美恵、最近元気ないわね。もしかしてお医者様でも草津の湯でも……なの?」
「……うん」
「ええ?本当に?誰よ相手は!!?」
「……言えないよ。望みない相手だもの」
美恵みたいな可愛い子をふるようなバカ男がいるわけないでしょう。
なんだったら、あたしが協力してあげるから言いなさいよ」
「……き、桐山くん……」




恋の手ほどきしてあげる♪




「……桐山か、手強いわよね」
光子は悩んでいた。成り行き上協力してやるとはいったものの、相手はあの桐山和雄だ一筋縄でいく相手ではない。
「他の男だったら簡単なのよね。美恵が微笑んでおちない男なんていないわ。
だって、女のあたしが夢中になるくらい可愛いんだもの」
でも、あいつ……どんな女がタイプなのか、さっぱり見当つかない。
それどころか、もしかして恋愛感情ゼロの不感情男なんじゃないの?というくらい計測不可能な男なのだ。
「あら?」
美恵じゃない、どうしたのかしら綺麗にラッピングした包みなんか持って。
美恵、その包み何?」
「…み、光子…ッ」
光子の存在に気付かなかった美恵は慌てて包みを後ろに回した。
「あら何よ。あたしたちに隠し事は無しよ。さあ見せなさい!!」
それは……手作りのクッキーだった。
美恵……これ、もしかして」
「うん、桐山くんにと思って……でも受け取ってくれるかな」
美恵ッ!!なんて健気なのッッ!!!
光子は思わず美恵を抱きしめた。
「あたしが必ず成就させてあげるわッ!!!!!」



















――30分後――

「み、光子……本当に効くの?」
「大丈夫よ。花柳界の一流どころに聞いたんだから間違いないわ」
美恵が持っている小瓶……その中身は美恵の髪の毛からとったエキスとバニラエッセンス、バラの花びら、その他諸々の怪しいものを煮詰めて作った惚れ薬だった。
「これをクッキーに降りかけて桐山くんに食べさせるのよ。
そうすればホルモンの効果であんたにメロメロってわけ」
「……で、でも……」
「何?まだ疑問あるの?」
「そうじゃなくて……どうして、こんな服着るの?」
美恵は異常に短くされたスカートに、やたらと胸元があいている超イケイケ加工を施された光子お手製のセーラー服を着せられていた。
「わからないの?こうしてお色気ホルモンを出せば、より薬の効果が出るのよ。 さあ行きなさいッ!!!」
光子に背中を押され、美恵は転びそうなくらい勢いよく屋上のドアから飛び出していた。
(勇気を出すのよ。光子が応援してくれてるんだもの……深呼吸、深呼吸……)




「……き、桐山くんッ!!!」
ギュッと閉じた目を開け、勇気を出して声を出そうとした美恵。
が!次の瞬間、目が丸くなった。 目の前にいたのは桐山だけではない。
月岡、沼井、笹川、黒長……桐山ファミリー勢ぞろいだったのだ!!
しかも、美恵はバッチリお色気制服着用!!今にもパンツが見えそうなくらいなのだ!!!
桐山以外に見せてはいけない姿を見られたことで美恵の思考はストップした。
何もいえない……(汗)




天瀬ッ!!お、おまえ何て格好してるんだッ!!?」
普段の真面目な天瀬しかしらない沼井は真っ赤になって驚いている。
「いいじゃないか!!見直したぜ天瀬ッ!!!」
ただでさえ年中真っ盛りの笹川はかなり燃えまくっている。
「……な、な、な……」
沼井と笹川に出遅れた黒長は、ただただ驚くばかりだ。
「キャァァーー!!!カッワイイ!!アタシも着てみたいわぁーー!!!!!」
しかし一番ハイテンションなのは、やはり月岡だった。
「ん?何だ、その包み。食い物の匂いがするな」
瞬間的に嗅ぎ分ける沼井。
「もしかしてオレたちに?」
どうすれば、そんな都合のいい考え方できるんだ黒長?
「そうか、そうか、いいぜ食ってやっても」
笹川など、すでにすぐ傍まで近づいてきている。 今にも美恵から愛の手作りクッキーを強奪しそうだ。




ダダダダダァァァ!!!!!
その時!!凄まじい足音!!!!そしてッ!!!!!




