あれは何の音?
教会から聞こえる、あの音よ
そう、あれは祝福の鐘
永遠の愛を誓った二人の為になってるの
誰が為に鐘はなる?
「……夢か…ちょっと残念……」
チラッと見上げた時計、それは一番の眠気覚まし
「いけないっ!!遅刻じゃない!!!」
天瀬美恵、14歳。
その愛らしい容姿と、素直で明るい性格の為かクラスの人気者
特に男子生徒は誰もが彼女に夢中である。
しかし、不思議と告白されたためしなき。なぜなら……。
「みんな、おはよう」
「おはよう美恵」
女生徒たちが次々と挨拶を交わす、そして……。
「「おはよう美恵」」
「おはよう桐山くん、カズオくん」
絶世の美少年が二人、美恵を出迎えた。
二人の名前は『桐山和雄』。そう、二人ともだ。
同じクラスに同姓同名の人間がいるのは少々ややこしいと思うだろうが、幸いにして二人は全くの別人。
1人は桐山和雄。
黒髪で、やや襟足の長いオールバック。知的で端正な顔立ち。
冷たいが澄んだ瞳。低くないのに威厳のある声。
そして何より、只者ではないオーラを身にまとっている。
超エリートの名家の御曹司でありながら、不良グループのボスをやっている。
もう1人、同じく桐山カズオ。
金髪のフラッパーパーマ。麗しい風貌だが、どこかだるい感じ。
愛くるしい瞳の奥に、何か得体の知れないような恐ろしさを秘めている。
残忍だが、基本的には甘えん坊。
天涯孤独の身で、その出生・経歴等は不明。不良だが、一匹狼だ。
全く違う二人だが、1つだけ共通点があった。それは……。
「……美恵会いたかった……」
カズオが予告もなしに美恵を抱きしめる。
「その手を離せ。美恵は迷惑している」
「……嫌だ」
「聞こえなかったのか?離せといったんだ」
「……下がってろ」
「やめて、二人とも。お願いだからケンカなんてしないで」
美恵の懇願に二人は、しぶしぶと出しかけていたマシンガンをしまった。
まったく性格の異なる二人だが、(よりにもよって)同じ女性を愛しているのだ。
そのため、美恵に想いを寄せる他の男子生徒は、近づくことすら出来ないでいる。
それは体育の授業が終了したときの出来事だった。
男子より一足早く教室に戻り話を弾ませる女生徒たち。
「結婚式?美恵の?」
その声は廊下にも聞こえた。タイミング悪く、男子生徒たちが戻ってきたばかりだというのに……。
「うん、すごく素敵だった。きっと彼が私の運命のひとなのよ」
「で、相手は誰なの?」
「……う、うん……あのね、桐山和雄くん……」
「桐山くん?どっちの?」
「「どっちなんだ?美恵!!!!!」」
荒々しくドアが放たれると同時に響く声、美恵も、他の女生徒たちも冷や汗を流し
男子生徒たちはこれから始まるであろう修羅場を想像して顔面蒼白になっている。
「……美恵はオレのものだ。だからオレだな?」
まるで捨てられた子犬のような瞳で、哀願するように問うカズオ
「美恵、相手はオレだろう?そう思ってかまわないかな?」
淡々と無表情で問うものの、その瞳の奥は湖水のように澄んでいて、有無を言わせないオーラを感じた。
「……あ、あの……その……」
どうしよう……答えられないよ。二人のひたむきな態度に、美恵は困惑した。
なぜなら、言えば、1人は天国だが、もう1人は地獄。誰も傷つけたくは無い。
「「どっちだ美恵!?」」
「二人とも、いい加減にしろ」
他の男子生徒は見て見ぬふりをしていたが、ここに来て憐れな美恵をほっとけずに勇気ある若者が口をだしてしまった。
「まったく、普段は異常なくらい他人に無関心なのに天瀬のことになると、まるで子供だ。困ったもんだな」
川田章吾だ。川田は何を隠そう、カズオの幼馴染だった。
しかも、去年の体育大会(別名バトル・ロワイアル)で桐山と最後まで優勝を争ったことがきっかけで、なぜか桐山と仲がよかった。
ちなみに城岩中学校の体育大会・男子の部は、最後の1人になるまで、相手を叩きのめすという恐ろしい、シロモノだった……。
「いいか二人とも。結婚なんてのはな、おまえたちが責任のとれる大人になってから、ゆっくり決めることなんだ。
どうあがいたところで、中学生の身分じゃ、結婚なんて出来ない。わかるな?」
そう、普段はぶっきらぼうな川田だが、なかなか説得力はあった。しかし。
「……章吾、オレを裏切るのか?」
「……えっ?」
「……川田、どっちの味方なんだ?」
「……お、おいおい、オレはただ……」
しまったーーー!!!こいつらは説得なんか通じるような物分りのいい人間じゃなかったんだ!!!
