
予告も無く桐山が自分を抱き上げたのだ
「男は、次に花嫁をもらえるんだな」
「／／／／／っ！！！」
「なッッッッ！！！！！！！！！！」ｘ４１（＋林田）
お姫様抱っこされたまま、声もでない美恵
同じく、何も言えないクラスメイトたち
ねえ、知ってる？
ブーケを受け取った女の子は次の花嫁になれるの
でも、この二人が結ばれたかどうか
それは……後、数年先のおはなし
ＥＮＤ
