おまえは全てを奪おうとしている

オレは全てを失おうとしている

だから……

……死ね!!






消愛―後編―




愛してるよ美恵

この世で最も美しい美恵

この世で唯一至上なもの美恵

誰にも君を奪わせはしない

たとえ、それが君を悲しませることになろうとも






ダンッッ!!

いつもなら…こんなことはしない

君を傷つけたり乱暴なことは絶対にしない

でも……おさえられないんだ……











「……痛いっ…!」
美恵の美しい顔が僅かに歪んだ
それを見た瞬間、胸の奥が痛んだ
それでも止まらないんだ


背中から壁に叩きつけられ、うめく美恵
それ以上にショックを受けているのがわかる
たったひとりの幼馴染に……兄弟と思い信頼していた相手に手痛い仕打ちを受けたのだから




「…やめて…痛い…」
「なんで……なんで、あいつなんだ?」
「離して…」
「あいつらが勝手に決めたんだろ?」
「……違う」
「なら、どうして……?」
「私が自分の意志で決めたの」
「……嘘だ」
「本当よ」
「……認めない」
「お願い、わかって」
「オレのほうが、ずっと美恵を愛している」
「………」




オレは美恵が逃げないように顔の横についていた手をはなした

そして強引に顎をつかみ、その美しい顔をオレの方に向かせた

美恵の唇に自分のそれを近づけた

美恵は素早く顔をそむけた

瞼を閉じ、唇をかみ締め、俯いている

強い拒絶

でも甘いよ美恵

その程度の抵抗でオレは止められない

美恵の肩を乱暴に掴み強引に引き寄せ抱きしめた











「……舌をかむわ」

「―――!!!」

「これ以上のことをしたら……舌をかんで死ぬわよ」

「……そんなに、あいつが好きなのか?」

美恵は無言のまま頷いた

「……愛しているのか?」

「命をかけて」






力づくでも手に入らない……そう、あいつがいる限り









オレは任務の最中だ

任務内容は”プログラム”を円滑に進行させること

奴等に姿を見せず

かつ、その存在を決して悟られず

プログラム進行が滞った場合にのみ行動すること




この任務についたのは二度目だった

最初のクラスは揃いもそろった臆病者の集まり

ひたすら隠れるだけで話にならない

クラスメイトの仕業に見せかけて一人を片付けた

それだけでよかった簡単だ

火が付いた疑心暗鬼は恐怖へ移行

さらに殺意へと加速

お互いにクラスメイトを殺し合い決着が着くまでに一日もかからなかった




そんなものだ人間なんて

ひとの心ほど不確かで変わりやすいものはない

美恵の心も……











二度目の任務……志願だった

だがオレの目的は全く別だ

オレのターゲット、ほら、あそこにいる

今、残った三人と死闘を繰り広げている

このゲーム開始以来、オレはあいつをつけていた

もちろん近くにはいけない

だがオレには高性能の首輪探知機と双眼鏡

何より、この高性能ライフルがある

どれも、このクラスに支給された武器より数段上だ











あいつはゲームの優勝候補の最右翼

現にクラスの三分の一は奴に殺られた

今でも三対一という状況にもかかわらず追い詰められているのは相手の方だ

あいつには死んでもらう

そのために志願したんだ

このクラスの奴に殺されてくれれば一番都合がよかった

それなのに……どいつもこいつも、あいつの敵じゃない

役立たずな連中だ

オレはライフルの照準を合わせた

女があいつに向かって銃をかまえた

だがダメだ

まるでなってない

あれじゃあ数メートルもずれて、あいつは無傷だ

あいつもわかっているのだろう

冷静な表情がまるで崩れていない

でも……おまえは死ぬんだ……今ここで

おまえが当たるはずはないと確信している女の撃った銃で






女が撃った……同時にオレも……

そして…

あいつの顔に赤い点が一つ











崩れるように倒れていく









そんなバカな……照準は合ってなかった……

しかも、あの震えている細腕では銃の反動に耐えられないはず……

なぜ……?

なぜ……だ?

なぜ……オレに命中した弾は……

この弾は……まるで違う方向から飛んできた……?









崩れるように倒れる









あ…れは……?

誰だ……?

ずっと背後に感じていた……あの気配……

月岡でもない……稲田でもない……

気のせいじゃ……なかった……のか……











美恵っ……!!!









崩れるように倒れた









一瞬こちらを見ていた

まさか気付いたのか?

いや…そんなはずはない

現に生き残っている、あの三人もまるで気付いてない

あの女が殺した……そう思っている

奴らも、そして政府の連中さえも











美恵!!




任務が終ってオレは飛ぶように美恵のマンションに向かった

もう誰にも奪われることはない




美恵会いたい今すぐに!!




美恵!


美恵!!


美恵!!!









美恵!!」









バーンッ!!

勢いよくドアを開いた




美恵、どこにいるんだ?」

オレは探した。美恵を
キッチン、リビング、そして寝室……


「……美恵?」









美恵は静かに横たわっていた

美恵がお気に入りだと言っていた絨毯の上で……











「……美恵?」









先月、彼女に招待された時の事が瞬間的に脳裏に浮かんだ

絨毯の色を覚えている……絨毯は、絨毯の色は……白だった

美恵の好きな純白…それなのに……どうして











「……どうして赤いんだ?……美恵……」









どうして………?









―――あいつを愛しているのか?









―――ええ、彼を愛しているわ。命をかけて



















―――命をかけて









END




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