「……オレ、美恵のこと好きだ」
「私もカズオちゃんのこと大好き」
「本当にオレのこと好きか?」
「うん、いつかカズオちゃんのお嫁さんにしてくれる?」
「ああ、約束だぞ」
「うん。指きりげんまん嘘ついたら……」





~ずっと一緒に~




「行って来まーす」
本日快晴、天気がいいと気分もいいのよね♪
「……美恵」
「キャア!」
ふいに電信柱の影から声が
「カ、カズオ……もう、びっくりするじゃない」
「迎えに来た。一緒に学校に行こう」
「うん、ありがとう。でも、次からは、ちゃんと玄関で待っててよね」




桐山和雄。美恵の幼馴染だ
背が高く、恐ろしいくらいの美貌
しかし反比例して性格に難有り
無表情で何考えてるのか、親でさえわからない
積極的にやることといえばケンかを買うこと
おまけに手加減というものを知らず病院送りにした奴は数知れず
しかし、そんな彼も美恵の前では借りてきた猫のように大人しかった




クラスメイト達は不思議に思っていた
美恵は、どこにでもいるような普通の少女だ
クラスの中では委員長グループに所属し、特に目立つ人間ではない
それなのに、皆に恐れられている桐山和雄を手懐けているのだ
しかし、それは幼馴染という特別な関係なら頷ける。だが……




「おはよう、天瀬」
「おはよう桐山くん」
カズオの金髪フラッパーとは対照的な黒髪オールバック
奇しくも名前だけはカズオと同姓同名の桐山和雄
微笑む美恵、無表情だが何となく優しげな表情の桐山
そう、泣く子も黙る不良グループのボス
その桐山が美恵には、なぜか優しいのだ




「教室まで一緒に行かないか?」
「うん」
美恵!オレも行く」
「えっ、何言ってるの?カズオの教室は反対方向じゃない」
カズオは敵対心ギラギラの目で桐山を睨んだ
天瀬行こう」
「うん、じゃあねカズオ」









「大きくなったら結婚しよう」
「うん、約束だよ」










「……美恵の嘘つき」




カズオの行動パターンは決っていた
学校をさぼって繁華街に繰り出す
やはり学校をさぼって街をうろついている不良たちにでくわすのだ
そしてケンカ、こういう場合、カズオはいつも以上に容赦がない
八つ当たりと言ってしまえばそれまでだが、それ以上に理由があった









「カ、カズオ!!?」
唇から血を滲ませているカズオ
ベランダから部屋にはいるのはいつものことだが……
「またケンカしたの?!もう、バカっ!!」
美恵は救急箱を取り出した
「いつも言ってるじゃない。ケンカはやめてって」
泣きそうな顔で必死に手当をしてくれる
「どうして心配かけさせるの?」
そう、美恵は手当をするときはカズオのことしか考えない
カズオの心配をして、カズオの顔だけをみて
他の奴のことは絶対に口にしないから




「はい終わった。もうケンカはしないでね」
「………」
カズオは何も言わず美恵に抱きついた
美恵は、よしよしと頭を撫でてくれる
美恵は気付いていなかった
欠席ばかりしていたカズオが迎えに来てくれるようになったのは
あの日からだということを














「カズオ、隣のクラスの子に告白されたって本当?」
まだ告白の段階ではない。正確にいえば学校の裏に来てくださいと言われただけだ
「行かないの?」
「行かない。どうでもいい」
「ダメだよカズオ。キチンと断らないと可哀想だよ」
「……向こうが勝手に来てくれと言っただけだ。オレには関係ない」
美恵は溜息をついた
「カズオは女の子に興味ないんだね。あの子かなり美人なのに」









カズオは思った
あんな女を綺麗だとは思ってない
美恵の笑った顔が一番いい
でも、他の奴等は気付いてない
相馬とか千草みたいな女がいいようだ
でもオレにはどうでもいい
美恵の笑顔があればいい
美恵の笑顔がどれだけ綺麗なのか誰もわかってない
でも、わかってほしいとは思わない
オレだけでいい。美恵の笑顔を知っているのは









――カズオにとって衝撃だった
美恵が屋上にいると聞き迎えに行ったのだ
美恵が笑っていた。カズオの大好きな、あの顔で
隣にいたのは桐山和雄
美恵に向ける桐山の視線は――
自分と同じだった




それからだった、カズオが必要以上に美恵を気遣うようになったのは














「ごめんね、カズオくん。美恵、風邪ひいたから欠席させるの」
せっかく迎えにきたのに……つまらない
またベランダから部屋に入るか?
でも美恵は病気で寝てるし……
カズオが1時間程うろうろしてる時だった
門の前に高級車が止まったのは
問題は、その中からバラの花束を持った桐山が登場したことだ














