「あ、あの三村くん。あたしと付き合って下さい」
「悪いけど、オレ好きなこがいるんだ」
三村くん、来る者拒まずだと思ったのに
「覗き見なんて感心しないな天瀬 」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。 偶然、通りかかって……その」
天瀬、オレ最近は、ずっとこうなんだ。
好きなこに女癖の悪い男と思われたくないだろ?
だから、もう女遊びはきっぱり止めたんだ」
「そう…幸せね。三村くんに想われてるなんて」
そう言いながら美恵 の胸はチクリと痛んだ

「告白したらOKしてくれると思うか」
残酷……そんな事、私に聞くなんて
「三村くんを断る女なんていないわよ」
「そうか、よかった」
そう言って、三村は美恵 を抱き締めた


「三村くん?」
「オレ、本気だから……」




ONLY YOU




バスケットボールが爽快にゴールを決める
「キャーーーッ!!三村くーーんっ!!!」
大熱狂の渦と化す体育館。いや、三村親衛隊
「相変わらず、すごい人気だな三村」
「うらやましいなぁ……」
そんなチームメイトを尻目に三村は、ある一点を見詰めていた
そして、笑顔でウインク。その先には愛しい彼女
軽く手を振って応えてくれている




あの日から美恵 は三村のクラスメイトではなく恋人になった
最初は不安だった。本当に三村と上手くやっていけるのか、と
でも、それは杞憂だった
三村は美恵 を、とても大事にしてくれた
もちろん他の女には見向きもしなくなった
試合中でも、ハーフタイムには、こうして美恵 を気遣ってくれる


つきあって本当によかった


しかし、美恵 は気付いていなかった
そんな、幸せ一杯の美恵 を睨む視線に









「これで、最後だ」
ドリブルからシュートの体勢に移る三村
「調子にのるなよぉ!!」
ピピッィィ!!!!! 審判の笛が鳴り響く。反則だ
相手チームの一人が、三村に体当たりしていた
「痛ゥ…」
同時に試合終了。しかし、足首が痛む。ひねったみたいだ





「信史、大丈夫!!」
応援席から、美恵 が走ってきた。とても心配そうだ
「信史……足、腫れてる」
「心配するなよ。これくらい日常茶飯事だから」
「私、湿布薬買って来るから!!」
美恵 は全速力で走っていった




「羨ましいな……いいな、おまえ愛されてて」
「だろ?オレたちはアツアツなんだよ」
三ヶ月前からは予想もつかなかった三村の返事に
チームメイト達は、もはや何も言わなかった














「信史……早く帰らなきゃ」
美恵 が校門をくぐった時だ
「ちょっと、あんた」
ドスの聞いた声がした。振り向くと敵意に満ちた表情の女が十数人
「話があるんだけど」
「話…って。悪いけど、私急いでるから」
「いいから来なさいよっ!!!!!」
女達は、強引に美恵 を引っ張って行った




「あれ?あれは美恵 ちゃん。それに……あの人たちは」









ドンッ!!!
学校裏に連れ込まれ、美恵 は背中から壁に叩きつけられた
「よくも、あたしたちの三村くんを誘惑したわね」
「……誘惑?」
「とぼけるんじゃないわよ!!!」
「三村くんは、みんなのものよ!!」
「それを独り占めしやがって!!」
「以前は、あたしたちとも付き合ってくれてたのよ!!」
「あんたが汚い手を使って彼を誘惑したんでしょ!!」
「そうでなければ、あんたなんかと付き合うわけないじゃない!!」
反論の余地を与えない猛攻撃
そう、彼女たちは三村の元取巻き
三村にフラれたことで美恵 を逆恨みしていたのだ









美恵 、遅いな……」
薬屋は、すぐ近くなのに
三村は心配そうに時計を見詰めた
「シンジ!シンジィ!!」
「どうした豊」
「た、大変だよ!!美恵 ちゃんが!!!」









「とにかく、すぐに三村くんと別れなさいよ」
「嫌よ」
「何だって!!!!!」
正直怖かった。嫉妬に狂った女の集団ほど怖いものはない
それでも三村と別れるなんて出来ない
こんな脅しに乗るような脆弱な関係ではないのだ




「私、絶対に信史とは別れない」
「ふざけるんじゃないわよっ!!」
「こんなことしたって、信史の心は手に入らないわよ!!」
「なんて生意気で図々しい女!!」
「こうなったら嫌でも別れさせてやる」




と、そこへ
「うわぁぁ!!なんでオレがこんな目に!!」
巨漢。の、割には気が小さい苛められっ子
「赤松くん?」
なぜ、奴がここに?
「三村くんと別れないなら、こいつとキスさせてやる」
「ッッ!!!!!!!!!!」

冗談じゃないわよッ!!!!!




