どうして、あんな乱暴な事するんだろう?
普段は、すごく大人しい(はぁ?)のに……
昔は、あんなに優しかった(おいっ!)のに……
THE YOBAI―桐山編―(後編)
美恵とカズオは幼稚園の門をくぐった時からの仲だった。
確かに他人と比べるとちょっぴり(ちょっとか?)変わった面はあったが、
カズオは(基本的には)美恵に優しく、二人の関係は、とても仲のよい幼馴染として、常に穏やかな時間を刻んでいた。
それなのに最近は、ずっとあんな感じ……突発性凶暴病にかかったとしか思えない。
(あるのかよ、そんな病気)
だが、鈍感な美恵は、まるで気付いてなかった。
美恵が命名した『突発性凶暴病』が発症しだしたのは、美恵が三ヶ月前、カズオにこう告げた時からだと。
「聞いてカズオ。私、彼氏ができたの」
「さてと、今日は腕によりをかけなくちゃ」
と、はりきってエプロンをかけた美恵
「そう言えばカズオったら、食べに来るって言っただけでリクエストしてないじゃない」
仕方ない。幼馴染の知識をフル活用してカズオの好物を作るとするか。
数時間後
「何よ!!結局来なかったじゃない!!もう寝るから!!」
怒り心頭の美恵、でも……
「あっ、いけない」
机の上に大切に飾ってある。写真立て。おさまっているのは、もちろん最愛の彼。
「おやすみ和雄……チュッ」
10分もしないうちに、美恵はすでに夢の中。
静まり返った部屋の中、草木も眠る丑三つ時……
ギギギィ……しっかり鍵をかけたはずのドアがゆっくりと開いた。
暗闇にもかかわらず真直ぐ美恵に近づく影が一つ……。
『それ』は白雪姫と化した美恵の顔を覗き込み、熟睡している事を確認すると、おもむろに洗面所に向かった。
さらに美恵使用済みのピンクの歯ブラシを手にするとポケットの中へ……
そして寝室に戻るとタンスを開け肌着を数点物色、やはりポケットにしまった。
仕上げに美恵が命の次に大切にしている机の上の和雄とのツーショットの写真を見つけると、
怒りに震えながらも、中の写真を取り出し和雄の頭部部分を切り捨て、その上に何かを貼り付けた。
ふいに月明かりが部屋を照らす。
光に反射され輝く金髪、息を呑むかのような美貌……
『自分の頭部写真を貼り付けた』間抜けな即席合成写真を持つ男は
紛れもなく今日美恵に招待をうけながら、約束をすっぽかした桐山カズオ、そのひとだった。
その男が今さら、なぜ夜の訪問者と化しているのか?
「……んっ…」
カズオの存在に全く気付かず寝返りをうつ美恵
その愛らしい様子を(なぜか正座して)見詰めていたカズオだったが、
ふいに両手を顔の前で合わせた。そして……
「いただきます」
ぱらららっ!!!!!!!!!!
「キャーーーー!!!」
飛び起きた美恵、突然の爆音、部屋に立ち込める硝煙、
次の瞬間ドアを蹴破り一つの影が飛び込んだ。かと思うと、即体勢を立て直し同時に発砲!!
ぱらららっ!!!!!!!!!!
「美恵、無事か?」
「か、和雄!!どうしたの?!」
いきなりの超ヒートに状況を把握できない美恵、その瞳に映った、もう一人の男。
「カズオ?ど、どうしてここに?どういうこと和雄、説明して!」
「話は後だ」
桐山が再びイングラムを構えた。
「……クッ!!」
予想してなかった桐山の登場により完全に勝機を逃したカズオは窓からジャンプ、からくも逃げ切った。
後には静かにイングラムの銃口をさげた桐山と、今だに茫然自失の美恵が取り残された。
「……和雄?……ねぇ、何があったの?」
何があったのかはわからないが、とにかく今自分がやらなければならないことだけはわかっていた。
美恵は和雄の頬を両手で包んだ。
相変わらず無表情ではあったが、その瞳の奥には、大切なものを失ったかもしれない恐怖と、それを守りきった事の安堵が交錯している。
もちろん美恵にしか気付かないだろう。
心配そうに桐山の瞳を覗き込む美恵。
桐山はそっと美恵の左手に自分の右手を添えた。
「美恵が無事でよかった」
「……まさかカズオは!!」
桐山は無言のまま頷いた。
「でも、どうして和雄がすぐに駆けつけられたの?」
「あいつの様子が変だったから、隣の部屋を借りていたんだ」
「私のために?」
「ああ、そうだ」
「和雄!!」
その言葉が終らないうちに美恵は桐山に抱きついていた。
「和雄大好き」
「オレも美恵を愛している」
「和雄…」
美恵の唇に桐山のそれが重ねられる。桐山の想いを唇に感じながら、美恵は思った。
それにしても、幼馴染に対してコソドロしようだなんて!!お金に困ってるのなら素直に言えば貸してあげるのに。
明日はたっぷりお仕置きしなきゃ!!
……美恵はとことんお人よしだった。
が、美恵は知らなかった。
いったんは逃げたカズオが、こっそり戻っており、タイミングの悪いことに二人のラブシーンを目撃してしまったことも。
カズオに気付いていた桐山が、トドメを刺す為に、さらに濃厚な行為を求めてきたことも。
そして衝撃のあまり非行に走ったカズオが、その後プログラムに志願したことは言うまでもない。
メデタシメデタシ
完
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