オレは全てを失おうとしている
だから……
……死ね!!
愛してるよ美恵
この世で最も美しい美恵
この世で唯一至上なもの美恵
誰にも君を奪わせはしない
たとえ、それが君を悲しませることになろうとも
いつもなら…こんなことはしない
君を傷つけたり乱暴なことは絶対にしない
でも……おさえられないんだ……
そして強引に顎をつかみ、その美しい顔をオレの方に向かせた
美恵の唇に自分のそれを近づけた
美恵は素早く顔をそむけた
瞼を閉じ、唇をかみ締め、俯いている強い拒絶
でも甘いよ美恵
その程度の抵抗でオレは止められない
美恵の肩を乱暴に掴み強引に引き寄せ抱きしめた
「―――!!!」
「これ以上のことをしたら……舌をかんで死ぬわよ」
「……そんなに、あいつが好きなのか?」
美恵は無言のまま頷いた
「……愛しているのか?」
「命をかけて」
任務内容は”プログラム”を円滑に進行させること
奴等に姿を見せず
かつ、その存在を決して悟られず
プログラム進行が滞った場合にのみ行動すること
最初のクラスは揃いもそろった臆病者の集まり
ひたすら隠れるだけで話にならない
クラスメイトの仕業に見せかけて一人を片付けた
それだけでよかった簡単だ
火が付いた疑心暗鬼は恐怖へ移行
さらに殺意へと加速
お互いにクラスメイトを殺し合い決着が着くまでに一日もかからなかった
ひとの心ほど不確かで変わりやすいものはない
美恵の心も……
だがオレの目的は全く別だ
オレのターゲット、ほら、あそこにいる
今、残った三人と死闘を繰り広げている
このゲーム開始以来、オレはあいつをつけていた
もちろん近くにはいけない
だがオレには高性能の首輪探知機と双眼鏡
何より、この高性能ライフルがある
どれも、このクラスに支給された武器より数段上だ
あいつはゲームの優勝候補の最右翼
現にクラスの三分の一は奴に殺られた今でも三対一という状況にもかかわらず追い詰められているのは相手の方だ
あいつには死んでもらう
そのために志願したんだ
このクラスの奴に殺されてくれれば一番都合がよかった
それなのに……どいつもこいつも、あいつの敵じゃない
役立たずな連中だ
オレはライフルの照準を合わせた
女があいつに向かって銃をかまえた
だがダメだ
まるでなってない
あれじゃあ数メートルもずれて、あいつは無傷だ
あいつもわかっているのだろう
冷静な表情がまるで崩れていない
でも……おまえは死ぬんだ……今ここで
おまえが当たるはずはないと確信している女の撃った銃で
そして…
あいつの顔に赤い点が一つ
しかも、あの震えている細腕では銃の反動に耐えられないはず……
なぜ……?
なぜ……だ?
なぜ……オレに命中した弾は……
この弾は……まるで違う方向から飛んできた……?あ…れは……?
誰だ……?
ずっと背後に感じていた……あの気配……
月岡でもない……稲田でもない……
気のせいじゃ……なかった……のか……
まさか気付いたのか?
いや…そんなはずはない
現に生き残っている、あの三人もまるで気付いてない
あの女が殺した……そう思っている
奴らも、そして政府の連中さえも
もう誰にも奪われることはない
勢いよくドアを開いた
美恵がお気に入りだと言っていた絨毯の上で……
絨毯の色を覚えている……絨毯は、絨毯の色は……白だった
美恵の好きな純白…それなのに……どうして