「オレも美恵に惚れてるんだ」
自分でも不思議なくらい、はっきりと言った
七原は驚愕の眼差しを投げかけ
豊は複雑そうに2人を見詰めた




携帯の着メロが爽快な音楽を奏でる
「もしもし秋也?」
美恵、大事な話があるんだ」
「どうしたの秋也」
いつもとは違う様子に美恵は戸惑った
「今すぐ会って欲しい」




星に願いを―中編―




「秋也、ここよ」
美恵が笑顔で手を振っている
七原は笑顔で答えた。でもいつものようには笑えない
いつも、デートの待ち合わせに利用している公園
その噴水の傍のベンチに腰を降ろした




「大事な話って何?」
黙り込んでいる七原に美恵は不安になってきた
「……プロポーズの返事だったら、もう少し待って欲しいの」
「……違う」
ふいに七原が抱きしめてきた
「秋也、どうしたの?痛い……」
「オレは美恵の事、好きだ。世界で一番愛してる」
「秋也、ねえ離して……痛い」
「三村なんかより、ずっと愛してる」




「えっ?」

信史?どうして信史がでてくるの?

「あいつには渡さない」

何言ってるの?信史は私のことなんか……

「三村が言ったんだ。美恵に惚れてるって……」




――今、なんて言ったの?














美恵、どうしたのよ」
「あっ……ごめんね」
七原の衝撃の告白から数日。 美恵は、ずっとこの調子だった
七原とも会ってない。会う気にはなれなかった
久しぶりに親友の幸枝とショッピングだというのに
「悩みでもあるの?」
「何でもないわ。ごめんね心配させて」
幸枝と別れてからも家に帰る気になれない
あてもなくネオン街を歩いていた




信史が私のことを?
嘘よ……昔から、いやって程思い知らされてきたのよ
信史が私を女として見てないこと
やっと信史を忘れる決心したのに
やっと信史を忘れることができそうなのに




不意に着信を告げる音楽
携帯を耳に当てた美恵は、その場に立ち止まった




「……どうして……?」




『……美恵』




携帯の向こうから聞こえる、その声は
「……信史」
行き交う人々の足音も笑い声も美恵の耳には聞こえなかった
「……信史、どうして」
『……そこから道路の方向を見てくれよ』
車道をはさんだ向こう側の歩道に彼はいた
美恵、教えてくれ。どうして何も言わずにオレの前から消えたんだ?』
「……………」
『オレのこと嫌いになったのか?』
「……違う」
嫌いになれたら苦しんだりしない




「……私、恐かったの」
嗚咽交じりの声が携帯を通して三村の耳に聞こえた
「私、ただの友達でもよかった。信史の傍にいれば……
でも、そんなのごまかしだったの。
心の中では期待してた。一生懸命尽くせば、いつか……」
『……………』
「いつか信史が振り向いてくれる日が来ると思ってた」
涙が頬を伝わる。1年前切り捨てたはずの感情が溢れ出した




「でも、そんな日は来なかった。私、恐くなったの。
信史は私のこと都合のいい友達としか思ってない。
いつか素敵な女の人が信史の前に現れたら……
信史にお払い箱にされたとき……1人ぼっちになるのが……」




「来るはずの無い日を待ち続けて、気がついた時には誰も必要としてくれない
これから先の人生を、1人で寂しく生きていく自信がなかった。
だから……新しい人生を見つけたかったの。
私を本当に必要としてくれるひとと家庭を持って幸せになりたかった」




「秋也は優しいし、何より私のこと大事にしてくれる。
秋也なら最高の夫になってくれる。この人となら幸せになれる。
そう思ってた……」

それなのに……嬉しいはずのプロポーズだったのに……




――ココロガトキメカナカッタ――









美恵、オレ七原に言ったんだ。おまえへの気持ち』
「秋也に聞いたわ。秋也、何か勘違いしてるみたいだけど」
『勘違いじゃない。本気だ』
「えっ?何言ってるの?」
『ずっと後悔してたんだ。おまえを手放したこと。
都合のいい女なんかじゃない』







『今でも愛してる』







「……何言ってるの?冗談はやめて…」
『冗談なんかじゃない』
「嘘よ!!だったら、どうして他の女と付き合ってたの!!?」
『……ごめん』
「どうして、あの時、すぐに迎えに来てくれなかったの?!!」
『……ごめん』
「……私が、どんな思いで、信史のことあきらめたと思ってるの」
『……ごめん』




「……今さら遅すぎる……私……」




もう何も言えない
美恵は向きを変えると走り出した
美恵!!!!!」
ガードレールを一気に飛び越え追いかける三村
急停止した車から、運転手が怒鳴り声を上げていたが
そんなものに、かまってられなかった




美恵!!待ってくれ!!!」
三村の悲痛な叫び声
美恵は立ち止まらなかった
それどころか、さらにスピードをあがる
しかし、三村もあきらめるつもりは無かった




今度は絶対に逃がさない!!!!!




美恵は交差点まできた
背後から三村が迫ってきている
何も考えずに横断歩道に飛び出した




前方の信号は――赤に変わっていた




キキィィーーーッ!!!!!




耳障りな急ブレーキの音









トラックが――突っ込んできていた

美恵は――動けなかった









美恵っっ!!!!!!!!」







激しい衝突音が辺りに響き渡った







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