「待ってろ、光子!何が何でも助けてやるからな!!」
「おい夏生」
「止めるなよ夏兄、俺は行くと言ったら行くからな」
「止めやしないさ。惚れた女のために命張るのは男の使命だからな」
「話が早くて助かるぜ、じゃあ行ってくる」
廊下からパタパタと小走りの音が近づいてくる。
「夏生、どこなの夏生?!」
夏生は顔を強ばらせ「アディオス!」とテラスから飛び出した。
直後、扉が開き「夏樹、夏生はどこ?隠すとためにならないわよ!」と年配の女性が現れた。
「叔母さん、あいつなら逃げたぜ」
「何ですって?」
「恋の逃避行だ。あんたもいい加減あいつは諦めた方がいい」




鎮魂歌―夏生の悲劇―




夏生の悲劇は少し時間を遡ってから始まった。
「叔父さん!」
降って湧いたような悪夢のような縁談に夏生は焦っていた。
このままでは、なし崩し的に叔母に人生ルートを引かれてしまう。
祖父は当てにならない。それどころか厄介払いが出来たとせいせいしている様子だ。
あの爺、隠居したくせに孫の人生に口出ししやがって、だったら現当主たる叔父に直談判してやる。
現役の叔父からきっちり縁談拒否してもらえば、あの強引な叔母もおとなしく引っ込むだろう。
夏生らしい単純な考えだった。




「何だ、騒々しい」
「聞いてくれ、爺さんも叔母さんも酷いんだ!」
夏生は叔母が祖父に申し込んだ敏子との縁談を、まるでシェイクスピアの悲劇のように盛大に語った。
「俺の人生、勝手に決められてたまるか!
しかも夏兄達は優秀だから婿養子にはやらない、俺なら惜しくないってほざいたんだぜ、こんな仕打ちあるか!」
恋愛結婚した叔父になら今時政略結婚なんて非道だと理解してもらえると期待していた。
しかし――
「夏生、いい縁談ではないか」
「は……?」
夏生は硬直した。




「おまえは七男坊だ、どうあがいても季秋の跡取りにはなれない。
かといって父上はおまえを分家するつもりもないだろう。
つまり、おまえが授爵することはまずない。このままでは季秋の部屋住みで一生を終えることになるだろう。
しかし狩野の婿養子になれば准男爵になれるではないか。士族だが上流階級だぞ。
おまえの運も開けてきた、そう解釈して前向きに考えてはどうだ?」
夏生は呆然としていたが、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「おまえは夏樹達と違い出来がいいとは言えない。
その、おまえを姉上は希望してくれたのだろう?感謝してしかるべきではないか」
夏生の中で火山が大噴火した。


「何、言ってんだ!相手はあの敏子だぞ、俺がこの世で唯一たたない女なんだ!」


噛みつくような大声だったのか盛大に唾が飛んだ。
叔父はハンカチで顔を拭きながら、さらに分別くさい説教を始めた。
「おまえは、自分を棚に上げて文句が多すぎる。こういう縁談が来ただけでも喜ぶべきだぞ」
「……そ、それじゃあ、まるで俺がポンコツみたいじゃないか」
「そこまでは言わないが、少しは自分を省みろ」
「もういい!」
叔父も祖父と同類だ、全く宛てにならない!
夏生はその足で今度は秋澄の部屋に突撃した。
現当主が使えないなら次期当主だ。
優しい兄・秋澄ならわかってくれる、叔母に破談を申し込んでくれると信じていた。














「――と、いうわけだ。酷いだろ兄ちゃん?!」
「夏生、頭ごなしに政略結婚を否定するのもどうかと思うぞ」
「……は?」
兄弟に甘い秋澄なら二つ返事で引き受けてくれると思っていた夏生は我が耳を疑った。
「確かに周囲が勝手に決めた縁談に反発したくなる気持ちはわかる。
だからといって相手を全否定せず真っ新な気持ちで見てはどうだ?
私をみろ、私と葉月にしてもお祖父様が決めた政略結婚だ。
けれど私は心から葉月を信頼し、私には勿体ない女性だと思っている。
この縁談をまとめてくださったお祖父様に感謝しているくらいだ。
敏子さんは叔母さんが自慢してる姪なんだろう?そう悪い相手ではないではないか」
「何言ってんだ兄ちゃん!敏子と義姉さんとでは女のレベルが違うだろ!!
相手が義姉さんみたいな美人なら俺だって二つ返事で承知してる、でも相手は敏子だぞ!」




