「三村くん‥‥あたし、あなたのことです。付き合ってください!!」
またか、オレって本当にモテるよなぁ。
「‥‥お願い、三村くんのこと絶対に束縛しないから、遊びでもいいから‥‥‥」
こんな純情そうな女にこんなこと言わせるなんてオレってある意味凄いよな
「‥‥一度でもかまわないから」
‥‥まいったな。そう言われて今まで付き合った女たちの末路は決って同じなんだよ。
『最低とか』『最初から遊びだったのね』とか、でもオレってカワイコちゃんは平等に愛してきたのに最近は乗り気じゃないんだよね。
その理由はいたって簡単‥‥ん?
三村は遠くから自分を冷たい目で見つめる視線に気付いてしまった。
美恵美恵っ!!!」
告白してきた相手に「悪い、オレ今はプレイボーイ廃業したんだ」とだけ言うと走り出していた。





幼馴染以上恋人未満




「待てよ美恵」
スタスタスタ‥‥畜生、スピード上げてやがる。止まる気ゼロだな。
「待てよ美恵っ!!オレの話聞けよっ!!!」
スタスタスタ‥‥振り向きもしない、完全に怒ってるな。
「待てよ美恵、少しはオレの言うことを‥‥」
急に止まった。そして振り向きざま「最低っ!!」‥‥何だよ、それ。




美恵はオレの幼馴染だ。ずっと一緒にいた。
でも中学に入った頃からオレは女遊びをしだして、それからというもの美恵と疎遠になりだした。
いつだったかな。遊び相手の女とキスしているシーンを目撃されたとき、美恵に絶交宣言された。
それからは、ろくに口もきいてもらえなくなった。
しかも美恵がかなりモテてることを知った。
その時気付いたんだ。オレにとって本当に必要な女は美恵だって。




「おい何だよ。いきなり最低ってオレが何したんだよ」
「見たんだから。また取り巻き増えて良かったわね!!」
「おい、誤解するなよ。オレ断ったんだぞ」
「そんなこと信じられない。いつも来る者拒まずが信史のモットーじゃない」
「今は‥‥惚れた女がいるから」
「惚れた女‥‥?」
美恵の表情が僅かに変化した。
「‥‥そうなんだ。じゃあ、私なんかにかまってないで、その子の所に早くいきなさいよ」
そういうと、また走り出しやがった。
「おい!何、勘違いしてるんだよ!!オレが惚れてるのは‥‥」

ドンッ!!!

その時、いきなり廊下の角から織田が飛び出してきた。
そして美恵とぶつかっていた。
問題は‥‥突き飛ばされた美恵が階段を転がり落ちていたことだった。
























「で?わかりやすく説明してくれるかしら?」
千草‥‥ただでさえキツイ性格の女だが、今日は気合はいってるな。
無理ないか‥‥美恵は千草の親友だったから。
オレだって腹立ってんだ。だから織田‥‥簀巻きにされて屋上から吊るされたくらいで済んで良かったな?
「第一、あんたがついていながら」
「それを言わないでくれ。まさか階段から落ちたくらいでこんなことになるなんて思わなかったんだよ」
「落ちたぐらいですって!!?美恵はか弱い女の子なのよ!!」
「そうだ三村!!貴子が黒だといえば白でも黒いんだっ!!!
誰が見ても一から十までおまえが悪いっ!!!!!」
杉村‥‥本当に尊敬するぜ。
オレもおまえぐらい悟りの境地に達することができたら大事な幼馴染に絶交されることもなかったんだ。


「ああ、それにしても可哀想な美恵‥‥」
「本当に‥‥こんなことになるなんて」
珍しく相馬や月岡までハンカチを握り締めている。
一体何があったのかというと‥‥
「あの‥‥ここはどこ?私は誰なの?」




‥‥と、いうわけ。つまり記憶喪失なんだ。





美恵」
特徴的なオールバック、冷たい瞳、桐山がスッとかがんで美恵の頬に手を当てた。
「‥‥あ、あの」
おい美恵!!何で紅くなってんだよ!!!
「本当に何も覚えていないのか?」
「‥‥うん」
「オレのことも忘れたのか?」
「‥‥ごめんなさい」
桐山は無表情ではあるが、どことなく寂しそうだった。




「あの夜のことも忘れたのか?」




何つった今ッッッ!!!!!!!!




