「……疲れた」
帰ってくるなり三村はベットに突っ伏した
売れっ子プログラマーってやつも良し悪しだな
「…………」
どうしてるだろう?
あれから、もう1年近くたっている
もう、オレの事なんか忘れてるだろうな
「、大事な話があるんだ」
「大事な話?」
いつになく真剣な表情の七原
「オレと結婚してほしい」
星に願いを―前編―
「シンジ、シンジィ!!」
「元気だったか豊」
「久しぶりだよね。シンジ、最近忙しかったし」
「今日はオレのおごりだ。どこに行こうか?」
「そうだな……あ、見てよシンジ」
豊が指差した先にはバスケのリング
中学生くらいの少年たちがストリートバスケを楽しんでいる
「バスケか。懐かしいな」
「うん、そうだね。シンジも続ければよかったのに」
三村はバスケを続けるために、バスケ部がある会社に就職した
それなのに突然、退職して今ではフリーのプログラマーだ
「シンジ、昔からバスケだけは本気だっただろ?女の子と違って」
「いったな豊」
「だってシンジ1人の女の子と三ヶ月続いたことなかったじゃん」
それは本当だった。今でも、本気になれる女はいない
「オレ、シンジは
ちゃんのこと好きなんだと思ってた」
「!!!!!」
三村の表情が強張ったが、バスケ少年たちを見ている豊は気づかなかった
「
ちゃんとは、ずっと仲良かったし。
ちゃんがシンジの面倒みてるって聞いた時は、
結婚も近いかなぁ…って、思ったんだ。
でも、ただの友達だったんだね」
「……………」
「
ちゃん、今はシューヤの彼女だし。
そう言えばシンジ、シューヤと会ってないんだって?
遊びに誘っても、いつも忙しいから断られるってシューヤが……」
そこまで言って振り向いた豊は絶句した。三村が……
「……シ、シンジ?」
あの三村が……
「どうしたんだよシンジ!」
――泣いていたのだ
「そっか、そんな事があったんだ」
三村は豊に全て話した。1年前の事を
「それでシューヤとも会えなくなったんだ」
バスケをやめたのも、との思い出が強すぎたから
「そう言えば、あの頃、シンジ荒れてたしね」
そう、いつもは近寄ってくる女に深入りしない程度に付き合っていたが
あの頃は
を忘れたくて、色んな女と揉め事になるような付き合いを繰り返していた
しかし、
を忘れることなどできないことに気付き、しばらくして女遊びはきっぱり止めた
「
ちゃんに好きだって言わないの?」
俯いている三村に豊はいきなり核心に触れた
「忘れられないなら自分をごまかさずに言うべきだよシンジ」
「言える訳無いだろ、そんなこと!!オレは
を散々傷つけたんだ」
「シンジ恐いの?」
今の2人は天才肌とお調子者ではなく、人生を見失った者と諭してくれる者の関係だった
「
ちゃんに拒否されるのが恐いから言わないの?
自分が傷つくのが恐いから言わないなんて、ただの臆病者だよ。
いいじゃないか傷ついたって。
何も行動しないで一生自分の殻に閉じこもっているより、ずっとマシだよ」
「……豊」
「シンジいつも言ってたじゃないか。バスケは途中であきらめたら、そこで試合終了だって」
「……おまえ学校の教師になったほうがよかったんじゃないか?」
「何言ってるんだよ。それより早く行動しなよ」
三村は考え込んだ。こんなに真剣に考えたのは生まれて初めてだ
「おまえの言うとおりだよ。オレはフラれるのが恐くて黙ってた」
その時だ、携帯の着メロが
「もしもし……シューヤ!?」
三村の目が見開いた。気まずそうな豊
よりによって、こんな時に……タイミング悪すぎるよ
『豊どうしたんだよ。ちょっと相談したいんだけど』
「う、うん……あの、今シンジといるんだけど……」
しまったぁぁーー!!なんで言っちゃうんだよオレ!!
『三村も?ちょうどよかった、三村にも聞いて欲しいんだ』
まずい、まずいよ……確かに豊は三村に行動を起せといった
しかし、それは裏を返せば、七原から恋人を奪えとせかしたとも取れる
でも、まさか最初から七原と対峙する事までは考えてなかったのだ
「オレ、
にプロポーズしたんだ」
クールな三村が珍しく強張った表情をしている
その隣には真っ青な豊が七原と三村を交互に見詰めていた
「オレは
のこと大事だし、死ぬまで一緒にいたいと思ってる」
コーヒーを一口飲むと七原は悲しげな目をした
「……はオレのこと好きじゃないのかな……
」
「え?なんで?」
そう言って思わず、ハッと口を閉じる豊
「付き合って半年くらいの時かな……
が食事作ってくれた後
二人でビデオ見たんだよ。ロマンス映画の」
コーヒーカップを持った三村の手が僅かに震えていたが七原は気付かなかった
「いい雰囲気になったんだ。だから……キスくらいはいいかなと思って。でも……」
七原はの肩にまわしていた腕を引くと、
の肩に手をおいた
も七原の意図を察して、そっと目を閉じる
七原の顔が近づいて来た。ついにファーストキス
だが
「……いやっ!」
突然、胸を押し返され七原は驚愕した
しかし、それ以上に
の様子がおかしい。七原の腕の中で震えている
「……
?」
それから
はハッとして七原を見上げた
「……ご、ごめんなさい……私、まだ…」
「いいんだ、オレが早急すぎた。オレ気にしてないから」
それからビデオが終わると七原は帰ったが、帰り際に
「じゃあ、また」
「秋也!私、秋也のこと好きだから。本当よ、だから……」
「なんだよ、気にするなって言っただろ」
その時は笑っていたが、七原は思った
『私、秋也のこと好きだから。本当よ』
――まるで、自分に言い聞かせてるみたいだな――
「
は最高の恋人だと思ってる。
優しくて温かくて……でもオレに心を許していない」
豊はオロオロしながら、さらに2人を交互に見詰めた
「1年も一緒にいればわかるよ。だから、思い切ってプロポーズしたんだ」
七原は複雑な表情で、三村を見詰めた
「『しばらく考えさせてほしい』って、言われたよ。
結婚は一生の問題だし、が慎重になるのは当然だ。
即OKしてもらえないことなんか問題じゃない」
三村は静かに聞いていた
「……もしかしたら……他に好きな男がいるかもしれない」
「三村、おまえと仲良かったよな」
いきなり核心をつかれ、豊はフラフラだ
「頼みがあるんだ」
えっ、まさか『オレのに近づくな』とか?
豊はさらに目眩がした
「から、うまく聞き出してくれないかな?」
よかった……シューヤ、シンジとちゃんの関係に気付いてないよ
あー、びっくりした……って、まずいじゃないか!!!!!
そ、そんな残酷すぎるよ。そんな頼み……どうしよう
あせる豊とは裏腹に三村はやけに落ち着いた表情だ。そして……
「悪い七原。おまえの恋のキューピットはやれないよ」
「なんでだよ」
「オレもに惚れてるんだ」
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