あたし、望月瞳。ただ今、青春真っ盛り中の中学三年生!
この学校に通えて、あたし幸せです。
だって、あたしの創作意欲を刺激する素敵な人材が揃っているんだもの!
頑張って、いつかクラマとトビカゲみたいな素敵なカップル作るんだ。
そして憧れの少年ジャンピングで漫画家デビューすることが夢なの。
その為には努力あるのみ!今日も、学校のコンピュータルームに忍び込んでインターネットで勉強勉強!
コンピュータルームの管理している先生が鍵かけに来るまでパソコン使えるなんて一部の生徒しか知らないの。


瞳は意気揚々と、コンピュータルームの扉に手をかけた。
だが、瞳が扉の取っ手にかけた手に力を入れる前に扉が開いた。
中から、人影。瞳とぶつかる。瞳は持っていた荷物を落した。


「ああ、ごめんごめん。オレ急いでいるから、本当、悪いね」
相手はクラスの中でも特に目立つ美少年・相馬洸だった。
「ううん、いいよ。あたしの不注意でもあるし、相馬くんは美少年だからOK」
「だよね。じゃあ」
洸はさっさと行ってしまった。荷物を拾う瞳。
「あれ?」

見覚えの無いCDが一枚……なんだろ、これ?




Solitary Island―戦慄の放課後―




瞳は不思議そうにCDを見詰めていた。
「……誰のだろう?」
名前が貼ってない以上、落し主もわからない。謎のCDに瞳の好奇心は大いに刺激された。
「しょうがないよね。持ち主捜す為だもん」
強引に自己正当化すると、瞳はCDをパソコンにセット。
パソコンの液晶画面はパスワードを請求する文句を表示している。
「……パスワード」
そんなもの知ってるわけないでしょう。その時、先ほどぶつかった洸の顔が脳裏に浮んだ。


「……じゃあ『tamanokoshi』なーんてね」
冗談でキーボードを叩いた。が……CDが中身を開示したのだ。
「嘘!やった、さて、どんな中身かな……え?」
瞳は両手を挙げたまま固まっていた。まるで凍結状態だ。
もちろん、そのままの状態でいるわけがない。ゆっくりと両手を下ろすと画面に顔を近づけ、もう一度確認した。
「……な、何これ?」
瞳は信じられないという顔でそれを見た。
「……う、うちのクラスの男子生徒の名簿?」
それは瞳のクラスの男子生徒たちの名簿だった。それも、ただの名簿ではない。


「……両親の職業、年収、貯金、そ、それに……これって不動産の推定価格?
な、なんなのこれ?どうして、うちの男子の財産状況がこんなに詳しく?」


まるで税務署の丸秘データみたい。しかし、税務署にはないデータが付属していた。
「……の、乗っ取り度?な、なに……これ?」
名簿の最後には乗っ取り度なる項目があり、それぞれA、B……と、五段階に設定。
詳細な解説までついている。例えば、山科伊織の乗っ取り度はA。
『自分の常識の範囲でしか物事考えられない世間知らず、簡単に全財産奪えるだろうね♪』とコメント。
反対に杉村貴弘の乗っ取り度はE。
『世帯主はお人よしだが夫人と息子がしっかり者なので手出しはしないほうがいい』――と。
「……い、一体……誰がこんなCDを?」

まるで、スパイじゃない。誰が……こんなモノを?

「望月」
「!!」


背後から明るい声!そ、そんな!!け、気配なんて全く感じなかったのに!!
瞳はゆっくりと振り向いた。
そこにはニッコリと微笑む洸が立っていた。




「やあ望月」
「そ……そそそそ、相馬く……ん」
「オレ忘れ物したらしくてさ。それで戻ってきたんだよ」
「わ、忘れ物?」
「うん、オレの企業秘密。オレの丸秘データ」
「ま、丸秘……データ?」
「うん、それ」
洸は、ニコニコと、パソコンの画面を指差した。
「見たんだね、それ♪」
「み、見てない見てない!!まだギリギリで見てないわよ相馬くん!!」
瞳は必死に否定した。なぜなら瞳の第六巻が告げていたのだ。
『絶対に肯定するな』――と。
だが、見てないと言って信じてもらえる相手ではない。瞳は洸の丸秘データを見てしまった。言い訳は通じない。
何か恐ろしい事をされてしまう!瞳は顔面蒼白になった。

(ど、どうしよう……き、きっと口止めされるわ。い、いえ……口止めどころか……く、口封じ……かも)

洸はというと、ニコニコと愛想よく笑っていたのだが……。
が、恐怖は突然幕を上げた――。




「『ほんま可愛いなあ自分。ほら、ここ濡れとるで』」


え?……今なんて言ったの?