美恵 絶体絶命の大ピンチ




「おまえら、何やってるんだ!!!!!」
「し、信史っ!!」
「「「「「み、三村くんっ!!!」」」」」
三村は女たちを掻き分け、すぐに 美恵の元に来た
涙目になっている美恵 の頬を、そっと両手で包み込む




「大丈夫か?」
「……うん」
よかった、間に合った。三村は心からホッとした
そして安堵した次の瞬間、三村の心に全く別の感情が湧き上がってきた
顔面蒼白になっている女たちに鋭い視線を投げた




「……よくも美恵 を、こんな目に」
「ち、違うのよ三村くん。あたしたち、ちょっと脅かしてやろうとしただけなの」
「そ、そうなの。それなのに、この女、本気になって……」
「最近調子に乗ってるから……だから、その……」
「ふざけるなっ!!!!!」
その怒声に女達はおろか美恵 もビクッとした
三村が怒ったところを見るのは初めてだ。それも女の子を相手に




「文句があるなら、最初からオレに来い!!」
「あ、あたしたちは三村くんに文句なんか……」
美恵 に何かしたら、女でも容赦しないぞ!!!」
「み、三村くん……」
先ほどの勢いは、どこへやら涙目になる女たち
三村の凄まじさに美恵まで驚愕している
涙目だった女たち。ついに、泣き出してしまった
それでも三村の怒号と罵声は止まらない。今にも殴りかかりそうな勢いだ




「信史ッ!!」
酷い目に合わされた事も忘れて美恵は、三村を背後から抱き止めた
「信史ッ!もう、やめてっ!!」
美恵、止めるなッ!!!!!」
「もういいの!!私は、もういいから!!だから……」
背中越しに、美恵が震えているが伝わってきた







「お願い信史……」
「……美恵」







「……消えろよ」
「……み、三村くん……」
「勘違いするなッ!!許したわけじゃないッ!!!!!」
「……あ、あたしたち……三村くんのこと……」
「殴られたくなかったら、さっさと消えろッ!!!!!」
女達はワンワンに泣きながら走り去っていった
「あ、あのオレは……」
取り残された赤松
「おまえも、さっさと消えろ!!」














二人だけになった
美恵は、まだ三村を抱き締めている
どれくらい時間がたっただろうか?




「……ごめん」
ひどく弱々しい声が聞こえた
「信史?」
そっと三村から身体を離した




「信史…?」
抱き締められていた
「……ごめん、美恵」
「どうして、信史が謝るの?」
「全部オレのせいだ。オレが今まで、いい加減な付き合いを繰り返していたから」
「……………」
抱き締める腕に、さらに力がこもる
「本当に悪かった……美恵に何かあったら」
「……もう、いいの」
そう言って、三村の背中に手をまわした














その日、三村は美恵を家まで送った
三村のケガを気にして、美恵は、いいと言ったのだが、 三村が、どうしても聞かなかったのだ




「もう二度と、こんな事にならないように、あいつらには話つけておくから」
「信史、あの人たちを責めないで」
「なんでだよ。美恵を、こんな目に合わせた奴等だぞ」
「だって、あの人たちだって、信史の事好きだから
だから、あの人たちの気持ちもわかるの」
「……美恵」
「私ね、びっくりした。信史が女の子に、あんな事言うなんて
それも私の為に。少し嬉しかったの。だから……」
「……………」
「だから、もう十分。正直言って、少し不安だったの
でも、信史の本気がわかった。私、嬉しかった。だから……」




抱き締められていた




「オレ、美恵の事好きだ」
「………うん」
「こんな気持ちになった女は美恵が初めてだ」
「………うん」
「愛してる」
「……うん。私も愛してる」




そっと手を差し出す三村
戸惑いながらも、その手を握る美恵




「行こうか」
「うん」




これからも色々な事があるだろう
でも、一つだけ確かなことがある


握った、この手は離さない




――ずっと――







~END~