「邪魔するんじゃないわよ、このチンピラどもッ!!!!!」
ビリビリビリィィッ!!!!!
「「「うわぁぁぁーー!!!!!」」」
突然の感電!!スタンガンの餌食となり気を失った三人は光子に引きづられどこかに連行されてしまった……。
「あらあら、どうやらアタシもお邪魔のようね」
場の空気を読んだ月岡も自主的に退場(さすがはオカマね。気が利くわ/光子談)




「……あ、あの桐山くん。これ、よかったら食べて……」
「そうか、オレがこれを食べるのか」
「……あの甘いものが嫌いなら…無理にとは言わないから……」
その様子を影から見ていた光子はチッと舌打ちした。
「甘いわ美恵、そんな押しの弱さでどうするのよ。 こうなったら作戦第二段開始よ」
光子は無線機を取り出した。
説明しよう。光子はいざというときには、この無線機で直接指示を出す作戦を考えていたのだ。
そして美恵は耳栓型インカムを通して、その指示を聞くというわけだ。




美恵聞こえるわね。これから、あたしの言うとおりに喋るのよ』
美恵はそっとうなずいた。 美恵は光子の言うとおりに喋りだした。
「あなたに食べてほしくて作ったの」
「オレに?」
「ええ、ずっとあなたを想いながら作ったのよ」
その積極的な台詞とは裏腹に美恵はどんどん赤くなっている。
「そうか食べてみるのも悪くないかもしれないな」
「よかったら私もついでに食べてみる?」
天瀬を?」
「ええ、そうよ。私の処女を桐山くんに、たっぷり味わって……えええッッッ!!!?」




『バカ、最後の「えええッ!!」は何よ。いい?次の台詞は「何だったら今すぐ味見してみる?」よ。
胸元を開いて見せるのがポイントよ。さあ、やるのよ』
「そんなこと出来ないわよッ!!!!!」
天瀬、一体何を言ってるんだ?」
「あ、ご、ごめんなさい……何でもないの」
『仕方ないわねぇ、じゃあ取り合えずクッキー食べさせなさいよ。そのくらいなら出来るでしょ?』
「……う、うん…」
美恵は包みを差し出した。
「……あの食べて桐山くん」
「ああ」
クイッ……その時、ただでさえ短い美恵のスカートが……見事なまでに…… めくれた
「え?」
「……白」
冷静な態度で美恵の下着を観察してしまった桐山とは裏腹に美恵は思考がショート寸前!!




どうして!!?どうして風も無いのにッ!!?
「あたしがスカートにくくりつけておいたピアノ線引っ張ったからよ。フフフ」
さーてと、もう一押し!!
「えいッ!」
光子は凄まじいパワーで引っ張った。 その勢いで美恵はひっくり返った。
仰向けに倒れ、相変わらずスカートはめくれたまま。
しかも倒れた勢いで少し頭を打ったらしく、「……痛い」と一言言っただけで目を閉じ少しクラクラしている。
その様子は、まるでお色気中学生がベッドに横になり男を誘っているような雰囲気さえあった。
だが、当の美恵は頭を打って呆然としているので、今の自分がどんな痴態をさらしているのか理解していない。
美恵は意識が朦朧としているようね。ちゃーんす」




天瀬、大丈夫か?」
桐山が美恵を抱き起こした。その時っ!!!
「……抱いて桐山くん」
天瀬?」
「……お願い、あたし桐山くんになら何されてもかまわない」
「コンクリートの上だと固いし冷たいぞ」
桐山よ。そういう問題か?
「いいの……早くあたしをメチャクチャにして……」
説明しよう!!光子はいざというときの為に保険をかけていたのだ!!!
美恵につけさせたアクセサリーは小型スピーカー。
そう!今しゃべっているのは美恵ではなく、スピーカーを通して美恵の声色をそっくり真似た光子がしゃべっていたのだ!!!




