オレの名前は瀬戸豊。どこにでもいる普通の人間
そんなオレの最高の自慢、それは親友の三村信史
頭はいいし、スポーツ万能、それに何より、すごく、いい奴なんだ
でも、シンジには、ものすごい欠点がある
それは……最高に女癖が悪い事
いつか、捨てた女の子に後ろから刺されるかもしれない(汗)
ところが……そんなシンジに最近、変化が表われてるんだ
ゴーゴー・サードマン!!
「あの……三村くん、付き合って下さい」
ああ!!まただ!!ダメだよ、シンジ!!!
偶然、校舎の裏で告白現場を目撃した豊は頭を抱えた
まずい、まずいよ!!シンジは来る者、拒まずなんだ!!!
ところが……だ
「悪いけどオレ、彼女いるから」
「……えっ?」
呆然とする豊
「おい、豊いつまで見てるんだ。出て来いよ」
「シ、シンジ気付いてたの?」
「覗き見なんて感心しないぜ」
気まずそうに姿を現す豊
「どうしたんだよ。そんな顔して」
「びっくりしたよ。シンジいつから、あんな誠実な対応できるようになったの?」
「当たり前だろ?オレには美恵
という愛する恋人がいるんだぜ」
「……ええっ!!シンジ、本気で交際してたの!!」
豊が驚愕するのも無理はない。何しろ、三村には常に不特定多数の彼女がいたのだ。
天瀬美恵は3年になって転校してきたクラスメイト。確かに、すごく可愛いが、大人しくて控え目な優等生。
到底、あのハデな三村の遊び相手なんて務まらない、今時、珍しいくらい純情な娘だったのだ。
それが三村の彼女におさまったとき、豊は思った。
シンジ、酷すぎるよ……天瀬さんは遊びで付き合うようなひとじゃないよ
ところが三ヶ月たっても二人が別れる気配はない(今までの最高記録は37日だった)
それどころか、遊びで付き合っていた他の彼女たちと、きっぱり別れた
(ちなみに、この時別れた女は9人いた)
それからというもの二股どころか、浮気もしてない。
まさかシンジ……頭でも打ったんじゃ?
それどころか、B組で一番仲のいいカップルというのは、山本和彦と小川さくらの為にあるような言葉だったのだが(余談だが、杉村と貴子は『彼女関白』と比喩されていた)それは遠い昔のことになろうとしていた。
なぜなら……
「はい信史、アーンして。美味しい?」
「美味いに決ってるだろ?オレ、もう、美恵の手作り以外のものは食べない。餓死したってかまわないぜ」
「バカ///」
「本気だぜ」
あのー、今、調理実習の時間なんだけど……
「他は何が食べたい?」
「美恵に決ってるだろ?」
「もうっ、冗談はやめて///」
……美恵ちゃん、シンジは本気だよ。それにクラス中が見てるよ(汗)
「美恵!!!おまえ、何やってるんだよ!!!」
三村が血相変えて駆け寄ってきた。
「何って、今、清掃時間よ。信史は中庭担当じゃない。どうして、ここに?」
「それより、何だよ、これは!!!」
「雑巾がけ。見ればわかるじゃない」
「バカいうな!!この綺麗な手が汚れたら、どうするんだよ。
美恵は他の女なんかとは違うんだ。そんなこと、どうでもいい女にやらせればいいんだよ」
そう言って、雑巾を(まるでシュートを投げるように)背後に向かって投げる三村。
そして、その雑巾は、ある女の顔に命中した。
「中川、やっといてくれ」
シーン……クラス中が固まっていた。
なぜなら、普段は大人しい普通の女の子で通している中川典子の顔がチュパカグラのように変化していったからだ。
「ギャーーーッス!!!!!」←注意:ゴジラにあらず
しかし!!!!!
