ウサギやウサギ、どうしてここに?
それは誰かを裁くため
ウサギやウサギ、それは誰だい?
それは三村だ、三村信史




不思議の国のシンジ―後編―




「ちょっと待てよ!!」
三村が叫んだ。当然だ。
「オレが何したって言うんだ!?」
フゥ…月岡が溜息をつく
「今さら、それはないんじゃないの三村くん。ほーら、こんなにたくさん被害届がでてんのよ」
それは今まで三村が付き合ってきた女たちからのものだった
「あなたもイケナイ子ね。さんざん女たぶらかして」
「おい、待てよ!!遊び承知で付き合ってくれって言ってきたのは向こうだぜ」
美恵も承知してたっていうの?
ふざけないでよ。あのこは適当に付き合うなんて器用なマネできるような女じゃないわ。
あのこにしたことだけは赦さないわよ」




美恵の名前を出したとたん三村が口をつぐんだ。
騙したつもりも、ましたや弄んだこともない。ただ……
そう、ただ気になったのだ。七原が言っていたことに。




「では、三村くんの裁判始めるわよぉ♪検事さん、どーぞ」
貴子が立ち上がった。
「この男は、一人の一途で健気な女性を、散々弄んだとんでもない奴です。証人を召喚します」
また一人登場した。よりにもよってオレの親友。
「豊!!」
「ごめんシンジ。オレみちゃったんだ」
「みたって何をだよ」
美恵ちゃんが泣いてるとこ」
「……え?」









それは一ヶ月前の事だった。
「信史、信史」
「何だよ、美恵大声出して」
「信史これ欲しがってたでしょ?」
それは今度来日する大物スターのコンサートチケットだった。



『でも、信史、いつファンになったの?』
『……オレじゃなくて郁美だよ。大ファンだっていうんだ、だから』
確か、そんなやり取りをした覚えがある



「いいのか?高かったんだろ、これ?」
「いいのよ、郁美ちゃんと楽しんできて」
三村は喜んでチケットをもらった。





それから、数日後――豊は見てしまった、学校の裏庭で美恵が泣いているのを。
豊がいる廊下とは反対側から、やはりそれを見つけた七原が走ってきた。
美恵さん、どうしたんだよ?!」
「七原くん……信史が」
「三村が、また何かしたのか?」
「嘘だったの……郁美ちゃんと行くなんて……彼女にねだられてただけだったの」
「……一発、ぶん殴ってやる!!」
まだ詳しい事情も知らないうちに七原はいきりたっていた。
美恵が止めなかったら、間違いなく三村に決闘状を叩きつけていただろう。









「……いくら何でも今度だけはシンジの事、弁護してやれないよ」
「……まってくれよ…そんな、あれは……」
確かに、嘘をついた。でも騙すつもりはなかった。
相手の女も遊びとわかって付き合っていた。
でも本気で好きな相手が出来たから別れてくれと言われたのが三ヶ月前。
「あんたも本気で好きなこ見つけた方がいいよ」
今まで星の数ほどの女と付き合っては別れてきたが、なぜかいつもと違う感傷があった。
一度も心で愛してやらなかったその女に、なぜかその時だけは一つくらいいい事をしてやろうと思った。
名前くらいしか知らないスターのチケット、それを渡してこう言った。


「悪かったな、彼氏と行って来いよ。今度は幸せになれよな」
美恵に妹の名を出したのは照れくさかったからだ。別れた女に餞別なんて。
それが、そのちょっとした行き違いが、美恵を傷つけていたなんて……。
いや、昔から傷つけていたかもしれない。今まで気付かなかっただけだ。









「三村くん、反論あるぅ?」
「……ない。全部オレが悪い。認めてやるよ」
「潔いわね。アタシ、あなたのそういうとこ好きよ。でも、判決は別問題。で、貴子ちゃん、求刑は?」
「死刑を求刑するわ」
「!!!!!!!!!!」
ちょっと待て!!何だよ、それ!!
「弁護人、なんか言うことあるかしら?」
ふんぞり返りながら答える弁護士
「異議なーし」
新井田ァァ!!この役立たずがぁ!!!




