美恵~。愛してるぜ♪」
「キャーーー!!!三村のバカーーー!!!」
バッチーーーンッッッ!!!
「ひどいなぁ、いきなり引っ叩く事ないだろ?」
「予告もなしに、いきなり背後から抱きつく方が、ずっとひどいわよ!!」




THE YOBAI―三村編―




まるでお天気ニュースのように毎朝繰り広げられる光景にクラスメイトたちは溜息をついた。
そう、ザ・サードマンこと三村信史ただいま熱愛中。
人生初めての本気の恋。その想いは大気圏突入のアポロ13の如く燃え上がっていた。
もう誰も彼を止められない。


「シンジ、いいかげんにしなよ。あれじゃあ、美恵ちゃんが可哀相だよ。
だいたいシンジ今までの相手にはムードとか雰囲気とか重視してたじゃないか」
「それなんだけど、ダメなんだ」
「ダメ?」
「あいつの前だと調子でなくて、いつもの歯の浮くようなキザなセリフも全く出ないんだよ」
「シンジ、本当に美恵ちゃんのこと好きなんだ。でも、このままだと本当にフラれるよ」
「やっぱそうか……オレも内心あせってるんだよ」


プレイボーイ・三村信史…意外にも本気の恋には、とことん不器用。そんな、ある日のことでした。
誰もいない、放課後の教室。親友の瀬戸豊の新ネタに笑いを堪える三村。
そんな二人には全く気付かず廊下に女生徒の影……。




○月×日……オレはこの日を生涯忘れない!!!
もしも三村が日記などという教養あふれるものに手を出していたら、その日の第一行にはデカデカとこう記されていただろう。




「ねえ、知ってる?天瀬さんの親、海外赴任で1年は戻らないんだって」
「じゃあ天瀬さん、今一人暮らしなんだ。女の子一人じゃ危ないよね」


シーン………勘違いではない。確かに今、時間は止まった。
いや正確には三村と瀬戸の全ての身体機能および思考能力が瞬間的に一時停止した。
そして、女生徒たちが帰って数分後、二人の時間は再び、ゆっくりと動き出した。


「シ…シンジ?」
美恵が一人暮らし……」
「ね、ねえシンジ」
「オレの美恵が……」
「シンジ!!ダメだよ!!」
「何言ってるんだ豊!!オレはまだ何も言ってないぞ!!」
「あっ…そうだよね。ごめんシンジ、オレてっきりシンジが今夜辺り、『一人暮らしの美恵が心配だからオレが一晩中、そばにいてやる』なんて言い出すかと思ってさ」
「……………」
「いくらシンジでも、そこまではしないよね」
「……………」
「シンジ?」









「……帰るぞ豊」
「ちょっと待てーーー!!なんだよ、その間は!!?」









白壁に赤い屋根、きれいに切りそろえられた芝生。それに彩りを添える可愛らしい花壇。
「やめなよシンジ。これって犯罪だよ」
「変なこというなよ豊。オレは美恵を危険から守ってやるために警護してやるだけだ」
「じゃあさ……美恵ちゃんには指一本触れないって約束してよ」
「……据え膳食わぬは…って、いうこともあるしな」
やばい……奴はやる気だ!!このままでは親友が犯罪者になってしまう。豊はそう確信した。


とりあえず三村、裏口より潜入。その時、聞こえた音…それは……
「あれってシャワーの音だよね……って、シンジ!!」
瀬戸の静止も効かず、三村は何の迷いもなく脱衣所に侵入。脱衣箱の中には……
「こ、これは黒の下着!!!」←握り締めている


「オレは美恵はてっきり清純な白だと思ったけど、これも最高にグッとくるぜ」
「シンジ!!何やってんだよ!!美恵ちゃんに見つかっちゃうよ!!」


ガラララ…それはまぎれもなく扉が開け放たれた音。二人は反射的に振り返った……
ああっ、神様!!オレはやっぱりシンジの共犯なんですかぁ!?


