ずっと思ってた
美恵がオレの部屋にいて
オレの隣で笑っている
以前なら当たり前だった光景




でも今では、思い出すだけで幸せな宝物
絶対に手離してはいけないものだった
もしも、あの日々を取り戻せるなら
オレは、どんな懺悔だってするつもりだ




星に願いを―後編―




「……っ」
美恵は無事だった
数箇所、血が滲んではいるがカスリ傷だ
頭がぼんやりしている




「救急車だ!!」




起き上がろうとした美恵の瞳が拡大していた




「ひとが車にはねられたぞ!!」




「……信史?」




「君、大丈夫か?」
周りに人が集まってきている
動けない自分を心配して声をかけるが
美恵には全く聞こえなかった
自分が置かれた状況も把握できない
周囲の様子も見えない




――わかっているのは

三村が、自分を庇った三村が――









――動かなくなっていることだけだった――














「豊!!」
「あっ!シュウヤ。来てくれたんだ」
「本当なのか、三村が意識不明の重傷だってのは」
「……うん、今、手術中だけど」
それから、やや躊躇いながら聞いた
「……美恵は?」
「手術室の前にいるよ。すごく取り乱してたんだ」




手術室の前の長椅子
今にも倒れそうな悲痛な面持ち
「……信史」

もしも、もしも信史が死んだら……?




「……美恵」
その様子を、廊下の曲がり角から七原は見ていた
親友なんだから、自分も付き添ってやるべきかもしれない
でも、その場から動けなかった

思い知らされたから……

……もしも、これが自分だったら




美恵は、あそこまで衝撃を受けないだろうな




『手術中』の赤いランプが消えた
ハッと顔をあげる美恵
ドアが開き、疲れきった様子の医師が出てきた
「先生!!信史、信史は?!!」
「最善は尽くしました。後は患者次第です。今夜が峠でしょう」














心電図が弱々しく動いていた
生命維持装置をつけ眠る三村
「……信史」
美恵 は三村の手を握り、片時も離れず傍にいた
「信史、覚えてる?バスケ部の合宿」
もう、ずっと語りかけている
「肝試しに、皆で夜の森に行ったでしょう
でも私、迷って、森の中で1人で震えてる時
信史が見つけてくれた……」




「後で、信史が必死に探してくれてたって聞いて
私、すごく嬉しかった……」




「あの時ね。私、流れ星見たの。お願いしたわ
信史が助けてくれますように…て。
そしたら、信史が現れた」




「あれから流れ星なんて一度も見てないけど
私ね、ずっと悔やんでたの。
どうして、あんな、ちっぽけな願い事したんだろうって
どうして、信史と恋人になれますように
……って、言わなかったのかな」




「……本当にほしいものは自分で手に入れなきゃダメなのにね」
涙が頬を伝わっていた
「こんなことになるなら……フラれてもいいから、はっきり言っておけばよかった」









「あなたのこと、ずっと好きだったって」









「……オレも…流れ星に願かけたことあるんだ……」
美恵は俯いていた顔を上げた
握り締めていた三村の手
弱々しいが、しっかりと握り返されている
「……神頼みなんて一度もしたことのないオレが
他力本願なんてお笑いだろ?」




「でも、もしも効力があるのなら、迷信でもなんでもいい。縋ってみたかったんだ」
震えながら美恵 は問い掛けた
「何をお願いしたの?」
美恵 と、もう一度、やり直すチャンスをくれ……って」
「……信史」
「もしもかなうなら、どんな罰でも受けるから」




「……迷信もバカにできないよな。オレにチャンスをくれた
でも、まさか全身打撲になるなんて予想外だったけど」
「……バカ」
三村は美恵 の頬に、そっと手を添えた
美恵 は、その手に自分のそれを重ねた














面会謝絶の札が掛かっている病室
そのドアに複雑な表情の七原が寄り掛かっていた
少し寂しそうだったが、何か吹っ切れたような、そんな表情
「豊」
いつもの七原の笑顔に戻っていた




「三村に言ってくれ。二度と美恵 を泣かせるな…って」
「シュウヤ…!」
「今度、美恵 を泣かせたら、その時は容赦なく奪ってやるってな」
そう言って、その場をあとにした




オレって、やっぱりお人よしかな……
でも、いいひとやってやるのは一度きりだからな

――三村、美恵 を幸せにしろよ














―――半年後―――




「あっ、流れ星」
いけない、願い事言わないと
……あっ……
「……消えちゃった。もう、早すぎるよ」
ベランダで天体望遠鏡を覗きながら美恵は溜息をついた




美恵、何やってるんだよ。風邪引くぞ」
「うん、今ね、流れ星見つけたの」
「なにか願い事でもあるのかよ?」
「うん。仕方ない、また今度……」




背後から三村の腕が、美恵を抱きしめていた
「オレもお願いあるんだけど、きいてくれる?」
「信史のお願い?」
「ああ、美恵でないと、かなえてもらえないんだ」
「私にできることなら何でもきくけど」
「もう、清く正しい交際には我慢できない」




「今夜は一人で寝たくないんだ」
「……バカ///」




ベランダから部屋に戻る2人
しばらくして明かりが消えた




夜空には輝く星たち
その一つが地上に降り注ぐ
流れ星となって、また誰かの願いをきくのだろう







~END~







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