睨んでる、睨んでるじゃないか!!!まずい、非常にまずいぞ……。
「「オレは、選んで欲しいだけなんだ」」
「……そ、そうだな……こういう場合、江戸時代は腕の引っ張り合いで白黒つけたらしいぞ……」
……と、川田は言ってしまった。って、いうか、それって母親同士の子供の取り合いの決着だろうが!!!
とクラス中は突っ込みたかったが巻き込まれることを恐れて誰もいえなかった。そして……。
「……お、おい、どうするんだよ川田!!」
「おまえのせいだぞ、責任取れよ!!」
「……いわれなくても、わかってる。わかってるんだが……」
「やめて、痛いっ!」
当然だ。学校最強のダブル桐山がそれぞれ自分の腕を掴んで引っ張っているのだから。
このままでは美恵の腕が脱臼してしまう。いや、下手すると抜けちゃったりして………。
「……い、いや!…お願い、もう、やめて……痛いっ……!!」
ギュッと瞑った美恵の瞼のふちから涙が滲み出た。桐山がハッとした。そして、手を離した。
右腕の引力が一瞬で消え、そのせいで一気にバランスを崩し、カズオに倒れこむ美恵。
その勢いでカズオも床に倒れこんだ。美恵を抱え込んだまま
「……オレの勝ちだ。オレのものだ!!」
嬉しそうに、美恵を抱きしめるカズオ
「ちょっと待った!!」
「……なんだ章吾」
「今の勝負、桐山の勝ちだ」
『?』状態のカズオ。
「カズオ、おまえは天瀬が痛みに耐えかねて泣いた時離さなかったな。本当に愛しているのなら、離すものだ。
だから、この勝負、桐山の勝ち……」
ぱらららぁぁぁ!!!!!
「………章吾なんか嫌いだ」
正論を言っただけなのに……このバカには通用しなかった……な。
いや、カズオ相手にまともな意見で対応した……オレが……バカだったのか……さらば青春……。
川田章吾・享年(推定)15歳。
「あんたたち、いい加減にしなさいよ」
「一番大事なのは美恵を幸せにできるか、どうかでしょ?」
おお~っ!!すごいよな、あの二人に意見するなんて……クラスメイト達は全員、貴子と光子を心の中で讃えた。
「「オレは間違いなく幸せになれる」」
誰が、あんたの幸せを聞いてんだよ……。
「そうだ、このさい、相性いいほうが美恵ということに決めたら?占いで運命の相手を決めるのよ」
こうして光子のいい加減な提案は、すんなり受け入れられた。そして占うのは……。
(ああっ、アフダ・マスラ様ぁ!!なぜ、あたしが、こんな危険なことを!!!!??)
プリーシア・ディキアン・ミズオよ。試練です。これを乗り越え光の戦士となるのです。
「……この女の占いに間違いはないのか?」
「そうだな。本物だという証拠はあるのかな?」
「あ、あたしの占いは、よく当たるのよ。そうだ試しに……」
瑞穂は紙に名前を書いた『山本和彦』『小川さくら』と。その中間に黒水晶をおく。
そして……なにやら、わけのわからない呪文を唱えると……黒水晶がパアァァと光を放った。
「運命の相手同士だと水晶は光るのよ」
「すごいっ!!ねぇ、あたしと洋ちゃんも占ってよ!!」
倉元は内心、迷惑だと思った。そして……またしても水晶は光った。
「キャーー、あたしたち結ばれるのね!!」
「そ、そんなバカな!!!」
倉元は衝撃を受けているが、クラスメイトたちは素直に水晶の神通力を信じた。
なんと云っても、この二組の男女は公認の恋人同士。
「じゃあ、占うわよ」
瑞穂は、まず桐山と美恵の相性を占った。
……シーン……光らない。水晶は全く反応しなかった。
「オレの勝ちだ」
勝ち誇るカズオ。黙り込んでいる桐山。
「き、桐山くん……大丈夫?」
美恵が心配そうに桐山の顔を覗き込んだ。
「……美恵、オレは占いは信じない。でも……もしも、あいつと一緒になることが美恵の幸せならオレは、それでもいい。
たとえ、美恵の傍にいられるのがオレではなくても美恵が幸せなら……オレは、満足だよ」
「……桐山くん」
無表情だが、やはりショックなのだろうか。
「しばらく1人になりたい」
そう言うと、桐山は教室から出て行った。
「…………」
「美恵、式は教会がいい?それとも神社か?」
まるで猫のように、美恵にまとわり抱きつくカズオ。
「……ごめんなさい」
「?」
「……私、桐山くんについていく。桐山くんのことが好きなの!」
「……え?」
「本当にごめんなさい!!」
走り出す美恵
「美恵!!あいつと結婚したら不幸になるんだぞ!!!!!」
「かまわない!!たとえ、どんな苦労が待っていても桐山くんさえいてくれれば、私幸せよ。後悔なんてしないわ!!」
………シーン………
パラララァァパララァァァ!!!!!