「……え、夜……?……私…あなたと……あの…」
「あの夜は燃えていただろう?」
美恵は焦りまくっているが、周囲はそれ以上に焦っていた。
七原「き、桐山!!なんだよ、あの夜ってぇぇ!!!!!」
川田「……ふぅ…意外と手が早かったんだな…」
光子「どういうことよっ!!何したのよっ!!」
貴子「ま、まさかあんた嫌がる美恵を無理やりッッッ!!!!!」
沼井「バッキャローー!!!ボスがそんなことするわけねえだろッ!!!」
杉村「バカとは何だッ!!貴子がそうだといえば間違いないんだッ!!!」


そんな中、オレは一人呆然としていた。
嘘だろ 美恵?冗談だって言ってくれよッ!!
確かにオレは三人の女と肉体関係持ってきたバカな男だよ。
でも、おまえは違うだろ?
おまがオレ以外の男に抱かれるなんて……
そんな…そんなことあってたまるか。
嘘だって言ってくれよッッ!!!!!


「桐山くんったら誤解されるようなこと言っちゃだめよ」
「誤解?オレはありのままを言ったことだ」
「キャンプでキャンプファイヤーなんて、ここにいる皆としたことじゃない」




キャンプファイヤー……そういえば、今年の林間学校は山だったな……。
月岡、おまえの言葉を聞いて心の底から安心できる日が来るなんて思っても見なかったぜ。
それにしても……
桐山、紛らわしいこと言うんじゃねぇ!!!!!!




「よぉ、何してるんだよ」
その軽薄そうな声に貴子の目が一気に殺気だった。
「ああ新井田、実は……かくかくしかじかなんだ」
(七原ッ!!そんな奴に事情を教えることなんて無いわよっ!!)
「き、記憶喪失?マジかよ?」
「ああ本当なんだ」
「記憶喪失……よーし、七原オレに任せておけ」
新井田はニヤニヤしながら美恵に近づいた。




「実はオレはおまえの恋人なんだ」
「え?」
美恵の顔が引き攣っていた。記憶を失っても潜在意識には新井田に対する嫌悪感が刻みついていたらしい。
「そうだオレとおまえは周囲もうらやむラブラブカップルで、すでに同棲、卒業したら結婚しようと固い誓いを……」
と、その時ッッッ!!!!!
「あたしの前で美恵に刷り込みしようだなんていい度胸じゃないの新井田」
新井田の髪が背後から鷲掴まれていた。
「ひぃぃぃーー!!!!!ゆ、許してくれ、千草ぁぁーー!!!!!
ちょ、ちょっと…調子に乗ってみたかっただけなんだぁぁーー!!!!!
少しだけ夢を見たかっただけなんだよ、お願いだ、ゆ、ゆるし……」
「許すわけないでしょう!!!!!行くわよ弘樹ッッ!!!!!」
「イエッサー!!」
その後、三人は校舎の裏側に姿を消した。
何があったのかは定かではないが……ゲシツッ!!グワチャッ!!!という怪しげな擬音と、「あーたたたたたたっ!!!」という謎の叫び声、そして「ひでぶぅっ!!!!!」ボンっ!!という断末魔と意味不明な爆音が聞こえてきたという。
新井田がどうなったのか……誰も考えないようにした……。
























「え?美恵が記憶喪失?」
「ああ、それでオレなりに考えたんだが、こういうのは周りが騒ぐよりも同性の友達から少しづつ教えてもらうほうがいいと思ったんだ」
「三村くんって本当に美恵のこと心配しているのね。あたし見直したわ」
幸枝はニコッと微笑んだ。
「大丈夫まかせておいて。ねえ、みんな?」
はるか「うんそうね。幸枝の言うとおりよ」
知里「三村くんの頼みなら」
泉「私達でよければ協力するわ」
聡美「でも見直したわ三村くん。あたしたち三村くんはもっと軽い男だと思ってた」


野田…軽くて悪かったな……。


「ねえ美恵。何でもいいから思い出せない?例えば気になる人とか?」
「……私……好きな人がいたような気がするの」
「好きな人?だ、誰なの?」
七原が美恵に気があることに気付いていた幸枝は少々焦りながら質問した。




その時っ!!!!!




