はてしなく広がる青い空。美恵、おまえにも見せてやりたいぜ。
演習中に、そんな不埒なことを考えながら攻介は基地に戻る事にした。
本当なら、もう少し、この大空を肌で感じていたかったけれど。

「こちら七号機。管制塔の脇をかすめる許可をいただきたい」

攻介は何度目かの非常識なお願いをした。答えはもちろん決まっている。

『許可は取れない。迂回して基地に戻るように』

攻介はニッと笑い、「そう言われてもオレって回り道は嫌いなんだよなぁ」と猛スピードで駆け抜けていた。
トップガンごっこの後はもちろん上官のきついお叱りが待っている。
そんな攻介の専用軍機のコクピットにはあきらめたはずの美恵の写真が飾られていた――。




Solitary Island―Fate(攻介編)




「で、攻介の奴、また大佐に大目玉食らって減給だぜ」
「ダサ!あいつ、本当に懲りないよなー」
「特撰兵士じゃなかったら、とっくに歩兵に格下げだぜ」
空軍基地の近くにあるちょっとしたオシャレなお店。
ほとんどパイロット御用達となっており、店内は軍服を着た若者ばかりが目立っている。
もちろん普通の客もいることはいるが、若い軍人の集団が一番目立つ。店に入って、まず目につく連中だ。
「まあ、そう言うなよ。あいつも今度は反省しているだろ」
パイロットたちの中心に座っている、ちょっとイカした男がグラスを傾けながらそう言った。
「それより、年頃の野郎が揃ってこんな所で暇潰すなんて不健康だと思わないか?」
普通の男の子とは違う彼等だが、やっぱり基本的には同じようだ。


「何だよ大翔(ひろと)。何が言いたい?」
「つまりだ……」
大翔と呼ばれた少年がいったん言葉を止め、スッと親指で入り口を指出した。
何事かと全員が視線を向ける。彼等と同じくらいの年齢の女が入店していた。
少しだけ店内を見渡してから、カウンターに座った。
「美人だ」
思わず、誰かがそう叫んだ。
「珍しいな。この辺りにあんな女がいたなんて」
「なあ、おまえら」
大翔がグラスを上げて、「賭けしないか?あの女落とせたら奢れよ」と小声でいった。
調子にのりやすい彼等は、「やれるものならやってみろ。おまえが振られたらオレが挑戦してやるぜ」とすかさず応酬。
「やめとけよ。あんな美人なら絶対彼氏持ちだって」
「そうそう、恥かくぜ」
「バーカ、だからいいんじゃないか。可能性は低いとわかっていて挑戦するのなら高い山がいいだろ?」




大翔はマイクを持って立ちあがった。
「おい、まさかアレやるつもりかよ?」
「やめとけ、やめとけ。トム・クルーズですら失敗したんだぜ」
「バーカ、だからいいんじゃないか。オレはマーヴェリックを超えてやるぜ」
大翔は、その女に近づいていった。
「ちょっと、いいか?」
女は何事か?と、此方を振り向く。
「あーあ、本気でやるつもりだぜ大翔の奴」
「しょうがない手をかしてやるか。トップガンの訓練生同士のよしみって奴だ」
そんなやり取りなど女には全く聞えていない。
ただ、男が声を掛けてきたので振り向くと、突然、男がメロディを口ずさみだした。


「もし、僕がキスしても、君はもう目を閉じない~♪」
女は呆気に取られていた。いきなり歌いだされたということもある。
だが、それ以上に、いつの間にか、周りを囲むように軍服を着た連中が現れ、一緒に歌いだしたから。
「君への愛は永遠に変わらない~♪」
最初は呆気にとられたが、最終節に入ると女は笑っていた。
そして歌が終了すると、「座ったら?」と言った。
待っていましたとばかりに、「イエーイ!」と歓声が上がる。
大翔は女の隣に座ると、「的場大翔だ。ヨロシクな」と手を差し出してきた。




