オレの名前は三村信史
一昔前(と、言ってもほんの数ヶ月前だ。え?そんなの昔のうちに入らない?まあ、細かいことは大目に見ろよ)オレは校内でも有名なプレイボーイだった。
だが、今は違う。
そうオレは自分でもびっくりするくらい誠実で一途な男になったのさ。
その理由だって?
決ってるじゃないか。本気で惚れた女が出来たからなのさ
Candy
「ウフフいいもの作っちゃった。やっぱりアタシって天才よね。うんっ!!」
誰もいない教室。自称・クラス一のレディこと月岡彰はルンルン気分でスッと両腕を上にあげるとバレリーナのようにクルクル回っていた。
それも白鳥の湖の黒鳥・オディールの32回転を!!!!!
「これさえあれば学校中の色男は全員アタシのとりこよぉ!!
あ、いけないいけない浮気しちゃあ三村くんに悪いわ。うんっ」
全然悪くないぞっっ!!!!!←三村の心の叫び
「やっぱり一番最初は三村くんに使ってあげないと可哀想よね。
ウフフ‥‥いっそのこと公衆の面前で使っちゃおうかしら?
あ、いけなーい。その前におめかしおめかし、化粧室で髪型セットしなおさなくっちゃ」
月岡はルンルン気分で内股走りで教室を後にしていた。
その数分後ー。
「おーいヅキ。屋上に集合だ、今夜の計画のミーティングを‥‥いねえ」
たく、何処に行ったんだよ。あれ?
ふと見ると月岡の机の上にキャンディーが置いてある。
「なんだこれ?」
ただの飴玉か‥それにしても、あいつ何処に行ったんだ?
沼井は無意識にキャンディーをポケットに入れてしまった。
ああ!!この手癖の悪さが後の悲劇につながるとは!!!
――屋上――
「ボス、ヅキの奴いなかったですよ。……あれ?」
美恵がいる。しかも桐山と話をしている。
いつもは無愛想な桐山だが随分嬉しそうだ。何を話しているんだろう?
「……オレはオレを肯定する」
「そう。頑張ってね」
「ああ‥‥おまえを抱くことを邪魔する奴は道端に転がる石だ。
道端に転がっている石をどかすだけだ……」
え?
「よお天瀬」
「沼井くん、あ、そうだこれ食べる?調理実習にクッキー作ったの」
みると桐山がパクパク食べている。
そして目でこういっていた。
オレのものだ。手を出したら殺す……!!と。
「お、オレは……いいよ。実はさっき購買でパンかって食ったばかりだから」
「そう、残念」
「気持ちだけ貰っておくよ……お礼に、ああそうだこれやるよ」
沼井はポケットの中から飴玉を取り出した。
ヅキのものだけど、まあいいよな、たかが飴玉一つくらい。
「ありがとう沼井くん。……うん、美味しい……アレ?」
なんだか変な気分……なんだろう、何かしたい何か……何か……。
「美恵のやつ、どこに行ったんだ?そろそろ下校の時間なのに」
三村はブツブツ言いながら屋上のドアを開けた。
!!!!!←三村の心の叫び
美恵が沼井に抱きついている!!!
勿論、沼井は真っ赤な顔して焦っている。
が、三村にはこう見えた。
『い、いやぁ!!』
『へっへっへ!!ちこう寄れぇ!!』
「沼井ッ!!てめえっっ!!!!!」
オレはマッハのスピードで疾走!!
即、美恵を沼井から救出!!
(はたから見たら美恵を引き剥がしただけだったが)
「充……殺す!!」
桐山がイングラムを取り出した!
オレはよっしゃ!!とばかりに沼井を後ろ手にしばり叫んだ。
「やれ桐山、容赦するなぁぁ!!!」
「ちょっと二人とも何してるのよ!!」
「「美恵」」
「沼井くんをどうするつもり!!?」
「「どうするって……眠ってもらうだけだ。ただ長い眠りだが」」
「何が原因よ!!」
「原因って、おまえに抱きついたんだろうが!!」
「いつ沼井くんが私に抱きついたのよ!!?」
「へ?」
「わけのわからないこと言わないでよね!!」
「おまえ……覚えてないのか?」
「だから何言ってるのよ!!?」
と、ここで桐山が話しかけてきた。
「美恵、本当に覚えてないのか?」
その時……ガバッ!!
!!!!!←三村の心の叫び(再び)!!
美恵は……桐山に抱きついていた。
沼井もビビッていたが、もちろん一番ショックを受けているのは三村だ。
「あ、あわわ……」
こんな!!こんなことが許されていいのか!!?