フフフ……後は桐山くんが美恵を襲ったところを隠し撮りして、それをネタに美恵と付き合うよう脅迫すればOKね
あたしって何て賢くて友達思いなのかしら。美恵、あたしに感謝しなさいよ




ギィ……屋上のドアが開いた。
「おい、いい加減に泣き止めよ」
「何よ!!これが泣かずにいられるわけないでしょ!!」
「だからってさぁ、公衆の面前で泣かれるとオレも困るんだ。
まあ屋上なら誰もいないし、思う存分怒りでも憎しみでもぶつけろよ。
それで気が済むならオレはかまわないぜ。慣れてるから……え?」
それは三村(と、その彼女)だった。 どうやら別れ話の決着をつけに人気のない屋上に来たらしい。
その三村の目に飛び込んだのは胸元を開けられ(光子が加工したから)スカートを破られ(光子が加工したのだが、遠目だったのでそう見えた)乱暴に押し倒されている(少なくても三村にはそう見えた)美恵の姿だった。


……シーン……


あまりの衝撃に逃げ去った三村の彼女、いやすでに元彼女か。
「……き、きききき桐山……お、おま……おまえは……ッ!!」
「どもらないでくれないか」
「ふざけるなッ!!!いくらオレでも力づくで女を襲ったことはないぞッ!!!
おまえ何考えてんだッ!!!今すぐ天瀬から離れ……」




ダダダダダァァァ!!!!!
その時!!凄まじい足音!!!!そしてッ!!!!!




「邪魔するんじゃないわよ、このスケコマシッ!!!!!」
ヒュルルルンンッッ!!!!!
「鎌ッ?!!!!!」
クルクルと高速回転しながら飛んでくる物体ッ!!!
第三の男・三村でなければザックリいってたことだろう。
「クッ!!」
しかしギリギリで避けた!!




上等だ相馬ッ!!! おまえはオレに宣戦布告したわけだッ!!!

思った――豊、すまない。オレはやっぱり女難の運命みたいだ

思った――ざまあないな叔父さん、女に襲われたよ

思った――郁美、おまえはこいう女にだけはなるな。兄ちゃんは手遅れだ、兄ちゃんは……




「くだらないこと考えてる暇があったら戦いなさいよッ!!!」
「なにぃ!!ひとの心の中の台詞を勝手に聞くなよ、このカマキリ女ッ!!!」
グワッシ!!光子が振り下ろしたカマの柄を咄嗟に掴んだ三村!!
なめるなよ相馬ッ!!オレは第三の男、三村信史なんだぜッ!!
「甘いのはあんたよッ!!!」
ヒュンッ!! 何かが空を切った。咄嗟に後ろに身体をそらす三村。
「……ッ!!」
危なかった。目の下、頬に横一線に赤い線が入っている。
そう、カミソリだッ!!! 本気だ、この女ッ!!
こうなったら手を出したのは、あ・な・た――なーんて事言ってる場合じゃないッ!!!
「女だからって手加減しないからなッ!!!」
「望むところよッ!!!」
「静かにしてくれないか」


……シーン……


桐山よ、そういう問題か?
天瀬は気を失っている。オレは天瀬を保健室に運ぶ。 おまえたちは他の場所で争ってくれ」
桐山は美恵をお姫様抱っこすると歩き出した。
それを見た光子は思った。 いい感じじゃない。後もう一歩ね



















「……ここ」
「気がついたか?」
「桐山くん、私……」
「軽い脳震盪だ。寝ていろ」
「……ごめんね迷惑かけて」
「いやいい。それより、なぜ今日の天瀬はいつもと違ったのかな?」
「……あ、あの…それは……私が桐山くんを……」
「オレを?」
「……私、桐山くんのこと好きなのッ!!」
美恵は真っ赤になりシーツで顔を隠しながら言ってしまった。
「……ずっと好きだったの。でも…桐山くんはハンサムだし、勉強もスポーツも何でも出来るし……
おまけに大金持ちの御曹司だから……だから私なんて、きっと相手にしてもらえないと思って……
それで光子に相談したら、『色気でつるしか道はない』って言われて……それで……」
「そうだったのか」
「……ごめんなさい。変なことして」
きっと嫌われた。桐山くんは呆れたに決まってる
「こういうのを嬉しいというのかな?」
「…え?」
天瀬はオレを好きだといった。なぜかはわからないが、とてもいい気分なんだ。
きっとオレも天瀬のことを好きなんだと思う」
「……桐山くんッ」
美恵は抑える涙をこらえることが出来なかった。 それを遠くから眺めている一人の女。