「礼儀正しい良い子じゃないか」
「あいつは兄ちゃんには猫かぶってんだよ!!」
敏子は夏生は罵倒するわ暴力まがいの振る舞いまでするのに、他の兄弟にはそうではない。
それも夏生の癇に障る材料だった。
敏子との結婚生活なんて想像しただけで息が詰まりそうだ。
何の面白味もない、退屈どころか顔を合わせるだけでお互い罵る未来しか見えない。
「おまけに結婚なんかしたら浮気も出来ないだろうが!」
「……それは当たり前じゃないか」
秋澄は額に手を置きながら、さらに諭すように言った。




「おまえは敏子さんの悪口ばかりだが、肝心の敏子さんの気持ちはどうなんだ?」
「ん……敏子の気持ち?」
「おまえがそこまで嫌っているのなら彼女だってこの縁談には乗り気とは思えないが」
そこで初めて夏生は気づいた。
そうだ、自分がいくら逆らったところで、あの叔母が諦めるとは思えないが、敏子から断らせればいいではないか。
敏子から断らせるなんて少々プライドが傷つくが、この際、背に腹は代えられない。
「よーし、こうなったら、もっともっと敏子に嫌われてやる!!」
そうと決まれた話は早い。夏生は叔母が敏子を伴い来訪するのを待ちわびた。














「夏生、これは何だい?」
夏生の部屋には蛇や蛙、はてはドブネズミやゴキブリ、ムカデなど女の子が嫌う動物や虫が集められていた。
「ふふふ春兄、これはなぁ~俺から敏子への特別プレゼントさ」
この嫌われ者軍団の猛襲を受ければ敏子は気絶するほどのショックを受け、その元凶である夏生を二度と顔も見たくないほど恨むに違いない。
叔母に絶縁されるかもしれない、祖父や叔父には盛大に叱られるだろう。もしかしたら体罰や投獄もあるかもしれない。
優しい秋澄を泣かせてしまうかもしれないが、それでも夏生の決意は揺るがない。
(あんな女と結婚するくらいなら勘当なんか怖くない!)
春海が「女の子は優しくしないといけないよ。可哀想じゃないか」と良識的な事をほざく。
「だったら春兄がこの縁談受けてくれるのか?だったら考え直してやってもいいぞ」
「駄目だよ夏生、僕の占いだと敏子さんと僕の相性は最悪なんだ。
星の巡りが悪くてね、僕と結婚したら敏子さんの運勢は大凶になって、その日のうちに死ぬんだよ」
「……それ、春兄が結婚したくないってだけじゃないか」
この兄は殺るといったら必ず殺る。天使のような笑顔に騙されてはいけない。




「よせよ兄貴、そんなセコいマネしなくても堂々と断れば済むことだろ?」
今度は弟・春樹が分別臭い正論を吐いた。
「だったら、おまえが俺の代わりに敏子と婚約するっていうのか!?」
「は?何でそうなるんだよ。俺にだってタイプってのがある」
「おまえのタイプは二次元の彼方だろうがー!!」
他人事だと思って!
「だいたい、あの女は俺だって好きじゃ無い。ロッテンマイヤー女史やミンチン先生に匹敵する逸材だぜ」
アニメのキャラを比較対象に出す事にツッコミたくなるが、敏子はまさにその通りの女なのだ。
「俺は綾波やミサトで十分だ」
「……それも問題だと思うけどな」
兄弟は他人の始まりという諺を夏生はこれほど身に滲みた事は無かった。
信じられるのは自分のみ、道を切り開くのは自身しかいないのだ。

(俺の未来は俺自身の手で守ってやる!あんないけ好かない女に俺の人生邪魔されてたまるか!!)

