美恵 。いつまで待ってるの」
「待ってるんじゃない。祈ってるの」


「彼が生きてくれますように……って」
「だったら、どうしてここにいるの?」
「もしも彼が来た時……いてあげたいから」
「どうして、そこまで想うことが出来るのよ」


「貴子なら絶対にわかると思うよ」


「ずっと、ここで杉村くんを待ってる貴子なら」



HEAVEN




ぱららら!!!!!


またしても島中に響く音
そう、その爆音を発する物に
いや正確には、それを所有している人間に




勝てる奴などいない




ガサッ…!!


背後で物音、振り向くと同時に発砲した


ぱららら!!!


その銃口の先には……女がいた


「……天瀬!! 」


その瞬間、このゲームが開始されてから初めて桐山の心に衝撃が走った




天瀬……!! 」
地面にうずくまる美恵 に駆け寄る桐山

なぜだ?オレはゲームに乗った
だからクラスメイト全員殺すと決めたはずだ
それなのに、なぜオレは焦っているんだ?




「…桐…山…くん」
天瀬……? 」
おかしい、桐山は咄嗟にそう思った
出血どころか撃たれた痕さえ無い


外した?バカな、そんなはずは無い


戸惑う桐山(無表情ではあったが)に美恵 は言った
「……桐山くん、これに乗ったんだ」
その瞬間、思い出した。自分の選択を
そう、自分はゲームに乗ったんだ
再びマシンガンの銃口を美恵 に向けた
その時だった、美恵 が必死な表情で叫んだのは




「……お願い…ッ!!私、殺されてもいいから!!」
桐山は僅かに目を大きくした
「私、優勝するつもりなんてない。だから……」
美恵 は嘘をついているようには見えなかった
「だから……最後まで、そばにいさせて」




「最後に私と桐山くんだけになったら……私、殺されてあげるから」














(……なぜだ?)
自分の後を歩いている美恵 に桐山は、そう感じた
美恵 が自ら優勝を放棄したことも不思議だった
命と引換に自分のそばにいさせてくれと言ったのも
そして、なぜ自分は美恵 の希望を受け入れたのか?
もしかしたら最後に隙を見て自分を殺そうとしているかもしれないのに
だが、あの目……あれは嘘を言ってるようには感じられなかった
だが、もう一つどうしても納得できない事がある
(なぜ弾が当たらなかったんだ?)
至近距離だ。自分の手元も狂っていなかったのに




なぜだ?














ぱららら!!!


桐山の殺戮は続いた
今、相馬光子を殺したところだ
杉村と琴弾、そして今しがた死んだ光子の遺体が並んでいる




「……杉村くん」
美恵 は、そっと杉村の瞼を閉じさせ両手を組ませた
「寂しくは無いよ。貴子が待ってるから」
琴弾と光子も同じように瞼を閉じさせ両手を組ませた
「貴子……杉村くんだけの為に待ってるんだよ
……でも、ずっと祈ってた。『弘樹が死にませんように』…って」
そして3人の為に祈りを捧げた
自分はクリスチャンではないが、他に方法を知らなかったから……




「後、3人だ」
桐山は再び歩き出した
天瀬、いつまでオレについてくるんだ? 」
「え?」
「後、3人殺したらオレは次におまえを殺す」
「………」
「なぜ逃げないんだ?」
「……逃げる必要がないもの」
「?」
それは桐山でなくても不可解な返事だっただろう
「お願い……最後まで、そばにいさせて」




「なぜだ?」


それは、この数時間、ずっと桐山が抱いていた疑問だった


「なぜ、オレのそばにいたがるんだ?」


美恵 の頬を涙が伝わっていた


桐山は……なぜかはわからないが胸が締め付けられるような思いがした







「私……ずっと桐山くんのことが好きだったの」







『聞こえるかー、おまえたちー』
嫌な声が島中に響き渡った
その瞬間だった
美恵 が異常なくらいビクッとなったのは
『だいぶ少なくなってきたなー、では死んだ人を発表しまーーす』


……天瀬?


桐山は思った
何を、そんなに怯えているんだ?
『まずは男子。杉村弘樹くん』


……いや、言わないで


美恵は思った


お願い、あと少し……
……あと少しだけ時間を頂戴……


『それから女子は多いなぁ、1番・稲田瑞穂さん、2番・内海幸枝さん……』


……お願い、あと少しだけ……


『……17番・野田聡美さん、19番・松井知里さん……』


……天瀬?


