オレの名前は三村信史
一昔前(と、言ってもほんの数ヶ月前だ。え?そんなの昔のうちに入らない?まあ、細かいことは大目に見ろよ)オレは校内でも有名なプレイボーイだった。
だが、今は違う。
そうオレは自分でもびっくりするくらい誠実で一途な男になったのさ。
その理由だって?
決ってるじゃないか。本気で惚れた女が出来たからなのさ
〜マイ・リトルガール〜
「信史ーー」
おっと、この声。あのカワイイ声!
一度聞いたら忘れられない。
そう、この声の主がオレの最愛の彼女・。
「ーー!!会いたかったぜ!!!」
全速力マッハ5。そうオレは七原よりも早く駆けつける。
それが彼氏の使命。
そして例え『公衆の面前』だろうが抱き締める。
例えが恥ずかしがってもせずにはいられない。
それが彼氏のサガってやつだろ?
え、違う?
とにかくオレは今すごくハッピーなんだ。
クラスの中にはオレたちの仲を妬んでいる奴もいる。
桐山ファミリー、相馬光子、そしてあろうことかオレの親友の七原や杉村まで。
だがオレは負けないぜ。
愛の力は決して暴力には屈しない。
そうだろ天国の叔父さん?
そしてオレたちはとても愛し合っている。
いわゆるラブラブという奴さ。
何なら明日にでも挙式したって全然OK。
ビコーズ、オレたちは愛し合っているから。
どうしようもないくらい幸せさ。
この幸せをぶち壊すものなんて不慮の事故くらいしか考え付かない。
「あ、まずい」
「どうした七原」
「実は部室にギター置き忘れたんだ。でもオレ日直で忙しいし」
「じゃあオレが取りに行ってやるよ」
「サンキュー三村」
こんな風に親切な気持ちになるのもオレが今最高にハッピーだからさ。
「信史。私もいく」
世界中の人間にオレたちの幸せわけてやりたいくらいだぜ!!
が、それが不幸の始まりだった……。
幸枝「本当にこれで七原くんを思い通りに出来るのね」
典子「大丈夫よ。月岡くん直伝の薬に間違いないわ」
恵「ああ、あたし今からドキドキ」
友美子「光輪教の神様、あたし今最高に幸せです」
雪子「同感」
音楽部の部室に隠れるあやしい5人組……。
そうとも知らずにドアをあける。
「「「「「来た!!七原くんよ!!!」」」」」
バシャッッッ!!!!!
「え?」
ボワンッ!!
まるで玉手箱をあけたような煙がジャジャジャジャーーーンッ!
次の瞬間、そこにの姿はなかった……。
「?」
床にはの抜け殻(制服)が……。
「…………ーーーー!!!!!」
モコッ……。
「え?」
抜け殻(制服)が僅かに動いた。
「……何かいる」
モコモコ……。
「「「「「なんじゃ、こりゃぁぁぁーーー!!!!!」」」」」
次の瞬間、ショックで固まった三村と思わず松田勇作叫びをした腐女子軍団が立っていた。
「……はぁ、何でこんなことに」
……誰か嘘だって言ってくれよ
「おなかすいた」
「え?」
「おなかすいた。うわぁぁーーんッ!!!!!」
「お、おい泣くなよ」
の姿は……幼児と化してしまった。
いや姿形だけではない。記憶も思考も幼児化していた。
……そう、月岡直伝の薬。それは若返りの薬だった。
月岡がダンディーな熟年男に時々使って楽しんでいたものだ。
しかし今でも十分に若い七原を若返らせてどうしようとしていたのか?
……いや、それは追求するべきではないだろう。
世の中には知らなくていいことがたくさんあるのだ。
とにかく三村は頭を抱えた。
これじゃあキスも抱擁もピー(放送禁止用語)も出来ないじゃないか(そういう問題か!)
「三村。あれ?」
やばい七原だ!
「何だよ三村。なんで、こんな小さい女の子がいるんだ」
「えーと、この子はその……い、妹だよ!」
「え?だって、おまえの妹は郁美ちゃんだけだろ?」
「そ、それはだな……親父の隠し子なんだ!!」
「そうか、おまえも大変だな」
何の疑いもなく受け入れてくれた七原。
親父、オレは生まれて初めて、あんたの女癖の悪さに感謝したぜ。
とにかく何とかしないと。三村は月岡を屋上に呼び出した。
「嬉しいわぁ♪三村くんからアタシに逢引してくれるなんてぇ」
「ま、待て月岡!!これにはわけが!!」
「うんっ、野暮なこといわないの♪……って、この子?」
三村が抱いている幼女を見て月岡は目を丸くした。
「もしかして……」
「そうなんだ。助けてくれ月岡、こいつは……」
「イヤァァァーー!!!不潔よぉぉぉーー!!!!!!