夏生の思いが天に通じたのか叔母が敏子を連れて里帰りすると連絡してきた。
夏生はガッツポーズを取り「これほど敏子の訪問が嬉しいのは初めてだぜ!」と意気込んだ。
「お手柔らかにね夏生」
春海がくすくすと優しげな笑みを浮かべていた。














二日後に黒塗りの高級車が季秋家の正門をくぐった。
テラスから様子をうかがうと車寄せにて叔母と敏子が降車するのが見える。
「ついに来たな敏子……おまえとの悪縁も今日で終わりだ」
くっくっくと夏生は不敵な笑みを浮かべ、嫌われ者軍団を大きな箱に詰めだした。
夏生の作戦は至ってシンプル、応接間に強行突入して敏子に箱の中身をプレゼント。
小学生の悪戯か!




「それで夏生の様子はどうなの?」
「相変わらずです、お嬢様。お坊ちゃまは勉学に励むこと無く遊んでばかりで……定期テストすらさぼっているので、成績もその……。
大きな声では言えませんが、このままでは赤点を取るのも時間の問題でして……他の若様は成績優秀な方ばかりなのに、なぜ夏生坊ちゃまは……」
執事はハンカチを取り出し声を殺して泣き出した。
部屋の外から扉越しに様子を伺っていた夏生は「悪かったな」と苦虫を潰している。
「おまけに先日も女子更衣室に忍び込もうとして現行犯で捕獲されまして。
……ご本人は男子更衣室と間違えたなどと苦しい言い訳を繰り返し、旦那様の取りなしでなんとか謹慎で済みましたが……。
季秋家の御曹司が性犯罪で退学寸前などとは前代未聞でして……情けなや」
執事はおいおいと号泣しだした。
夏生は「あんなのジョークだろ、ジョーク。爺は深刻に考えすぎなんだよ」と呆れてすらいた。
「まったく、あの子は……そんな事では狩野の跡継ぎとして問題ありすぎるわ」
それは悪口であるはずなのに夏生は「おっ!」と思わず喜んだ。
もしかしたら、このままなし崩し的に破談になるかもしれない。そんな期待に胸が膨らんだ。




「でも、あの子にはあの子の良さがあるわ。根は素直で優しい子なんだから」
それは嬉しい言葉のはずだが夏生は瞬時に顔を歪めた。
「叔母さん、俺はそんな評価望んでいない!同情するなら破談しろ!」
そんな夏生の悪感情に反応したかのように敏子の声が聞こえてきた。
「叔母様は甘すぎます。叔母様にとっては血のつながったかわいい甥かもしれません。
でも、あんなさかりのついた猿みたいな人、存在してるだけで害悪よ。空気の無駄遣いなんです」
夏生の形相がこれ以上ないほど引きつった。
「女を性の対象にしか考えられない本能だけの人間だもの。いいえ、人間なのかも怪しいわ」
「敏子、そこまで嫌わなくても。あの子は潜在能力は凄いのよ。大物になれる片鱗があるわ」
「とてもそうは思えません。だって、不道徳が服着て歩いてるだけだもの。
頭の中はからっぽよ、いえスケベな事で埋められてるんだわ。あんな男を狩野の跡継ぎなんてとんでもないわ」

(と、敏子~、おまえ、よくもそこまで……俺だってなぁ、おまえなんかと結婚して狩野の跡取りなんてご免なんだよ!望み通りにしてやるぜ~!!)

夏生は怒りのパワーマックスで扉を蹴り開けた。
突然の夏生登場に芙美子も敏子も執事もぎょっとして振り返った。女中達まで真っ青だ。




「敏子ー!おまえに特別プレゼントだ、ありがたく受け取れ!!」
夏生は全力疾走しながら、抱えていた箱の蓋に手をかけた。
が!後、数十㎝で敏子に到達というところで盛大にこけた。
夏生のただならぬ行動に危険を感じた芙美子が咄嗟に膝に蹴りをお見舞いしてくれたのだ。
「うわぁ!!」
転ぶ、倒れる!夏生は反射的に何かに捉まろうと手を伸ばした。
「きゃあ!」
悲鳴が聞こえたが、夏生にはそんなもの気にする余裕はない。
結局、そのまま倒れ込んでしまった。しかし、不思議と痛みは無い。





