オレにはひとには言えない悩みがある
まずは二人の人間を紹介しよう
一人目はオレの親友・桐山和雄
二人目はオレの妹・川田美恵
二人ともオレにとってかけがえのない人間だ
と、同時に悩みのタネ……
川田の苦悩
「……章吾……」
「なんや和雄、どないしたんや?」
いつも無表情な、こいつが落ちこんどる
考えられる原因はたった一つ
「美恵と何かあったのか?」
今にも泣きそうな顔でコクコクと頷く和雄
「また怒らせたのか?原因は何や?」
すると和雄はスッと右手をあげ指差した
その指した指の先にいるのは……
「オレーー?!!」
コクコクと頷く和雄、フラッパーパーマが微妙に揺れる
「……章吾のせいだ」
「な、なんでや?!」
「……あやまれ章吾」
オレは取りあえず話を聞くことにした
最近、和雄は機嫌が悪い
と、いうのも美恵
が、隣町で不良にからまれている時、助けてくれた優男のことを、やたら気にかけているからだ
何でも、いいとこの若様の分際で、不良の頭なんかやっとる
頭脳明晰・容姿端麗という、ちょっと聞くだけで、和雄でなくてもムカつく男
幼馴染で仲のいい美恵を盗られるんじゃないかと和雄は気が気じゃないらしい
そんな和雄は、オレに相談を持ちかけてきた
どうしたら美恵の心をしっかりものにできるか……
なんて、いじらしいんや……オレは素直に感動した
で、月並みだがアドバイスした
『おまえの気持ちを精一杯伝えたらええやろ?美恵、おまえが好きや、誰にも渡したくない、付き合ってくれってな』
「章吾の言うとおりにしたら美恵が怒った」
「どんな告白したんや」
和雄は語った
国語の授業――本日の課題は作文
「さあ書けたかな?じゃあ誰か発表して」
手を上げたのは、なんと和雄
いつも授業は寝てばかりなのに珍しい
「じゃあ桐山」
立ち上がって作文用紙を読み上げる桐山……ああ、悲劇は、この時すでに音をたてて近づいていたのだ……
「オレは最近とても不安だ。自分でも抑えられない感情に振り回されている。苦しくて仕方ない。
なぜ……なぜだと自分に問い掛けても答えは出ない」
クラス中がきょとんとした表情で桐山を見詰めた
まるで、ポエム……本日の御題は『五月雨』なんだが……
クラスメイトたちの疑問をよそに和雄の朗読は続いた
「なぜならオレの悩み……それは、美恵だからだ」
「……えっ?」
突然の名指しに驚く美恵。だが驚くのはまだ早かった
「あいつと出会ってから美恵は変わった。いつも、あいつの話ばかりする。オレはあいつが嫌いだ。
あいつのせいでオールバックの奴を見かけただけで何人も病院送りにしてやった。
今月は三人、今のところ少ない」
その内容は、もはや学校で書く作文ではなかった……
「オレはずっと前から美恵が好きだった」
「……!!」
突然の告白!!って、いうか皆みてるんですけど!!!!!
「幼稚園の頃からずっとだ。いつか美恵と結婚してオレの子を産ませてやろうと思っている」
「……な、な…ちょっと……」
あせり出す美恵!!
クラスメイトたちすら呆然としているのだ、当の本人があせらないはずがないっ!!!!!
「オレは本当に美恵が好きだ。その唇を奪ってやりたい。
その首筋にオレの愛のシルシをいくつもつけてやりたい。そして……」
「……………」
ショックのあまり声もでない美恵
「その華奢な肉体を抱きしめ、そっとオレの腕の中で愛を交わしたい」
「……き、き、き、桐山ーーー!!!!!き、き、君、何て事をーーー!!!」
顔面蒼白で走ってくる林田先生!!
教師としての使命、和雄の暴走を止めねば!!今すぐに!!!
が!!和雄のヒジ打ち一発で敢え無く気絶、邪魔者がいなくなった和雄の朗読は、真っ青な美恵
と、真っ赤なクラスメイトの前でさらにエキスパートした
「オレは美恵のXXXをXXXしてXXXしたい。そしてXXXして、XXXXXX………」
もはや誰も和雄を止められない。
その官能と欲望に満ちた一大叙事詩はこうして全力疾走して幕を閉じたのだ
その後、正気を取り戻した林田に職員室に呼ばれたのは言うまでもない
「……………」
言葉を失う川田
……すまん美恵……兄ちゃん、このアホを見くびってた……
「美恵が口をきいてくれない」
「……あ、当たり前だろうが!!何考えとるんやっ!!!」
シュンとする和雄
妹の心情を思うと、兄として腹も立つが、その姿をみると気の毒にもなる
なんと言っても和雄は本当に美恵を愛しているのだ
「……わかった、オレがとりなしてやるから」
「それだけじゃダメだ」
「どうすればいいんや?」
「このままじゃ美恵を、あのオールバック野郎にとられる……だから先手をうつ。協力しろ章吾」
「先手?」
「今夜、美恵の部屋に行く、家の鍵あけておけ」
……シーン……
「あ、あ、アホかぁぁ!!!おまえ、誰に向かって頼んどんのや!!オレは一応、兄貴だぞ!!
どこの世界に、妹に夜這かけようって奴に、手え貸す兄貴がおるんや!!!」
「……章吾のケチ」
オレにはひとには言えない悩みがある
まずはオレの親友を紹介しよう
オレにとってかけがえのない親友だ
と、同時に最悪の頭痛のタネでもある……