「ほら天瀬早く。何グズグズしてんだよ 」
「……でも、やっぱりまずいよ三村くん」
「バカ、ここまで来て何言ってんだよ」
「いいのかなぁ……こんなことして」
「いいんだよ。そうだ一ついいこと教えてやるよ」
「何?いいことって」




シンデレラ・ボーイ




ミッキマウスミッキマウスミッキミッキマウス♪

自然とそんな歌声が溢れ出しそうなムード
そう今日は待ちに待った修学旅行
しかも目的地はディズニーランド、まさにキング・オブ・テーマパーク
開園20年近くたつ今、珍しくもないが
香川県に住んでる彼らにとっては
まだまだ遠い憧れの地だったのだ




バスの中では、すでに仲良しチームが固まり予定を話し合っている
委員長チームは、まずは買い物が目当てらしい
日下と北野も最初はショッピング
南、稲田、江藤はシンデレラ城だ
山本とさくらは、すでにデート気分
好美も同様だが、倉元はあまり乗り気じゃない
男子の面々は、とにかく絶叫系アトラクションだ









そんな中、一人の少女に群がる狼もとい男の群れ
(プラス女生徒2人にオカマが1人)




美恵 さん、オレと一緒にディズニーランドまわってくれないかな」
その、さわやかな笑顔とは裏腹に心はドキドキ
少し離れた席で国信が心配そうに見詰めていた
「ごめんなさい七原くん」
ガーン……七原玉砕
「だって私まだ死にたくないから……」
少し離れた席で七原ガールズが殺気を込めた視線を送っていた




天瀬、オレと一緒に遊ぼうぜ。オレ前から、おまえの事いいなと思って…… 」
その時だった!!!いきなり背後から髪の毛を鷲掴みにされたのは
「……よくも、あたしの目の前で美恵 に手を出そうとしたわね」
「……ひっ!ち、千草……助け…!」
「助けるわけ無いでしょう!!……弘樹!!」
貴子の目線に頷いた杉村、その時!


ドンッ!ドンッッ!!!


川田が窓ガラスを割ろうとしていた
「おい、今割るから良かったら使ってくれ」
「ありがとう川田、助かるよ」
数分後、窓から落とされそうになっている男子生徒と
落とそうとしている男女の生徒3人
そして顔面蒼白になって制止する教師が目撃されたとか




「ねえ美恵 。あたしとまわりましょ、すごくお得よ」
「え?どうして?」
「だって、あたしと一緒なら行列に並ばずに済むもの」
ちなみに光子には何でも言うことをきく男が星の数ほどいる
その中には某テーマパークのお偉いさんもいるとかいないとか




美恵 」
と、ここにきて桐山登場
「オレと一緒なら、もっと得だぞ」
「え?どうして?」
桐山は携帯を取り出した
「今すぐ貸切りにしてやる。賛成してくれるかな?」




……シーン……




「ハハ……さすがボス」
沼井は半ばあきれながらも惚れ直していた
「でもさぁ、都会の女をナンパしてみたかったよな」
「そうだよな、こんなチャンスないし」
「もう竜平くんも博くんもスケベね」

「「「「でも人ごみにもまれないディズニーランドもいいよな(わね)」」」」




「貸切はオレと美恵 だけだ」




……シーン……




「バ、バカ言うなよ、桐山!!」
「何考えてるんだ!!?」
「卑怯だぞ金の力にモノを言わせるなんて!!」
「あんた親にどういう教育受けたのよ!!」
「その通りよ!!あたしも一緒なら許すけど!!」
ちなみに上から七原、川田、杉村、貴子、光子である




結局、美恵は誘ってくれた全員と行動を共にすることになってしまった
それにしても――だ




……誘ってくれると思ったのに




ほんの数日前の出来事が頭をよぎる









『オレ、天瀬のこと好きなんだぜ 』
『え?嘘でしょ』
『……酷いなぁ、オレ自分から告白したの初めてなのに』









……やっぱり遊び半分だったのかな?




美恵 はチラッと彼をみた




瀬戸豊と楽しそうに話している




……私、本当は嬉しかったのに




そんな美恵 の背後を何もないように通り過ぎていく




……なによ、その気にさせておいて




ガサッ……美恵 は僅かに瞳を拡大させた
「え?」
メモ……彼が後ろを通り過ぎる時、そっと手の中に忍ばせた
「……何だろう?」














楽しかった時間もあっと言う間に過ぎた
城岩中学3年御一行様はホテルに到着
後は美味しい食事とのんびりお風呂
そして明日に備えて睡眠だ




「あれ?美恵 、どこにいくの?」
「……ちょっと用事があるの」
『夕食時間、ホテルの前で待ってる』
メモにはそう書かれていたのだ














「よう、遅かったな」
待っていたひと、それは
「三村くん」
「さあ行こうか」
「行くってどこに?」
「決ってんだろ?夜は長いんだ、せっかく来たんだ夜のパレード見に行こうぜ」
「ええっ!!?」














「……いいのかなぁ」
「おい、ここまで来て野暮なこと言うなよ」
そう2人はディズニーランドに舞い戻っていた。
今頃ホテルでは大騒ぎかもしれない
修学旅行先で生徒が2人行方不明になったのだ
三村は確信犯だった
最初から計画してたらしくチケットを買っていたのだ
そして手際よくタクシーも待たせていた
それにしても……だ




「どうして、あの時誘ってくれなかったの?」
「あの時?」
「皆が私を誘った時よ。豊くんと喋ってばかりで」
「もしかして妬いてくれてたのか?」
「違うわよ!!///」




反論しても、その紅く染まった顔では説得力無しである




「オレは大勢の崇拝者の1人は嫌だったんだよ」
「え?」
「あそこで口出ししたところでオレは大勢の1人に過ぎない」
「……………」
「あいつらと一緒に天瀬の周りをついて歩くのはごめんだったんだ 」
「……三村くん」
「オレは取巻きの1人なんかじゃなく、特別な1人になりたかった」









天瀬のオンリーワンになりたかったんだ 」
「………///」









「あ、見ろよ。パレードが始まったぞ」
華やかな電光色が夜を飾る中
昼間とはまるで違う幻想的な祭りが始まった
「わぁ、綺麗」
「だろ?だから、2人で見たかったんだ」




音楽に乗って楽しく踊るキャラクターたち

「………!」

そんな夢のような時間の中

「……三村くん?」

そっと三村が美恵 の手を握っていた

「……天瀬? 」

まるで星を散りばめたパレード

「何も言わないで、このままでいて」

美恵 は握り返していた




パレードが終るまで二人の手はつながれていた














「あーあ、遅くなっちゃったね。先生たち、きっと怒ってるよ」
「だろうなぁ……」
「三村くんのせいだからね」
「ホント、悪かったよ」
「とても反省してるとは思えない」
それから美恵は間をおいて言った




「ねえ、教えて」
「ん?何を?」
「言ったじゃない。こんなことまでした理由……いいことを教えてやるって」
「……そうだったな。アレだよ」
指差した先、それはディズニーランドのシンボル・シンデレラ城
「あれが連れ出した理由?」
「ああ、そうだよ。知ってるか?」




三村が、また美恵 の手を握った

そして言った、笑いながら




「シンデレラは夜遊びをして幸せを掴んだんだぜ」




~END~