「叔母さん、いきなり攻撃するなんて酷いだろ!」
己の行動を棚に上げ、上半身をあげた夏生は「げっ!」と小さい悲鳴を上げた。
自分の下に敏子がいる。と、いうか――。
「きゃああああ!この変態っ!!」
夏生の手が敏子の胸に。想定外の結果に夏生も顔面蒼白になった。
「ま、待て、これは事故だ!」
「スケベ、変質者、最低男!!」
敏子のオラオララッシュ並の凄まじい往復ビンタが夏生を炸裂。
もはや問題無用とばかりに理不尽(と、言えないこともないが)な暴力が夏生を襲う!
夏生は十数分に渡り、敏子から平手打ちやひっかき攻撃を受ける羽目になったのだ――。














「だから言っただろ夏生、女の子に悪戯しようなんて考えるから、こんな目に合うんだよ」
「痛っ、春兄、もうちょっと優しく薬つけてくれよ」
夏生の顔面は傷だらけ。まるで、凶暴な猫の襲撃を受けたような面相になってしまった。
おまけに頬は赤く腫れ上がっている。
「兄貴は甘いんだよ。兄貴が本気出せばあんな女の攻撃かわして反撃できただろ。
何でおとなしくやられたんだよ。俺ならぶちのめしてやるぜ」
「春樹……おまえのそういうところが俺は心配なんだよ。あんなんでも嫌なことに一応女なんだぜ、俺は女に暴力は奮えないんだよ」
夏生はソファに仰向けになって、氷嚢を頬に当てながら溜息をついた。
「……でも計画通りとはいかなかったけど、これで完全に嫌われたな」
終わりよければ全てよし、ポジティブな夏生はそう考えることにした。
叔母もさすがに立腹し、挨拶もせずに敏子を連れ、さっさと帰った事だろう。
が、世の中、それほど甘く無かった。




とんとんとノックに「誰だよ」とだるい返事をすると気難しい表情の叔母が入室してきた。
帰宅する前に一言文句でも言おうっていうのか?
いいぜ、そのくらいの洗礼喜んで受けてやる。夏生はソファから起き上がり、姿勢を正した。
高級テーブルを挟み、叔母は夏生の正面のソファに腰掛ける。しばらく沈黙が続いた。
重苦しい空気を春海、春樹、おまけに騒ぎを聞きつけて面白半分に駆けつけた冬樹までが見守っていた。
「……敏子は随分傷ついたのよ。今も泣いてるわ」
「……悪かったよ、叔母さん。でも、あれは事故なんだよ、事故。
俺がわざとあんなことするわけないだろ。第一、あいつA70もないくらいのペチャパイだったんだぜ。仮にもJKの体型じゃないって。
俺は健全な女好き君なんだ、小学生みたいな胸触って喜ぶわけがない。正直げっと思ったんだ」
夏生は自分でも謝っているのか馬鹿にしてるのかわからない言葉を並べ立てた。
「ただでさえ、あの子、おまえみたいに本能丸出しのおバカな男と結婚なんて冗談じゃ無いって言っていたのよ」
夏生の顔がぱっと輝いた。




「そうだろ、そうだろ、叔母さん、ここは敏子の気持ちを尊重してだな」
「不本意だけど、こうなった以上、おまえに責任取ってもらうしかないって」
「……は?」
今、何て言った?責任……責任って、慰謝料払えってことか?
「いいだろう、俺も男だ。慰謝料として俺の貯金全額払って――」
「馬鹿おっしゃい!女の操が金で何とかなるわけないでしょう! 責任といったら敏子を嫁にする以外ないじゃない!!」
「はぁぁ!?何で、そうなるんだよ!!」
夏生は思わず立ち上がった。
「貞操を穢された以上、おまえ以外の男とは結婚できないのよ。おまえも男なら潔く責任とりなさい!」
「何でこんなことで貞操穢したなんてなるんだよ。
この程度で責任なんて言ってたら兄ちゃんや冬樹なんて何十、いや何百人の女と結婚しなきゃならないんだぞ!!」
名指しされた冬樹は「俺を巻き込むなよ」と前置きをした上で「確かにあいつら節操ないもんな」と同意した。