天瀬美恵よ。ところで、あなた私に何の用?」
「そうだな。とりあえずはアドレス交換から始めようか?」
周囲から、「オレもオレも」と声が上がる。
「うるせえぞ、おまえら!」
「何だよ、おまえ一人の手柄じゃないだろ?」


「おまえら、何やってるんだ!?」


全員、ハッとして振り向いた。
「攻介」
「何だよ、おまえ。反省文書いてたんじゃなかったのか?」
攻介は、「おら、どけどけ」と人並みをかき分けて来た。
「攻介」
美恵が攻介の名前を呼んだので、全員驚いた顔をしている。
「悪いな遅れて。……たく、そのせいで、こいつらに」
「攻介、彼女おまえと待ち合わせしてたのか?」
「ああ、そうだよ。だから、おまえらとおしゃべりする暇なんてさらさらないんだよ。
おい、大翔!近寄るんじぇねえよ。誰が隣に座っていいって言った?ほら、おまえらもそばに寄るな。離れろ離れろ」
「ちぇ、オレらはばい菌かよ」
「似たようなもんだ。ほら、さっさとあっちに行けよ」
攻介は仲間を全員追い払ってしまった。追い払ったが、相変わらずジロジロと見られている。


「……ここは環境が悪い。場所移そうぜ」
攻介は父の昔の戦友に会いに行く。だが一人では勇気がもてなかった。
なぜなら父の死の真相というパンドラの箱を開けるのだから。
だから誰かに一緒にいて欲しかった。その誰かが美恵だった。
店を出ると美恵はクスクスと笑い出した。どうやら笑いを堪えていたようだ。


「攻介のお友達って皆陽気なのね」
「まあな、アホな連中で困るけどよ」














「それで連中の要求は?」
「それがまだ……ですが、人質の中には空軍司令官のお嬢様を初め高官の方々が。
その上、たまたま視察に来られていた殿下まで捕まっているようです」
空軍基地がテロリストに占拠された。人質は数百名にのぼる。
それは美恵が攻介と、彼の父親の戦友に会いに行って戻ってきたときに起きた事件だった。
「おい、何があった!?」
「テロリストだ。殿下を初め数百人もの軍関係者を人質に基地にこもっている」
「殿下?……って、ことは総統陛下の息子が?」
「そういうことになるな」
「……クソ、だったら、軍は強行突入できないじゃないか」
攻介の仲間も全員人質に取られていた。そして、中の状況は何一つわからない。


「攻介」
心配そうに攻介を見詰める美恵に攻介は、「おまえは帰れ。送ってやれなくて悪いな」と申し訳なさそうに言った。
「こんな時に私の心配なんていいわ。それより、攻介の友達が……」
「何とかするさ。だから、おまえはすぐに家に帰れ」
「ちょっと、待った。その女は軍の人間か?」
ふいに攻介の上官が美恵を指差して質問してきた。
「……科学省の天瀬です」
「そうか……ちょうどいい、おまえも軍の人間なら役に立ってもらおうか。
司令官のお嬢様が人質になっている。お嬢様は軍人ではない上に病弱だ。
この状況ではすぐにまいってしまうだろう。おまえが代わりに人質になれ」
「大佐!何を言うんだ。美恵は無関係だろう!!」




「大佐!テロリストから通信が入りました!!」
全員がモニターに釘付けになった。
『よう、手も足も出ない空軍のお偉いさん達。まあNが相手じゃしょうがないよな』
嫌味を大いに含んだ言葉から始まった。
『オレたちの要求を伝える。まず、一つ、オレたちの仲間を全員監獄から解放しろ。
二つ、100億円を二時間で用意しろ。三つ、ステルス機を一機用意しろ。
二時間後にまた連絡する。断っておくが、つまんねー、小細工は一切するな。
もしちょっとでも舐めたマネしたら人質の命はないぞ』