三村くん隠し子がいたのね。不純すぎるわぁぁぁーーー!!!!!」
「う、うるさい!!!おまえは存在そのものが不純じゃないか!!!!!
落ち着いてオレ話聞けよ!!!!!」
――15分後――
「なんだ。そういうことだったの。それならそうと早く言ってよね」
「どうしたら元に戻るんだよ」
「安心して時間がたてば元に戻るわ。個人差はあるけど、せいぜい1時間か……」
「そうか良かった」
「一週間くらいね」
「なんだとぉぉーーー?!!!!!」
「……まずいな。どうしよう」
一週間……の両親は仕事の都合で遠くにいる。
はマンションで一人暮らしなのだ。
それは三村にとってはとても都合がよかったが(どんな都合だ?)こうなると非常にまずい。
の面倒は自分がしっかり見てやらないと。
「あれ?」
がいない。
はテクテク校内を歩いていた。
そして屋上に来ていた。そう、桐山ファミリーの溜まり場屋上に――。
「……つまらない」
金髪フラッパーパーマ、危険な目、綺麗過ぎる容姿。
泣く子も黙る桐山ファミリーのボス・桐山和雄。
「ボス、どうしたのかな?」
「アレだろ?を三村に取られてイラついてんだよ。
ボス、こうなったらを人気の無い所に連れ出してやっちまうんですよ。
オレ協力するぜ」
「竜平ーー!!!てめぇ、ボスに変なこと教えるんじゃねぇーー!!!!!」
激怒した沼井に追いまわされる笹川。
ガチャ……その音に全員が振り向いた。
「……ガ、ガキ?何でガキが中学校に?」
「か、かわいいね。君いくつ?」
「……博。おまえ、そういう趣味が合ったのか」
「えーと、えーと……5さい」
「「「か、かわいいィィん……」」」
硬派な沼井まで一緒になって胸ズギューーンッ(汗)
「なあ、お兄さんたちが危険な遊び教えてやろうか?」
笹川よ、どんな遊びだ?
その時だった。
「……」
和雄がツカツカと近づいてきた。
「……にそっくりだ」
その言葉に3人は改めて幼女を見た。
「「「そう言えば似てるよな」」」
和雄はジッとを見詰めた。
ニコッ……が微笑んだ。無垢な笑顔。
その瞬間、和雄の理性の糸が切れた。
「……決めた」
「決めたって……何のことですか?」
「こいつはオレが育てる」
「「「え?」」」
「オレの理想の女に育てて大きくなったら結婚する」
「「「ええぇぇぇーーー!!!!!」」」
和雄はガシッと幼女(つまり)を鷲掴みにすると脇に抱え走り出した。
「「「ボ、ボスゥゥーーー!!!それは犯罪ですよぉぉーーー!!!!!」」」
「の奴、一体どこに行ったんだ?
……ん?あれは桐山。抱えているのは……
ーーーーー!!!!!?」
三村はマッハのスピードで走り出した。
が、もちろん和雄もマッハのスピードだ(汗)
そう、常人にはとらえることなどできはしない。
「桐山ぁぁぁーーー!!!その子をどうする気だぁぁぁーーー!!!!!」
「……おまえには関係ない」
「関係あるんだよ!!!言えッ、その子をどうする気だッッ!!!!!」
「……源氏物語だ」
「はぁッ!!?」
「……オレは光源氏計画を実行する」
「何だよ、光源氏計画って!!?」
「……光源氏はまだ小さかった紫の上を誘拐した」
「何だとぉぉーー!!!おまえ犯罪起す気かッ!!?」
「……話は最後まで聞け。光源氏はその子を自分に都合にいい女に育てたんだ」
「で、その後どうなったんだぁぁーー!!!?」
「……その子が14になったとき手篭めにして有無を言わせず自分の妻にした」
「何だとぉぉーーー!!!!!最後まで聞いたけど、やっぱり許せない!!!!!」
(注意:この時の2人の会話時間は0.02秒である)
「あら、あれって……桐山くんに三村くんじゃない」
そこへ偶々通りかかった魔性の女・相馬光子。
「桐山くん、何抱えてるのかしら?……キャアかわいいにそっくりな女の子。
光子感激。きっとコウノトリがあたしのところに運んで来てくれたのね♪」
余談だが光子は少々レズの気があった。
そしてのことを心憎からず思っていたのだ。
そんな光子にとって、金髪の悪魔・和雄はすでに自分に宝物を授けるために降臨した天使にさえ見えた(汗)
「桐山ッ!!さすがのおまえも子供かかえたままじゃあオレに勝てないようだな!!」
少しづつではあるが、桐山に迫っていく三村。
「あ、あと少し……」
その時!!
