桐山和雄、あなたは天瀬美恵
を妻とし
病める時も健やかなる時も
これを愛し敬うことを誓いますか?
――誓います
新婚さん、いらっしゃい♪
「んっ……」
チチッ……小鳥のさえずり、そして窓から差し込む朝日
美恵は、そっと目を開けた
「おはよう、美恵
」
モーニングコールは愛する旦那さまの低くはないが威圧感のある澄んだ声
「おはよう和雄」
ニコッと笑顔で答える
桐山は、そっと美恵
の前髪をかき上げた
「和雄、何時に起きたの?」
「1時間くらい前だ」
「相変わらず早いね。私なんか眠たくて……」
「なぜだ?」
「なぜ…って、和雄のせいじゃない。和雄が……」
と、言いかけて美恵
はハッとした。
ああっ、バカバカッ!!何言ってるのよ!!
思わず、はしたない事を口走ってしまい、布団にもぐる美恵
その様子が、余程可愛かったのか背中から抱き締める桐山
そう、二人は、ほんの一ヶ月前に結婚したばかりの新婚さん
一般に新婚夫婦はアツアツというが二人の場合は凄かった
アツアツどころか、沸騰しているのだ
と、いうか夫の桐山が、度が過ぎる位に新妻・美恵を絶愛しているのだ
毎朝、寝不足の美恵
より、ずっと早く目覚めても起床せず
その寝顔を、美恵
が起きるまで、
ずっと見詰めているのなんて、ほんの序の口
新妻・美恵
が朝食を作っていると後ろから抱き締めてくるので
美恵
は、なかなか料理が進まない
おまけに少しでも会社の近くに自宅をということで
会社の隣接地の土地を買収して屋敷を建ててしまったのだ
会社までは徒歩1分の距離
当然、昼休みはおろか暇を見つけては帰宅する有様だ
しかも仕事が忙しくて帰りが遅いと決ってバラの花束が届く
『すまない、今夜は遅くなりそうだ。先に寝ていてくれ』
メッセージには、そう書いてあるのだが美恵
は、どんなに遅くても桐山の帰りを待っているのだ
当然、夜は凄いらしい(………汗)
そのせいで美恵
は毎朝お疲れ気味なのに桐山はピンピンしている
とにかく甘ーーい新婚生活を満喫していた
「そう、よかったわ。美恵が
幸せで」
あんな冷淡な男と一緒になって心配したけど杞憂だったようね
貴子(学生時代からの美恵
の親友だ)はホッと胸をなでおろした
「うん、ありがとう」
本当に幸せそうな笑顔ね。でも……
「ちょっと疲れてるみたいだけど」
「……たいしたことじゃないの。和雄が寝かせてくれなくて」
「え”?」
『和雄が寝かせてくれなくて』
薄暗い地下室……
その中央に位置するテーブルに置かれた装置から聞こえる声
そして、その周りには怒りでワナワナと震える野郎ども
「クソッ、桐山ぁぁぁ!!!!!オレの美恵
を毎晩毎晩犯しやがって!!!!!」
テーブルを叩きつけ怒りに燃えるサードマン
「何なんだっ!!あいつは何なんだっ!!!?」
そして続くはワイルドセブン
「いくら夫婦だからって、やっていいことと悪いことがあるだろうっ!!!」
怒りのあまり、わけのわからないことを口走る某拳法家
「結婚したとたん本性現しよったな。恐ろしい奴だ」
フゥ……感情を抑える為に口にした煙草の煙を吐く男
そう、美恵
と貴子の会話は盗聴されていたのだ(汗)
そして彼等は自称『桐山の魔の手から美恵を守る会』のメンバーたち
桐山と彼等の戦いは結婚前から始まっていた
桐山は愛する美恵と結婚するために彼等と戦い勝利した
しかし、なんというこか!!まだ、あきらめていなかったのだ
それは結婚初夜の事だった
ホテルのスィートルームの高級ダブルベッドの上
緊張のあまり枕を抱き締める美恵
桐山は……シャワーを浴びている
シャワーの音が止んだ
美恵の緊張は一気に臨界点突破寸前だ
ああ、ついに……この時が来てしまった
どうしよう……きっと和雄がリードしてくれるだろうけど
……でも、でも……やっぱり怖い……
「美恵」
ビクッと反応する美恵
「大丈夫だ。なるべく優しくするから」
そういって、まるで壊れ物を扱うように、そっと抱き締めてくれる
「……う、うん」
静かにベッドに背中から押し倒され
美恵
は目を瞑った
「「「「ちょっと、待ったーーー!!!!!」」」」
突然、ドアが開け放たれた!!!!!