「ま、待ってくれ!!」
『なんだ?』
「要求は呑もう。だ、だが、その代わりに数人でいいから人質を解放してくれないか?
人質の中には持病を患っている者がいる。その者たちだけでも」
『嘘つくんじゃねえよ。総統の息子だってことはばれてんだぜ』
「……だ、だが……女子供だけでも」
『ああ、そう言えば空軍司令官の娘もいたなぁ。オレのタイプじゃないけど』
「そ、そうだ!!人質交換してほしい!!一人くらいはいいだろう!?」
『まあ、かまわないぜ。総統の息子がいれば十分だ』
「じゃあOKなんだな?」
『もう一つ、重要な問題がある』
「な、なんだ?」


『その交換する女は美人だろうな?』


「…………」
大佐は声も出なかった。しかし、すぐに正気に戻り、「この女だ」と美恵をモニターの前に立たせた。
美恵を見るなり、『よーしのった!!あんな女、のしつけてくれてやるぜ!!』と契約成立。




「大佐!オレは反対だ!!」
「攻介!おまえはまだ、そんなたわ言言っているのか!!?」
「あいつは言ったよな。『N』だと!!リーダーは『N』だと……。
女癖の悪さで有名な正体不明のテロリストじゃないか!!」
そんな奴のところに美人の美恵を差し出したら、どんな目に合わされるかわかったものじゃない!!
「うるさい、黙ってろ!!」
駆け引きはまだ終わってないんだ。
「それから100億もの大金を二時間で用意するのは無理だ。せめて五時間……五時間猶予をくれないか?」
『……なんだって?そっちがその気なら、こっちにも考えがある』
モニターの向こうにいる男が立ち上がった。
モニターの中からは姿を消したが、間違いなくその場にいる。


『おまえ、名前は?』
声だけが聞えた。
『……大翔。的場大翔だ』
攻介の顔色が変わった。

(……大翔!あいつ、何をするつもりだ?)

『的場大翔……か。おまえたちの上官は冷たいな。
でも、オレだって話のわからない男じゃない。おまえたちの命と引換えに時間をくれてやるぜ』


「なんだとっ!?」


銃声が三発聞えた。そして、男がモニターの前に戻ってきた。
『聞えただろう?人質を三人始末した。
一人一時間、連中の命と引換えに三時間余分に待ってやる。慈悲深い俺様にありがたくおもえ』
映像が切れた。




「……攻介」
美恵は攻介の肩にそっと手を伸ばした。でも、触れることは出来ない。
「……基地への秘密通路は?」
攻介の声。こんなに低い声を聞いたのは初めてだ。
「全部、ふさがれている。真正面から入るしかない。そんなことをすれば人質の命は……わかっているだろう?」
攻介は美恵に向かって突然土下座をした。


「……頼む美恵っ」
「攻介?」


「……人質交換に応じてくれ……頼む」

人質交換の立会人としてなら基地に入れる。それしか基地侵入の手段が思いつかなかった。
それしか……戦友の、仲間の仇をとるチャンスがない。
同時に、もっとも大切な女を危険にさらすことになる。無理強いは出来ない。選ぶのは美恵だ。
美恵もバカじゃない。どれだけ危険なことかわかっているはずだ。だが……。


「わかったわ」


美恵は簡単に承諾した。

「……いいのか?」
「守ってくれるんでしょう?」

信頼された目を向けられて攻介は少しだけ笑って見せた。

「ああ、守ってやるよ」














美恵は両手の自由を手錠に奪われた状態で男に連れられていた。
(攻介は大丈夫かしら?)
人質交換の後、テロリストたちの目を盗んで基地の空気ダクトに入っていったようだが……。
一方、美恵は攻介の仲間の命を奪った、あの男に連れられている。
どうやら、リーダーの元に連れて行かれるらしい。
「兄ちゃん、兄ちゃん!!」
部屋に入るなり、男は「見ろよ、ブスで美人釣っちまった。褒めて褒めて!!」と絶叫。
「夏生、おまえ、オレに一言も相談せずに人質交換したのかぁ?」


(……え?この声)


聞き覚えのある声に美恵は微かに震えた。
「……だって美人だったからつい。でも兄ちゃんも絶対気に入るって!」
そういえば、この男は主犯は『N』と言っていた。
「……まさか」
美恵の声に椅子に座っている男が反応した。