………その日、多くの生徒が川田の後を追ったことは言うまでも無い
「で、でも変ね……あたしの占いがはずれるなんて……」
「そう言えば、そうよね。瑞穂って、占いだけは本物なのに。あたしが順矢と結婚する運命だってのも当てたのに」
………シーン………
「ま、待てよ南。今何て言ったんだ?」
「あたしと剣崎順矢の未来を占ってもらったら最高の相性だったのよ」
再び………シーン………
「……稲田、もう一度、占ってくれ。そうだな……新井田と千草で」
「三村!!あんた、あたしにケンカ売っての?!!」
水晶は……光った……。
「……そ、そんなぁぁ!!!」
「貴子!!死ぬな貴子!!」
「弘樹……あんた、いい男になったよ……」
「おまえこそ、世界一かっこいい女だ!!」
貴子を抱きしめ号泣する杉村……って、いうか何やってんだよ、あんたら……。
「やったぁっ!!!オレは千草とゴールインだぜ!!」
「新井田ぁぁ!!よくも貴子を!!貴子の仇、覚悟しろ!!!」
「えっ?」
「貴子!貴子!!貴子!!貴子!!貴子ぉーーー!!!」
「ギャーーー!!!!!」
新井田・無惨!!!
って、いうか、この場合、新井田は無罪では?
とクラスの誰もが思ったが、普段は大人しい杉村の、あまりの切れっぷりに誰もが黙っていた……。
「稲田、先生も占ってくれ」
と、そこへ何の脈絡もなく、学校中の嫌われ者、陰険教師・坂持が登場。
「この前、家庭訪問しただろ?その時、理想の女性に会ったんだ。えーと、慈恵館の……きれいなひとだったなぁ」
「このっ……良子先生に何を!」
七原は身構えた。
「あんまり綺麗なひとだからさ、先生、好きになっちゃったよ」
水晶は……光った……。
「殺してやるっ!!!ぶっ殺して肥溜めにぶち込んでやるーーー!!!!!」
あまりの衝撃に切れまくる国信。
に、してもおかしい……おかしすぎる……。
「ねえ瑞穂。その占い確かなの?」
クラスを代表して幸枝が問い掛けた。
「当然よ。山本とさくらだって当てたじゃない」
「そ、そうだけど」
「ちゃんと、この説明書に……あれ?」
「待って、桐山くん!!」
「……美恵」
「ひどいじゃない。私の気持ちを無視するなんて」
「………」
「ねえ、桐山くん……夢って信じるほう?」
「夢?……オレは夢なんて見たことがないんだ」
「……そう、あのね……夢の中には正夢っていってね、予知夢みたいに、みた通りの事が現実に起きる夢があるのよ」
「美恵は見たことがあるのか?」
「ないわ。けどね」
やや顔を紅くして美恵は答えた。
「正夢になってほしい夢なら今朝見たわ。占いなんて必ず当たるとは限らないもの。
そんなものより、私には、この夢のほうが大切なの。信じるなら、私自身の夢を信じるわ」
「結婚式の夢か?」
「……うん、それには桐山くんが必要なの。だって……」
「私の手をとっていたのは、桐山くんなんだもの」
「ごめん、間違えた。運命の相手を占う時は、こっちの紫水晶を使うんだった」
「じゃあ、この黒水晶は?」
「もしも結婚したら、必ず不幸になる相手がわかる占いアイテム」
「美恵。夢の中では教会だったのか?」
「うん」
「式は早いほうがいいな」
「まだ3年は無理よ」
「心配ない。桐山家の力をもってすれば法改正なんて容易いことだ」
その時、鐘の音が聞こえた。
きっと、どこかの教会で愛し合うカップルが永遠の誓いをたてているのだろう。
そして、桐山と美恵が永遠の誓いをたてる日も、そう遠くはないだろう
余談だが、瑞穂の占いが間違いだとわかり、クラス中は(一部を除き)一安心。
「……そ、そんな……不幸になるなんて……」
泣き崩れる山本和彦。その後、ショックで崖から飛び降りしたとか、しないとか……。
メデタシメデタシ
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