『初めまして、私は心理学者です。人間というものはほんの些細なことで人間性がわかるものです。
例えばビデオレンタル一つとっても彼らの人間性がわかります。
借りるビデオの種類、借り方、そしてかえし方、それらに人間性が凝縮していると言っても過言ではありません。
では、ためしに春見中学校三年B組の面々を見てみましょう』




Solitary Island―ある平穏な一日―




「……えーと、ああ、あったあった良かった」

『ここに一人に少年がいます。どうやら今人気のドラマのビデオを借りに来たようです』

「まだ見てないのは確か三巻からだったな」

『もう一人やって来ました。どうやら昔一斉を風靡した格闘アニメを借りに来たようです』


「あれ?杉村じゃないか」
「三村か……なんだ、おまえまさか『冬のソナタ』なんて借りるのか?」
「ああこれ?いつも世話になってるおじさんがはまってるんだよ。
でも、そのおじさんってのが外見からして仁侠映画しかみないようなタイプなんだ。
恥ずかしくて借りれないって言うんでオレが代わりに借りに来てやっているんだよ。おまえこそ『北斗の拳』好きなのか?」
「オレじゃない、親父が昔から熱狂的なファンなんだよ。
でも、いい年した大人がアニメなんて借りれないってすがるからオレが借りに来てやってるんだよ。
全く、いい年して見えはることもないのに。いい加減にしてくれって言いたいくらいだ。
あ、この洋画確か母さんが見たがってたな。借りてってやろう」


『2人とも自分のものではなく大切な人間の為に借りに来てますね。根は悪い人間ではないということがわかります。
が、あえて言えば貴弘少年は文句が多い上に、母親に対しては異常にイイコですね。
かなり『てめぇ、いい性格してんな』野郎だということが伺えます」




「ラストサマー、スクリーム、13日の金曜日、セブン、ローズマリーの赤ちゃん、死霊のはらわた、
バイオハザード、エルム街の悪夢、オーメン以上でよろしいでしょうか?」
「うん」

『可愛い顔して借りるものはグロ系流血系ばかり。この洸少年はかなり末恐ろしい性格だということがわかります。
正常な人間は近づかないべきでしょう』




「Ⅹファイル、エイリアン、インデペンデンスディ、ロズウェル星の恋人達、メンインブラック……ま、今日はこんなところだな。
雄太、康一、おまえたちはなに借りた?」
「もちろんインディ・ジョーンズだろ。それにハムナプトラにターザン」
「……オレはエクソシストにシックスセンス…それにリングだ」

『オタク度は強いですが、彼等はかなり夢見る少年ですね。夢を見ることはいいですが、早く大人になることを勧めたいです』




「あ、蘭子さんありましたよ。『鬼龍院華子の生涯』」
「そう、良かったよ。親父が好きなんだけど何しろ昔の映画だからね」
「でも蘭子さんはお父さん思いですね。感心します」
「何言ってるの。あたしは借りに来てやっただけ。
『今を生きる』とか『陽の当たる教室』なんてもの借りるあんたの方がずっと偉いだろ」
「いえ…僕はその両親みたいに教師になるのが夢ですから」

『一見ガラの悪そうな美少女に、一見さえないガリベン少年。全く違うような人間ですが、どちらも基本的には善人で無害でしょう』




「えーとトップガン、戦火の勇気、GIジェーン、地獄の黙示録、プラトーン以上でよろしいでしょうか?」
「……あとさぁ、戦場に架ける橋と愛と青春の旅立ちない?」
「えーと……申し訳ございません。どちらも破損してしまって」
「あ、そう……まあ、いいけど」

『この拓海少年は一見ボケーとしてますが借りたものの共通点をみると軍に対してかなり思い入れがあることがわかります。
こういうタイプは一番本性がわかりません。普段の様子のみで判断すると、いずれ手痛い目に合わされることでしょう』




「おい!何だよ、これっ!!よくも、こんな不良品貸しやがったなっ!!」
「あ、あの…お客様…これが何か?」
「再生開始一時間34分16秒目から三秒間にわたってノイズがでるんだよ!
金返せよ!すぐ返せ!今すぐ返せ!!」
「ちょっとどけよ安陪。あたしが先に並んでたんだよ」
「何だ五十嵐じゃないか。それどころじゃないんだよ!さあ、380円返せよ!!」

『いけませんねぇ。この健次郎少年はかなり細かい性格で神経質の極地です。
これでは、この汚い現代社会を生き抜くのは不可能でしょう』


「うっさいなぁ、あ、あたしこれ借りるから」
「えーとタイタニックにラストエンペラー、ラストサムライ、看護婦消灯後の濡れ場、人妻淫乱日記以上ですね」
「…ゲッ、タイトル言うなよ」

『どうやら彼女はHなビデオを借りるために、見もしない名作映画を一緒に借りてカモフラージュしようとしたようですね。
これはいけませんねぇ、確かに女の子がHなビデオを借りるのは勇気がいるでしょう。
でもカモフラージュする為に借りた名作ビデオには共通性がなく、一見してミエミエな工作だということがバレてしまいます。
この少女ははっきり言ってバカでしょう』


「全く、その程度の根性で借りに来るほうが間違ってるんだよ」
「……ね、根岸。あんたもまさかHなビデオを?」
「決まってるだろ。勘定してくれ」
「はい。パイパニック、愛欲と性欲の旅立ち、快楽と共に去りぬ、以上でよろしいでしょうか?」
「後はそうだなぁ、おねえさんの笑顔をフルコースで」
「え?」

『いやぁ、全くの小細工無しに正々堂々とHビデオを借りる。
見ていてすがすがしい、実に男らしい借り方です。彼はまさしく男の中の男でしょう。
では、これにて。またお会いしましょう』




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