「桐山くん、パス!!」
あろうことか、三村に掴まると思って焦った和雄は、その声のする方向にを投げてしまった。
「ナイスキャーーチッ。この子はあたしが育ててあげるわ。
じゃあ、あんたたちはあきるまで鬼ごっこしててね♪」
「そ、相馬ッ!!」
「……しまった」
が、光子はそのまま待機させていたアッシーの車に乗り込み一目散に逃げていってしまった。
「……そ、そんな……ーーー!!!!!」
「と、言うわけなんだ。頼む、を探してくれ。一生の頼みだ」
「三村……そんなこと言われても信じられないよ」
「そうだな。いくら何でも薬のせいでが幼児化してなんて」
「七原、杉村。オレが冗談でこんな頼みすると思うのか?」
「「そう言われてもなぁ」」
「その薬は月岡が開発したんだよ」
「「!!!!!」」
「しかも七原ガールズは、七原おまえに使うつもりだったんだぞ」
「お、オレに……?」
「月岡が開発……どうやら真実らしいな」
「「よし、わかった。協力するよ」」
「やっぱり、おまえたちは桐山や相馬と違って信用できるぜ」
が!
(うまくいけば、幼女と化したさんを手懐けることができるな)
(貴子と2人で育てよう。それがオレのため……いや、の為だ)
三村よ。本当に信用できるのか?
「美味しい?」
「うん、おいちい」
「キャーーかわいい。これからも、ずっとお姉さんと一緒にいましょうね」
「うん」
「次は何が食べたい?」
「えーと、えーと……ケェーキ」
「そう、ケーキね。ほら滝口くん、さっさと作りなさいよ」
「……うん、わかってるよ相馬さん」
ここは光子の第3マンション(もちろん他にも貢がせたマンションはいっぱいあるわよ)
「あのね。ケーキを食べる前にこれにサインしてほしいの?」
「なぁに、これ?」
「これはね『ようしえんぐみとどけ』って言って、これにサインすると、ずーーーっとここで美味しいものを食べられるのよ。
嬉しいでしょ?」
「うん」
「じゃあ、サインして」
「ちょっと待ったァーー!!!!!」
「あんたたちはスリー・オブ・ジャスティス(恥ずかしいあだ名よね)!!
どうして、ここがわかったのよ!!!」
「オレのハッキング能力を甘く見るなよ。さあを返してもらおうか!!」
「誰が返すものですか!!」
光子が鎌を取り出した。
「ヤル気だな相馬。よし、杉村懲らしめてやれよ!!」
「悪い三村。オレは女には手を出さない主義なんだ」
「いざって時に役に立たない男だな!!
クソ……七原はスポーツは万能だがケンカはからきしダメだし……」
「……三村、おまえオレのことをそんな目で見てたのか?」
その時、救世主が現れた。
「オーホッホッホッ!!!この場はアタシに任せて頂戴」
「「ゲッ!!月岡(くん)ッ!!!」」
「何がゲッよ。アタシにも責任があるから心配してあんたたちの様子を見てたのよ。
これを見なさい。急いで解毒剤を作ってきたのよ」
その瞬間、三村は生まれて初めて月岡に後光がさしているのが見えた――。
「……ゴクゴク」
「月岡、これでは元に戻るんだな?」
「ええ、あたしを信じなさい」
……ボワンッ……再び、あの煙が。
そして、その後には……。
「?」
中学三年生のがキョトンとした表情で座っていた。
「よかった、!!心配したぞ!!!」
感極まってを抱き締める三村。
「ウワァァァーーン、ママァァァーー!!!」
「え?」
「ママァァーー!!おなかすいたーー!!!」
「……おい、月岡これ」
「あらやだ。どうやら元に戻ったのは肉体だけだったようね。
ヅキちゃん失敗。エヘッ」
「失敗で済むかぁぁーー!!!!!」
「ま、まあ身体が戻っただけでもよしとしよう。アレもできるし」
三村よ。アレって何だ?
その時!!!!!
グワッシッ!!!!!
何者かがを鷲掴みにした、そして脇に抱え猛スピードで走り出した。
「……心は幼児なら抵抗もできないな。ラッキーだ」
「……き、桐山、てめぇーーー!!!!!!
どっから湧いて出たんだぁぁーーー!!!!!!!!」
「何よーー!!!アタシだって負けないわよーー!!!!!」
「杉村!!遅れをとるなよ!!!!!」
「当然だ!!ここで負けたらオレは貴子に合わせる顔がない!!!!!」
こうして、を抱え逃げる和雄。
それを追いかける三村。
さらに、それを追いかける光子。
さらに、それを追いかける七原と杉村。
5人のはてしない鬼ごっこは一晩中繰り広げられたのでした。
「あーあ、疲れちゃった。ねえ、滝口くんコーヒーちょうだい」
「はいどうぞ月岡さん」
「あんたも大変ねぇ」
「……もう慣れましたから」
〜END〜