「コホコホ……夏風邪はこじらすと大変だもんね」
体温計を取り出して目の前に持ってくる
「37度か。よかった、だいぶ下がってる」
コンッ……何かが窓にぶつかった。小石?
怪訝そうにベットから起き上がり窓の外を見た
「……沼井くん?」
沼井充が青ざめた顔で必死に手招きしていた














「あんたたち、いい加減にしなさいよ!!」
「……黙ってろ」
「桐山くんっ、あなたらしくないじゃない!!」
「……彰、静かにしてくれないか」
「ああっ、もうっ!!ちょっと、2人をとめなさいよ!!」
「「できるか、そんなことぉ!!」」
「軟弱者!!それでも男なの!!?」
「「おまえに言われたくねーよっ!!!!!」」




場所は町外れの空地
青ざめた顔のオカマ1名
青ざめた顔の不良2名
そして壮絶な死闘を繰り広げている不良が2名














――それは、ほんの数十分前の出来事だった――

「……なんで、おまえがここに来るんだ?」
天瀬が病欠したと聞いた。だから見舞いに来た」
「……なんで、おまえが見舞いに来るんだ?」
「よく、わからない。だが天瀬の顔を見ないと落ち着かない」
カズオの怒りのボルテージ上昇中
「いつも思っていた。天瀬の傍にいたい。天瀬と一緒にいたい」
カズオの怒りのボルテージ限界ギリギリ……
「オレは、天瀬を特別に想っているんだと思う」


プッツーーーンッ……限界点突破!!!!!









その後の説明はいらないだろう
カズオは、こともあろうに決闘を叩き付けた
そして桐山は受けて立った
2人の男が1人の女をかけて闘う
そう珍しいことではない。しかし……
問題は、その2人の男が常識を逸した戦闘能力の持ち主ということだろう




いや……正確にはカズオより桐山の方が上だった
「……っつ」
カズオは生まれて初めて地ベタに這いつくばった
敵に上から見下ろされるのも初めての体験だ
「……オレの勝ちだ」
「……まだだ」
「もう動けないだろう」









「大きくなったら結婚しよう」
「うん、約束だよ」










「……まだだ!オレは、まだ負けてない!!」









「ずっと一緒だ」
「うん、約束だよ」










美恵は渡さない!!!!!」
「………」
桐山は相変わらず無表情ではあったが、少しだけ眉を持ち上げた
その時だった




「カズオッ!!!」
(……美恵…?)
カズオは意識を失った














次にカズオが目を覚ましたのは美恵の部屋だった
美恵のベッドに横たわっている




――オレは、あいつに負けたのか――





部屋のドアが開いた。美恵だ
カズオは咄嗟に目を瞑った、こんな無様な姿で相対したくなかった
「カズオ……まだ目が覚めないの?」
美恵が傍にきて手を握った、温かい手……




「……カズオ、どうしてケンカばかりするの?」
握った手に、さらに力が込められた
「私がどれだけ心配してるか、わかってる?」
瞬間、頬に温かい雫が落ちた
「ケンカする暇があったら……傍にいてくれてもいいじゃない」
……美恵……泣いてるのか?
「昔は、いつも一緒にいてくれたのに」
……………。









「私のこと、お嫁さんにしてくれるって言ったくせに」
………っ!!!!!
「カズオは忘れてるんでしょ。でも私は覚えてるのよ」
……忘れるものか……
「……カズオにとっては子供の口約束でも」
……違う、それは違うよ
「私は今でも本気なのよ。バカ……」
……美恵!!!!!
「えっ?」
カズオが急に起き上がった、そして……




美恵を抱きしめていた














「桐山くん、本当にいいの?」
「選ぶのは天瀬だ。そして、あいつを選んだんだ」
「でも、本気だったんでしょ?」
本気だった。そして美恵がカズオを抱きしめて泣いていたのも事実だ
「どうして簡単にあきらめる気になったの?」









美恵は渡さない!!!!!』









「オレは、あいつが羨ましい」
「桐山くん?」
「オレには、あんなセリフは言えないからな」
そう言った桐山は、ほんの少しだけ寂しそうだった














「……卑怯者…寝たフリするなんて///」
美恵……大好きだよ」
「……もう、私は怒ってるのよ……」
「怒った顔も可愛い」
「……ホントにバカ///」
美恵、ずっと一緒にいよう」
「……うん///」







「絶対にオレのお嫁さんになってくれるのか?」
「うん、約束だよ」
「嘘ついたら針千本だぞ……」
「うん、私のこと一生大事にしてね」
「約束する。絶対に幸せにする」





~END~




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