「ごめん典子さん、三村は故意にやってるわけじゃないんだ。赦してやってよ」
なぜか、七原登場。すると……。
「そんな七原くん、赦すだなんて。あたし元々、全然怒ってなかったから」
ブリッコモード全開の中川。しかし、その一部始終をみていたノブは……
「……オ、オレが知ってる典子さんじゃない……(泣)」
と、顔面蒼白で固まっていた。
三村がやっと一人に絞って、最初は喜んでいた豊だったが、そんな豊の想いとは裏腹に三村はエスカレートしていった。
「信史、これ見て」
美恵が紙袋から取り出したのはサマ―セーター。
そう、美恵は編物が得意だったのだ。
「あんまり上手じゃないけど」
「何言ってるんだ、最高だぜ。サンキュウ美恵。我が家の『家宝』にするよ」
「あのね。豊くんのセーターも編んだの。よかったら着てみて」
……ヒクッ……顔が引き攣る豊……なぜなら……
『超ピンク』のセーターに『OWARAI-YUTAKA』という『緑』の飾り文字。
いくら、お笑いタレント目指してるからって……これはないよ……
しかも、美恵が帰った後
「どういうことだ豊?なんで、おまえがオレの美恵にセーターもらうんだ?」
シンジ!!そ、そんな間男を見るような目で見ないでよ!!
「まさか、おまえ……オレの前で着るつもりじゃないだろうな!!!」
「怒らないでよ、シンジ!!安心してよ、オレ着ないから」
「なんだとお!!美恵が心を込めて編んだセーターを拒否するのか!!
豊、おまえ、何様のつもりだ!!!!!」
オレはどうすればいいんだよ!!!
ハァ……疲れた
豊は心底まいっていた
それというのも三村の情熱の犠牲となっているのは豊一人ではなかったのだ。
一ヶ月前、ふざけて
美恵の肩を抱いた新井田が病院送りになった。
三週間前、誰もいない放課後、恋人さくらに
「さくらは世界一綺麗だよ」と言った山本が、
その0.01秒後『オレの美恵が一番だ』と確信している三村の怒りに触れ、
人間バスケットボールの洗礼を受けるはめになった。
二週間前、美恵にギターの新曲を披露し、
その新曲というのが『たまたま』ラブソングだったというだけで、
狼の群れ……もとい委員長グループに、半裸体で投げ込まれた七原。
一週間前、ホームランが偶然にも美恵に命中した旗上は今だに行方不明だ
それにしてもだ、恋愛=遊びという思想の持ち主・三村が何故これほどまでに美恵を熱愛するようになったのか?
「ねえ、シンジはいつから美恵ちゃんの事好きになったの?」
「生まれる前から」
「真剣に聞いてるんだよ!!」
いつになくマジな顔つきの豊
「美恵だけだったんだよ。本当のオレを見てくれたの……。
今まで一度もオレ自身を好きになってくれた女なんていなかった。
ブランドと同じさ。でも」
フッと三村が目を細めた。すごく優しい表情だった。
「だけど美恵は違ったんだよ」
豊は突然理解した。ああ、そうか……どんなに大勢の女の子より、本当に大切な一人の方が大事なんだ。
シンジ、やっと気付いたんだね
……よかったね。オレも嬉しいよ。
「だから豊、おまえもいいかげんに金井に告れよ」
「ええっ、な、何いうんだよ。関係ないじゃないか!!」
「一言、好きだって言えば済むことだろ?」
「……そ、そんな簡単に言えないよ……」
「オレは言えるぜ」
余談だが、二人は今、放送室にいた。三村は瞬時にマイクを持つと電源オン。そして!!!
『美恵っ!!!オレは、おまえを………愛してる!!!!!!』
放課後とはいえ、部活や委員会で、ほとんどの生徒は残っていた。
「………信史のバカ……」
怒りで声も出ない美恵。でも……ちょっぴり嬉しかったりして……。
「なっ、簡単だろ?」
「シンジ……バカ通り越して尊敬するよ」
「だから、おまえもさっさと金井に好きだって言えばいいんだ。なんなら押し倒し方でも教えてやろうか?」
「なっ、何言うんだよ!!!」
「やせ我慢するなよ豊。いいか?男は行動あるのみだ。
悪い虫がつかないうちに金井を誘い出して、キスの1つや2つ……」
と、言いかけて三村が言葉を止めた。?状態の豊。
「どうしたのシンジ?」
「あー、悪い豊。オレ、マイクの電源オフにするの忘れてた」
「!!!!!!!!!!」
三村がやっと一人に絞って、最初は喜んでいた豊だったが……真っ白になりながら、こう思った。
……こんなバカになるくらいなら……プレーボーイのままでよかった……と。
メデタシメデタシ