美恵の様子がおかしいことに桐山も気付いた
怯えている、何かに
天瀬、どうして怯えているんだ?」







『そして最後は天瀬美恵さんでーす』







……今、何て言ったんだ?







『これで残り4人になりましたーー』


バカな……何を言っているんだ?


『聞こえてるかぁ、桐山、川田、七原、中川。
先生、おまえたちのこと誇りに思う』




……死んだ、天瀬が?
そんなはずはない、生きている
今、オレの目の前にいるじゃないか
そうだ、坂持たちはミスを犯しているだけに過ぎない
確率は低いが首輪が故障した、それしかないだろう

それしかないはずだ




なぜなら、美恵は生きているのだから




それなのに桐山は美恵が『生きて』そして『今、ここにいる』ことを
はっきりと自信を持って肯定できなかった




なぜなら……美恵が




とても悲しそうな表情をしていたから




「……聞いた通りよ、桐山くん」
「……………」
「私ね。本当は桐山くんと会う1時間も前に銃で撃たれたの」


――言うな――


「神様にお願いしたの。後、少し……後、少しだけ時間を下さい…て」


――言わないでくれ――


「奇跡が起きたの。ほんの少しの時間だけど。
だから……だから私は本当は……」


――頼むから、その先は言わないでくれ――


「本当は、ずっと前に死んでたの」









「言うなッッ!!!!!」









抱き締められていた


「……もういい、だから言うな」
「……桐山くん」


桐山くん、涙って生きてる人間の専売特許じゃないんだね


「ありがとう桐山くん」


ずっと言いたかった事は言えたから


天瀬?」


私、すごく幸せだった


「……天瀬?」


ほんの一瞬だった


美恵の身体がスゥッと透けたかと思うと


光の粒子となって消えたのは




「……天瀬」




『私……ずっと桐山くんのことが好きだったの』




「なぜだ?」




――生まれて初めてだった――




「……教えてくれ天瀬、オレはどうして泣いているんだ?」




――涙を流したのは――














「ねえ貴子、ここってどこの世界なのかな?」
「わからないわ。でも、あの世とこの世の境であることは確かよね」
「他のみんなは、もうあの世に行ったのよね」
そうだ、ここに来てから何人ものクラスメイトが来るのを見た
そして、去っていくのも
残っているのは貴子と美恵だけ
「そうよ、だからあんたも……」
と、言いかけて貴子が立ち上がった




「貴子?」
「……あ」
一瞬、貴子が泣きそうな顔をした
そして走り出していた
美恵にはわからなかった
遠くに人影がみえる、それも複数だ
クラスメイトとは限らない
ここに来てから顔も知らない人間を何人も見たのだ
誰なのか想像もつかない
それでも貴子は走っていた




「……弘樹ッッ!!!!!!」




「え?杉村くん?」
美恵にはわからなかった
あまりにも遠すぎてわかるはずがない
それでも貴子は一瞬でわかったのだ




「貴子ッッ!!!!!!!!」




そして杉村も走っていた
抱き締めあう二人を見て美恵は思った




貴子……良かったね




「杉村くんたちだけだったの?」
そう、杉村と、そして光子と琴弾は、ほぼ同時にやって来た
そして二人は、もうあの世とやらに旅立った
「ああ、オレたち3人は、同じ時間に死んだんだ。でも……」
そう言って、杉村が指差した
「もう一人来たようだな」
「え?」
美恵は見詰めた、そのひとを




「貴子、行こうか」
「ええ、そうね……美恵、今度はあんたの番よ」
杉村と貴子が去ってからも美恵は呆然と見詰めていた




「……神様ってイジワル」
「なぜだ?」
「一生懸命お祈りしたのに……」




「桐山くんは死なせないで下さい……て」
「オレも願ったんだ。聞いてくれるかな?」
「桐山くんの願い?」
「もう一度、天瀬に会いたい。そう願ったんだ。そしてかなったよ」














「桐山は死んだよ。オレが殺したんだ、典子さんじゃない」
それから川田はジッと桐山を見詰めた
「川田、どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。ただな……」
「ただ?」
「多分、気のせいだろうが……」




――最後に桐山はとても幸せそうな顔をしてたんだ――




~END~