確かにオレは今まで石田純一も真っ青な不純な付き合いを繰り返してきたよ!!
でも、おまえだけは本気で好きだったんだぞ。
それなのに、そのオレの目の前で何でそんな危ない男に抱きついているんだよぉぉーー!!!!!
「……そうかわかった。すぐに保健室に行こう」
なんで保健室なんだっっ!!!!!
この猟奇的金髪フラッパーパーマァァァーー!!!!!
「……都合がいいからだ」
「人の心の声聞くなよ、この間男野郎ぉぉーー!!!!!」
「……あれ?私何やっていたんだろう……え?桐山くん!?」
ど、どうして桐山くんと抱き合ってるの!!?
「簡単だ」
桐山は淡々と答えた。
「……オレたちは、たった今愛し合うことになった。
……次の段階にステップアップだ」
「……え?次の段階?」
「……ピー(放送禁止用語)だ。保健室に行くぞ」
「!!!!!」
「ま、待ちやがれ桐山ぁぁ!!オレの前でそんなこと出来ると思っているのか!!?」
「……うるさい」
その時!!
「あ、あぁぁーーんっっ!!
アタシの、アタシのキャンディーちゃんがぁぁーー!!!」
え?月岡?
「あああああぁぁーー!!!!!」
突然、屋上のドアが開いたと思いきや内股で走りこんできたオカマがその場に横座りの体勢で倒れこみ、ハンカチを噛み締めおいおい泣くのだ。
これは三村や沼井でなくとも呆気にとられるだろう。
もっとも桐山は全く興味もわかず「……さあ、行くぞ。オレの肉体から離れられないようにしてやる」などと美恵の腕を引っ張っていたが。
「ど、どうしたんだよヅキ」
「……あ、アタシのぉぉぉーー!!!キャァンディィーちゃぁぁんがぁぁーー!!!!!」
「……キャンディー。も、もしかして……これか?」
沼井はキャンディーを包んでいた包装紙を見せた。
「てめえだったのかっっ?!!
このコソドロ野郎ぉっっ!!!!!」
「ぎゃぁぁーー!!!こ、殺さないでくれぇぇーー!!!!!」
「や、止めろ月岡ぁぁ!!沼井が死んじまうだろ!!」
「……フン、しょうがないわねぇ。三村くんに免じて許してあげるわ」
「で、でもなんでそんなに怒るんだよ……たかが飴玉一つで……」
「チッチッチ……ただの飴じゃあないのよ」
「ただの飴じゃない?」
「つ・ま・り・ぃ……飴を舐めた男の子はアタシに愛の抱擁をせずにはおれないという、とっても素敵なキャンディーなのぉ!!
キャッ!!ヅキ言っちゃったッ!!エヘ」
……抱擁?……おい、それって……。
「で、キャンディーは沼井くんが食べたの?」
「……美恵が食べたんだ」
「え?美恵ちゃんが?」
と、ここで三人の視線が一気に美恵に。
何と押し倒されているではないか!!!!!
「桐山ぁぁーー!!!!!公衆の……いや、彼氏のオレの目の前でッッ!!!!!
上等だ桐山!!おまえは、オレに宣戦布告をしたんだな!!!!!
だったらオレを追って来いッッ!!!
美恵は簡単にやられてもオレはそうは行かないぞ!!!
だから、オレを追って来い!!頼むからオレを追って来い!!!」
「……嫌だ」
「……あーあ、何言ってんのよ。ほら、大丈夫?美恵ちゃん」
「……う、うん。あの……私どうしたの?
さっきから……記憶が断片的に抜けてるような……」
「……薬の副作用ね」
「……どうやら失敗作だったようね」
「……失敗作……どういうことだよ」
「これを食べた男はアタシに抱きつくはずなのに、『三村くん以外の男に抱きつく』みたい」
「な、なんだとぉ!!!!!?」
「……まあ、しょうがないわよね。失敗は成功のもとっていうし」
「しょうがないで済むか!!だったら何で美恵はおまえには抱きつかないんだ!!?」
「バッカねぇ三村くん。アタシは女じゃない」
「…………真顔でいうなよ」
「とにかく解毒剤を持ってくるから、それまで美恵ちゃんをよろしくね」
「…………ああ、とにかくオレが守って……って、こらぁ!!桐山!!
どさくさに紛れて美恵を持ってくな、この拉致監禁野郎っっ!!!!!」
…………前途は多難だった。
「……とにかく桐山から引き離して……あれ美恵?」
いない……さっきまで隣にいたのに……。
「うわぁ!!ダメだよ美恵さん!!お、オレは和美さんのことを一生好きなんだっ!!」
げ!!七原に抱きついてやがる!!