「その声、なーんか、聞き覚えあるよなぁ……最後に聞いたのは一年以上も前なのに」
「季秋……夏樹……?」


クルリと椅子が回転し、男の顔を見た途端、美恵は運命を呪いたくなった。

「やっぱり、おまえか。二度あることは三度ある。久しぶりだなハニー」
「え?夏樹兄ちゃん、この女知ってるの?」
「ああ、過去二度オレはその女と色々あってなぁ」
「誤解されるようなこと言わないで!あなただったのね!!攻介の仲間を殺させた冷酷なテロリストは!!」
「はぁ?それが二度も命を助けてやったオレにいう台詞かよハニー」
「そのハニーというのはやめて!……嫌なことを思い出すわ」
「しょうがないだろ、オレはおまえの名前しらねーんだから」
美恵って名前だよ兄ちゃん」
「そうか、だったら今度からは名前で呼んでやるぜ美恵」


「どうして人質を殺したの!!?」
「なぜって、それが人質の存在意義だから」
「ふざけないで!!」
「まあ、そう怒るなよ美恵。安心しろ、あれはハッタリだ生きてるぜ。まあ、ちょーと暴行してやったから意識不明だけどなぁ」
「……生きてる?本当に?」
「ああ、オレは女には嘘はなるべくはつかないぜ」

……妙だ。二時間だけ待つといって人質殺害。
そして結局は五時間待ちで、その実人質は殺してない……。
狙いはなんなの?仲間の解放?金?
その割には詰めが甘すぎる。まるで最初から本気で交渉する気がないみたい。

「……まさか」
「ん?何か気になることがあるのか?」
「……あなた、随分と時間を引き延ばしてるわよね。もしかして、それが狙い?」
夏樹と夏生の顔色が変わった。
「へえ……驚いた、気付くなんて。その通り、オレ達は囮だ、軍をひきつける為の。
総統の息子を初め数百人を人質にとれば、軍の目はここに釘付け。
その間に、オレの他の弟たちが総統の別邸に奇襲攻撃をかけることになっている」
「……じゃあ、もう攻撃を仕掛けているの?」
「だろうなぁ、オレの弟たちは温厚なオレと違って血の気が多いんだ」
「血の気が多いのは、あなたの弟だけじゃないわよ」
「それ、どういう意味だ?」
「あなたたちに仲間を殺されたと思って逆上している男がいるもの」
「……美恵、それは」
その時、基地全体が大きく揺れた。




「な、なんだぁ!!?兄ちゃん、地震だ、地震!!」
「ガタガタわめくな。そんなことじゃあ、立派なテロリストにはなれないぜぇ夏生。
どうやら、誰かが基地の冷却装置を破壊しまくっているみたいだなぁ……」
「誰かって誰だよ兄ちゃん」
「この女が言ってた逆上男じゃねえのか?おい、人質を数人連れて来い。
少し早いが、いつ爆発するかわからねー場所に長居は無用だ」
「この女はどうする?」
「もちろん連れて行くぜ」


「そうはいくか、てめえら、美恵から離れろ!!」


ドアが蹴破られ、銃を手にした攻介が現れた。
「攻介!!」
駆け寄ろうとした美恵。だが、夏樹が後ろから美恵の首に腕を回して動きを止めた。
「おっと、今更さよならなんて冷たいことはいいっこ無しだぜ美恵」
「汚い手で美恵にさわるなテロリスト野郎!!」
夏樹は鼻で笑うと美恵の頭に銃を突きつけた。攻介の顔色が変わる。


「状況見て物言えよ小僧。さあ銃を捨てろ。そのまま後ろに下がれ」


「…………」
銃口が美恵の頭部にさらに突きつけられる。
「…………美恵の命は保証しろよ」
「ああ、約束してやる」
美恵には指一本触れるなよ」
「……考えておく」
攻介は銃を捨てた。
「攻介!!」
基地がさらに大きく揺れた。爆発がさらに爆発を誘発している。
このまま硬直状態を続けるわけにはいかない。あと数十分で、この基地は爆発するのだから。


