おまえは全てを持っている

オレには何もない

だから……

……死ね!!






消愛―前編―




好きだよ

この世で最も綺麗な

この世で唯一大切なもの

君は誰にも渡さない

たとえ君が、それを望んでいなくても












「なに?」
「………… 」
「もう甘えん坊なんだから」


オレは、いつも、こうやってを抱きしめる

後から、そっと腕をまわして

肩に額を預けて

静かに目を閉じるんだ

君の髪はとてもいい香りがして

抱きしめた体はとてもあたたかくて

まるで陽だまりみたい

こんな日が、ずっと続くと思っていた

『終わり』なんて来ないと思った


……永遠に……











オレとは孤児院で一緒に育った幼馴染
けれども中学にあがる頃、離れ離れになった
理由は簡単
オレは特殊な才能の素質を買われ軍の施設---工作員養成施設だと後で知った---に
は父方の身内に引取られることになったからだ









どうした?泣いてるのか?」
「そうじゃない。ただ不安なだけ……今さら家族になんてなれっこない」
一息ついてからは一気にトーンを上げて思いの丈を吐き出した
「そうでしょう!?だって母さんを追い出した人たちなのよ」
「………」
「名家の息子にはふさわしくないって、金持ちの娘じゃない……。
たった、それだけで私の両親の結婚を認めなかった傲慢な奴らなのよ……」
「………」
「駆落ち同然の結婚だから勘当。……その両親も私が小学校あがるまえに事故で死んだわ」
「………」
「……私のことだって……あの女の娘だからって……。
関係ないって言って…引取るどころか会いに来てもくれなかったのに……」
「………」
「他に後継ぐ人間がいないからって、手の平返したように肉親面するなんて!!」









はオレには全てを打ち明けてくれていた
の父親が大金持ちの息子で庶民の娘と恋におち、家族の反対を押し切って結婚して生まれたのが彼女
それが原因で父親は家族や親戚に絶縁された
父親の家族はに冷たかった
両親を亡くしたを見捨てたからだ
でも、の父親の兄たち---つまりの伯父たち---は子供に恵まれず
半年前、の祖父が、たった一人の孫であるを引取ることを決めたらしい









「オレ、を迎えにいくよ」
「え?」
「必ず迎えに行く…だから」

オレは本気だった

でもは悲しい瞳のまま、笑顔をつくって言ったんだ

「……ごめんね。あんなところに入れられる、あなたに比べたら……私、恵まれてるのに……」

オレは本気だったんだよ

「私がなぐさめてやらなきゃいけないのに」

オレは本気だよ

「-----だけだよ」
「?」
「私の家族は、あなただけ。たった一人のかけがえのない兄弟だもの」


兄弟……オレはの兄弟……









奴等に引取られた後も変わらなかった

月に一度はオレに会いに来てくれた

オレには何もない

しかいない

さえいれば誰もいらない

オレたちはずっと一緒だ




ずっと……









「おい、1153に会いに来る女、知ってるか?」
「ああ、いつもボディガード付きで来る美人だろ。どこのお嬢様だよ」
財閥総帥の孫娘だとよ」
財閥の!?そんな女が、なんで1153なんかと?ちくしょー羨ましいぜ。もしかして逆玉かよ」
「そんなわけないだろ。上官が噂してるの聞いたんだけど、あのお嬢様、婚約したらしいぜ。相手は大財閥の跡取息子だってよ」









ずっと・・・一緒・・・









その男は全てを持っていた

知的で端麗な容姿

天才としか言いようの無い才能

名門の家柄



そして

の愛さえも









オレには何もないのに

しかいないのに











それなのに、たった一つのものを奪おうとしている

おまえは全て手に入れようとしている

オレには何も残らなくなる

だから……

……死ね!!






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