「あいつら、揃いも揃って異性関係乱れすぎなんだよ。人間、ああはなりたくないものだぜ。
俺みたいにモラルのある恋愛できないのか?
私利私欲でプレイボーイやるなんて感心しないぜ。俺みたいに博愛精神から女と付き合ってる奴は一人もいない。
特に秋利兄貴と冬也兄貴は最悪だぜ。女に無関心&女嫌いなくせに、なんでプレイボーイやってるんだ?
春海兄貴にしたって不特定多数の女と付き合っている理由が『学校はそんなこと教えてくれなかった』ってどういうことだ。
俺みたいにやるからには信念もってやれよな。まったく。あいつら見てると、ほんと俺って人間出来てるって思い知らされるぜ。
俺ってもしかして、本当はこの家の人間じゃないのかもな。
あんな親父や兄弟と血がつながってるとは思えないくらい俺だけがあまりにも崇高すぎるぜ……」
うっとりと自画自賛する冬樹に「おまえは黙ってろー!!」と夏生の怒号が飛ぶ。




「とにかく、こうなった以上、おまえと敏子を結婚させるしかないわ。
けれど、今の馬鹿丸出しのおまえでは到底狩野の跡継ぎになど到底無理。だから私がおまえを生まれ変わらせてあげる」
「は?」
夏生は言葉すら出なくなった。何だ、いったい何の事だ?
芙美子がぱんぱんと手を叩くと扉が開き、いかにもお堅そうなインテリ風の年配者が何人も入室してきた。
「お、叔母さん、この爺さん達はいったい……?」
不吉な予感がして夏生は青ざめた。
「これから私がおまえを教育して立派な男にしてあげるわ。
この方達はその為にわざわざおいでくださった各界の重鎮の方々よ。さあ、今日からこのスケジュールにそって生活なさい」
叔母が一枚の魔の紙切れを差し出した。




「な、なななな何だよコレ!睡眠時間が三時間しかないじゃないか!
後は勉強と礼儀作法で、娯楽時間も自由時間も一切なしだぁ!?」
「劣等生のおまえを立派な男にするためにはそのくらいスパルタでないといけないのよ、わかるでしょ」
「わかってたまるかー!何で俺が成りたくも無い婿養子になるために、こんな苦労しなきゃならないんだ!!」
「お黙り!男が一度決まったことをいつまでもうだうだと!!」
これは人権侵害だ!夏生は世界の中心で叫びたかった!
冬樹は笑っている。春海と春樹は巻き込まれたくないのか夏生から視線をそらしているではないか。




「敏子は学年トップの才女なのよ。何が気に入らないのよ」
「正気か、叔母さん!はっきり言って気に入る要素がないんだよ!!
あんな可愛げも色気もない眼鏡ブス!おまけに女尊男卑思想でヒステリックな暴力女!
冗談じゃないぞ、叔母さんだって叔父さんに惚れたから結婚したんだろ?
俺だって、愛し合ってる女と結婚する権利がある。敏子と結婚なんて真っ平ご免だ!」
「あら、じゃあ、おまえには好き合ってる女性がいるっていうの?」
「う……そ、それは……」
「あら、いないのね」
叔母はふふふと笑みを浮かべた。このままでは勝ち目はない。
「よーし、わかった!じゃあ、紹介してやるよ、俺のスイートハニーを!
そしたら叔母さんも愛する恋人達の仲を裂かないって約束するんだな!?」
「それは、おまえの相手を見極めてからよ。もっとも、そんな相手がいればの話だけど」
叔母は「おーほほほ」と高笑いしながら帰って行った。

こうなれば、もう後には引けない。
夏生の人生を賭けた戦いが幕を開けたのだ。




「光子、待ってろよ!必ず助け出してやるからな! そして助けだした暁には即婚約、いや入籍だー!!」




夏生は走った。光子を救い出すしか人生を切り開く道はない。
夏生の戦いは今始まったばかりなのだ――。




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