典子「美恵っっ!!!!!それは絶対にギターを持ってないひとよっっ!!!!!」
恵「そうよ。しかも運動オンチで野球は特にダメなのよっっ!!!!!」
雪子「いつも女の子には冷たいアンチフェミニストだったわっっ!!!!!」
友美子「苗字に『な』がつく男は、あなたの趣味じゃなかったわっっ!!!!!」




……こいつら……ここぞとばかりに七原を美恵の中から排除しようとしている……
叔父さん、オレ思い知ったよ。女の恐ろしさを……。
郁美……おまえは、こういう女にだけはなるな。
おまえは幸せな恋をして幸せな結婚をしろよ……。




ちなみに七原は泣きながら走り去っていった(クラスで一番足が速いからだ。三村より0.1秒早かった。そう、桐山が体育の授業で手を抜いていなければ)
























「じゃあ気を取り直して……美恵、もう一度ゆっくり考えてね。その好きな相手はどんなひと?」
「……何となくだけど……男前で私と同年齢だったような気がする。
それに頼りがいがあって、強くて、男らしくて……」




「新井田和志ふっかぁぁーーつ!!!!!ハンサムなんてオレの為にあるような言葉じゃないか……ひっ!」
グワシっ!!←注意、背後から髪を鷲掴みにされた音。
「……あんた、まだ懲りてないのね。行くわよ弘樹!」
「ま、待ってくれ貴子……男前って、オレも当てはまるんじゃないのか?」
「あんたまで何言ってるのよっ!!」
「男前ね……逃げた七原くんは除外するとして、このクラスって結構色男ぞろいよね。
まあ、アタシは美少女だから関係ないけどね♪」




誰が美少女だよ、このオカマ!!!!!←クラス中の心の叫び




「男前なんてボスの為にあるような言葉じゃないか」
「充、オレは男前なのかな?」
「そうだよボスっ!!ボスが男前じゃなかったら、この世の男は全員ゲスだよ!!!」
「充の言うとおりっすよボス!!オレなんてハンサムじゃないし、背も低いし、どれだけボスに憧れたか」
「ボスさえその気になれば、いくらでも女コマせるんすよ!!!」
「竜平!!てめぇ、ボスに変なこと教えるんじゃなねぇ!!!!!」




「男前か……高倉健や菅原文太の再来と言われたオレのことだったりしてな」
川田はちょっぴり嬉しかった。
が!!
「何、寝ぼけたこといってるよ川田くん。美恵の言ったこと、ちゃんと聞いてなかったの?
『同年齢』って単語がついていたじゃない」
「……そ、相馬っっ!!!!!」
川田撃沈……所詮、最強は光子なのさ。




「さくら、みんな盛り上がってるみたいだね。天瀬さんの好きなひとハンサムらしいよ」
「うん、でも私や和くんには関係ないもの。
だって『頼りがいがあって、強くて、男らしい』ひとだものね。
さあ、それより今度の日曜日のデートどこにいくか決めましょう」
「……そうだね」
愛する彼女にすら『頼りがい』『強い』『男らしい』という単語とは無縁と思われてるオレって一体……。
山本は違う意味で撃沈していた。




「嫌よ。もしも洋ちゃんだったら……洋ちゃん、あたしを捨てないでね!!」
「うるせぇ!!誰がおまえみたいな女っ!!
もしも天瀬の意中の人がオレだったら即別れてやるよっっ!!!」
「酷いっ!!どうして洋ちゃん、だったらどうしてあたしと付き合ったの?」
「おまえみたいな女だったらすぐにやれると思ったんだよ!!」
「好美ぃ…やめなよ無駄なケンカは」
「だって比呂乃……」
「言っておくけど倉元をハンサムなんて思い込んでるのはあんただけ。
いい加減に気付きなよ」




「うーん……ねえ、他に特徴はないの?」
「……よく思い出せないけど……あんまりいい人じゃなかったような気がする。
なんとなくだけど……女のひとと遊んでばかりいたような……」