「え”」
ショックで固まる美恵
「……三村、七原、杉村、川田……何の用だ?」
メチャクチャ冷静な桐山
「ふざけるな桐山!!美恵
はオレ達の女神だぞ!!勝手なことされてたまるか!!!!!」
「三村の言うとおりだ!!結婚したからって美恵
さんを好きにされてたまるか!!」
「おまえがやろうとしている事は婚姻権の濫用だぞ!!天瀬を離せ!!!
」
「……桐山、あんまり言いたくはないがな、おまえ非常識だぞ」
ちなみに上から三村、七原、杉村、川田
耳まで真っ赤になり微動すら出来なくなった美恵
その後のことは記憶にすらない。しかし他の5人はしっかり覚えてた
その後の修羅場を……
美恵
との甘い初夜を邪魔された桐山
表情にこそ出さないが、当然怒り心頭である
しかし、それは三村達も同じだった
桐山は立ち上がるとツカツカと近づいて
予告も無しに、三村の胸倉を掴んだ!!
早くも血の嵐か!!?と、思いきや
三村の胸ポケットから財布を奪った
呆気に取られる4人を無視して他の三人のも
まさか、あの金持ち桐山が窃盗?
もちろん、そんなはずは無い
桐山は、財布の中から、あるものを取り出すと財布は床にほかった
それは――美恵
の写真だった
「「「「オレの宝を!!どういうつもりだ!!?」」」」
「オレ一人の権利だ」
桐山は淡々と言い放った
「美恵
は、もうオレの妻だ。だから美恵
の写真を所持する権利はオレだけのものだ」
「「「「……な、なんだとぉ……」」」」
「おまえたちが持つのは肖像権の侵害だ」
桐山は、さらに続けた
「はっきりさせておくが、美恵
はオレだけの女だ」
「美恵
と一緒に暮らせるのも」
「美恵
とキスできるのも」
「美恵
を抱けるのも」
「「「「………ッ」」」」
「60億でオレ一人だ」
「「「「ッッッッッッ!!!!!!!!!!」」」」
「もう一つ言っておく」
「美恵
の半径100メートル以内に近づくな」
ゆ…
ゆ…
ゆ…
許せないーーーッッ!!!!!
「畜生ッッ!!!!!桐山の野郎ぉぉ!!!!!
ふざけやがってぇぇぇ!!!!!
オレには美恵
の気持ちがわからない!!!
あの桐山の、どこに惚れたのかッ!!!!!
顔は無愛想!!頭は理解不能!!性格、無機質!!家柄、ド派手!!!
こうなったら、別れさせてやる!!!!!
美恵
の目を覚まさせてやるッ!!!!!
桐山の魔の手から救い出してやるんだ!!!!!
その為なら、どんな卑劣な手段をも正当化してやるッ!!!!!」
こうして『桐山の魔の手から美恵
を守る会』
平たく言えば『桐山と美恵
を離婚させてやるッ!!の会』が発足
会長・三村を筆頭に、副会長・七原、最高顧問・川田、書記長・杉村で構成されている、
実にアホらしいバカ組織なのだ
しかし、活動を始めた彼等を襲ったのは、ジェラシーに耐える日々だった
「おかえり和雄、早かったのね」
「今日は大切な記念日だからな」
「覚えててくれたの?」
感極まって桐山に抱きつく美恵
それにしても……今日は何の日?
