「ねえ見て、あの人すごくカッコいいよね」
「あ、こっち見たよ。声かけてくれないかな」
誰が、おまえたちなんかにかかわるものか。
「あ、いっちゃった」
「……一度でいいから、あんな素敵な人と付き合ってみたいよね」
「うん、もう一夜だけの恋でも、あんな人が相手なら超満足」
オレは最悪なんだよ、気付けよ、それくらい。だから女は嫌いなんだ
どの女も一緒だな。軽薄で低俗でうっとおしいこと事しか言わない
オレは一生女なんて好きになれない。そんな日は来ない
絶対に――
キツネ狩り外伝―First Love―
特撰兵士・佐伯徹がたまに街中を歩くといつも視線を感じる。
それも、そうだろう。 まるでハリウッド映画から飛び出したような容姿。
そして天使をイメージさせるような雰囲気。
だが、決して天使などではない。むしろ悪魔と言っていいだろう。
その微笑の裏に、とてつもない残忍さが秘められていることなど到底わかるわけがない。
「もし」
ふいに声をかけられた。 いつも逆ナンパしてくる女とは違う。
なぜなら、あきらかに年寄りの声だったからだ。
不思議に思って振り向くと、目に入ったのは怪しい水晶玉だった。
(何だ、売れない占い師か)
街角で占い師が商売をしていることなど珍しくも無い。
「おまえさん、見かけとは違って恐ろしい人間だね」
「へぇ、わかるのかい?」
「一回千円、試しにどうですか?」
「千円ね、まあ暇つぶしでもするか」
父親から大金をせしめている佐伯にとって千円などただ同然。
それに、今日は特にこれといった予定もない。つまり単なる気まぐれだったのだ。
「ふーん、おまえさん綺麗な顔の割には恋人も意中の女性もいないようだね」
「正解」
「しかも随分とモテるようだね」
「正解」
でも、それは占いとはいえないだろう?
自慢じゃないが、オレは絶世の美少年なんだ。
「でも、あんたはそれをわずらわしく思っている。相当な女嫌いだね」
「へえ、結構当たるもんだな」
まあ、どうせ出まかせが偶々当たってるんだろう。
占いなんて、そんなものさ。
「だが……近いうちに命をかけても惜しくないと思えるような相手に出会うね」
「……何だって?」
佐伯の口調が僅かに変わった。
「けれど、あんたの運勢が最悪な時に出会うと出ている。
占星術によると、あんたにとっては命にかかわるような暗黒時代。
水晶にも闇と流血を伴った中での出会いと出ている。しかも相手は……」
「もういい」
やや荒々しい声を上げ、佐伯は立ち上がった。
「はっきり言って、ここまでくだらないものだとは思わなかったな。
運命の相手と出会うとでも言えば、誰でも無条件に喜ぶとでも思っていたのかい?
全く、暇つぶしにもならなかったよ」
そう、言うと佐伯は財布から千円取り出し、ほかるようして、その場を後にした。
(オレが女なんかの為に命をかけても惜しくないだと?
全く、バカバカしくて話にならないな)
「やれやれ、最近の若者は短気だね。いつ運命の相手だなんて言ったんだ」
老婆は溜息をついた。
「その相手とは結ばれることはないのに」
「ふーん、心理テストねえ。君も妙なものに興味持ってたんだな」
「オレじゃない。上司の方だ。少佐は心理学にうるさいところがあるんだよ」
「じょあ試しにオレもやってみようかな」
佐伯が施設に戻ると瀬名と蝦名が心理テストをやっていた。
「この世に終わりがきて、おまえはノアの方舟に乗って逃げるんだ。
ただし動物は一匹だけしかのせれない。 馬、羊、猿、虎、孔雀、どれがいい?」
「……そうだなぁ、昨日猿回しみたことだし猿にしておくか」
瀬名らしい、実に単純な選び方だ。
しかし蝦名は「おまえらしいな。当たってるじゃないか」と笑っていた。
それから、たまたま傍にいた菊地に質問した。
「直人、試しにおまえにも聞きたい。なあ、おまえなら何を選ぶ?」
「……虎かな」
ちなみに立花は孔雀。実にハデ好きな立花らしい回答だった。
「徹、おまえだったら何を選ぶ?」
今日は占いやら心理テストやら、とにかく妙なものに縁のある日だな。
佐伯はそう思いながらも適当にこう言った。
「羊かな」
蝦名の目がこれ以上ないくらい見開かれていた。
何だ、オレの回答はそんなにおかしかったのか?
佐伯は不思議な表情で蝦名を見詰めた。
薄暗い地下室の中で美恵は静かに眠っていた。
本当なら、もっと綺麗で衛生的な部屋で寝かせてやりたかったが、そうもいかない。
桐山に宣戦布告をした以上、美恵を連れて出歩くわけにはいかなくなった。
自分が桐山を倒し、迎えにくるまでは、この地下室で大人しくしてもらう必要がある。
「……美恵」
佐伯は美恵の頬に、そっと手を添えていたが少し前髪をかき上げる様に額に移動させた。
美恵の顔をもっとよく見ておきたいと思ったからだ。
それから身を乗り出すと美恵の唇に、自分のそれを重ねた。
最初に唇を奪った時のような荒々しいものではない。
本当に触れるだけの優しいものだった。
……何をしてるんだ、オレは。
苦笑しながら、佐伯は自嘲気味に自分の前髪をかき上げた。
心理テスト・ノアの方舟
世界の終わりに、あなたは方舟に非難します
ただし乗せてやれる動物は一匹だけ
馬、羊、猿、虎、孔雀
選んだ動物は、あなたが最後に選ぶモノを示しています
馬は仕事
猿は友情
虎はプライド
孔雀は金
そして羊は『愛情』です
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