・・・・・・・・・




「……ずっと一緒だったんだけど、いつの間にか私をおいて他のひとと付き合うようになって……。
本当は私、行かないでって言いたかったんだけど意地張って言えなくて……。
いい加減なひとなんだけど、本当は優しくて温かくて、すごく頼りになるの。
そういうひと、このクラスにいる?」




どのくらい時間がっただろう?
「……どうやら、あたしたちの出番じゃないみたいね」
幸枝はゆっくり立ち上がると女生徒たちを連れて教室を後にした。
「どういうことなのかな彰?」
「あとでゆっくり教えてあげるわ桐山くん。それよりも退散よ、悔しいけど美恵ちゃんに譲ってあげるわ」
月岡も桐山ファミリーを強引に教室から連れ出した。
「……やれやれ…男は諦めが肝心だな」
「わかってるじゃない川田くん、よかったらあたしと飲まない?」
「相馬、おまえさんとか?まあ、たまにはいいかもしれんな」
川田と光子も揃って退室した。
「貴子……あ、あれはもしかして……」
「バカね弘樹。さっさと行くわよ」
貴子と杉村も教室を後にした。杉村は半死半生の新井田を引きずりながらの退室だった。
そして……後には三村と美恵だけが残った。
























「……あの」
いきなりの展開に美恵は途惑っているようだ。
「……あの…あなたは…えっと…」
「三村、三村信史だよ美恵」
「あの三村くん、みんなどうして……」
声が出なかった。三村が抱きしめていたからだ。




「……すっげー嬉しい」
「三村くん?」
「オレ、ずっと美恵には嫌われたと思ってたんだ。もうダメだと思ってた」
「ど、どういうこと?」
「思い出せよ美恵。オレたち、ずっと一緒にいたんだ。子供の頃からずっと……」
「………」
「でも中学上がった頃からオレは女遊びするようになって、おまえが避けるようになった。
オレ、その時に初めて気付いたんだぜ。大勢の女より、数百回の恋愛ゲームより……」




「たった一人との本気の恋の方が大事だったことに」




「……もしかして三村くんが?」
「ああ、そうだよ」
温かい……記憶を失っていてもわかる……。
ずっと求めていた温かさだったから……。
「……美恵」
三村はそっと美恵の頬に手を添えた。そして顔を近づける。
美恵もそっと目を瞑った。そして二人の唇が重なりそうになった……その時!!!




「三村っ!!!不純異性交遊してんじゃねぇ!!!!!」




スコーーンッッッ!!!!!!!!!!




三村の後頭部に担任教師キタノのナイフ……もといチョクークが炸裂。
三村は勢い余って倒れた。そして美恵は三村に倒れられた勢いで後頭部から床に激突!!!!!




「いったぁ……おい美恵、大丈夫か?」
「……うーん……って、信史どうして、あんたが私の上に乗ってるのよっ!!!」
美恵、記憶が戻ったのか?」
「何のことよ、このスケベッ!!!」
「おい、それが告白した男に対する態度かよ」
「何よ、それ!誰があんたみたいないい加減な男に告白したっていうのよ!!!!!」
「え?まさか……」
そう!美恵は記憶が戻ったショックで、記憶喪失中の記憶を無くしていたのだ!!!!!



















「……神様、オレが何したんだよ」
「何言ってるの。本当に信史は馬鹿なんだから」
「この調子じゃあ……素直になんてなってくれないよなぁ」
「本当にわけわかんないこといって」
「なあ、記憶が戻ったって事はオレとの絶交宣言も復活か?」
「そうよ」
「……はぁ」
「ただし今日までね。明日から、また幼馴染やってあげる」
「え?」
「信史、すごく反省したんでしょ?今回だけは許してあげる」
「本当か?」
「うん、だから明日からまた一緒に帰ろうか?」
「あ、ああ!!勿論だよ!!」




叔父さん、この調子じゃあ幼馴染から恋人に昇格なんてしばらくは難しいよな
でも、オレ頑張るよ。
正直言って恋人になりかけたのが一から始めることになったのは残念だけどさ。
でも、絶対に諦めないぜ、いつか美恵と正真正銘の恋人になってやる。
なぜなら………




オレは狙ったシュートは外さない第三の男サードマンなんだぜ?
そうだよな、叔父さん




~END~