「……き、桐山の奴ッ!!よくも美恵をふったわね!!」
そう、光子だった。 光子は二人の様子を伺っていたものの会話までは聞こえなかった。
(なぜなら盗聴器に気付いた桐山がはずしてしまったからだ。もちろんスピーカーも)
やけに、いい雰囲気だったにもかかわらず、美恵が泣いた。
おそらく桐山は美恵個人は好きだが、桐山財閥の跡取りとして庶民の娘とは付き合えないとでも言ったのだろう。
光子は、そう考えた。
「だから権威主義のお坊ちゃんは駄目なのよッ!! 美恵がどんなに大事な存在かわからせてあげるわ!!」
その時だった。渡り廊下を歩きながら「チックショー、千草には勝てないからなぁ…せめて天瀬くらいはモノにしたいぜ」と呟いている新井田を見付けたのは。



















「しばらく休んだら家に送るから」
「もう大丈夫よ」
「そうか?」
桐山に手を取られながら、美恵はベッドから立ち上がった。 その表情はとても幸せそうだった……。
そして保健室を出ようとしたら、ガラッ…ドアが開いた。 杉村だ。
具合が悪そうな貴子の肩を抱きながら立っている。
「貴子どうしたの?」
「急に具合が悪くなったから連れて来たんだ」
「大丈夫?私も一緒に付き添うわ」
「ああ大丈夫だよ。オレが付き添うから心配要らない」
そして貴子をベッドに寝かせると「待っててくれ、保健の先生探してくるよ」と言い残し杉村は立ち去っていった。




「クックック……いいこと聞いたぜ」
しばらくすると新井田が現れた。そして保健室の前でキョロキョロと辺りを見回している。
「この中に寝込んでいる天瀬がいるんだよな。ただでさえオレの方が力あるんだ。 100%勝てるぜ、イエーイッ!!!」
そっとドアを開けると、窓際のベッドだけが膨らんでいる。
おお、あれだあれだ。 新井田は学生服を脱ぎ捨て下着姿になると……一気にジャンプした!!
「いっただっきまーーーすッッッ!!!!!」
「何するのよッ!!!!!」
バギィッ!!!!!
「…うげぇッ!」
頬に衝撃!!そして奥歯に軋みがッ!!!!!
「このクサレ男ッ!!」
「へ?ち、千草ッなんでおまえがッッ!!!」
「新井田ッ!!お前何してるんだッ!!!」
その時、何と言うタイミングか!!結局、校医が見付からず戻ってきた杉村にバッチリ現場を見られてしまった。
「弘樹ッ!!この最低男、あたしを犯そうとしたのよッ!!!」
「何だとッ!!!!!」
「ち、違うッ誤解だッ……まあ、半分はそうだけど……」
「その格好で襲ってきて誤解も六回もないわよ」
「よりにもよって寝込んでいる貴子を……」
「…ま、まってくれ二人ともッ!!話せばわかる、話せばッ!!!
……ぎゃあぁぁぁぁ~~ッッッ!!!!!




「あら、あれは新井田くんの悲鳴。どうやら、あたしの思ったとおりにことが運んだみたいね」
光子はにんまりと恐ろしいくらいの笑顔を浮かべた。
「気になる女の子が、あのバカに襲われそうになったら、いくら鈍感男でも自分の気持ちに気付いてその男を半殺しにしてハッピーエンド、そう相場は決まっているものよ」
ちなみに聞こえてきたのが美恵の悲鳴だったら光子自身が新井田を殺すつもりでいた……。
「あら、あれは」
そこには仲良く手をつないで下校する桐山と美恵の姿があった。
「よかったわね美恵、新井田くん、あなたの死は無駄にならなかったのよ。 迷わず成仏して頂戴」
こうして計画通りにはならなかったが、目的ははたした光子。
ちなみに新井田がどうなったのかといえば、それは杉村と貴子しか知らなかった……。




メデタシメデタシ




~END~