「『くっ、オレをどうするつもりだ?』『なんや、口で言わんとわからんのか?』」
完全に硬直した瞳の前で洸の一人芝居は続いた。
「『忘れるな、自分はオレのもんや。この髪の毛から足の爪までな』
『あーん?ふざけたこと言ってるんじゃねえよ。オレはオレ自身のものだ。
誰のものにもならねえぜ、そのふざけた頭に叩き込んでおけ』
『くく、その格好で強がりか?ほんま、帝王さんは意地っ張りやな。
そんなところもそそられるで。今夜は、朝まで可愛がってやる。覚悟しや』
『や、やめろ……ぅ』『最高や……あかん、オレの方がのめり込みそうや』」
「……そ、相馬くん」
「『二人とも何やってんだ!!?』」
「……あ、あの……相馬くん……も、もう……」
「『なんや、見付かってしもうたか』
『みそこなたっぜ!!クソクソ、おまえ達なんか仲間じゃねえ!!』
『随分ショックだったみたいですね……かわいそうに』
『失恋したくらいで激ダサだぜ』」


「そ、相馬くん!!もうやめてぇぇぇぇ!!」


瞳はその場に崩れ落ちた。
「すごいよねー。金持ち学園・名門テニス部の乱れた男色愛憎劇」
「……ど、どうして?」
瞳はゆっくりと頭をあげた。
「どうして知ってるの?ま、まだ……ネームも書いてないのに」
瞳は自問して一つの答を出した。


「ま、まさか、相馬くん!!」
「ご名答♪」


洸は懐から年季の入った手帳を取り出した。
「あー!!あ、あたしの!あたしのネタ帳っっ!!」
「全部読ませてもらったよ。さっきのは新刊のネタだろ?」
「ぜ、全部……?」
「そう全部だよ望月。隅から隅まで舐めるように見せてもらったよ」
「……す、隅から……隅まで……」
「わかってるよね望月」
洸はニッコリ笑った。瞳が今まで見てきたどんな笑顔よりも美しく、そして……恐ろしい笑顔だった。


「もし、オレの秘密を誰かに喋ったら、全校生徒にこの手帳のコピー配るよ」
「!!」


「心配しなくても、黙ってさえいてくれたら何もしないよ。
ねえ望月、オレ達、同じ穴のムジナじゃないか。安心しなよ」
「い、言わない……あたし絶対に言わないから!!」
「そうだよね♪賢い君ならわかってくれると思っていたよ。
じゃあ、これは返してあげるよ。ああ、断っておくけど、もうコピー済みだから」
瞳は震える手で手帳を受け取った。
「わかってるよね。これは契約だよ、もし破ったら……」
「破りません!!約束は絶対に守ります!!神かけて!!」
「だろうね♪」
瞳は手帳を手に、転びそうになりながら走り去って行った。




「全く、オレにケンカ売るなんて百万年早いんだよ」
洸はCDを手にすると、「キーワードもっと難しいものにしないとね♪」と笑った。
「それにしても、本当にやばかったな。オレの秘密がばれるなんて。
相手が望月で良かったよ。穏便に事を解決出来たから。
もっとも、オレの邪魔したら、どんなことしてでも潰してやるつもりだったけど」
洸は高笑いしだした。
「オレに逆らう奴は全員どんな手を使ってでも叩きのめしてやるよ。たとえ廃人にしようともね♪
あー、オレってもしかして悪い子かなぁ?オレがどういう人間なのか……これで、わかっただろう?根岸!!」
ガタン……!準備室の方から音がした。
ドアの向こうから震えながら純平が此方を除いていた。


「聞いていたんだろう?ダメだなぁ、いくら準備室にソファがあるからって、そこで昼寝するなんてさ♪」
「……あ……ああ……オ、オレ……」
「君もひとが悪いよ。最初から出てくればいいのに。
それとも何?オレが気づいてないと思って、何事もなかったように日常に戻るつもりだった?」
「……ひっ」
「そんな都合のいいこと許されると思ってる?
オレ……舐めたマネする人間には全力で戦うタイプだよ」
「ひぃぃー!ゆ、許して!!許してください!!!」
純平は土下座した。
「言いません!!このことは口が裂けても黙ってます!!」
「いいよ。君の言葉信じてあげる。でも……」
洸は純平の髪の毛を掴むと、グイッと引き上げた。
「もし、誓いを破ったら……オレ、何をするかわからないからね♪」
「……は、はい」


――本日も日本晴れだった。




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