「当然だ。オレたちの交際記念日だからな」
……そう、この日は二人が恋人として付き合うことになった日
ちなみに、告白記念日、初デート記念日、ファーストキス記念日なんかもある
「……桐山の奴……見せつけやがって」
望遠レンズを持つ三村の手がワナワナと震えていた
「はい、和雄。アーンして。美味しい?」
「不味くはないな。だが美恵
の手料理の方が、ずっといい」
「……高級レストランで何やってるんだよ」
一杯のドリンクで1時間も粘る七原
なぜなら高すぎて料理は頼めなかったのだ
「ねえ和雄。この服どう?似合う?」
「美恵
は何を着ても綺麗だと思うよ」
「でも嬉しい。和雄と二人っきりでショッピングなんて」
「……二人っきりのはずだ。六本木ヒルズを貸しきったんだからな」
店員に変装して遠くから睨む杉村……ちょっと怖い
「……和雄、早く帰ってきてね」
涙目の美恵
を抱き締める桐山
「和雄が帰ってこなかったら私……」
「大丈夫だ。美恵
が待っている限り、オレは必ず帰ってくる」
そして、美恵
の顔を両手で包み込み見詰めた
「だから、もう泣くな。美恵
が泣いたら、オレはどうしたらいいのかわからないんだ」
「……たかが二日の出張で……何やっとるんや」
まるで戦争映画のワンシーンを鑑賞している錯覚におちいる川田
「……クソッ、別れる気配が全く無い」
三村は焦った
「桐山くらい地位も金も揃ってる奴なら浮気の一つや二つあっていいはずなのに」
「……自分を基準に考えるなよ三村」
「このままじゃあ、離婚どころか家族が増えるのも時間の問題やな」
「とにかくだ。桐山の弱点を見つけるんだ」
「どうやって?」
「奴のプライベートを徹底的にマークするんだよ」
「そんなこと言っても桐山には全然隙がないんだぞ」
「……いや、いくら奴でも家の中では自分をさらけだすはずだ」
そう言って、三村はニッと笑みを浮かべた
「と、いうわけで桐山家のベッドの下に盗聴器を仕掛けておいたんだ」
「早速、盗聴するか」
そう言って装置をON
『今日はビーフストロガノフよ。和雄に食べて欲しくて一生懸命作ったの』
『それもいいだろう。でもオレは、美恵
を食べたい』
「「「「何だとぉぉぉ!!!!!!」」」」
『……美恵
』
『だ、ダメ……和雄』
『何故だ?オレたちは夫婦だから、かまわないんじゃないのか?』
『でも…こんな時間に。……後でいいでしょ?』
『美恵
が、そういうのなら』
『じゃあ私、食事の支度するね』
それからバタバタと足音が遠ざかっていくのが聞こえた
よかった……とにかく危険は回避された
4人は、そっと胸をなでおろした。
『盗み聞きは楽しいのか?』
「「「「ッッッッッ!!!!!!!!!!」」」」
『聞こえなかったのか?オレは質問したんだ』
「な、な、な……おまえ気付いてたのかぁぁーー!!!」
『一ヶ月前から』
「ふ、ふ、ふざけるなぁぁ!!!オレたちをコケにし……ん?」
「「「「なんで、おまえにオレたちの会話が聞こえてるんだ?」」」」
『テーブルの真下を確認しろ』
そこには盗聴器が……そして
『オレは言ったはずだ。美恵
に近づくなと』
「何だと!!!」
『美恵
はオレ一人のものだ』
「そんな勝手なこと絶対に認めないからなッ!!!」
『そうか、それなら三村』
桐山の冷たい声が一気に威圧感を増した
『オレからの特別プレゼントだ』
「「「「え?」」」」
次の瞬間、はるか彼方の空からキラリと何かが光った
そして
ドッキュウゥゥゥーーーンッッ!!!!!
「和雄、食事にしましょう」
「ああ」
美恵
はテーブルにつくとリモコンのスイッチを押した
『緊急特別番組です』
『先ほど、城岩町の城岩第二ビルが何者かによって破壊されました』
『ビルは跡形も無く崩壊され、周りの建物には一切被害が無いことから
専門家は爆発物ではなく、衛星からの局地レーザー攻撃と断定
しかし、誰が、何の目的で、このような攻撃を仕掛けたかは一切不明
政府は特別チームを編成し、捜査にあたると……云々』
「この近くよ。怖いね和雄」
「ああ、そうだな」
その後、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ
メデタシメデタシ