「ああ、さっぱりしたわぁ。ルンルン。あらっ?
三村くんに瀬戸くん、アタシの下着なんかにぎって……
やだ、もしかして三村くん、アタシに会いにきてくれたのぉ?
うんっ、ヅキ感激ィィ♪」









「ふざけるなぁっっーーー!!!!!」









「おちつけ!!シンジおちつけ!!!」
瀬戸の声も三村には届かない。三村怒りのコークスクリューパンチ炸裂!!!
が!!それは桐山、川田を除けばB組最強といってもいい三村にとって天地創造まで逆行するほどの衝撃だったに違いない。
三村の拳を月岡は自らの胸の手前で両の掌でしっかりと受け止めていたのだ。


「あら残念♪」
「なっ…!!」
「だてに桐山くんの片腕やってるわけじゃなのよ。甘く見ないでちょうだい」
いつもの三村なら、すかさずガラ空きの腹部に脚蹴りを入れるところだろうが、予期せぬ月岡の反撃に、精神的にすでに負けていた。だが、このまま黙ってはいられない。


「上等だ月岡!!おまえは男の純愛を土足で踏みにじったわけだ!!
だったらオレを殺す気でかかって来い!!オレはまだ美恵をあきらめていないぞ!!!」
どこの世界に力づくの純愛があるんだよ…豊は心の中で叫んだ。
そんな豊の心を知ってか知らずか三村の口調はさらにヒートアップしていく


「絶対に許さないからな!!訴えてやる!!!!!」


「男の純愛を踏みにじったオカマは有罪か?無罪か?あなたの真実は?」
豊の頭の中、島田伸介の声が響く……結果は当然
「わが番組が誇る史上最強の弁護士軍団の答は何と全員一致で無罪!!三村くんは勝てませんか?」
北村「まったく無理ですね。そもそも、この男はセクハラ目的で不法侵入しているわけですから、全く保護に値しません」
住田「女性には許しがたい性犯罪をしようとした彼の行動の方が不法行為なんですよ」
久保田「これは、はっきりいって刑法上の罪になるわけですからシャレになりません」
伸介「丸山先生でも勝てませんか?」
丸山「気持ちはわかるんですけどね。やっぱり無理でしょう」


「第一何でおまえが美恵の家の風呂でシャワー浴びてんだ!!」
美恵ちゃん、ご両親が外国で、今一人暮らしでしょ。危険じゃない女の子の一人暮らしなんて。
だから親友のアタシたちが一緒に住もうってことになったのよ」
「アタシたち……?」
「そっ、今ちょうど三人で買い物から帰ってくる時間じゃないかしら」
「三人って…一人は美恵だろ。後の二人は……」
三村は考えを巡らしていた。うちのクラスで月岡以外で美恵と親しい奴と言えば……




「ヅキちゃん、ただいまーー」
「おかえり美恵ちゃん、貴子ちゃん、光子ちゃん♪」
この瞬間の三村と瀬戸の表情は筆舌に尽くしたいものがあった。
とにかく三村と瀬戸は美恵たちに見つかり即フリーズ。
そして少々鈍感な美恵はともかく、貴子と光子は三村の目的をすぐに察した。


「……あんた、こんな時間に何してるの?」
貴子の鋭い視線。その手にはなぜかアイスピック。
「……おしおきが必要みたいね」
光子の堕天使の微笑み。その手にはもちろん鎌。


「ま、待てよ!!話せばわかる!!話せば!!!」
「うわ~~ん(泣)!!!オレ、シンジを止めようとしただけなのにぃ!!!」
「「問答無用よ!!!!!」」


天瀬家に、この世のものとは思えない悲痛な叫び声がこだました。--と、後世の歴史家は語っている。




その後、数ヶ月にわたり三村と瀬戸が休学したのはいうまでもない。




メデタシメデタシ














back