コホコホ
あーあ、あたしともあろうものが風邪ひくなんて
学校休むのなんてどうでもいいのよ
ただ美恵に会えないのが残念だわ
あら?メールが入ってる 美恵からだわ
えー何々?

『みっちゃん、風邪大丈夫?すごく心配なの』

優しいのね美恵、光子感激♪

『今、三村くんの家にいます。鬼の居ぬ間にとか言って、誘われたの。三村くんって、強引だよね』

ブチッ!!!←注意:何かが切れた音




悪女―前編―




「さあ、あがってくれ」
「お邪魔しまーす」

三村は、今まさに人生最高の瞬間を迎えていた。お邪魔虫(いや、そんな可愛いシロモノじゃない、あの悪魔は!!)光子が欠席。
その上、妹は合宿、母親は婦人会の旅行、父親は出張と来ている。
無神論者といえども、ここまで条件が揃えば、神様に感謝せずにはいられない。

美恵はお茶か?コーヒーか?それともオレ?」

こんなジョークも、あの悪魔がいないからこそ言える。学校で言おうものなら、即、鎌が飛んで来るからな。
が、三村は気付かなかった。このひと時の幸せが、一転して奈落の底に転落することを。

キキッーーー!!

三村邸前に一台のスポーツカーが急ブレーキをかけ止まった。猛スピードで走りこんできたスポーツカー、自動ドアが開き、これ以上ない脚線美がスッと出た。

「ここね」

怒りの精神は肉体をも凌駕する。それは、先程、美恵からのメールを見た瞬間、熱など完全にふっ飛ばし、アッシー7号に一番スピードのでる車をまわさせ駆けつけた、三村曰く最凶の悪魔・相馬光子そのひとだった。









「あ、美味しい」
「だろ?美恵の為に取り寄せた高級ダージリンなんだ」

微笑みながら美恵を見詰める三村。
ティーカップをそっと口に運ぶ美恵があんまりにも可愛くて………。

「ごちそうさま――?……三村くん?」

カップを置くと同時に固まる美恵。それも、そうだろう三村が、これ以上ない熱い視線を放ちながら、自分の肩をしっかりと握っているのだから。

美恵……愛してるぜ」
近づいてくる三村の唇
「ちょ、ちょっと待って、三村くん」

あせる美恵

「待たない」

確実に距離を縮める三村。と!!その時っ!!!!!
シュルシュルシュルゥゥゥッッッ!!!!ドスッッ!!!!!
シーン……固まる三村と美恵。
チラッと横目で壁に突き刺さっているもの、先程距離にして十数センチの二人の顔面の間をブーメランのごとく回転しながら、飛んでいった物をみた。


……鎌……


一気に顔面蒼白になる三村。こんなことをする奴は一人しかいない!!!


「相馬ぁぁ!!!」

リビングルーム入り口に腰に両手をあてた状態で、仁王立ちしている光子。当然、その目は怒りで燃え上がっている。

「よくも美恵に手を出そうとしたわね」
「どうやって、入ったんだ!?家中の鍵はかけておいたはずだぞ!!
それに、この家はセキュリティーシステム万全なんだ。
警報も鳴らさずに、どうやって入ったんだ!!?」
「あたしを甘く見ないでちょうだい。
あんな、ちゃちなセキュリティーシステムなんて、パシリ4号に解除させたわよ。
持つべきものはプロの金庫破りの奴隷よね」

光子よ……本当に中学生か?

「不法侵入だぞ、通報されたくなければ、出てけよ!!」
「フン、冗談じゃないわ。こっちこそ、あんたを婦女誘拐罪で訴えてやるわよ。
こう見えても、あたし、警察のお偉いさんに知り合いが多いのよ」
「この……悪魔」
「色情魔」

バチバチと火花が散る。三村も光子も一歩も引かない。張り詰めた緊張感。その時……!!

「信史、どうしたんだ!!玄関のドアが破られてるぞ!!!」

それは、急に出張が中止になり、帰宅した三村父の声。
が、それこそが本当の悲劇の幕開けだった。

「「親父っ(パパッ)!!!」」

同時に叫ぶ、三村と光子……って、言うか……今何つった??
お互い顔を見合わせる三村と光子。そして、ゆっくりと三村父を二人同時に見詰めた。
もちろん美恵も例外ではない。そんな三人の視線の的、三村父は顔面蒼白、今にも倒れそうだ。

「み、み、光子ちゃん……どうして、ここに?」
「パパこそ、どうして三村の家に?」







パパ
①子供の父親に対する洋風の呼び方
②特定のキャラクターの愛称(バカボンのパパ、バーバパパなど)
③若い愛人の年配のダンナに対する愛称
『現代用語辞典』より


①もちろん違う
②そんな、わけないだろ
と、いうことは……








「親父……どういうことなんだ?浮気してるのは知ってたけど、まさか息子のオレと同学年の女にまで……」
「……ま、まってくれ信史……誤解だ、これはつまり……」

そんな険悪のムードに油を注ぐように……

「そう言えば、みっちゃん。最近、デートするだけで桁違いのお小遣いくれる、大会社の重役だけどバカなおじさんがいるって言ってたよね」


……シーン……


「知らなかったわ。パパって、三村くんのお父さんだったんだ。カエルの子はカエルね」
「親父っ!!よりにもよって、こんな女と!!!」
「待ってくれ信史。ほんの出来心だったんだ!!」

話が家庭崩壊にまで及ぼうとした、その時。

「もう、やめて!!」

三人は言い争うのをやめて、美恵を見た。




「ごめんなさい。みんな私が悪いの。みっちゃん『たち』にメール送ったせいで、まさかこんなことになるなんて……。
お願いだから、ケンカしないで」




再び……シーン……




「………美恵……今、何ていった?」
「だから、ケンカはしないで……」
「そうじゃない!!その前だよ!!相馬の他にもメール出した奴がいるのか?!!」
「うん、今日は二人とも欠席だったでしょ?だから……」

三村は本日の記憶をたどった。今日欠席したのは、風邪引いた相馬と、欠席の常連……あの男しかいない……!!!





その時!!バルルルゥゥゥ!!!!機会的なプロペラ音!!!!!
三村は反射的に窓の外をみた!!!!!




そして、見た!!上空に浮かぶ編隊、それは……!!!!!




「あ、あれは……アパッチ!!!!!




アパッチ
アメリカ軍が誇る最強の軍用ヘリ
『現代用語辞典』より