桐山でなくて良かった……なーんて言ってる場合じゃない!!
たとえ下心無い奴でも、美恵に抱きつかれるなんて許さないぜ!!
「でも……オレは君を愛したい!!」
「七原ぁぁ!!何抱き返してるんだぁぁ!!!」
「み、三村!!……こ、これには深い理由が!!」
「何が深い理由だ!!今すぐ、おまえを簀巻きにして七原ガールズにオークションにかけ……あれ?美恵?」
い、いない!!ちょっと目を離した隙に!!!!!?
「天瀬っ!!な、何をするんだ!!オレたちはまだ中学生じゃないか!!!」
げ!!杉村に抱きついてやがる!!
桐山でなくて良かった……なーんて言ってる場合じゃない!!
たとえ下心無い奴でも、美恵に抱きつかれるなんて許さないぜ!!
「お、オレは親友を裏切ることなんて……」
「と、言いつつ腕を回してるんじゃないわよ、このバカっ!!!」
ナイス千草!!見事な脳天とび蹴りだな!!
「このバカ!!あたしが、その根性たたきなおして……って、弘樹!!?」
……あ、あいつ鼻血出して倒れてやがる!!!
そ、そうか!!杉村は強面のくせに千草以外の女に全く免疫がなかったんだ!!!
「弘樹!!死ぬんじゃないわよ!!!」
「……た、貴子……おまえ、いい女になったぞ」
「あんたこそ世界一カッコイイ男……」
「……な、わけないだろっっ!!!しっかりしろよ千草っ!!!」
くっそー!!このままじゃあ、いけない!!
美恵をどこか安全な場所で保護しないと同じことの繰り返しだ!!
三村は美恵を保健室に連れて行った。
「……誰もいないな」
「ちょっと信史、どうして保健室につれてくるのよ」
「いいからオレを信じろ。な?」
「……うん」
くぅー可愛いぜ、その上目遣い!!
その目で他の男に抱きつくなんてオレもう耐えられない!!
これ以上過ちを繰り返さないように……そうだ!!
三村は閃いた。
「美恵、ちょっとこれで目隠ししろ」
ベッドに座っている美恵に包帯で目隠しした。
これだけでもいいのだが、万が一のことを考えて両手首も縛った。
「ちょっと信史、何するのよ」
「いいから、オレを信じろ。本当なら手錠したいくらいなんだ。
おまえを愛しているからやってるんだよ。わかるだろ……?」
「……信史」
よくわからないけど信史がそういうなら信じてみよう。
美恵は大人しく従うことにした。
どのくらい時間がたっただろうか?
(……それにしても)
気のせいだろうか?目隠しして手首を縛られた美恵もなかなかいいよな。
なんていうんだろう?……オレの中の何かが目覚めるような……。
三村はふいに美恵の頬に手を添えた。
「し、信史?」
「……特別プレゼントだよ」
三村の唇が美恵のそれにそっと近づいた……。
「あーら、こんなところにいたのね三村くぅぅ~~ん!!
ヅキ探しちゃった……って、おい!!」
「つ、月岡!!」
月岡が見たのは……ベッドに座っている美恵。
その美恵を包帯で目隠し、手を縛り。
そのまま一気に唇を奪いにかかっている三村の姿だった。
……シーン……。
「いやぁぁーー!!!!!不潔よ三村くんっっ!!!!!」
「ば、ばか!!大声出すなよ!!」
「知らなかった!!そういうプレイが趣味だったのね!!」
「え?……お、おい待てよ!!」
「問答無用よっっ!!うわぁぁーーん!!!」
月岡は走った。両手で顔を覆いながら内股で!!
にもかかわらず、100メートル11秒前半で走れる三村が追いつけないほどのスピード!!!
「うわぁぁーーー!!!三村くんが、三村くんがぁぁぁーー!!!!!
女の子を保健室に監禁して、包帯で動きを封じて
目隠しまでして襲うひとだったなんてぇぇーー!!!!!
今まで肉体関係持った三人の女の子にもSMプレイやってたのね!!!!!
だから長続きしなかったのよ、信じられない不潔よバカァァーーー!!!!!」
オカマの大音響は凄まじく……校内放送のごとく学校中に響き渡ったのだった。
その後、美恵は薬の効果が切れたのか元に戻りましたとさ。
三村は学校中から昨日までとは違う目つきで見られるようになったけど人の噂も75日!!
だから、まあ万事OK!大丈夫(だよね?)
メデタシメデタシ
~END~
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