「待って!!」
その声に思わず後を振り返った。
「待ってください。信史は無実です!!」
美恵!!」
「無実って言ってもねぇ、美恵ちゃんが三村くんかばいたい気持ちはわかるけど」
「私を傷つけたなんて誤解です。私はただの幼馴染で信史の恋人じゃありません」
それから、美恵は、幾分ためらってから言った。


「証拠があるんです。私には他に好きな人がいます」
「……えっ?」
……おい、ちょっと待てよ。
「七原くんにプロポーズされて……承諾します。だから、だから……信史を釈放してください!!」
嘘だとわかった……幼馴染だからな、七原を男として見てないことくらい知ってる
それなのに、結婚?おい冗談だろ?


「待てよ美恵!!」
それを遮るように
「命拾いしたわよ三村くん、これで無罪放免ね。何しろ美恵ちゃんが他の男と結婚するんだから」
「……まさか、美恵……オレの為に?……」
「さよなら信史……」
「嘘だろ!?何言ってんだよ!!そんなことさせるくらいなら死刑になったほうがましだ!!」
美恵の肩をつかんでいた。必死だった。


その時だった、腕に何か重みを感じた。
あのトランプ人間たちが左右から三村の腕を掴んでいたのだ。
「何だ、おまえら!放せよ!!!」
「あー、静粛に」
再び、あのウサギだ。
「おとなしく彼女の人生の門出を祝ってやりなよ」
「何だと!!」
「これから結婚式なんだ」
「ふざけるな!!美恵、オレの話聞いてくれよ!!」
「往生際悪いよ、さあ行こうか美恵さん、七原くんが教会で待ってるよ」


ウサギの奴が無礼にも美恵の手を引き歩き出した。
遠ざかっていく美恵。
そして、トランプ人間たちを振りほどこうともがく三村


美恵!!行くな美恵!!!」
尚も叫ぶ
「もう二度と泣かせたりしない!!オレには、おまえが必要なんだ!!!」
そして、ウサギとともに退場する美恵
そして……しばらく後、聞こえた鐘の音
クリスチャンでもないのにわかった
それが、教会の祝福の鐘だと云う事が
嘘だろ?誰か夢だって言ってくれよ!!!









美恵、美恵ーーーっ!!! 」









「――信史、信史!!」
「……美恵!!」
その瞬間、三村の目に飛び込んできたのは、先程の裁判所とはまるで違う、慣れ親しんだ景色、そして……
「………美恵」
「どうしたの信史?こんなところで寝て、それに随分うなされて……!」
抱きしめられていた、まるで映画のクライマックスシーンのような強く深い抱擁
「……信史、ど、どうしたの……?」
「………」
「……ねえ、信史、痛い……」
美恵……」
「……信史、恐い夢でも見たの?」
「……まあな」
「帰ろう、郁美ちゃん心配してるよ。もう11時半だもの」
「ああ、そうだな……なあ、美恵」
「何?」
「家まで送るよ、それまで……手つないでもいいか?」
「えっ?」
「ダメか?」
「……ううん、いいよ」
美恵は照れくさそうに手を差し出した。
固く握り締めた。
オレは思った、もう、この手は放さない。


「でも、信史、あんな場所で何してたの?」
「それは…」
優しそうに微笑む三村





美恵を待っていたんだよ」





END





天瀬!どこにいるんだ天瀬!!」
草木も眠る丑三つ時、なぜか美恵をひたすら探す杉村
もしも……美恵に何かあったら……


『弘樹ィィッ!!!あんたがついていながら!!!!!』


「貴子に殺される!!どこに、どこにいるんだ天瀬!!」
杉村くんの夜は、まだ始まったばかり


メデタシメデタシ