「あ、あなたたちだって死ぬのよ!!」
「だから?」
「時間稼ぎならもう十分でしょ。攻介を殺さないで!!
目的をはたした以上、これ以上血を流す必要は無いわ!お願いだから攻介を殺さないで!!」
「……お願い、間違えてるんじぇねえのか美恵?」
「……え?」
「忘れたのか、オレに対してはなんてお願いするのか?」
耳元で囁かれ、いつの間にか銃はもう離れていた。
「…………」
「言えないのか?」
「…………します」


「聞えないなぁ」
「お願いします夏樹様!!」


「OK、それでいい。ラッキーだったな、おまえ。美恵に感謝しろ。オレはレディの頼みは断らないんだ」














「全く、殿下がご無事だったから良かったものの……おまえという奴は!!
人質まで死ぬところだったんだぞ、わかっているのか!?」
攻介はみっちりと上官から説教された。基地を半壊させたのが特撰兵士だなんて公表できない。
テロリストの仕業という事にして何とか一件落着となったのだ。
「……猛烈に反省しています」
「……もういい行け……軍は今はおまえにかまっている暇はない。
総統陛下の別宅が襲われて、陛下の親族に多数死傷者が出たんだからな」
攻介は一礼すると部屋を後にした。


「……ち、人の苦労も知らないで」
……空はこんなに青くて広いのに。地上はウザイ事だらけだぜ。
大空を見詰めていると、背後から仲間達の声が聞えた。
あれだけの爆発だ。軽傷を負った者も数人いる。
「おい攻介!」
「なんだよ」
「……たく、オレたちまで殺すつもりだったのかよ」
「テロリストに殺されるぐらいならいいだろう」
「相変わらず危なっかしい野郎だな。でもな……おまえとだったら、いつでも一緒に飛んでやるぜ。
もちろん、オレのおともとしてだけどな」
「それはこっちの台詞だ。おまえこそ、オレのお供だよ」
ふいに数人が攻介の体を持ち上げた。


「おい、なんだよ」
「英雄にはそれなりの扱いしてやろうっていうんだよ」
胴上げだった。空が少しだけ近くなった、悪い気はしなかった。

「……美恵?」

胴上げが止まった。


「ちょっとおろしてくれ」
攻介は数メートル先から自分を見詰めていた美恵に気付き駆け寄った。
「……悪かったな。守ってやるなんて言って、結局オレが守ってもらう羽目になっちまって」
「…………」
「……約束守れなくてごめんな。……おまえを危険な目に合わせた。
本当に悪かったよ。殴ってくれてもいいぜ。……それしか詫びる方法思いつかない」
「攻介」
「何だ?」


「いいお友達を持ったわね」
「……美恵」


「あなたがここでどう思われているのかよくわかったわ。
羨ましいくらい。皆、あなたを大切に思っているのね。私も……凄く嬉しいわ」
「ああバカな連中だけど、いい仲間だよ。それに……おまえもな!」
攻介は美恵の腰を掴むと高く持ち上げた。


「こ、攻介……!?」
「これからも守ってやるからな!」


「……攻介」
美恵は照れくさそうに微笑んだ。
「攻介、彼女、おまえの恋人なのかよ!?」
そんな冷やかしの言葉が飛び交う。


――これからも守ってやるよ。おまえの為なら命をかけて。
――例え、かなわない恋でも……最後まで貫きたいんだ。
――おまえは、それだけの価値がある女だからな。




「攻介、もうおろして……あ、徹?」
「……え”?」

ハッと振り向くと、数メートル先に険しい表情をした徹が仁王立ちしていた。
美恵が人質になったという情報を聞きつけ任務先から駆けつけていたのだ。


「……無事だったんだな美恵、安心したよ。
それから攻介……オレが見てないと随分、馴れ馴れしいことしてくれるじゃないか。
君とゆっくり話がしたい。いいだろう?」


攻介の本当の修羅場は、今からが本番だった――。




TOP