容姿端麗・頭脳明晰・勉強もスポーツも常にトップ、おまけに名家の御曹司。
にもかかわらず、城岩中学校はおろか県下の不良のカリスマ。
襟足がいささか長い特長的なオールバックの『桐山和雄』
その美貌とは裏腹に、どこかだるそうな感じ。
にも、かかわらず、その奥底には他人の想像もつかないくらいの独裁的な欲望を持ち、そのため凶暴な面を持つ、
金髪フラッパーパーマの小悪魔『桐山カズオ』
全く正反対な同姓同名の二人だが、一つだけ共通点があった。それは……。
THE YOBAI―桐山編―(前編)
3年B組女子の調理実習。本日のメニューはクッキー。
「「「「「はい、七原(秋也)クンっ!!!」」」」」
「……あ、ありがとう」
「千草ぁ。オレに食べてもらいたいんだろ?意地はるなよ」
「あんたにやるくらいなら、生活指導の陰険教師・坂持にやったほうが、ずっとマシよ!!」
「はい、和くん」
「美味しそうだなぁ。サンキュー、さくら」
七原ガールズの攻勢にクラス中の男子生徒の羨望の眼差しを感じながら
オレ…本当は美恵さんのクッキーがほしかったなぁ……
と、ちょっぴり残念がるものが一人。
「はい弘樹」
「いいのか貴子?」
「しょうがないでしょ。あんた以外にあげる義理がある奴なんていないもの」
クラス一の美少女のクッキーを手にして嬉しくないわけがないが
天瀬は誰にやるんだろう?
と、気にせずにはいられないものが一人。
「千草のやつ、オレがこんなに下手に出てやってるんだぞ。
本当なら天瀬から貰いたかったのを我慢してやってるっていうのに」
と、救いようのない勘違い野郎が一人。
いや、彼らだけではない。
あの超プレイボーイ・三村や一見女に縁の無さそうな川田でさえほしがっていたのは、クラスのアイドル・天瀬美恵のクッキーなのだ。
なぜ、アタックしないのかというと……
「和雄、美味しい?」
「美恵の作ったものが不味いわけないだろう」
「よかった」
「お、オレが憧れた硬派なボスが……」
「ちっくしょー、いいなぁボス。羨ましいぜ」
「本当に微笑ましいわぁ。でも…」
「そうだよなぁ…。ボス一人なら問題ないんだけどよぉ…」
「こんな場面、あいつが見たら只じゃあすまないぜ」
「ほんとよネェ。いいかげん、あきらめればいいのに……」
と、その時
ガラララっ
その平穏を破るかのようにドアが開いた。クラス中の視線が集まる。学ランを前開きに着た金髪の美少年。
次の瞬間、桐山を除く全員が青ざめ、その少年と桐山を交互に見詰めた。
「美恵……」
「カズオ、どうしたの?」
「美恵に会いに来た……」
「会いに来たって…今、授業中だよ。カズオはC組じゃない」
「……それ」
「えっ?」
「……そのクッキー…」
「もしかしてカズオ、クッキー欲しかったの?」
カズオはコクンと頷いた。まるで見捨てられた仔犬のような悲しげな瞳で。
「ごめんね、でも…」
でも、これは和雄にあげるって約束してたから…そう告げようとした美恵の言葉を待たずにカズオは、すっと指をさした。
「食べてる」
「えっ?」
「美恵のクッキー……食べてる」
先程の悲哀溢れる表情はどこへやら
カズオの目は一気に鋭く冷たくなった。おまけに全身から殺気が漂っている。
……ま、またか!!頼む、桐山!!奴を無視してくれ!!!
クラス中が祈った。どうか、無事嵐が通過してくれますように!!
ああっ!!神様!!
が、クラスメイトたちの祈りは無残にも木っ端微塵にくだけ散った。
「美恵、もっとくれないか」
あああああっっっ!!!!!!!!!!
神も仏もないのか!!!!!!!!!!
オーマイッガッッァァァァァ!!!!!!!!!!
そう、全く正反対のダブル桐山唯一の共通点それは同じ女を熱愛していることなのだ。
「…桐山、殺す!!!!!」
そう言ったが早いかカズオは背中に手をまわすと同時にクラスの連中(約10人ほど)の頭上を越える大ジャンプ!!
そして先程背中にまわした右手に持っている、『それは』!!
窓から差し込む太陽光が『それに』反射しキラキラと美しいリズムを奏でている。
「キャー!!!日本刀よ!!!!!!桐山くん、危ない!!!!!」
ドスッ!!!
壁に深く突き刺さる日本刀、標的・桐山は全く動じることなく椅子に座った状態で頭部のみを右にそらし紙一重でよけていた。
もっとも刀と顔面との距離わずか数ミリ。
間髪入れずに桐山の蹴りがカズオの腹部襲い掛かる。
強烈なパワーに吹っ飛ぶカズオだが、自らのダメージを下げるためにワザと人のいる方向に瞬間的にステップ。
思惑通り赤松・飯島・大木・織田がクッションになったおかげでかすり傷だ。もちろん四人は意識不明。
しかも吹っ飛びながらズボンに仕込んだ拳銃を抜き、即発砲。
が、桐山は上体をすっと後ろに反らしたかとおもうと、オリンピックのメダリストさながらトンボをきっていた(ちなみに二回転)
粉々に破壊されたのは窓ガラス。カズオが連射したため4枚破損。
たまたま近くにいた女生徒、恵・さくら・祐子・加代子・真弓・典子・聡美・文世・知里・佳織、全身血まみれにて退場。
すかさず応戦の桐山、その手には
『イングラムM10サブマシンガン』!!!!!
負けじとカズオが取り出したのは
『ウージー9ミリサブマシンガン』!!!!!
ぱらららっ!!!!!X100
「カズオ!!いいかげんにして!!!!!」
「美恵……」
「どうして、いつも和雄を目の敵にするの?!カズオなんて大嫌い!!!」
「!!!!!!!!!!」
どんなナイフも…銃でさえも、カズオを傷つけることはできない。
カズオを切り裂くことができる唯一のもの、それは美恵の言葉一つ。
先程の勢いはどこにやら、カズオはまるで生気を抜かれたかのようにシュンとなった。
「……オレは美恵の手料理を食べたかっただけなんだ」
「だったら素直に言えばいいじゃない」
「……オレの好きなもの食べさせてくれる?」
「もう、こんなことしないって約束すればね」
「オレの一番ほしいものをくれれば約束する……」
「じゃあ約束ね」
「本当に何でもいい?」
「私にできる範囲ならね」
「じゃあ今日、美恵のアパート行くから」
こうしてカズオは大人しく去っていった。
だが、その時、一瞬、奴の口元がにっと笑いの形を作ったことに誰も気付かなかった。
ただ一人……桐山和雄をのぞいては
back